INTENSIVIST Vol.15 No.2(2023年2号)「Book Review」より

評者:土井研人(東京大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野教授)

Sepsisは腐敗を意味するギリシャ語のseptikosを語源としており,ヒポクラテスの時代から死に至る重篤な病態として認識されていたと考えられている.以来,人類は病原体との戦いを敗血症というリングにおいて継続してきた歴史があり,いまだ現在進行形であり完全決着がついていない状況である.敗血症の最新の定義であるSepsis-3では「感染に対する制御不十分な生体反応に起因する生命に危機を及ぼす臓器障害」とあるように,臓器における障害の重要性が強調されており,敗血症の診療においては単純に病原体を排除するだけでは不十分であることは明らかである.一方,病原体にはさまざまな特徴があり,それに対して個別に治療戦略を立てる必要がある.外敵の情報に基づいた戦略なくして敗血症に対する勝利は得られないであろう.

本書はタイトルに「感染症と臓器障害への対応」とあるように2つのパートから構成されている.前半は,総論に加えて感染症学の専門家による適切な診断と治療のアプローチについての各論が詳細に解説されている.集中治療室において敗血症診療に従事している場合,得てして臓器障害に対する治療に関心が集中し,肝心の病原体との戦いについてはコンサルテーションに依存していることが多いが,本書により感染症学の考え方をあらためて学ぶことができると思われる.後半においては,敗血症による臓器障害管理に加えて,臨床工学や理学療法など多職種による敗血症診療が紹介されている.加えて,敗血症管理の工夫として,最先端の知見や実際の臨床現場で有用な手法が解説されている.これらにより,これまでの敗血症診療にさらなるブラッシュアップが期待できると思われる.

このように本書は感染症学と集中治療医学の2つの柱からなり,敗血症という古来より人類の最大の敵である病態を,最先端の知見を含めて深く理解するためには最適の書であると言えよう.是非,十分な時間をとって思考を巡らせつつ読んでいただければと思う.