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小児診療 Knowledge & Skill 5 小児救急 小児集中治療-救急外来・PICUの実践ルール

小児診療 Knowledge & Skill 5 小児救急 小児集中治療-救急外来・PICUの実践ルール published on

小児救急・集中治療の実践的ガイドとして

評者:大崎真樹(名古屋大学医学部附属病院小児循環器センター集中治療部)

小児救急・集中治療の領域は、高い専門性と迅速な判断が求められる現場である。日々の診療において重症患児と向き合う医療者にとって、本書は最新の知見と臨床的な実践を補完する一助となるだろう。

本書は「Skill(手技)」に焦点を当てた第1章と、「Knowledge(知識)」を軸とした第2章の二部構成をとっている。臨床現場で必要とされる基本的な手技と対応すべき疾患・病態が明確に区分されており、実務に即した構成となっている。第1章では救命処置からECMO管理などの高度な手技までが網羅されており、第2章では敗血症や先天性心疾患の急性増悪、虐待対応といった現代の小児医療における重要なトピックまで広くまとめられている。

また本書は全ページがフルカラーで構成され、視覚的にわかりやすいデザインでまとまっている。骨髄路や血管路の確保、心臓超音波検査といった各種手技については写真が豊富に用いられ、手順の詳細が解説されている。理論だけでなく視覚的な情報を通して技術の習得や確認ができるため、臨床現場において非常に有用な実用書となるだろう。

こういった構成は専門医だけでなく小児救急の基礎を固めたい研修医や若手医師にとっても非常に有益である。手技の詳細な写真解説は安全かつ確実なアプローチを学ぶための教材として活用でき、多くのメディカルスタッフにとっても集中治療における標準的なプロセスを理解するための視覚的なリファレンスとなるだろう。多職種連携を円滑に進める一助として利用して頂きたい。

執筆陣は各分野の新進気鋭のエキスパート達であり、これら専門家による執筆を通じてエビデンスに基づいた標準的な治療指針と、臨床経験に基づく知見が盛り込まれている。また重症患者の集約化や搬送体制、臓器提供といった医療体制の課題についても言及されており、個別の症例管理だけでなくシステム的な視点からも理解を深めることができる。

小児救急・集中治療に携わる医師や看護師をはじめとする多職種にとって、本書は日々の診療を支える頼もしい参考資料である。理論と実践的な手技が体系的に整理されており、自身の知識を整理・更新するツールとして、あるいはチーム医療の質を向上させるための共通言語として、広く活用して頂きたい。

診断エラーを防ぐ-小児科の落とし穴

診断エラーを防ぐ-小児科の落とし穴 published on

小児の診断をより確かにするために

評者:志水太郎(獨協医科大学 総合診療医学・総合診療科)

このたび『診断エラーを防ぐ―小児科の落とし穴』の書評を書く機会をいただき、大変光栄でした。私は小児科医ではなく、主たる臨床の場は成人領域にあり、医師の診断の改善を専門としています。その観点から、診断の改善は診療科の違いを越えて共有されるべき課題であることを日常的に意識しています。その意味で本書は、小児科の専門書でありながら、診断に真剣に向き合うすべての臨床家に示唆を与える一冊です。
本書の特長は、診断の間違い、遅れ、見逃しという診断エラーを単なる失敗の集積として扱うのではなく、診断をより確かなものにするための視点と方法を、総論と各論の両面から具体的に提示している点にあります。総論では、基本的戦略、診察姿勢、問診、身体所見、検査の考え方が整理され、各論では小児総合診療、救急、中枢神経、胸腹部、免疫、血液、腎、内分泌、皮膚・耳・眼まで、日常診療で遭遇する重要な論点が、ピットフォール(落とし穴)とともに詳述されています。さらに、保護者とのコミュニケーション、育児不安への支援、子ども虐待の疑い、在宅重症児の家族の負担感などが正面から扱われている点にも、本書の射程の広さがよく表れています。

私がとくに印象深く読んだのは、本書が診断を固定した結論ではなく、時間経過のなかで再評価されるべきものとして位置づけていることです。暫定診断を考えた時点で思考を止めるのではなく、次の一手、その先の一手まで考慮し、病状が改善しないときやご家族の納得がなお十分でないと感じるときには、既存の枠組みをためらわず見直すという姿勢は、診断の精度を支えるうえで本質的であり、戦略的に組み込まれる必要があります。加えて、本書では、小児の代弁者となるご家族の表情や言葉の微細な違和感を見逃さず、自分の見立てと現実とのずれを点検することの重要性が繰り返し示されています。そこには、診断を知識や表面的な技法だけで完結させず、患者と家族に対する責任のうえに据える臨床観が通底しています。

編者の窪田先生と永井先生は、以前から個人的に尊敬してきたベッドサイドの小児科の先生方です。本書を通してあらためて感じたのは、卓越した臨床の姿勢とは、豊富な知識や経験のみで成り立つものではなく、再検討を怠らない姿勢、先入観に安住しない姿勢、そして子どもと家族に対して誠実であり続ける姿勢によって支えられているということです。本書には、そのような臨床の重みが一貫しています。2023年より、国立成育医療研究センターの先生方とは、成人領域と小児領域のあいだで診断の質をめぐる交流が始まっています。現在は小児科領域で、PDX(Pediatric Diagnostic Excellence)という、小児の診断の質と安全に関する研究を進めるチームも立ち上がっています。そうした文脈のなかで本書を読むと、本書は一冊の実践書にとどまらず、日本における小児の診断の質を考える際の重要な拠点の一つとして受け止めることができます。小児科医ではない私にとっても、本書から学ばせていただいたことは非常に多く、心から推薦したいと思います。

脳卒中データバンク2026

脳卒中データバンク2026 published on
評者:西山和利(北里大学医学部脳神経内科学主任教授/日本神経学会代表理事)

日本の脳卒中診療の歩みを体系的に記録してきた『脳卒中データバンク』が2026年版として新たな節目を迎えました。本書は1999年に小林祥泰先生(現、島根大学名誉教授)による急性期脳卒中患者データベース研究を嚆矢とし、国立循環器病研究センターへの運営移管から10年を経て刊行された第6巻にあたります。約25年にわたる継続的かつ献身的な登録により、データバンクの累計登録者数は2024年に30万例を突破し、国内の脳卒中医療の趨勢を把握しうる規模へと成長しました。特に2019年以降の5年間だけでも10万例近くが新たに登録されており、コロナ禍という厳しい状況下においても全国の医療機関が一丸となってデータ収集を継続したことは特筆すべきです。

本書は単なる統計集ではなく、臨床現場の脳卒中診療の担い手の息づかいを伝える書物です。峰松一夫先生(国立循環器病研究センター名誉院長)が冒頭の推薦文でもおっしゃっているように、病歴室でカルテを一冊ずつ読み解いた黎明期から、全国規模のデジタルデータバンクへと発展してきた過程は、日本の脳卒中研究の進化そのものであります。紙ベースから電子化への転換、個票登録による精緻な解析、多施設共同研究の成熟、これらの歩みは臨床情報を未来へつなぐという使命感に支えられてきました。本書には、脳卒中の急性期治療、再発予防、地域連携、リハビリテーションなど多領域にわたる58編の解説が収められており、国内外での脳卒中研究の潮流を学ぶ上でも極めて有用です。約30万例のデータを基盤とした多角的な解析は、脳卒中医療の現状を可視化するのみならず、今後の政策立案や医療DX推進に資する知見を豊富に提供しています。編集委員会の緻密な作業に深い敬意を表したいと思います。

さらに、本書の刊行と時期を同じくして日本脳卒中データバンクが一般社団法人化されることは、透明性と持続可能性を高める重要な転換点とも言えます。ビッグデータの利活用が医療の質の向上に直結する時代において、本事業への期待はますます高まっています。四半世紀にわたる臨床情報の集積は、単なる数字の集まりではなく、日本の脳卒中医療の歴史そのものでもあります。『脳卒中データバンク2026』は過去から未来を照らす羅針盤として、すべての医療者にとって必読の書であると信じております。

小児診療 Knowledge & Skill 4 子どものこころの診療

小児診療 Knowledge & Skill 4 子どものこころの診療 published on
評者:窪田 満(国立成育医療研究センター総合診療部 統括部長)

現在、子どものこころの領域を専門に診療している医療機関の不足、地域格差は危機的な状況で、予約が取れても1年先というような状況が稀ならず存在している。

そのなかで重要なのが、私たち一般小児科医がどうやって、どこまで「子どものこころの診療」を担っていくかということであろう。もちろん、専門の先生方との連携は欠かせないが、そこに至るまでどうやって外来で繋いでいけばよいか、おそらく今までは手探りで行ってきたところである。

第1章~第2章の総説は様々な視点から、小児科医がどのようにして「ここまではできる、ここから先はできない」という明確な枠組みの設定を行うかが述べられている。枠組みをどうするかは非常に重要な視点で、それは決して責任回避ではない。できないことを小児科医に求めているのではなく、できることの限界設定を明確にし、そのなかで対応していこうというメッセージが強く伝わってくる。

第3章の各論は、目の前の患者に関して気になったとき、どう対応すべきかを調べるのに役に立つものである。特に初期対応をどうすればいいのかに関して、具体的に示されている。

第4章~第6章が、この本を最も特徴付けていると思う。リエゾンとは何か、連携とは何か、どうすれば良い連携に繋げられるのか、様々な状況から述べられている。また、Bio-Psycho-Socialの「Social」にも焦点を当てている。私たち小児科医には目の前の一人ひとりの子どもに対応するだけではなく、社会的視点が求められている。そしてその視点を持つことで、目の前の子どもの問題点に気が付くこともできる。

この本のサブタイトルは「小児科医が挑む子どものこころの臨床」である。「挑む」という強い表現を用いているが、身体疾患を中心に小児医療に向き合ってきた一般小児科医にとっては、「挑む」というのはしっくりくる表現でもある。ただ、私たちは一人で挑んでいるのではない。こうやって多くの専門の先生方に支えていただきながら挑んでいるのだということを実感する。この連携のなかで、子どもたちを守るために、私自身も挑んでいきたいと心から思う。

小児診療 Knowledge & Skill 3 領域横断的視点による腎・泌尿器疾患の診療

小児診療 Knowledge & Skill 3 領域横断的視点による腎・泌尿器疾患の診療 published on

診療の現場に新たな「羅針盤」を

評者:野津寛大(神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科 教授)

小児科の一般診療において、腎・泌尿器疾患に遭遇する頻度は決して低くありません。本書『領域横断的視点による腎・泌尿器疾患の診療』は、小児腎臓学と小児泌尿器科学を網羅的にカバーする必携の1冊であり、小児腎臓病学と小児泌尿器科学の双方の専門家が結集して執筆されています。

本書の最大の特長は、タイトルにもある通り「領域横断的視点」にあります。「腎臓の機能と尿路の形態は不可分である」という認識のもと、知識が体系化されています。目次を紐解くと、その網羅性に驚かされます。尿検査や超音波検査といった基礎的な評価方法から始まり、輸液・食事療法、ステロイドや免疫抑制薬(リツキシマブ等)による薬物療法、さらには小児泌尿器の手術や腎移植に至るまで、内科・外科の双方向からアプローチがなされています。

また、本書が現代の医療ニーズを的確に捉えている点として、「ライフステージアプローチ」の視点が随所に盛り込まれていることが挙げられます。小児期に診断・治療をして終わりではなく、その後の成人期に向けた慢性腎臓病(CKD)への移行リスクを見据え、将来の健康を守るための長期的な視点が提供されています。最終章においては「成人診療科への移行」や「社会適応をめざした支援」についても項が割かれており、患者の人生に寄り添う医療者の姿勢が強く感じられます。

具体的な疾患各論においても、ネフローゼ症候群やIgA腎症といった代表的な疾患から、遺伝性疾患、夜尿症、性感染症に至るまで幅広くカバーされており、まさに日々の診療における頼れるガイドブックと言えるでしょう。

序文において張田先生が「日々の診療に役立つ羅針盤となることを心より願っております」と述べている通り、本書は小児の腎・泌尿器疾患に関わるすべての医療従事者にとって、手元に置くべき必携の書です。短期的な治療のみならず、患者の長い人生を見据えた診療の質を高めるための、確かな道しるべとなるに違いありません。

小児診療 Knowledge & Skill 2 どう診る?小児感染症

小児診療 Knowledge & Skill 2 どう診る?小児感染症 published on

評者:尾内一信(川崎医療福祉大学 特任教授)

小児感染症の診療では、成長や免疫発達に伴う臨床像の違いを理解し、個々の子どもに最も適した治療を選択することが重要です。特に抗菌薬・抗ウイルス薬の使用は慎重を要し、適正使用の意識が不可欠です。宮入烈先生が編集された『小児診療 Knowledge & Skill』シリーズ2『どう診る? 小児感染症―抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方』は、臨床現場での実践に直結する知見をわかりやすく整理した貴重な一冊です。

抗菌薬使用の原則は、不要な投与を避け、できるだけ狭域スペクトラムの薬剤を選ぶことにあります。原因菌が推定できない初期段階では経験的治療が必要な場合もありますが、感受性が判明すれば速やかに薬剤を見直すことが望まれます。投与量や間隔は年齢・体重・腎機能を考慮し、副作用にも注意を払うべきです。

抗ウイルス薬に関しては、使用すべき場面を見極めることが重要です。インフルエンザのように有効性が確立している疾患では早期投与が有効ですが、多くのウイルス感染症では支持療法が中心となります。薬剤の乱用を避け、科学的根拠に基づいた判断が求められます。

さらに、小児科医として、治療の方針を保護者にしっかりと説明することも重要です。薬の効果や必要性、使用の限界を理解してもらうことで、不要な抗菌薬要求や誤解を防ぐことができます。また、治療方針は一律ではなく、子どもの年齢、免疫状態、既往歴、家族歴などを考慮して個別化する必要があります。治療中に症状が変化した場合には、柔軟に対応し、必要に応じて薬剤を変更することも考慮しなければなりません。

私は2009年『小児科臨床ピクシス』シリーズ11巻で『抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方』を編集しましたが、それから16年の歳月を経て最新情報が満載された本書が刊行されました。この間新型インフルエンザA(H1N1)pdm09やCOVID-19などの大流行、日本政府の薬剤耐性(AMR)対策などもあり状況は大きく変化しました。宮入烈先生が編集された本書は、最新情報が効率よくまとめられており、小児感染症治療の質を高める一助となると確信しております。是非手に取って熟読していただきたいと思います。

小児診療 Knowledge & Skill 1 小児白血病の最新診療

小児診療 Knowledge & Skill 1 小児白血病の最新診療 published on
評者:真部 淳(北海道大学大学院医学研究院小児科学教室教授/JCCG理事長2023~2025年)

 日本では1年間に約2,000人が小児がんに罹患しますが、その半数は白血病やリンパ腫などの血液腫瘍です。その中で、急性リンパ性白血病(ALL)は1960年代にはほとんど長期生存は望めませんでしたが、2010年代には90%近くの患者が治癒するようになりました。それは世界中で行われた臨床試験の積み重ねにより達成されたものです。ところで、1970年代にALLの中枢神経再発を予防するために導入された全脳照射は、治癒率の上昇に大きく寄与する一方、認知機能の低下や、稀ながら二次がんとして脳腫瘍の発生を招来するなど、晩期合併症の問題を認識させました。現在、臨床試験の目的には治癒率の改善のみならず、合併症の軽減も入っています。

 国内では2014年に日本小児がん研究グループ(JCCG)が結成されました。その結果、病理や画像の中央診断が可能となり、データセンターができて治療の結果や長期フォローアップのデータが蓄積され、事務局体制が強化されることにより、厚労省やAMEDなどの競争的研究費を獲得しやすくなりました。実際に2013年以降、血液腫瘍疾患については、22,891人の患者が登録され、31の特定臨床研究が行われ、固形腫瘍についても10,772人の患者が登録され、12の特定臨床研究が行われました。JCCGではALL委員会やAML委員会などの疾患委員会のみならず、長期フォローアップ委員会、支持療法委員会、遺伝性腫瘍委員会などの領域横断的な委員会も活動しています。

 前置きが長くなりました。本書は小児白血病診療に関するあらゆる問題点に直接応える内容となっています。各疾患(ALL、AML、MDS、JMML、CML)の診断と治療についての詳細な解説、アスパラギナーゼやメトトレキサートなど重要な薬剤の解説、移植治療と免疫療法、支持療法、長期フォローアップ、ゲノム医療、AI、国際協力まで、微に入り細に入って記載されています。執筆陣には現在、JCCGの各委員会で中心的に活躍している旬のメンバーが選ばれており、万全です。現代はPubMedをはじめとする媒体から様々な情報が瞬時に入ってきます。それは便利な反面、正しい情報の把握が困難です。本書は小児白血病の診療に関わるすべての人に現時点での正しい情報を提供するでしょう。読者の皆さんは、これまでの歴史と現在の問題点を理解し、今後得られる新たな知見を正確に評価する必要があります。私は数年前に『小児白血病の世界』という小著を出版しました。それはコロナのおかげでまとまった時間ができたこともあって、一人で小児白血病の研究と臨床の歴史を紐解いたものでした。エッセイ的なことも加え、書いていて楽しかったのですが、対象にした領域の広さと深さに圧倒されたことも確かでした。今回、あまり時を経ずに『小児白血病の最新診療』を手にして感じたのは、活きの良いたくさんの著者を得た大著の迫力でした。私は、本書に接した読者の皆さんが、将来は小児白血病診療のさらなる進歩に関わっていくことを期待しています。

講座 精神疾患の臨床 9 神経発達症群

講座 精神疾患の臨床 9 神経発達症群 published on
精神医学 Vol.66 No.12(2024年12月号)「書評」より

評者:齊藤万比古(恩賜財団母子愛育会愛育研究所)

中山書店刊行による〈講座 精神疾患の臨床〉の第9巻にあたるのが本書『神経発達症群』である。まず注目すべきは,本書が米国精神医学会のDSM-5が提唱し,精神疾患分類の国際基準となるはずの世界保健機関によるICD-11でも採用された神経発達症群(NDDs)という疾患群名を書名とし,ICD-11の疾患分類に準拠して構成しているところである。この書名は従来なら「発達障害」とされたところであろうが,それだとNDDsに含まれる個々の神経発達症(NDD)の影が薄まり,あたかも発達障害という単一疾患であるかのような印象を読者に与えてしまう危険が残ったであろう。本書がそうした発達障害の曖昧さを避け,精神疾患としてのNDDsを前面に押し出したところに評者は児童精神科医として共感を覚える。

本書は総論に続く各論で知的発達症,発達性学習症,自閉スペクトラム症(ASD),注意・欠如多動症(ADHD)の4疾患をそれぞれ章立てしてその諸側面に触れ,最終章に4疾患以外の発達性協調運動症や常同運動症などのNDDと,NDDsに分類されていない排泄症群,反抗挑発症,素行・非社会的行動症,さらにはICD-11では神経系疾患に分類された一次性チック症を関連疾患としてまとめているところに工夫がある。まさにNDDsの手強さは,上記の反抗挑発症や素行・非社会的行動症,そして総論である1章の「神経発達症群における鑑別と併存症」と「adverse childhood experiences(ACEs)」の項で扱われている乳幼児期の心的外傷に関連した精神疾患などの併存症が絡みあう入り組んだ状態像をとらえる必要がある点と,そうした個々のケースの全体像に応じた治療を組み立てねばならない点にあるのだから。

NDDsの子どもを持つということは,標準的な発達の子どもと比べると養育者の抱えるストレスが大きくなりがちであり,それによって養育者の自尊心や自己効力感の低下を生じ,ACEsとなるネグレクトなどの虐待的養育姿勢が誘発されやすくなる。評者が特に興味を惹かれるのもこの点で,本書はNDDを持つ子どもがACEsを持つことで生じた状態像や精神疾患の発現に果たす神経発達特性とACEsの相互作用についても触れている。しかし,NDDを持って生まれるということがACEsを受けやすくするのか,ACEsがASDやADHDの病因となるのかというNDDsの本質に迫る大切な議論には未だ明確な解答はない。

このように本書は読者が関心を持っているNDDsの諸側面や諸課題をめぐって興味を次々と刺激してくれる幅と深さを持った構成となっている。この本を手に取った読者は臆せずにまず目次と索引に目を通し,興味を惹かれる項目や章を見つけたら,そこから読み始めたらよいと思う。刺激的なNDDsの世界の旅はそこから始まるだろう。

講座 精神疾患の臨床 8 物質使用症又は嗜癖行動症群 性別不合

講座 精神疾患の臨床 8 物質使用症又は嗜癖行動症群 性別不合 published on
精神医学 Vol.66 No.11(2024年11月号)「書評」より

評者:堀井茂男(公益財団法人慈圭会慈圭病院名誉理事長)

シリーズ〈講座 精神疾患の臨床〉8『物質使用症又は嗜癖行動症群 性別不合』が出版された。本書は,20余年ぶりに新しいICD-11に準拠し,最新の知見と臨床上必要な疾患を中心に構成されており,ICD-10からの変化やDSM-5との関係も必要に応じて解説されている。総じて,これまでの断片的な情報が具体化されており,実地臨床への配慮もなされ,たいへん興味深い編集となっている。

本書は,いわゆる依存または嗜好に関係する物質使用症又は嗜癖行動症群(disorders due to substance use or addictive behaviours)とそれに関連する衝動制御症群(impulse control disorders)およびパラフィリア症群(paraphilic disorders)を取り上げており,別に性別不合(gender incongruence)も収載している。物質使用症又は嗜癖行動症群のICD-10からの最大の変化はこの群に嗜癖行動症が加わったことで,例えば「病的賭博」はICD-11では「ギャンブル行動症」と名称が変わり,この症群に分類され,「ゲーム行動症」は新規にこの症群に分類された。なお,「ゲーム行動症」は日本や韓国で多くみられ,本書編集の樋口進氏のWHOでの活躍により疾患となったものであることは特筆しておきたい。

また,物質使用群の変更点としては「有害な使用エピソード」のような新しいカテゴリーが収載され,本人が示す症状だけでなく,他者への健康面での害も診断対象になったり,診断要件が簡素化されていたりすることも注目される。この物質使用症群の各論は日常臨床で遭遇する可能性の大きい物質が選択されているのも読者にとってはありがたい。

衝動制御症群では,放火症,窃盗症,間欠爆発症,強迫的性行動症,その他が具体的に示されている。パラフィリア症は,非定型的な性的興奮のパターンが特徴的かつ強烈であることを特徴とする疾患(性嗜好障害)で,フェティシズム等が削除され,露出症,窃視症,小児性愛症,窃触症,その他が論じられている。

性別不合は,他の章とは性質を異にしており,性のあり方に関する診断概念であり,その特徴は実感する性別と割り当てられた性との間の著しい持続的な不一致である。多様な性のあり方を含み,ホルモン治療や手術など精神科の枠を超えた治療が求められたり,さまざまな日常生活や社会制度が抱える問題に抵触したりすることもある。本書では,これらの症例についても解説されている。

本書は,最初に述べたように,ICD-11に則り,疾患の総説から各々の病態,診断,そして治療等について最新の知見をもとに,しかも臨床的な視点を忘れず,私たち実地医師にとって大変ありがたい編集になっている。大冊ではあるが,大いに利用のしがいのある構成になっているので,各自あるいは各施設に備えておきたい講座本であると思われる。

自閉スペクトラム症の臨床

自閉スペクトラム症の臨床 published on
小児の精神と神経 63巻4号(2024年1月号)「書評」より

評者:原 仁(小児療育相談センター)

本書は栗田広先生の遺作である.栗田先生は一般書を多く執筆される,高名な「専門家」ではなかった.学研肌で,主たる研究論文はほぼすべて英文,依頼される講演も,学会でのそれもあまり好まれなかった.名前は知っていても先生の業績はあまり知らないという方々も多いかもしれない.

タイトルを見ればお分かりのように,自閉スペクトラム症(以下,Autism Spectrum Disorder;ASDと略),その中でも乳幼児期のASDの臨床が栗田先生の専門である.最初にして最後,ASDに向き合う,多くの後輩臨床家に伝えたいと栗田先生が願って執筆された包括的なASD臨床の解説書を紹介する.

「はじめに」で明記されているが,栗田先生は本書を,ASDは実質的に広汎性発達障害(以下,Pervasive Developmental Disorder;PDDと略)と同じ,という考えに基づいて執筆されている.評者は栗田先生の診断学へのこだわり,精密でかつ隅々まで気配る診断例を多く知っている.その立場からすると意外に思う.DSM-5-TR(2022)を一読すればお分かりのように,米国精神医学会が新たに提案したASDの診断基準は,それまでのPDDの考え方よりもかなり厳密にASDを定義しているのだ.確かに診断基準は明確になり,診断しやすくなった.しかし,評者の第一印象は,このASDの診断基準が主流になれば,Asperger症候群やその他のPDDと診断していた事例はASDから除外されるぞ,という危惧だった.異論がないわけではないが,少なくとも移行期の現在は栗田先生の理解に賛同しておこう.

長らくASDの臨床,それも乳幼児期の診断に心血を注いでこられた栗田先生の真骨頂は,第1章から第4章までの,歴史的診断概念の推移を踏まえ,かつご自身の研究成果に基づいての解説にある.小児自閉症,アスペルガー症候群,特定不能の広汎性発達障害/非定型自閉症をどのように診断分類するのか,その具体的な道筋が示されている.第4章では小児期崩壊性障害にも言及されている.栗田先生はこの障害の専門家として世界に知られた方であるが,障害の独立性の否定も止むなし,PDDの一部と見なす,という時代の流れを淡々と受け入れているように思う.

第5章以降は,病因・病態,療育,行動障害,併発する精神神経学的疾患,医学的検査,障害福祉サービス,福祉・医療的対応に関わる手当に関する診断書など,経過と予後,と続く.これらの記述はどうしても時代的制約は免れない.今読む方々,それも療育機関で働かれている,あるいは働きたいと思っている専門職にとっては現状を理解するには役立つだろう.特に療育センターで働き始めたばかりの若い医師に一読を勧めたい.

書評だけでは言い尽くせぬ部分も多い.栗田先生が創設者の一人であり,長らく理事長を務められた日本乳幼児医学・心理学会の機関紙に栗田広先生の追悼記念号(第32巻1号)が企画され刊行される予定となっている.栗田先生の業績や人となりに,興味を持たれた方々は,学会ホームページから情報を得ることができるので,併せてこの追悼記念号を入手されてお読みいただければ幸いである.