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Jackler 耳科手術イラストレイテッド

Jackler 耳科手術イラストレイテッド published on
ENTONI Vol. 287(2023年8月号)「Book Review」より

評者:飯野ゆき子(東京北医療センター耳鼻咽喉科/難聴・中耳手術センター)

手に取ってみるとずっしり重い! そして内容もずっしり重い!! 本著は著名な米国の耳科・神経耳科医であるRobert K. Jackler教授の著書“Ear Surgery Illustrated-A comprehensive Atlas of Otologic Microsurgical Techniques”の日本語訳本である.Jackler教授は1987年に内耳の先天異常の分類を手がけ,現在最も標準的に用いられているSennaroglu and Saatciの分類の元になった研究で有名である.また比類のない耳科手術医としても知られており,本著に先立ち1996年に“Atlas of Skull Base Surgery and Neurotology”を刊行している.1995年から2006年まで“Otology&Neurotology”のEditor-in-Chiefを務められ,まさに米国の耳科学を長年牽引なさっているスーパースターで,現在はStanford Universityの名誉教授である.このJackler教授の英文書を,日本における耳科手術のスーパースターである欠畑誠治先生(山形大学名誉教授/太田総合病院中耳内視鏡手術センター長)と神崎晶先生(東京医療センター感覚器センター)が中心となり日本語訳し,このたび出版の運びとなった.日本語訳にあたり,これだけの素晴らしいイラストのatlasであれば何も訳本の必要はないという意見があったという.しかし自身も感じるが,手術の前にちょっと確認したいと思い,何気なく手に取るのは英語のatlasではなく,やはり日本語のatlasなのである.容易に頭に入ってくる.以下にこの訳本の特徴を列記する.

  • わかりやすいイラスト:Mrs. Christine Gralappという卓越した医学イラストレーターの協力を得て,美しいイラストで構成されている.色彩を豊富に使用し,余計な細かい点は除外しており,写真より重要な点が強調されているため非常にわかりやすい.手術手技ではこのイラストが段階ごとに非常にクリアーに紹介されている.
  • 眺めて楽しむ:大きく綺麗なイラストを見ているだけで,解説を読むことなく理解できる.解説は簡潔であるが,危険を伴う場合は詳細に記載されている.
  • 目次構成の素晴らしさ:第1章は耳科の手術解剖,2章は耳科手術の基本,そして3章から15章までは各疾患に対する手術法という構成から成る.中耳疾患のみならず,めまいに対する手術,人工内耳手術,脳瘤等の頭蓋底手術など,ほぼ網羅されていると言って過言ではない.
  • 蘊蓄のある“はじめに”:各章は“はじめに”という項で始まる.ここには著者のその章に対するこだわりが書かれている.例えば第2章「耳科手術の基本」では“術者は背もたれのある椅子を使用して適切な姿勢をとることが大切である.術者の多くはこの人間工学にほとんど注意しないので,慢性的な背部痛に苦しんでいる”とある.私自身も慢性的な頸部痛持ち.背もたれ付きの椅子が必要である.第4章「アブミ骨手術」では“手術の成功には技術的な卓越性よりも精神的な準備,適切な判断そして自分の限界を知ることが重要である”と.これはまさに私がアブミ骨手術のみならず,耳科手術全てに対していつも感じていることである.
  • 病態に迫った術式の解説:手術法のみならず,病態を理解することが必要な場合はその解説も述べられている.例えば第8章「真珠腫」では真珠腫の成因と成長様式に関する説明も加えられている.
  • 役立つ付録付き:第16章は付録となっている.これは患者向け教育用ハンドアウトであり,解剖や手術法に関するイラストを医師が患者さんの説明用に使えるように提供してくださっている.解剖学的用語は全て日本語訳されている.

この歴史に残る名著『耳科手術イラストレイテッド』を是非手に取ってページを繰っていただきたい.感動すること間違いなしである.特にこれから耳科医を目指す先生にとっては耳科手術の魅力を十分に伝えてくれるワクワクする一冊となろう.最後に本著の日本語訳に精力的に取り組んでくださった監訳者の欠畑誠治先生,神崎晶先生,そして他の訳者の先生方のご尽力に心から感謝申し上げます.

最新美容皮膚科学大系 1 美容皮膚科学のきほん

最新美容皮膚科学大系 1 美容皮膚科学のきほん published on
Bella Pelle Vol.8 No.4(2023年11月号)「書籍紹介 Special Book Review」より

評者:木村有太子(順天堂大学医学部皮膚科学講座非常勤講師)

日々の診療・研究のバイブルとして手元に置きたい

美容皮膚科学は比較的新しい学問ではありますが,急速に発展している診療に実臨床として携わるわれわれは,正確な情報の中から正しい知識やスキルを身につけていかなければなりません.昨今では,インターネットを通して簡単に情報が手に入る便利な時代になりましたが,一方,過多な情報の中からエビデンスに基づいた知識や手技を選ぶ方がむしろ大変なのかもしれません.

美容皮膚科学の成書において,普遍的な知識やスキルを体系的に網羅した教科書は存在しなかったのではないでしょうか.今回この大任を,皮膚科医なら誰でも一度はお世話になったことがあるでしょう「宮地本」として知られる皮膚科の多くの教科書を執筆・編集されてきた宮地良樹先生と,レーザー治療・美容皮膚科の第一人者である宮田成章先生がまとめてくださいました.全5巻から構成されている大作です.第1巻の「美容皮膚科学のきほん」はまさに基本知識がまとめられており,そのうち第1章では,皮膚の構造や機能,第2章では,ダーモスコピーをはじめとする診断や検査,第3章は,レーザーを中心とした機器の基礎知識,第4章では,スキンケアやフィラー・ボツリヌス毒素,スレッドリフトやケミカルピーリング,漢方や再生医療の基礎まで,その分野のスペシャリストがわかりやすく解説してくださっています.どのページを読んでいても,実際に著者の先生方に直接指導していただいている感覚になります.非常に内容の濃いものであり,これから美容医療を始める先生方にも,すでに現場でご活躍なさっている先生方にも,日々の診療・研究のバイブルとして,是非お手元に置いていただきたいと思います.

末筆ではありますが,若かりしとき(今もそんなに年老いてはいないつもりですが)の指導医との会話で「成書読んでごらん」「えっ? 聖書に書いてあるのですか?」「いや,成書だよっ!!」といったやりとりを度々目にしましたが,最近はどうなのでしょうか.


Derma Vol. 338(2023年8月号)「Book Review」より

評者:古川福実(日本赤十字社高槻赤十字病院 皮膚・形成外科センター長/日本美容皮膚科学会名誉会員)

美容皮膚科学が独立した学問体系なのか,皮膚科や形成外科の日常診療に活かすべきパーツなのかは難しい問題です.私は,日本美容皮膚科学会の雑誌編集長や理事長として2003年ごろから10年余にわたって美容皮膚科に携わってきました.「学」にするためには,学術的研究論文が必要ですが,当時の学会誌は使用経験をエッセイ風にしたものが多くアカデミアからは程遠いものでした.日本美容皮膚科学会会員の皆さんに原稿をお願いして,なんとか原稿を集めて情報発信に務めました.しかし,エビデンスレベルは決して高くはありませんでした.学術論文にするには,時間と根気が必要です.しかし,新しい機器や手技の進歩は目まぐるしく,論文が発表された時点で,時代遅れになりつつあるのはいつものことでした.美容皮膚科学を目指すのではなく,美容皮膚科を一般皮膚科学の中に活かしていくのが次善と思うようになっておりました.

いずれの方向を選ぶにしても,成書が重要なことは言うまでもありません.「一灯をさげて暗夜を行く.暗夜を憂うなかれ,一灯を頼め.」とは江戸時代の儒学者佐藤一斎の言葉です.一灯がこの分野における優れた成書です.1965年,故安田利顕先生が著された「美容のヒフ科学」はまさにこの一灯です.皮膚科学の目の必要性を提唱され上梓されました.その後ほぼ60年を経て,「大系の中山書店」から最新美容皮膚科学大系の出版が開始されたことは,美容皮膚科学が学問体系として完成しつつあるように思えて嬉しい限りです.

編者の一人は,この分野に造詣が深く現在の美容皮膚科学の礎を築いておられる宮地良樹先生です.読みやすいレイアウトと大きな文字も,古希を過ぎた私には嬉しいです.もう一人の編者である宮田成章先生も,多数の成書を執筆されています.何よりも,数多くの実践を踏まえた主張には高い信頼感があります.このようなお二人によって企画された本大系は,美容皮膚科・美容皮膚科学に携わるものの一灯になることは疑いありません.

鼓膜再生療法 手術手技マニュアル

鼓膜再生療法 手術手技マニュアル published on
ENTONI Vol. 286(2023年7月号)「Book Review」より

評者:小川 郁(慶應義塾大学名誉教授/オトクリニック東京院長)

難聴は多くの疾病によって生じる最も頻度の高い耳症状の一つであり,昨今の高齢化によって認知症の観点からも注目されている.しかし,世界的な高齢化が急速に進んだ最近の40年間に難聴に対して保険適用された治療薬としては本書「鼓膜再生療法手術手技マニュアル」の主役である鼓膜穿孔治療剤リティンパRが初めてである.山中伸弥教授によってiPS細胞が発見されてから多くの領域で再生医療の研究開発がしのぎを削る中,いち早く保険適用された鼓膜穿孔治療剤による「鼓膜再生療法」はまさに画期的な薬剤であり,世界的にも注目されている治療法である.

鼓膜穿孔による難聴の頻度は加齢性難聴など超高齢社会で急増している難聴の中ではそれほど高いものではないが,合併する耳鳴や耳漏などの症状とともに患者さんのQOLに大きく影響し,その簡便な治療法となる鼓膜再生療法は患者さんにとっても大きな福音となることは間違いない.単に鼓膜穿孔閉鎖による難聴の改善のみならず,耳漏の停止による補聴器の適切な装用が可能になるなど,その効果は極めて大きい.従来,鼓膜穿孔の治療法としては鼓膜形成術や鼓室形成術が行われていたが,いずれも鼓膜形成に必要な筋膜や軟部組織の採取のための外切開や時には全身麻酔が必要になることを考えると,通常診療の座位で外切開を要しない「鼓膜再生療法」は高齢者にとっても極めてやさしい治療法になっている.

「鼓膜再生療法」は2004年に金丸眞一博士によって研究開発が始められ,足掛け20年を費やし完成した治療法である.多忙な日常臨床の合間にこつこつと研究開発を進め,基礎研究から臨床研究,そして2019年の保険適用までまさに孤軍奮闘で成し遂げた画期的な治療法であり,金丸博士の卓越した研究の構想力と遂行力,臨床応用における組織力には心から敬意を表したいと思う.また,本書『鼓膜再生療法 手術手技マニュアル』の発刊は編集を担当された金井理絵先生と各項目を執筆された先生方,素晴らしいイラストを提供された山口智也先生など主に田附興風会医学研究所北野病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科のチーム力によるものであり,改めて金丸眞一博士の人望のなせる大きな成果であると言える.金丸博士が序文で述べられているように,「鼓膜再生療法」は完成された治療法ではなく,生まれてやっと独り立ちできた段階である.今後,さらに「鼓膜再生療法」の改良や臨床例の蓄積により,一人でも多くの患者さんの笑顔に接することができるように「鼓膜再生療法」が普及,日常臨床に浸透することを,そして本書がそのための座右のテキストとして活用されることを期待したい.

小児科ベストプラクティス 外来で見つける先天代謝異常症

小児科ベストプラクティス 外来で見つける先天代謝異常症 published on
小児内科 Vol.55 No.4(2023年4月増大号)「Book Review」より

評者:乾あやの(済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科)

本書では,先天性代謝異常症の工キスパートが,いかにして日常診療から希少疾患である先天性代謝異常症を見つけ出し,診療していくのかがわかりやすく記載されている。

本書のタイトルでもある「外来で見つける先天性代謝異常症─シマウマ診断の勧め」(太字は筆者編集)も魅力的である。編集された窪田 満先生の「シマウマ談」は納得した。私はこのタイトルを見たとき,シマウマの身体の色と特徴を想像した。しかし,その「序」で実は,シマウマの鳴き声が犬のように「ワンワン」であることを初めて知った。なぜシマウマ?と思った方はぜひこの本を手に取ってその思いを感じとってほしい。本書はいつもそばに置いて,救急診療から日常診療まで,ふと疑問に思った兆候,検査所見,臨床経過を照らし合わせて考えてみるのに最適である。

先天性代謝異常症の著書は,「執筆者は頭がいいのだなあ」と感心するばかりで,「でも私には無理,無理」と最初の数ページで本を閉じてしまい,そのまま本棚の奥に鎮座してしまうものが多かった。

本書は,先天性代謝異常症診断のための検査のノウハウ,検体の保存方法から送付先,症例提示も含まれており,一人でも多くの未診断の患者さんを見出し,診断・診療・治療に結び付ける熱意あふれる名著といえる。

救急・集中治療アドバンス 敗血症

救急・集中治療アドバンス 敗血症 published on
INTENSIVIST Vol.15 No.2(2023年2号)「Book Review」より

評者:土井研人(東京大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野教授)

Sepsisは腐敗を意味するギリシャ語のseptikosを語源としており,ヒポクラテスの時代から死に至る重篤な病態として認識されていたと考えられている.以来,人類は病原体との戦いを敗血症というリングにおいて継続してきた歴史があり,いまだ現在進行形であり完全決着がついていない状況である.敗血症の最新の定義であるSepsis-3では「感染に対する制御不十分な生体反応に起因する生命に危機を及ぼす臓器障害」とあるように,臓器における障害の重要性が強調されており,敗血症の診療においては単純に病原体を排除するだけでは不十分であることは明らかである.一方,病原体にはさまざまな特徴があり,それに対して個別に治療戦略を立てる必要がある.外敵の情報に基づいた戦略なくして敗血症に対する勝利は得られないであろう.

本書はタイトルに「感染症と臓器障害への対応」とあるように2つのパートから構成されている.前半は,総論に加えて感染症学の専門家による適切な診断と治療のアプローチについての各論が詳細に解説されている.集中治療室において敗血症診療に従事している場合,得てして臓器障害に対する治療に関心が集中し,肝心の病原体との戦いについてはコンサルテーションに依存していることが多いが,本書により感染症学の考え方をあらためて学ぶことができると思われる.後半においては,敗血症による臓器障害管理に加えて,臨床工学や理学療法など多職種による敗血症診療が紹介されている.加えて,敗血症管理の工夫として,最先端の知見や実際の臨床現場で有用な手法が解説されている.これらにより,これまでの敗血症診療にさらなるブラッシュアップが期待できると思われる.

このように本書は感染症学と集中治療医学の2つの柱からなり,敗血症という古来より人類の最大の敵である病態を,最先端の知見を含めて深く理解するためには最適の書であると言えよう.是非,十分な時間をとって思考を巡らせつつ読んでいただければと思う.

心臓血管外科手術エクセレンス 心臓血管外科手術基本手技

心臓血管外科手術エクセレンス 心臓血管外科手術基本手技 published on
推薦文

橋本和弘(東京慈恵会医科大学心臓外科前主任教授、学長補佐)

慈恵医大心臓外科で、共に診療、教育、研究に携わり、私を支えてくれた坂東 興君の責任編集による心臓血管外科手術エクセレンス基本手技が発刊された。

本書はすでに専門医を取得し、術者として更なる飛躍する時期を迎えた心臓外科医が知識を深め、スキルアップを目指すのに最適である。正に待望の見て、試して学ぶ実践シリーズ教本である。更に心臓血管外科専門医取得を目前とし、心臓外科医として羽ばたく時期にあたる方々にとっては基本知識の習得、基本術式を知る上で有用である。本書の他に類を見ない特徴は、要所に術者目線で撮影された質の高い手術・操作Movieが提供され、パソコン、モバイル端末で何時どこでも閲覧可能となっている事にある。このアドバンテージの活用には興奮さえ感じるであろう。加えて、心臓外科医である長田信洋先生の手術画は、専門家による手術絵で、実際の写真では描写しにくい部分をも解剖に則して精緻に表現している。

正に『本書はこれまでにはなかった企画・構成による画期的な教本!!』と断言でき、一流の術者を目指す方々の期待を裏切らない力作、出来栄えとなっている。

私は日本心臓血管外科学会を主催した際に「Mentorship & Developing Excellence」をスローガンとして掲げた。この教科書はまさにその趣旨を経験・達成できるチャンスをも皆に与えてくれている。各領域をリードするエキスパートの先生方の技術をビデオで繰り返し見ることによって、その操作・手術を術者がどの様な手順で、如何なる点に注意して行っているかを学び、自分やチームに不足していたテクニックを習得する。さらに、その術中Movieを繰り返し見ることで技術ばかりではなく、術者の集中度、術野の雰囲気、教育に対する熱意をも感じる取ることが出来る。つまり、名医のNon-technical skillsをも学べる。本書を通して得られる新しい機会を生かし、多くのMentorと出会い、自身のDeveloping Excellenceの好機として欲しい。

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 小児理学療法学

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 小児理学療法学 published on
理学療法ジャーナル Vol.56 No.10(2022年10月号)「書評」より

評者:田中弘志(心身障害児総合医療療育センター 医師)

理学療法の対象は高齢者を中心とした成人が多く小児は比較的少ない.小児の分野では「ハビリテーション」という言葉が用いられることがある.成人の理学療法が主にリハビリテーションによって元の状態に近づけることが目標になることに対し,小児の理学療法で行われるハビリテーションは先天性障害などに対して患者がもっている機能を生かして個々に応じて目標設定を行い,治療を行うことである.

小児の理学療法が難しいという印象をもつ人が多いことは,この個々に応じて目標を設定してハビリテーションを行うことの難しさのためではないかと考える.本書はまさに先天性疾患に対し,個々の目標設定を行うための多くの情報が示されている.

特に脳性麻痺に関して多くのページにわたって書かれているが,脳性麻痺は歩容異常のみがみられる軽度の症例から自力での運動が困難で日常生活はすべて介助が必要となる重度の症例に分かれる.小児のなかでも特に目標設定が重要な疾患であり,そのための基礎知識が網羅されている.新生児期からの理学療法に関しても書かれているが,正常発達からは逸脱して発達することも多く,それらに応じた理学療法を行うことが重要であり,そのエッセンスが随所に記されている.本書に示されているさまざまな評価を踏まえた理学療法を行うことは,脳性麻痺患者の運動機能向上のために非常に重要なことである.

発達障害は,近年,特に診断されることが多くなった疾患名であり,日常生活のしにくさやコミュニケーションのとりにくさのため,生活に困難が生じることが多い疾患である.脳性麻痺と異なり,筋肉や関節へアプローチをすることは少ないが,脳性麻痺の患者のなかで発達障害を合併している症例もある.本書の内容を参考にかかわり方を工夫することで,患者の治療が飛躍的に進むことは多い.

また,本書の最初に正常発達について詳細な記述がある.正常発達の理解は小児の理学療法を行ううえで不可欠である.運動発達の遅れや日常生活活動の遅れが主訴で治療に来る患者がいた場合,正常発達を理解したうえで獲得している機能と獲得していない機能を正確に把握することで適切なアプローチが可能となる.本書を読み小児の正常発達を理解することは,個々に応じた適切な理学療法の手助けとなる.

本書は,理学療法士をめざす学生がいろいろな小児の疾患を学習するうえで最適な教科書である.それだけでなく,理学療法士になって普段かかわることがない小児の症例に遭遇したときや,小児の理学療法士をめざす方々にとっても多くの貴重な情報が得られる.理学療法士を志す学生の期間だけでなく,いろいろな分野をめざす理学療法士にとって,そして将来の理学療法士の教育を行う立場の先生方にとっても有益な情報が多く書かれている良書である.

プラクティス耳鼻咽喉科の臨床 4 めまい診療ハンドブック

プラクティス耳鼻咽喉科の臨床 4 めまい診療ハンドブック published on
ENTONI No.275(2022年9月号)「Book Review」より

評者:石川和夫(秋田大学名誉教授)

久しぶりに,「めまいの診断と治療」に関する良書が上梓された.

めまいの原因は多岐にわたるが,平衡機能の維持に関わる重要なセンサーが内耳に存在する故に,末梢前庭系の様々な機能異常により引き起こされるものが多い.めまいは,その辛さを他人に理解して頂くことが困難な病態である.従って,なるべく早期に適正な診断を下し,疾患特異的ですらある治療を施してなるべく早期にめまいから開放されるように対応しなければならない.

そのためには,適正な検査を施行し,その結果を正しく判断して患者特有のめまいの病態を把握して治療に結びつけなければならない.

こうした観点からみるとき,今回出版された武田憲昭教授専門編集による『めまい診療ハンドブック』は,実際的でよく纏め上げられている.めまい患者を取り扱う上で重要な事柄が,中枢性疾患との鑑別も含めて,めまい疾患全般にわたり,最近の新しい疾患概念(持続性知覚性姿勢誘発めまい〈PPPD〉,前庭性発作症,前庭性片頭痛など)も加えつつ解説されており,各種検査法においても,vHITや前庭誘発筋電位(VEMP)も取り入れ,理解を助けるための図表も適宜入れながら,各領域の専門家により実によく取りまとめられている.

治療薬については,なぜ有効なのかについて,その薬理学的背景などもよく説明されているのも大事な点である.さらに,我が国では,既に超高齢社会に突入していて,高齢者のめまい患者も多くなり,この観点に立った対処法についても,さらにまた,慢性めまい症に対する前庭リハビリテーションとその実施法などについても詳細かつ分かりやすく解説されている.本書の最後に補遺として,代表的な疾患の診断基準も示されており,使いやすいように配慮されている.

めまい相談医は勿論,めまい患者を取り扱う医師の座右の書として活用して頂きたい良書である.

臨床麻酔科学書

臨床麻酔科学書 published on
麻酔 Vol.71 No.9(2022年9月号)「書評」より

評者:武田純三(慶應義塾大学名誉教授)

現在わが国で行われている全身麻酔は,1950年に開催された日米連合医学教育者協議会での,Dr. Meyer Sakladの麻酔科学の講演が出発点となっている。それまでドイツ医学を踏襲してきた日本では,痛みを取ることが麻酔と考えており,現在あたりまえとなっている“麻酔は全身管理である”との概念はなかった。したがって,Dr. Sakladの講演で初めて耳にした全身管理の概念や米国での麻酔科医の教育システムは,日本の外科医たちにとってはたいへんな驚きであった。第51回日本外科学会の前田和三郎会長は,“麻酔学の教育及び研究は緊急事である”と会長講演で述べている。これがきっかけとなって,1954年に日本麻酔学会(現:公益社団法人日本麻酔科学会)が設立され,全国の大学に麻酔学教室が設立されていった。

Dr. Sakladの講演から70年余が経過し,この間の麻酔科学の発展は目を見張るものがある。麻酔科学の進歩は,医療技術・医学の進歩,電子機器の発展,薬剤の開発により支えられてきた。どれかが飛び出すことで,ほかが牽引されて伸びることを繰り返してきた。麻酔科学の高度化と同時に,集中治療・救急医療,ペインクリニック・緩和医療,小児周産期麻酔,心臓血管麻酔などへの分化も進んできた。高度化と分化は麻酔領域の専門性を高めてきたが,同時に注意を払うべき事案の増加,リスクの増加を伴い,知っておくべき知識の厖大化を招いてきた。

また,進化し続ける医学は,常に麻酔科医に新知識を追いかけることを強いてきた。医師国家試験は一度取得すると更新はないが,医師としての質の担保のために,初期研修医制度,専門医認定,サブスペシャリティでの専門医資格取得など,医師国家試験の上に存在する資格・認可の仕組みが構築され,研修や評価・再評価が行われている。日本麻酔科学会は他学会に先がけて専門医制度を構築してきたことは,周知のところである。

高度化,分化の進行は自分の専門外となる領域を増やし続けてきた。すべての臓器は網目のように絡んで機能しており,自分の専門分野の知識さえあれば安全な麻酔を施行できるものではない。安全な麻酔のためには,すべての麻酔関連知識を習得している必要がある。さらに外科系技術の進歩への知識の習得も必須である。少なくとも麻酔科医に必要とされる常識的麻酔関連知識の習得が求められる。これは,領域と専門性について“どこまで知っているべきか”の命題を生んできた。

このたび「臨床麻酔学書」が出版された。本書が目指しているのは,“日々進化する麻酔科学の知識,技術を常に学び続けるために,すべての麻酔科医が一読すべき臨床麻酔科学の教科書”とある。本書は,現在のすべての麻酔科医に要求される領域とレベルがそろえられており,“どこまで知っているべきか”の命題に答えようとしている。すべての麻酔科医の座右の書となるべき一冊といえる。

講座 精神疾患の臨床 6 てんかん 睡眠・覚醒障害

講座 精神疾患の臨床 6 てんかん 睡眠・覚醒障害 published on
精神医学 Vol.64 No.7(2022年7月号)「書評」より

評者:菊知 充(金沢大学医学系精神行動科学教授)

日本国内の最近の調査によると,てんかんの有病率は0.69%であった.さらに睡眠・覚醒障害の有病率は10%以上と報告されており,ごく「ありふれた」疾患である.これら2つの疾患群「てんかん」「睡眠・覚醒障害」は,精神科だけの領域とは言えないことから,国際疾病分類表第11班(ICD-11)では,「精神,行動または神経発達の疾患」とは別の分類をされている.つまり,この2つは,精神科医が,複数の診療科の医師が連携して治療にあたる頻度の高い疾患群である.たとえば,「てんかん」においては一般救急の現場でも,精神科医が他科の医師と連携して見立てにあたることが多い.睡眠・覚醒障害については,そのものの見立てだけでなく,併存する精神疾患の見立てと治療において,精神科医としての専門性が求められることが多い.いずれの疾患群においても,治療方法が急速に発展し,複数の治療選択肢から治療方法を選べるようになってきた.さらに,疾患分類が改変されつづけている.それゆえに,治療する側としては,個々に最適化された治療戦略を組むために,たえず知識をアップデートしていく必要がある.

てんかん診療を行っていて痛感するのは,最近10年あまりで,使用できる薬剤の選択肢が急速に広がったことである.日本では2022年現在,20を超える抗てんかん薬が使用できる.そのため薬剤選択において,知識と経験が問われるようになった.たとえば,てんかんの発作型のみならず,内服薬間の相互作用,薬の副作用プロフィールと患者の背景(精神症状の有無など)との相性などが重要になる.本書は治療薬選択においても,図や表を用いて初期研修医にも分かりやすく解説されている.さらに,突然死,自己免疫性脳炎,高齢者のてんかんなど,最近のトピックについても解説されている.

睡眠・覚醒障害については,疾患ごとに病態メカニズムがわかりやすく解説されている.さらに治療に関しては,薬物選択から睡眠衛生にいたるまで広く網羅されている.最近の治療ガイドラインの解説だけでなく,長期薬物療法を行っている患者の出口戦略にいたるまで,実践的な内容となっている.さらには,睡眠の生理的制御について,最新の研究成果が解説されており,睡眠について深く学ぶこともできる.

本書は,「てんかん」「睡眠・覚醒障害」の歴史,疫学,臨床診断,病態生理,治療,精神医学的側面,生活支援にいたるまで,包括的にまとめられている.精神科医が臨床場面で遭遇しそうな具体的場面がイメージしやすいように配慮され,精神科医として診察室で必須の知識が網羅されている.治療選択に悩んだときに,基礎知識を確認するための参考書としても便利である.精神科専門医の基盤の上に,てんかん,あるいは睡眠・覚醒障害の専門医を目指す精神科医にも役立つ内容である.