作業療法ジャーナル Vol.58 No.4(2024年4月号)「書評」より

評者:小林正義(信州大学,作業療法士)

日本初の作業療法士養成校が1963年に東京の清瀬に開設され60年が経過した.1974年には身体障害者作業療法,精神科作業療法,精神科デイケアの診療報酬が開始され,その後,高齢人口の増加により2000年に介護保険法が始まり,医療では急性期リハビリテーションと早期退院,地域移行が求められるようになった.こうした社会情勢を背景に,作業療法の有資絡者は右肩上がりに増加し,2023年には10万8,872名を数え,養成校数(193校)とともに米国に次いで世界第2位を占めている.

作業療法教育の黎明期には主に米国のテキストが翻訳され,日本の作業療法士によるテキスト(日本作業療法士協会監「作業療法学全書」シリーズ)は1990年に初版,1999年~改訂第2版,2008年~改訂第3版が刊行された.その後,制度改定による作業療法業務の拡大や専門分化に伴い,現在では多くの出版社からさまざまに工夫された作業療法テキストが出版されている.

本書は,中山書店が15レクチャーシリーズの1冊として刊行した作業療法テキスト「作業療法概論」である.この15レクチャーシリーズは,シラバス(学習主題,学習目標,学習項目)に沿って半期15回の講義内容を提示しているのが最大の特徴である.15回の学習主題は,第1回 リハビリテーションとは,第2回 人の生活と作業,第3回 作業療法に関連する医療・介護保険制度,第4回 社会構造と作業療法,第5回 障害者の生活と自立,第6回 作業療法の基本的な枠組み,第7回 作業療法の対象領域と疾患,第8回 作業療法の歴史と理論,第9回 作業療法の実際(1)一急性期・回復期,第10回 作業療法の実際(2)一維持期・在宅,第11回 作業療法の実際(3)一福祉施設,第12回 作業療法の実際(4)一介護予防,第13回 作業療法における評価の意義(1)ーからだ編,第14回 作業療法における評価の意義(2)一こころ編,第15回 求められる作業療法士とは,としている.巻末にはシラバスに沿った「試験・課題」が設定され,さらに各章の最後に「Step up」として,さまざまな領域(①日本作業療法士協会〈JAOT〉,②日本災害リハビリテーション支援協会〈JRAT〉,③行政〈市役所〉,④特定非営利活動〈NPO〉法人,⑤就労支援事業所,⑥急性期リハビリテーション病棟,⑦矯正局〈少年院〉,⑧国際協力機構〈JICA〉,⑨回復期リハビリテーション病棟,⑩在宅,⑪多世代交流デイサービス施設,⑫福祉用具展示場,⑬自動車運転支援,⑭企業と連携し自助具や治療機器の開発,⑮上肢切断者の義手支援)で活躍する作業療法士の実践が紹介され,作業療法士を目指した理由と学生へのメッセージが提供されている.

年々多様化,専門分化している現代の作業療法業務の専門性,時代背景や制度,理念と独自性を,「作業療法概論」として高校卒業直後の初学者に網羅的・包括的に教授することはそれほど簡単なことではない.本書は,こうした幅広い現代の作業療法を15回に分けて具体的に解説している.本文に登場する専門用語は「MEMO」欄に解説され,「調べてみよう」という課題や,「ここがポイン卜!」,「覚えよう!」,「試してみよう」などのコラムが随所に提示されており,学生の学習意欲と自己学習を促進させる.見出しゃ図表,多くの写真がフルカラーで提示され,これらも学生の理解を助ける.本書は,現代の作業療法の全体像を学ぶために,学生はもとより,教員にとっても役立つ最適のテキス卜といえる.