評者:西山和利(北里大学医学部脳神経内科学主任教授/日本神経学会代表理事)
日本の脳卒中診療の歩みを体系的に記録してきた『脳卒中データバンク』が2026年版として新たな節目を迎えました。本書は1999年に小林祥泰先生(現、島根大学名誉教授)による急性期脳卒中患者データベース研究を嚆矢とし、国立循環器病研究センターへの運営移管から10年を経て刊行された第6巻にあたります。約25年にわたる継続的かつ献身的な登録により、データバンクの累計登録者数は2024年に30万例を突破し、国内の脳卒中医療の趨勢を把握しうる規模へと成長しました。特に2019年以降の5年間だけでも10万例近くが新たに登録されており、コロナ禍という厳しい状況下においても全国の医療機関が一丸となってデータ収集を継続したことは特筆すべきです。
本書は単なる統計集ではなく、臨床現場の脳卒中診療の担い手の息づかいを伝える書物です。峰松一夫先生(国立循環器病研究センター名誉院長)が冒頭の推薦文でもおっしゃっているように、病歴室でカルテを一冊ずつ読み解いた黎明期から、全国規模のデジタルデータバンクへと発展してきた過程は、日本の脳卒中研究の進化そのものであります。紙ベースから電子化への転換、個票登録による精緻な解析、多施設共同研究の成熟、これらの歩みは臨床情報を未来へつなぐという使命感に支えられてきました。本書には、脳卒中の急性期治療、再発予防、地域連携、リハビリテーションなど多領域にわたる58編の解説が収められており、国内外での脳卒中研究の潮流を学ぶ上でも極めて有用です。約30万例のデータを基盤とした多角的な解析は、脳卒中医療の現状を可視化するのみならず、今後の政策立案や医療DX推進に資する知見を豊富に提供しています。編集委員会の緻密な作業に深い敬意を表したいと思います。
さらに、本書の刊行と時期を同じくして日本脳卒中データバンクが一般社団法人化されることは、透明性と持続可能性を高める重要な転換点とも言えます。ビッグデータの利活用が医療の質の向上に直結する時代において、本事業への期待はますます高まっています。四半世紀にわたる臨床情報の集積は、単なる数字の集まりではなく、日本の脳卒中医療の歴史そのものでもあります。『脳卒中データバンク2026』は過去から未来を照らす羅針盤として、すべての医療者にとって必読の書であると信じております。