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小児診療 Knowledge & Skill 6 臨床検査と鑑別診断の実践ガイド

小児診療 Knowledge & Skill 6 臨床検査と鑑別診断の実践ガイド published on

この本はすごい

長谷川奉延(慶應義塾大学名誉教授)

 『小児診療Knowledge & Skill』シリーズ6 「臨床検査と鑑別診断の実践ガイド」はすごい。明らかに他書と異なる。すべての小児科医は本書を手元に置いておくべきお勧めの一冊である。

 何故本書はすごいのか? 第1に本書は日常診療で困ったときに必ず役に立つように構成されている。本書は緊急性の高い症状・徴候、およびプライマリ・ケアで遭遇する症状・徴候の全2章構成である。1章2章ともに多様化した小児科診療のなかでとくに現在避けては通れない症状・徴候を確実に網羅している。日常診療で“ちょっと困ったぞ”“あれ、どうすればいいんだっけ?”“新しい検査が出てきていたような気がするんだけど……”というときこそ本書を紐解けば答えは一目瞭然である。第2に症状・徴候に対するアプローチの基本が明解に記載されており、きわめて分かりやすい。そのうえで、頻度の高い鑑別診断、病歴聴取の際に気をつけるべきこと、身体所見をとる際に気をつけるべきこと、どんな臨床検査を行うべきか、などがいずれも簡潔かつ具体的に示されている。一読すれば、“そうそう、そうだった”と思い出したり、“なるほど、そうだったのか”と新たな発見をしたりすることができる。第3にじっくり本書を読むと臨床推論の力がつく。ぜひ時間のある時に各項の「臨床推論の進め方」を読みこんでほしい。幅広い分野の臨床推論の力が自然と磨かれるはずである。第4に、そもそも筆者がいずれもすばらしい。どの筆者も現在フロントラインで小児医療を支えている現役バリバリの小児科医である。すなわち、インターネットで検索しても決してたどり着けない「現場の経験と知恵」も凝集されている。第5に、「検査セットの例(Author’s Choice)」が秀逸である。筆者がすばらしいことと相まって、読者はフロントラインの小児科医の臨床推論を追体験できる。

 もうお分かりだと思うが、本書の活用方法は画一的とは限らない。困ったときに該当箇所を調べるもよし、1ページ目から通読するもよし、である。本書がすべての小児科医の「羅針盤」となると確信している。

精神医学の知と技 認知症の人の葛藤に学ぶ

精神医学の知と技 認知症の人の葛藤に学ぶ published on
竹原 敦(群馬パース大学リハビリテーション学部作業療法学科教授)

認知症医療やケアに携わる専門職による関連書籍は,「症状をどう理解するか」「認知症の行動・心理症状(BPSD)にどう対応するか」「家族をどう支えるか」といった問いに向き合うことに焦点をあてるものが多い.そのような中で,繁田雅弘氏の『認知症の人の葛藤に学ぶ』を読み進めるうちに,読者は,その問いそのものが静かに揺さぶられていく感覚を覚えるかもしれない.本書が私たちに投げかけているのは,「本当に,私たちは認知症の人の声を聴いてきただろうか」という,より根源的な問いだからである.

 繁田氏は,日本の認知症医療・研究・教育を長年牽引してこられた精神科医であり研究者である.本書の「はじめに」において繁田氏は,緻密な研究や分析を積み重ねながらも,どこか「認知症という病を‟遠い場所から眺めている”ような感覚」が拭えなかったことを率直に綴っている.

 一人ひとりの認知症の人と家族に時間をかけて向き合う診療の中で,目の前にいる人々との対話を通して繁田氏が見出したのは,統計やデータでは決して描き出すことのできない,「自分が自分でなくなっていくことへの心細さ」を抱えながら生きる,一人の人間の姿であった.本書全体を貫いているのは,まさにこの‟対話”への深い信頼であり,対話から紡ぎ出されるその人自身の物語である.

 私は作業療法士,そして教育者として,認知症の人と家族に長くかかわってきたが,繁田氏による「多くの専門職は‟認知症の人の尊厳を守る” ‟その人らしい生活を支える”といった理念を語るが,実際に本人の語りに耳を傾けている専門職は限られるのではないか」という問いに,改めてハッとさせられた.どこかで私は,認知症の人は,自分の気持ちを十分に表現できないというレッテルを貼っていたのかもしれない,と.認知症になってもなお,人は人として生きようとし,自らの尊厳を守ろうとしている.その声に耳を澄ませることからしか,本当の支援は始まらないのである.

 本書は,支援に携わる私たち自身の人間観,専門職観,そして,認知症の人や家族を含む人が人として生きるとは何かを静かに問い直す一冊である.しかし同時に,本書に描かれる数々の対話の事例には,繁田氏の卓越した臨床哲学と認知症ケアの技法が随所に織り込まれている.それを見つけ出し,読み解くことは,読者にとってさらなる知的関心と臨床実践への示唆につながるだろう.

 本書を読み終えたとき,認知症の人を見るまなざしは,きっと以前とは異なるものになっている.その変化の積み重ねこそが,この国で認知症の人と家族を支えていく大きな原動力になるのではないだろうか.そういう意味でも,本書は医師や看護師,作業療法士,理学療法士,介護職などの専門職はもちろん,専門職ではない多くの人にも,ぜひ手に取っていただきたい一冊である.


評者:松田 修(上智大学総合人間科学部心理学科教授)

本書は,東京都立大学および東京慈恵会医科大学の名誉教授であり,現在,医療法人社団彰耀会栄樹庵診療所院長として認知症の診療にあたる繁田雅弘氏が,認知症の人とその家族との対話をもとに,認知症とともに生きる人の思いを探究したものである.

繁田氏は長年,医学の立場から認知症研究に従事する一方,当事者や家族への心理支援にも取り組み,その成果を発信してきた.また,精神療法の意義や実践方法に関する著作において,対話を基軸とした臨床実践にもとづき,当事者と家族の心理を多面的に分析し,尊厳ある生活をいかに支えるかを論じてきた.

認知症の症状や日常生活・社会生活への影響を解説した書籍は多いが,病態が当事者の心理に与える影響や,当事者と家族がどのような思いで生活しているかを正面から扱ったものは限られている.本書には,当事者や家族の声に真摯に耳を傾けることでしか知り得ない苦悩や葛藤,願いや祈りが丁寧に描かれており,そこに大きな特色がある.

さらに本書では,認知症のタイプや重症度,病感・病識の様態に応じた対話の工夫や,診断告知,意思決定支援の場面におけるかかわり方が具体的に論じられている.抗Aβ抗体治療や運転免許返納をめぐる意思決定支援を取りあげている点も注目される.

私は公認心理師として認知症の人の心理支援を実践・研究している.これを自らの専門分野にしようと勉強を始めたのは今から30年ほど前である.この頃を振り返ると,当事者の内面に焦点を当て,対話を通じた支えのあり方を詳細に論じた書籍は極めて少なかった.とりわけ医師による著作は原因や症状,治療に偏りがちで,「日常の当たり前」における困難やニーズを扱うものは乏しかった.しかし本書はこの点で明確に異なり,そうした側面への著者の関心が随所に貫かれている.あの頃,この本に出会っていたら,今よりももっと当事者の思いに寄り添った実践や研究ができていたかもしれない.

冒頭で繁田氏は,読後に読者の「まなざし」が変化することを願うと述べている.本書を読み終えた私は,「傾聴」と「共感」の意味を改めて問い直した.そして心理学を学ぶ学生にもぜひ読んでもらいたいと感じた.さらに,将来,自らが認知症になったとき,医師は私の語りをどれほど真摯に受けとめ,そこから苦悩や希望をどこまで理解してくれるのかという問いが残った.願わくは,主治医が本書を読んだ医師であってほしいと強く思う.

小児診療 Knowledge & Skill 5 小児救急 小児集中治療-救急外来・PICUの実践ルール

小児診療 Knowledge & Skill 5 小児救急 小児集中治療-救急外来・PICUの実践ルール published on

小児救急・集中治療の実践的ガイドとして

評者:大崎真樹(名古屋大学医学部附属病院小児循環器センター集中治療部)

小児救急・集中治療の領域は、高い専門性と迅速な判断が求められる現場である。日々の診療において重症患児と向き合う医療者にとって、本書は最新の知見と臨床的な実践を補完する一助となるだろう。

本書は「Skill(手技)」に焦点を当てた第1章と、「Knowledge(知識)」を軸とした第2章の二部構成をとっている。臨床現場で必要とされる基本的な手技と対応すべき疾患・病態が明確に区分されており、実務に即した構成となっている。第1章では救命処置からECMO管理などの高度な手技までが網羅されており、第2章では敗血症や先天性心疾患の急性増悪、虐待対応といった現代の小児医療における重要なトピックまで広くまとめられている。

また本書は全ページがフルカラーで構成され、視覚的にわかりやすいデザインでまとまっている。骨髄路や血管路の確保、心臓超音波検査といった各種手技については写真が豊富に用いられ、手順の詳細が解説されている。理論だけでなく視覚的な情報を通して技術の習得や確認ができるため、臨床現場において非常に有用な実用書となるだろう。

こういった構成は専門医だけでなく小児救急の基礎を固めたい研修医や若手医師にとっても非常に有益である。手技の詳細な写真解説は安全かつ確実なアプローチを学ぶための教材として活用でき、多くのメディカルスタッフにとっても集中治療における標準的なプロセスを理解するための視覚的なリファレンスとなるだろう。多職種連携を円滑に進める一助として利用して頂きたい。

執筆陣は各分野の新進気鋭のエキスパート達であり、これら専門家による執筆を通じてエビデンスに基づいた標準的な治療指針と、臨床経験に基づく知見が盛り込まれている。また重症患者の集約化や搬送体制、臓器提供といった医療体制の課題についても言及されており、個別の症例管理だけでなくシステム的な視点からも理解を深めることができる。

小児救急・集中治療に携わる医師や看護師をはじめとする多職種にとって、本書は日々の診療を支える頼もしい参考資料である。理論と実践的な手技が体系的に整理されており、自身の知識を整理・更新するツールとして、あるいはチーム医療の質を向上させるための共通言語として、広く活用して頂きたい。

診断エラーを防ぐ-小児科の落とし穴

診断エラーを防ぐ-小児科の落とし穴 published on

小児の診断をより確かにするために

評者:志水太郎(獨協医科大学 総合診療医学・総合診療科)

このたび『診断エラーを防ぐ―小児科の落とし穴』の書評を書く機会をいただき、大変光栄でした。私は小児科医ではなく、主たる臨床の場は成人領域にあり、医師の診断の改善を専門としています。その観点から、診断の改善は診療科の違いを越えて共有されるべき課題であることを日常的に意識しています。その意味で本書は、小児科の専門書でありながら、診断に真剣に向き合うすべての臨床家に示唆を与える一冊です。
本書の特長は、診断の間違い、遅れ、見逃しという診断エラーを単なる失敗の集積として扱うのではなく、診断をより確かなものにするための視点と方法を、総論と各論の両面から具体的に提示している点にあります。総論では、基本的戦略、診察姿勢、問診、身体所見、検査の考え方が整理され、各論では小児総合診療、救急、中枢神経、胸腹部、免疫、血液、腎、内分泌、皮膚・耳・眼まで、日常診療で遭遇する重要な論点が、ピットフォール(落とし穴)とともに詳述されています。さらに、保護者とのコミュニケーション、育児不安への支援、子ども虐待の疑い、在宅重症児の家族の負担感などが正面から扱われている点にも、本書の射程の広さがよく表れています。

私がとくに印象深く読んだのは、本書が診断を固定した結論ではなく、時間経過のなかで再評価されるべきものとして位置づけていることです。暫定診断を考えた時点で思考を止めるのではなく、次の一手、その先の一手まで考慮し、病状が改善しないときやご家族の納得がなお十分でないと感じるときには、既存の枠組みをためらわず見直すという姿勢は、診断の精度を支えるうえで本質的であり、戦略的に組み込まれる必要があります。加えて、本書では、小児の代弁者となるご家族の表情や言葉の微細な違和感を見逃さず、自分の見立てと現実とのずれを点検することの重要性が繰り返し示されています。そこには、診断を知識や表面的な技法だけで完結させず、患者と家族に対する責任のうえに据える臨床観が通底しています。

編者の窪田先生と永井先生は、以前から個人的に尊敬してきたベッドサイドの小児科の先生方です。本書を通してあらためて感じたのは、卓越した臨床の姿勢とは、豊富な知識や経験のみで成り立つものではなく、再検討を怠らない姿勢、先入観に安住しない姿勢、そして子どもと家族に対して誠実であり続ける姿勢によって支えられているということです。本書には、そのような臨床の重みが一貫しています。2023年より、国立成育医療研究センターの先生方とは、成人領域と小児領域のあいだで診断の質をめぐる交流が始まっています。現在は小児科領域で、PDX(Pediatric Diagnostic Excellence)という、小児の診断の質と安全に関する研究を進めるチームも立ち上がっています。そうした文脈のなかで本書を読むと、本書は一冊の実践書にとどまらず、日本における小児の診断の質を考える際の重要な拠点の一つとして受け止めることができます。小児科医ではない私にとっても、本書から学ばせていただいたことは非常に多く、心から推薦したいと思います。

脳卒中データバンク2026

脳卒中データバンク2026 published on
評者:西山和利(北里大学医学部脳神経内科学主任教授/日本神経学会代表理事)

日本の脳卒中診療の歩みを体系的に記録してきた『脳卒中データバンク』が2026年版として新たな節目を迎えました。本書は1999年に小林祥泰先生(現、島根大学名誉教授)による急性期脳卒中患者データベース研究を嚆矢とし、国立循環器病研究センターへの運営移管から10年を経て刊行された第6巻にあたります。約25年にわたる継続的かつ献身的な登録により、データバンクの累計登録者数は2024年に30万例を突破し、国内の脳卒中医療の趨勢を把握しうる規模へと成長しました。特に2019年以降の5年間だけでも10万例近くが新たに登録されており、コロナ禍という厳しい状況下においても全国の医療機関が一丸となってデータ収集を継続したことは特筆すべきです。

本書は単なる統計集ではなく、臨床現場の脳卒中診療の担い手の息づかいを伝える書物です。峰松一夫先生(国立循環器病研究センター名誉院長)が冒頭の推薦文でもおっしゃっているように、病歴室でカルテを一冊ずつ読み解いた黎明期から、全国規模のデジタルデータバンクへと発展してきた過程は、日本の脳卒中研究の進化そのものであります。紙ベースから電子化への転換、個票登録による精緻な解析、多施設共同研究の成熟、これらの歩みは臨床情報を未来へつなぐという使命感に支えられてきました。本書には、脳卒中の急性期治療、再発予防、地域連携、リハビリテーションなど多領域にわたる58編の解説が収められており、国内外での脳卒中研究の潮流を学ぶ上でも極めて有用です。約30万例のデータを基盤とした多角的な解析は、脳卒中医療の現状を可視化するのみならず、今後の政策立案や医療DX推進に資する知見を豊富に提供しています。編集委員会の緻密な作業に深い敬意を表したいと思います。

さらに、本書の刊行と時期を同じくして日本脳卒中データバンクが一般社団法人化されることは、透明性と持続可能性を高める重要な転換点とも言えます。ビッグデータの利活用が医療の質の向上に直結する時代において、本事業への期待はますます高まっています。四半世紀にわたる臨床情報の集積は、単なる数字の集まりではなく、日本の脳卒中医療の歴史そのものでもあります。『脳卒中データバンク2026』は過去から未来を照らす羅針盤として、すべての医療者にとって必読の書であると信じております。

小児診療 Knowledge & Skill 4 子どものこころの診療

小児診療 Knowledge & Skill 4 子どものこころの診療 published on
評者:窪田 満(国立成育医療研究センター総合診療部 統括部長)

現在、子どものこころの領域を専門に診療している医療機関の不足、地域格差は危機的な状況で、予約が取れても1年先というような状況が稀ならず存在している。

そのなかで重要なのが、私たち一般小児科医がどうやって、どこまで「子どものこころの診療」を担っていくかということであろう。もちろん、専門の先生方との連携は欠かせないが、そこに至るまでどうやって外来で繋いでいけばよいか、おそらく今までは手探りで行ってきたところである。

第1章~第2章の総説は様々な視点から、小児科医がどのようにして「ここまではできる、ここから先はできない」という明確な枠組みの設定を行うかが述べられている。枠組みをどうするかは非常に重要な視点で、それは決して責任回避ではない。できないことを小児科医に求めているのではなく、できることの限界設定を明確にし、そのなかで対応していこうというメッセージが強く伝わってくる。

第3章の各論は、目の前の患者に関して気になったとき、どう対応すべきかを調べるのに役に立つものである。特に初期対応をどうすればいいのかに関して、具体的に示されている。

第4章~第6章が、この本を最も特徴付けていると思う。リエゾンとは何か、連携とは何か、どうすれば良い連携に繋げられるのか、様々な状況から述べられている。また、Bio-Psycho-Socialの「Social」にも焦点を当てている。私たち小児科医には目の前の一人ひとりの子どもに対応するだけではなく、社会的視点が求められている。そしてその視点を持つことで、目の前の子どもの問題点に気が付くこともできる。

この本のサブタイトルは「小児科医が挑む子どものこころの臨床」である。「挑む」という強い表現を用いているが、身体疾患を中心に小児医療に向き合ってきた一般小児科医にとっては、「挑む」というのはしっくりくる表現でもある。ただ、私たちは一人で挑んでいるのではない。こうやって多くの専門の先生方に支えていただきながら挑んでいるのだということを実感する。この連携のなかで、子どもたちを守るために、私自身も挑んでいきたいと心から思う。

ニュースタンダード整形外科の臨床 4 頚椎・胸椎の痛みと障害

ニュースタンダード整形外科の臨床 4 頚椎・胸椎の痛みと障害 published on
評者:渡辺雅彦(東海大学医学部外科学系整形外科学教授)

整形外科開業医や一般病院勤務医の先生方は,すべての整形外科受診患者さんに対応をしなければならない.しかしながら,ご自分の専門領域外のことも多く,一言に整形外科といっても対象とする疾患やその治療法は多種多岐にわたり,また日々進歩していて,知識のupdateには非常にご苦労されていることと推察する.《ニュースタンダード整形外科の臨床》はそのような臨床の場に役立つ,広範にわたる整形外科疾患の診断と治療法を網羅した指南書である.編集委員である田中栄先生,松本守雄先生,井尻慎一郎先生が各領域のエキスパートである専門編集員を指名し,総論と各論で11のテーマについてシリーズを形成している.第4巻の本書もそうであるが,各論の多くに「痛みと障害」というタイトルが付けられているところが興味深い.患者さんは決して疾患名では受診されずに,その方その方の独特な表現で愁訴を語られ受診される.まずは臨床に即した「症状ありき」が,このタイトルから伺え,通常の教科書の「疾患ありき」と一線を画しているシリーズであることが分かる.臨床の場で患者さんの愁訴を聞き,本書を紐解く,そういった書物と言えよう.

さて,シリーズ4巻目,各論1巻目は『頚椎・胸椎の痛みと障害』,「診断の精度を上げ,患者満足度を高める」として群馬大学大学院医学系研究科整形外科学教授の筑田博隆先生が専門編集をお務めになり,今回めでたく上梓された.

1章では「診察の基本」として外来での診察のポイントがまとめられている.本章では,診断書の記載および障害等級の評価の留意点や指定難病等についての記載もあり,専門外の先生方にとってまさに親切なガイドブックとなっている.2章は「検査・診断の基本」であるが,診察手技や各種評価法,また特にMMT評価のコツは,動画も付属してポイントが再確認できる.3章「首(肩甲帯)の痛み」,4章「上肢の痛み・しびれ」,5章「背中の痛み」,6章「外傷による首・背中の痛み」,7章「筋のやせ,手に力が入らない」,8章「麻痺・歩行障害」,9章「斜頚・首下がり」,10章「背骨の変形」と各論が続くが,患者さんが訴える愁訴はほぼカバーできているように思う.また頚椎捻挫等,外来診療で対応に苦労することが多い疾患は特に丁寧な記載がされており,外来診療の強力な応援ツールになっている.

筑田博隆先生にはガイドラインや種々の委員会で御指導を頂いてきた.先生のお話は常に理路整然としているが,先生の日々の臨床も理路整然と「診断の精度を上げ!」を実践されているのだと思う.種々の愁訴から,理路整然とした思考過程と手順でその原因・病態を正確に導き出すこと,最も大切なことである. 本書がその一助となり,すべての整形外科医にとって,使い勝手の良い,無くてはならない,首と背中の病気の指南書となることを信じている.

小児診療 Knowledge & Skill 3 領域横断的視点による腎・泌尿器疾患の診療

小児診療 Knowledge & Skill 3 領域横断的視点による腎・泌尿器疾患の診療 published on

診療の現場に新たな「羅針盤」を

評者:野津寛大(神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科 教授)

小児科の一般診療において、腎・泌尿器疾患に遭遇する頻度は決して低くありません。本書『領域横断的視点による腎・泌尿器疾患の診療』は、小児腎臓学と小児泌尿器科学を網羅的にカバーする必携の1冊であり、小児腎臓病学と小児泌尿器科学の双方の専門家が結集して執筆されています。

本書の最大の特長は、タイトルにもある通り「領域横断的視点」にあります。「腎臓の機能と尿路の形態は不可分である」という認識のもと、知識が体系化されています。目次を紐解くと、その網羅性に驚かされます。尿検査や超音波検査といった基礎的な評価方法から始まり、輸液・食事療法、ステロイドや免疫抑制薬(リツキシマブ等)による薬物療法、さらには小児泌尿器の手術や腎移植に至るまで、内科・外科の双方向からアプローチがなされています。

また、本書が現代の医療ニーズを的確に捉えている点として、「ライフステージアプローチ」の視点が随所に盛り込まれていることが挙げられます。小児期に診断・治療をして終わりではなく、その後の成人期に向けた慢性腎臓病(CKD)への移行リスクを見据え、将来の健康を守るための長期的な視点が提供されています。最終章においては「成人診療科への移行」や「社会適応をめざした支援」についても項が割かれており、患者の人生に寄り添う医療者の姿勢が強く感じられます。

具体的な疾患各論においても、ネフローゼ症候群やIgA腎症といった代表的な疾患から、遺伝性疾患、夜尿症、性感染症に至るまで幅広くカバーされており、まさに日々の診療における頼れるガイドブックと言えるでしょう。

序文において張田先生が「日々の診療に役立つ羅針盤となることを心より願っております」と述べている通り、本書は小児の腎・泌尿器疾患に関わるすべての医療従事者にとって、手元に置くべき必携の書です。短期的な治療のみならず、患者の長い人生を見据えた診療の質を高めるための、確かな道しるべとなるに違いありません。

触診とゴロで覚える 四肢&体幹の機能解剖学

触診とゴロで覚える 四肢&体幹の機能解剖学 published on
評者:松永篤彦(北里大学大学院医療系研究科 教授)

リハビリテーション診療の一翼を担うセラピストにとって、解剖学を学ぶという試練は、養成校に入学して直ちに訪れ、そして間違いなく卒業しても終わることはない。それは、単に筋肉(筋群)の名称を覚えただけでは不十分であり、その筋群の「構造と機能」が日常生活動作(たとえば歩行)においてどのような役割を果たしているのかを、生体運動学と結びつけて理解していなければ、実臨床では役立たないからである。すなわち、解剖学を起点とした応用的知識の学びには終わりがない。また、頭の中に知識として詰め込むだけでなく、実際にその筋群を診て、触れて、動きを実感しながら機能を評価することが求められる。敢えて「試練」と表現したが、学生にとっても、有資格者にとっても避けては通れない膨大な学習領域である。

このような試練に立ち向かううえで大きな味方となるのが、本書『触診とゴロで覚える 四肢&体幹の機能解剖学』(中山書店)である。本書は、同社から既に出版されている『ゴロから覚える筋肉&神経』の進化形ともいえる。ページを開くと直ちに目を引くのは、①筋(群)の作用、②筋(群)名、③生体運動としての特徴(動作における役割、他筋との関係、特徴など)、④支配神経、⑤起始・停止(図)、⑥触診の方法(図:姿勢と位置)、⑦覚え方(ゴロ)、⑧POINT、⑨MEMOのすべてが例外なく整理されている点である。これらの番号は紙面上に明示されてはいないが、筆者が読者に本書の構成と充実度を伝えるために敢えて列挙した。しかも、A5サイズにも満たないコンパクトな判型の中に、これだけの情報が片面ごとに見やすく配置されている。

特筆すべきは③の生体運動に関する記述である。最も重要で実践的な知識が短文・箇条書きで整理されており、覚えやすく臨床で即使える内容になっている。⑤の起始・停止図は立体的で視認性が高く、⑥の触診図は実際の人体写真を用い、触診部位だけでなく触れやすい姿勢もひと目で理解できる。また⑧・⑨の項目では、臨床で遭遇する病態との関連知識が端的にまとめられており、実践の中での応用を想定した構成となっている。筆者はこれほど限られたスペースに、これほどまでに重要な知識を無駄なく配置した書をほとんど見たことがない。

近年、AIなどの技術革新により、豊富な知識を容易に検索できる時代となったが、要点を取捨選択し、学ぶべき本質を端的に整理してくれるものは少ない。本書は、単に「ゴロ」で覚えることを目的とした暗記本ではなく、触診を通して構造と機能を一体的に理解するための実践的な学習書である。著者の高橋仁美氏は、40年以上にわたり理学療法士として臨床・教育の第一線で活躍してきた達人である。本書は、その豊富な経験に裏打ちされた“機能解剖学の指南書”であり、初学者はもちろん、臨床経験を重ねた有資格者にも改めて学びを深める契機となる一冊である。本書を強く推薦する。

小児診療 Knowledge & Skill 2 どう診る?小児感染症

小児診療 Knowledge & Skill 2 どう診る?小児感染症 published on

評者:尾内一信(川崎医療福祉大学 特任教授)

小児感染症の診療では、成長や免疫発達に伴う臨床像の違いを理解し、個々の子どもに最も適した治療を選択することが重要です。特に抗菌薬・抗ウイルス薬の使用は慎重を要し、適正使用の意識が不可欠です。宮入烈先生が編集された『小児診療 Knowledge & Skill』シリーズ2『どう診る? 小児感染症―抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方』は、臨床現場での実践に直結する知見をわかりやすく整理した貴重な一冊です。

抗菌薬使用の原則は、不要な投与を避け、できるだけ狭域スペクトラムの薬剤を選ぶことにあります。原因菌が推定できない初期段階では経験的治療が必要な場合もありますが、感受性が判明すれば速やかに薬剤を見直すことが望まれます。投与量や間隔は年齢・体重・腎機能を考慮し、副作用にも注意を払うべきです。

抗ウイルス薬に関しては、使用すべき場面を見極めることが重要です。インフルエンザのように有効性が確立している疾患では早期投与が有効ですが、多くのウイルス感染症では支持療法が中心となります。薬剤の乱用を避け、科学的根拠に基づいた判断が求められます。

さらに、小児科医として、治療の方針を保護者にしっかりと説明することも重要です。薬の効果や必要性、使用の限界を理解してもらうことで、不要な抗菌薬要求や誤解を防ぐことができます。また、治療方針は一律ではなく、子どもの年齢、免疫状態、既往歴、家族歴などを考慮して個別化する必要があります。治療中に症状が変化した場合には、柔軟に対応し、必要に応じて薬剤を変更することも考慮しなければなりません。

私は2009年『小児科臨床ピクシス』シリーズ11巻で『抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方』を編集しましたが、それから16年の歳月を経て最新情報が満載された本書が刊行されました。この間新型インフルエンザA(H1N1)pdm09やCOVID-19などの大流行、日本政府の薬剤耐性(AMR)対策などもあり状況は大きく変化しました。宮入烈先生が編集された本書は、最新情報が効率よくまとめられており、小児感染症治療の質を高める一助となると確信しております。是非手に取って熟読していただきたいと思います。