Derma Vol. 338(2023年8月号)「Book Review」より
評者:古川福実(日本赤十字社高槻赤十字病院 皮膚・形成外科センター長/日本美容皮膚科学会名誉会員)
美容皮膚科学が独立した学問体系なのか,皮膚科や形成外科の日常診療に活かすべきパーツなのかは難しい問題です.私は,日本美容皮膚科学会の雑誌編集長や理事長として2003年ごろから10年余にわたって美容皮膚科に携わってきました.「学」にするためには,学術的研究論文が必要ですが,当時の学会誌は使用経験をエッセイ風にしたものが多くアカデミアからは程遠いものでした.日本美容皮膚科学会会員の皆さんに原稿をお願いして,なんとか原稿を集めて情報発信に務めました.しかし,エビデンスレベルは決して高くはありませんでした.学術論文にするには,時間と根気が必要です.しかし,新しい機器や手技の進歩は目まぐるしく,論文が発表された時点で,時代遅れになりつつあるのはいつものことでした.美容皮膚科学を目指すのではなく,美容皮膚科を一般皮膚科学の中に活かしていくのが次善と思うようになっておりました.
いずれの方向を選ぶにしても,成書が重要なことは言うまでもありません.「一灯をさげて暗夜を行く.暗夜を憂うなかれ,一灯を頼め.」とは江戸時代の儒学者佐藤一斎の言葉です.一灯がこの分野における優れた成書です.1965年,故安田利顕先生が著された「美容のヒフ科学」はまさにこの一灯です.皮膚科学の目の必要性を提唱され上梓されました.その後ほぼ60年を経て,「大系の中山書店」から最新美容皮膚科学大系の出版が開始されたことは,美容皮膚科学が学問体系として完成しつつあるように思えて嬉しい限りです.
編者の一人は,この分野に造詣が深く現在の美容皮膚科学の礎を築いておられる宮地良樹先生です.読みやすいレイアウトと大きな文字も,古希を過ぎた私には嬉しいです.もう一人の編者である宮田成章先生も,多数の成書を執筆されています.何よりも,数多くの実践を踏まえた主張には高い信頼感があります.このようなお二人によって企画された本大系は,美容皮膚科・美容皮膚科学に携わるものの一灯になることは疑いありません.
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