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最新美容皮膚科学大系 2 しみの治療

最新美容皮膚科学大系 2 しみの治療 published on
PEPARS No.204(2023年12月号)「Book Review」より

評者:山下理絵(湘南藤沢形成外科クリニックR総院長)

しみは美容皮膚科での診療が多く,形成外科を受診する患者は少ないと思われるが,形成外科医にとっては無関心でいられない.出向や外勤先で美容外科を標榜,あるいはレーザー機器があれば,しみの治療も行わなければならない状況になる.顔面には加齢とともに多様なしみが生じるため,まず診断をつけ,疾患ごとに治療を考えることが重要である.筆者が大学病院で診察していた35年前と比較すると,治療も内服,外用,レーザー,光など選択肢も増え,特に機器の発展はめざましく,治療を提供するのに迷うことも多くなってきた.さらにしみの治療は,思ったとおりの結果が出ないこともあり,また合併症が起こった時の説明やトラブル対処に苦労することもある.

一方,ほくろの治療は形成外科でも非常に多いと思われる.ほくろはしみ以上に診断が重要であり,視診のみでなくダーモスコピーを使用し,悪性腫瘍との鑑別を行ったうえで治療方法を選択する.診断により,保険診療で外科的手術治療か組織生検をするのか,また自費診療でレーザーをはじめ美容的な切除になるかなど診断および患者の希望により決定する.いずれの場合もほくろ切除を行えば必ず何らかの形で瘢痕ができるので,その瘢痕をどのようにするか,形成外科医であれば,整容を第一に考え,目立たない瘢痕にするベストな方法を選択することが必要である.刺青も,形成外科で治療することが多く,外科的切除やレーザー治療などがあるが,特にレーザー治療に関しては,ピコ秒レーザーが出てから治療成績は格段に向上している.われわれ形成外科医も美容皮膚科という学問をしっかりと学ぶ必要があるのではないだろうか.専門的な知識をいかに得るべきであろうか.

本書は,最新美容皮膚科学大系全5巻のうちの2巻目,形成外科でも診療することがある,しみ,ほくろおよび刺青の各論である.美容皮膚科のエビデンスを重視し,病態,診断から治療まで,基礎から実際の臨床まで網羅されている.カラー写真も多く,診療時の患者説明にも有用である.多数の形成外科医が執筆陣に加わっている本書は,美容皮膚科の知識を得るには最適な書籍であると言えよう.

講座 精神疾患の臨床 5 神経認知障害群

講座 精神疾患の臨床 5 神経認知障害群 published on
精神医学 Vol.65 No.11(2023年11月号)「書評」より

評者:天野直二(岡谷市民病院)

DSM-5,ICD-11では認知症を呈する疾患を神経認知障害群と表現している。認知症は認知機能低下の病態を表し,神経認知障害群は権成する疾患群を意識した用語でもある。今後はこの神経認知障害群に慣れ親しむ必要があるだろう。さて認知症に関する書物は数多くみられるが,本書では認知症のすべてが語られている。その内容はとても斬新であり,臨床家が取り組むべき課題を網羅している。

認知症学はあらゆる方面で目覚ましい進歩を遂げており,うかうかしていると取り残されてしまう勢いである。アルツハイマー病に端を発し老化というテーマと切磋琢磨しながら普遍化されてきた。その背景にはアミロイドβ,リン酸化タウ,αシヌクレイン,TDP-43等の蓄積蛋白に基づく脳変性に対する研究があり,認知症を考える原動になってきた。

本書には大きな特徴がある。まず章立てとして6章「認知症と社会」の内容と,7章の「ICD-11における統合失調症以外の一次性精神症群」の存在に興味を引かれた。前者では,認知症者の人権,老人偏見・差別と老人虐待,認知症と自動車運転等について詳述され,さらに認知症の医療人類学と称して,「よりよく生きる」意味の回復をめざし「新たな予防社会」の構築について論及している。後者では,必ずしも認知症ではない精神科の一般診療を意識した疾患を追加している。認知症診療に臨む際にまず必要な知識である。そこには統合失調感情症,統合失調型症,急性一過性精神症,妄想症,物質誘発性精神症,症状性精神病が紹介され,カタトニアに言及することを忘れていない。老年期における臨床診断の多様性を少しでも補おうとする強い意図が感じ取れる。

もう一つの特徴はTopicsとColumnが随所に鏤められている点である。いずれも時代に即応した,認知症専門医として学ぶべき課題であり,充実している。Topicsは全体で19もの項目があり,構成は実に豊富である。興味を引かれたものを紹介すると,「急増する独居認知症」では認知症者の半数以上が独居でかつ社会的孤立という二重苦について,「iPS細胞による抗認知症薬の開発」では患者の体細胞から樹立したiPS細胞を用いた創薬インフラの可能性について,「人生の最終段階における医療とケア」では摂食嚥下困難への人工的水分・栄養補給の妥当性と共同意思決定について,「ブレインバンク」では患者,医療関係者,研究者による疾患克服のための本邦における地道な活動について,いずれも熱く語られている。読んでみたくなる内容ばかりで,かつ実益的でもある。Columnは豆知識としてコンパクトに記載され,数えてみると26あった。例えば,“MCIの脳病理”や“レム睡眠行動障害の積極的な問診の重要性”,馴染みの薄かった“Alaスコア”,“Beers Criteria”についてコメントし,“疾患修飾薬”は実践的であり,“認知症と安楽死”は倫理的である。

専門医の目からみた認知症のすべてを語る最新版である。

心臓血管外科手術エクセレンス 先天性心疾患の手術

心臓血管外科手術エクセレンス 先天性心疾患の手術 published on

評者:今井康晴(元東京女子医科大学循環器小児外科教授)

坂本喜三郎先生編集の『先天性心疾患の手術』を拝見して、1975年に今野草二教授と一緒に“The Ciba Collection of Medical Illustrations”の『心臓』を和訳した時を懐かしく思い出した。この“Ciba Collection”の特徴は医師のNetterが心臓の解剖を臨床で役立つ割面として描いたもので、心臓の立体構造の理解に役立つ教科書となった。しかし先天性心疾患の手術は多岐にわたる奇形を修復するので非常に多種類の術式があり、従来、手術書としては一般的に施行される術式を網羅するのが精々であった。小児の手術の特徴として、数十年にも及ぶ長期間予後のQOLを良好に保つという困難性があり、当然のことながら術後も修復した心血管の成長が保証されなければならないという困難性もある。3kg内外の新生児が、およそ20倍の60Kgの成人に成長するに見合う修復または再建血管を作成する困難性である。

今回の企画は、第一線の経験ある心臓外科医を対象として、より高度な心臓手術をそれぞれのExpertが実際の手技をstep-by-stepに解説し、術中写真と、心臓外科医である長田信洋先生自身の経験に基づいた正確なillustrationに加え、動画を駆使したもので、素晴らしい今までにない実際に役立つ手術指導書となっている。また、良好な視野を得るための送脱血法や視野の展開法、血管吻合時の吸引などのtrickの数々、MAPCAの薄く脆い血管壁の#8-0でのangioplasty等、それぞれのExpertの経験に裏付けられた貴重な情報の集大成となっていて、手術手技の伝承に非常に有効で、従来にない教科書と言える。特に、血管形成に自家心膜や自家血管壁を使用して肺動脈形成を施行するなど、安定した体外循環技術の裏付けがあっての綿密なangioplastyが印象的である。
従来のいわゆるRastelli手術では高い頻度の再手術が不可避であった。その頻度を減らす目的でe-PTFE導管などの利用、自家心膜導管や、末梢肺動脈断端を右室に縫着するREVなど試みられてきたが、未だ問題がある。この点ではNikaidoh手術とか、山岸正明先生のHTTS法なども推奨されるべき方法であろう。また複雑心奇形では姑息手術を複数回重ねて最終の根治手術にたどり着く症例も多くみられたが、hypoplastic LVのSano手術は一度の姑息手術でFontan手術に至る優れた方法である。

いずれにせよ先天性心疾患の手術には修復する心奇形の3D imageの習得が重要であり、動画を見ると実際の手術手技が術者の視野で再現されるので、癒着の剥離や視野の展開、縫合技術などの習得の助けになり、反復して観察できることも従来の手術書には見られない利点である。
本書は手術手技の伝承に非常に有効な従来にない教科書であり、心臓手術の指導書として他に例を見ないもので、将来、英訳本の出版も期待したいところです。

講座 精神疾患の臨床 7 地域精神医療 リエゾン精神医療 精神科救急医療

講座 精神疾患の臨床 7 地域精神医療 リエゾン精神医療 精神科救急医療 published on
精神神経学雑誌124-11号 「書評」より

評者:谷井久志先生

「講座精神疾患の臨床 7 地域精神医療 リエゾン精神医療 精神科救急医療」書評
※Link(精神神経学雑誌124-11号)

眼科診療エクレール 1 最新 緑内障診療パーフェクトガイド

眼科診療エクレール 1 最新 緑内障診療パーフェクトガイド published on

私の “推し本” ~眼科診療エクレール

「日進月歩」というよく使われる言葉があります。速いスピードで物事が絶え間なく進歩することを表す四字熟語ですが、世は今やIT時代、時間の単位を速めて「秒進分歩」と呼ばれることも多いようです。ただ、もはや歩いている場合などではなく、「秒進分走」と言い換えたほうがいいようにも感じるこの頃です。

そんな中で、医療はまさに「秒進分走」でトランスフォームしています。眼科医療ももちろん例外ではなく、常に知識をアップデートしておく必要がありますが、今はウェブを通じて信頼できる情報を素早く集め、各自のニーズに合った書籍を選べる時代になっています。

さて、相原 一先生のご監修のもと、園田康平先生、辻川明孝先生、堀 裕一先生という三名の俊英が編集された「眼科診療エクレール」シリーズが発刊になったのをご存知でしょうか。本書のミッションは、実地医家に「エビデンスに基づく具体的な知識と技術の最新情報を提供する」ことにあり、それを実現するために、多くのカラー写真やイラストを配置し、視覚情報を通じて理解を深める工夫が随所になされています。また、オープンアクセス可能な関連文献については、二次元コードで直ちに参照できるのもとても便利です。

本書を端的に表現すれば、二面性を持った教科書 two-faced textbook と言えるでしょうか。必要不可欠な知識を網羅している点では辞書のようですし、その一方で、ストーリー性のある企画内容が、読み物としての通読も可能としています。第1巻の「最新 緑内障診療パーフェクトガイド」に始まり、今後取り上げられる各巻のタイトルも臨床に即応したものばかりです。

「エクレール」とは仏語で「稲妻」の意。その心は「知りたいことに即座に反応して情報を提供してくれる」ということですが、その意味で、私もできるだけ多くの先生方に本書を読んでいただけることを願っています。これを今風に言えば、「推し本」(おしぼん)ということになるのでしょうね。この「推し」という言葉には、対象となる人や物への好意だけでなく、他人にも紹介したいという気持ちが込められているのです。

私から最後のメッセージです。本シリーズを皆さまの座右の書に加えられることを強くお勧めします!

愛媛大学名誉教授 大橋裕一

プラクティス耳鼻咽喉科の臨床 3 耳鼻咽喉科 薬物治療ベッドサイドガイド

プラクティス耳鼻咽喉科の臨床 3 耳鼻咽喉科 薬物治療ベッドサイドガイド published on
ENTONI Vol. 288(2023年9月号)「Book Review」より

評者:村上信五(名古屋市立大学医学部附属東部医療センター耳鼻咽喉科 特任教授)

この度,中山書店から新シリーズ《プラクティス耳鼻咽喉科の臨床》の第3巻として『耳鼻咽喉科薬物治療ベッドサイドガイド』が発刊されました.

これまでの耳鼻咽喉科領域の薬物治療は外来診療を目的とする書物がほとんどでしたが,本書は入院治療,すなわちベッドサイドでの診療に主眼を置いているところが特徴です.とは言っても外来診療でも十分役立つ重宝な書物です.また, 目次は疾患別ではなく薬物のジャンルで括り,薬品の種類や効能発現機序,有害事象,副反応などについて,分かりやすいシェーマや表を用いて解説しています.そして,耳鼻咽喉科疾患の治療に関しては実際例を提示して,疾患の病態から診断,治療,予後について解説しています.薬物治療に関しては,最新のガイドラインに沿った処方がStep by Stepに重症度や難治度に対応して提示されており,実践的かつup to dateな薬物治療マニュアルと言えます.また,本書では頭頸部癌を代表する扁平上皮癌や唾液腺癌,甲状腺癌に対する抗がん薬に関してもシスプラチンなどの殺細胞性抗がん薬から分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬に至るまで,有効性と有害事象が詳細に解説されています.そして,新薬だけでなく漢方薬についても,選び方や使い方,有害事象がコンパクトにまとめられ,耳管開放症や耳鳴,めまい,味覚障害,舌痛症,口腔乾燥,咽喉喉頭異常感症,喉頭肉芽症など新薬が奏功しにくい疾患に対する漢方薬の具体的な処方が紹介されています.漢方薬治療が苦手な耳鼻咽喉科医にとっては有難く,漢方薬入門書であると同時に実践的漢方治療マニュアルと言えます.

また,本書のもうひとつの特徴として要所随所に「Topics」や「Advice」,「Pitfall」などのコーナーがあり,「Topics」には疾患や薬物の最新情報が,「Advice」には投与方法のコツや知りたいこと,疑問に思っていたことなどが,そして,「Pitfall」には薬剤の安全性や複数投与における相乗効果などの注意点や落とし穴が記載されています.いずれも日常診療を行うために必要不可欠な情報で,Coffee Break的な感覚で休憩時に薬物にまつわる豆知識を得ることができます.

総評として,本書は耳鼻咽喉科頭頸部外科領域のすべてを網羅するベッドサイドの薬物治療ガイドで病院や病床を有するクリニックは必須の書と考えます.また,外来診療においても十分活用でき,特に薬物の種類や効能,作用機序等が詳細かつ分かりやすく記載されているので,患者さんへの説明には最適の書と言えます.そして何より,耳鼻咽喉科専攻医は勿論,専門医にとっても薬物の基礎から適応,使い方の最新情報を得るための必携の書ではないでしょうか.

Jackler 耳科手術イラストレイテッド

Jackler 耳科手術イラストレイテッド published on
ENTONI Vol. 287(2023年8月号)「Book Review」より

評者:飯野ゆき子(東京北医療センター耳鼻咽喉科/難聴・中耳手術センター)

手に取ってみるとずっしり重い! そして内容もずっしり重い!! 本著は著名な米国の耳科・神経耳科医であるRobert K. Jackler教授の著書“Ear Surgery Illustrated-A comprehensive Atlas of Otologic Microsurgical Techniques”の日本語訳本である.Jackler教授は1987年に内耳の先天異常の分類を手がけ,現在最も標準的に用いられているSennaroglu and Saatciの分類の元になった研究で有名である.また比類のない耳科手術医としても知られており,本著に先立ち1996年に“Atlas of Skull Base Surgery and Neurotology”を刊行している.1995年から2006年まで“Otology&Neurotology”のEditor-in-Chiefを務められ,まさに米国の耳科学を長年牽引なさっているスーパースターで,現在はStanford Universityの名誉教授である.このJackler教授の英文書を,日本における耳科手術のスーパースターである欠畑誠治先生(山形大学名誉教授/太田総合病院中耳内視鏡手術センター長)と神崎晶先生(東京医療センター感覚器センター)が中心となり日本語訳し,このたび出版の運びとなった.日本語訳にあたり,これだけの素晴らしいイラストのatlasであれば何も訳本の必要はないという意見があったという.しかし自身も感じるが,手術の前にちょっと確認したいと思い,何気なく手に取るのは英語のatlasではなく,やはり日本語のatlasなのである.容易に頭に入ってくる.以下にこの訳本の特徴を列記する.

  • わかりやすいイラスト:Mrs. Christine Gralappという卓越した医学イラストレーターの協力を得て,美しいイラストで構成されている.色彩を豊富に使用し,余計な細かい点は除外しており,写真より重要な点が強調されているため非常にわかりやすい.手術手技ではこのイラストが段階ごとに非常にクリアーに紹介されている.
  • 眺めて楽しむ:大きく綺麗なイラストを見ているだけで,解説を読むことなく理解できる.解説は簡潔であるが,危険を伴う場合は詳細に記載されている.
  • 目次構成の素晴らしさ:第1章は耳科の手術解剖,2章は耳科手術の基本,そして3章から15章までは各疾患に対する手術法という構成から成る.中耳疾患のみならず,めまいに対する手術,人工内耳手術,脳瘤等の頭蓋底手術など,ほぼ網羅されていると言って過言ではない.
  • 蘊蓄のある“はじめに”:各章は“はじめに”という項で始まる.ここには著者のその章に対するこだわりが書かれている.例えば第2章「耳科手術の基本」では“術者は背もたれのある椅子を使用して適切な姿勢をとることが大切である.術者の多くはこの人間工学にほとんど注意しないので,慢性的な背部痛に苦しんでいる”とある.私自身も慢性的な頸部痛持ち.背もたれ付きの椅子が必要である.第4章「アブミ骨手術」では“手術の成功には技術的な卓越性よりも精神的な準備,適切な判断そして自分の限界を知ることが重要である”と.これはまさに私がアブミ骨手術のみならず,耳科手術全てに対していつも感じていることである.
  • 病態に迫った術式の解説:手術法のみならず,病態を理解することが必要な場合はその解説も述べられている.例えば第8章「真珠腫」では真珠腫の成因と成長様式に関する説明も加えられている.
  • 役立つ付録付き:第16章は付録となっている.これは患者向け教育用ハンドアウトであり,解剖や手術法に関するイラストを医師が患者さんの説明用に使えるように提供してくださっている.解剖学的用語は全て日本語訳されている.

この歴史に残る名著『耳科手術イラストレイテッド』を是非手に取ってページを繰っていただきたい.感動すること間違いなしである.特にこれから耳科医を目指す先生にとっては耳科手術の魅力を十分に伝えてくれるワクワクする一冊となろう.最後に本著の日本語訳に精力的に取り組んでくださった監訳者の欠畑誠治先生,神崎晶先生,そして他の訳者の先生方のご尽力に心から感謝申し上げます.

最新美容皮膚科学大系 1 美容皮膚科学のきほん

最新美容皮膚科学大系 1 美容皮膚科学のきほん published on
Bella Pelle Vol.8 No.4(2023年11月号)「書籍紹介 Special Book Review」より

評者:木村有太子(順天堂大学医学部皮膚科学講座非常勤講師)

日々の診療・研究のバイブルとして手元に置きたい

美容皮膚科学は比較的新しい学問ではありますが,急速に発展している診療に実臨床として携わるわれわれは,正確な情報の中から正しい知識やスキルを身につけていかなければなりません.昨今では,インターネットを通して簡単に情報が手に入る便利な時代になりましたが,一方,過多な情報の中からエビデンスに基づいた知識や手技を選ぶ方がむしろ大変なのかもしれません.

美容皮膚科学の成書において,普遍的な知識やスキルを体系的に網羅した教科書は存在しなかったのではないでしょうか.今回この大任を,皮膚科医なら誰でも一度はお世話になったことがあるでしょう「宮地本」として知られる皮膚科の多くの教科書を執筆・編集されてきた宮地良樹先生と,レーザー治療・美容皮膚科の第一人者である宮田成章先生がまとめてくださいました.全5巻から構成されている大作です.第1巻の「美容皮膚科学のきほん」はまさに基本知識がまとめられており,そのうち第1章では,皮膚の構造や機能,第2章では,ダーモスコピーをはじめとする診断や検査,第3章は,レーザーを中心とした機器の基礎知識,第4章では,スキンケアやフィラー・ボツリヌス毒素,スレッドリフトやケミカルピーリング,漢方や再生医療の基礎まで,その分野のスペシャリストがわかりやすく解説してくださっています.どのページを読んでいても,実際に著者の先生方に直接指導していただいている感覚になります.非常に内容の濃いものであり,これから美容医療を始める先生方にも,すでに現場でご活躍なさっている先生方にも,日々の診療・研究のバイブルとして,是非お手元に置いていただきたいと思います.

末筆ではありますが,若かりしとき(今もそんなに年老いてはいないつもりですが)の指導医との会話で「成書読んでごらん」「えっ? 聖書に書いてあるのですか?」「いや,成書だよっ!!」といったやりとりを度々目にしましたが,最近はどうなのでしょうか.


Derma Vol. 338(2023年8月号)「Book Review」より

評者:古川福実(日本赤十字社高槻赤十字病院 皮膚・形成外科センター長/日本美容皮膚科学会名誉会員)

美容皮膚科学が独立した学問体系なのか,皮膚科や形成外科の日常診療に活かすべきパーツなのかは難しい問題です.私は,日本美容皮膚科学会の雑誌編集長や理事長として2003年ごろから10年余にわたって美容皮膚科に携わってきました.「学」にするためには,学術的研究論文が必要ですが,当時の学会誌は使用経験をエッセイ風にしたものが多くアカデミアからは程遠いものでした.日本美容皮膚科学会会員の皆さんに原稿をお願いして,なんとか原稿を集めて情報発信に務めました.しかし,エビデンスレベルは決して高くはありませんでした.学術論文にするには,時間と根気が必要です.しかし,新しい機器や手技の進歩は目まぐるしく,論文が発表された時点で,時代遅れになりつつあるのはいつものことでした.美容皮膚科学を目指すのではなく,美容皮膚科を一般皮膚科学の中に活かしていくのが次善と思うようになっておりました.

いずれの方向を選ぶにしても,成書が重要なことは言うまでもありません.「一灯をさげて暗夜を行く.暗夜を憂うなかれ,一灯を頼め.」とは江戸時代の儒学者佐藤一斎の言葉です.一灯がこの分野における優れた成書です.1965年,故安田利顕先生が著された「美容のヒフ科学」はまさにこの一灯です.皮膚科学の目の必要性を提唱され上梓されました.その後ほぼ60年を経て,「大系の中山書店」から最新美容皮膚科学大系の出版が開始されたことは,美容皮膚科学が学問体系として完成しつつあるように思えて嬉しい限りです.

編者の一人は,この分野に造詣が深く現在の美容皮膚科学の礎を築いておられる宮地良樹先生です.読みやすいレイアウトと大きな文字も,古希を過ぎた私には嬉しいです.もう一人の編者である宮田成章先生も,多数の成書を執筆されています.何よりも,数多くの実践を踏まえた主張には高い信頼感があります.このようなお二人によって企画された本大系は,美容皮膚科・美容皮膚科学に携わるものの一灯になることは疑いありません.