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エビデンスに基づくアトピー性皮膚炎治療

エビデンスに基づくアトピー性皮膚炎治療 published on
Visual Dermatology Vol.18 No.11(2019年11月号)「Book Review」より

評者:鶴田大輔(大阪市立大学大学院医学研究科皮膚病態学教授)

京都大学の師弟コンビによるワクワク感満載の書籍が刊行された!
椛島健治先生というずば抜けた研究者が日本にいることはわれわれの誇りである.現在,椛島先生は世界最先端の研究グループを組織されているが,本書もその方々が中心となり執筆され,一部をその他の施設におられる先生方が分担執筆されている.さらに,宮地良樹先生という稀有なオーガナイザーが一緒に編集されたこともあり,本書はたいへん贅沢な本となったと思う.
ひと目見て,臨床写真がきわめて少ないことに驚いた.代わりに,病態を説明する実に美しいイラストが多数ある.表紙も体裁もとにかく美しい.
アトピー性皮膚炎の病因についてはアレルギ一説,バリア説の戦いの歴史といえるが,椛島先生は以前から「三位一体病態論」を唱えておられ,美しいイラストとともにその説明がなされている.とてもわかりやすい.
治療とバイオマーカーの項目ではガイドライン,最新の薬剤のみならず歴史的な経緯についても簡潔にまとめておられ,興味深い.また,アトピー性皮膚炎でのバリア異常と病態との関連,治療の項目では,脂質バリアだけではなく近年話題の「扁平ケルビン14面体モデル」「機能的角層分類」「Flaky tailマウスでのmattedの異常による皮膚炎」「JTC801の効果」にまで話題が及んでいる.
学会などでこれらの話題を完全には理解できていない方(私も含む)や皮膚科研究を志すものには必見であると考える.
次にアトピー性皮膚炎の免疫・アレルギー的側面では,Th2サイトカイン,話題の自然リンパ球の役割,アトピー関連サイトカインの制御による最新アトピー治療について記載されている.さらに,かゆみ関連では,伝達経路,関連サイトカイン,モデルマウスに至るまで微に入り細に入り記載されている.最近のトピックスとしては,皮膚常在菌をターゲットとした治療,抗菌ペプチドを利用した治療,衛生仮説,外因性・内因性アトピー性皮膚炎が選ばれている.その上で最後を飾る章として宮地先生自らが「三位一体論に基づくアトピー性皮膚炎ベスト治療」を書かれている.まさにこれこそが,現在考えられている病因論に基づくアトピー性皮膚炎治療のベストアプローチと言えよう.
このような本が日本語で読めるとは,日本人臨床医,研究者はたいへん恵まれている.英訳する計画があるかもしれないが,できれば日本人のためのみの宝物にしておいていただければと思う.

エビデンスに基づくスキンケアQ&A

エビデンスに基づくスキンケアQ&A published on
Visual Dermatology Vol.18 No.10(2019年10月号)「Book Review」より

評者:藤本 学(大阪大学医学部皮膚科教授)

皮膚疾患の予防や再発の防止には,正しいスキンケアが重要なことはわれわれ皮膚科医はよくわかっている.しかしながら,「皮膚科学」の教科書は巷間にあふれているが,その中で「治療法」については述べられていても,「スキンケア」についてはあまり触れられることがない.むしろ,看護学の領域の方が多いかもしれない.しかし,そのような書籍は皮膚科医向けには書かれておらず,皮膚科医が知りたいスキンケアについての情報を得ることは意外に難しい.
一方,一般向けに「スキンケア」を取り上げる書籍や雑誌はたくさんある.その中には首をかしげたくなるような内容のものまであることも事実である.また,正しい内容であっても,その個人の皮膚にあっているかは別問題である. したがって,患者さんに,その個人の状況に応じた適切な正しいスキンケアの指導をすることは治療の一環として不可欠であるのみならず,患者満足度の面でも非常に重要である.そのような意味から,本書は皮膚科医必携の「スキンケアの教科書」の決定版といってよい.
本書は,ドライスキンや紫外線に対するケアはもちろんのこと,疾患別にざ瘡,アトピー性皮膚炎をはじめとして,なかなか体系だって勉強する機会の少ないストーマ・失禁のケアやスキン-テアのケアまで幅広く網羅されている.いわゆる「宮地本」の中では字が多い方に分類されるであろうが,項目ごとにコンパクトにまとめられており,通読するのも困難ではないし,辞書代わりにも便利に使用できる.
本書の特徴の一つは,「エビデンスに基づく」というタイトルのとおりに,根拠となっている文献をきちんと示していることである.日本の教科書は海外のものに比べて引用文献を極力減らそうとする傾向があるが,記載の基づいている根拠がわからないこともしばしばある.編者らが述べているように,スキンケアの領域はレベルの高いエビデンスが出しにくい分野であろうが,どのくらいのエビデンスレベルなのかも含めて把握できるのは,読者にとっては大変有り難い.
編者の安部先生の序文によれば,本書の活用法の一つが「酒宴での蘊蓄」とのことなので,筆者もそれを楽しみに本書でしっかり学習したいと考えている.もちろん,読者の諸先生方には,本来の日常診療の場でおおいに活用して頂きたい.

エコーでできる評価と管理 バスキュラーアクセス超音波50症例

エコーでできる評価と管理 バスキュラーアクセス超音波50症例 published on
腎と透析 Vol.87 No.2(2019年8月増大号)「書評」より

評者:春口洋昭(飯田橋春口クリニック)

近年,バスキュラーアクセス(VA)の診断だけでなく,管理,穿刺,PTA(経皮経管的血管形成術)など広い領域で超音波(エコー)が利用されるようになってきている。つい10年前と比べると,隔世の感を禁じえない。その間,数冊のテキストが販売され,手に取った方も少なくないと思う。
そのなかで,本日紹介するテキストは,「症例に沿ってエコーを用いてVAをどのように考えていくか?」というものであり,内科学に例えると「診断学」に近く,今までの教科書とは一線を画している。本書は,「バスキュラーアクセス超音波の基本知識」,「バスキュラーアクセス 症例50」,「step up! バスキュラーアクセス超音波検査」の3部構成となっている。
「バスキュラーアクセス超音波の基本知識」は,血管解剖,プローブ走査,機能評価,造設術前評価,形態評価に分かれており,VAエコーの基礎を集中して学ぶことができる。特にプローブ走査では,実際の写真と,それによって描出されるエコー所見が示されており,解剖を立体的に理解する一助となる。これは,VAエコー初心者にとっては,とてもありがたい試みである。また「step up! バスキュラーアクセス超音波検査」では,基礎知識で触れることがなかった細かなコツ等が記載されており,VAエコー中級者にとっても有用であろう。
ただ,なんといっても本書のハイライトは50の症例である。AVFとAVG,動脈表在化に分けられた症例は,術前評価から,脱血不良,瘤,静脈高血圧症,感染など,考えられるすべてのトラブルであり,見開き2ページで1症例がまとめられている。左のページには,シャント肢の写真と血管走行,また触診を中心とした理学所見が示されている。右ページにはポイントとなるエコー画像が提示されているため,読者は,左ページの写真や理学所見を参考にしながら,エコー画像を容易に理解できるようになっている。
また,すべての症例で検査目的,理学所見,エコーのポイント,総合評価,そしてその後の経過が示されており,症例に対してどのように考え,検査を進めたのかが明らかにされる。さらに,治療法とその後の経過が記載されているため,エコー検査の有用性を実感できる。
本書はいろいろな利用法があるが,私は次の方法を勧める。まずは,症例の左半分の上肢の写真と理学所見,臨床症状をもとにして病態を推理する。なぜ,そのような症状が出現したのかを考えてもらいたい。この「考える」という過程が大切であり,ある程度,病態を推測した後に,右のエコー所見と比較して,理解を深めるのがよいだろう。読み進めるうちに,VAに対する理解が格段に進歩していることを自覚できると思う。本書はエコーのテキストであるが,それ以上に「考える力」を養うテキストとなっている。実際エコーを行わなくても,本書をこのように使用することで,VA診療の実力が相当向上するのは間違いない。
著者の小林大樹氏は,20年前からVAの超音波検査を始め,現在ではVAエコーのスペシャリストとして広く認識されている。小林氏は,VAエコーの裾野を広げるために全国で講演活動を行っている。現在,透析クリニックでVAエコーを行うことが珍しくなくなり,VAエコーを得意とする透析スタッフも多くなった。その最大の貢献を果たしたのが,まぎれもなく小林氏である。毎日のように数多くのVAエコーを手掛けるなかで,培った技術と思想を1冊に凝集した本テキストには,彼の情熱があふれている。
本書は,数多くのエコーテキストの編集を手掛けている寺島茂氏が編集を担当し,また監修にはVA治療のスペシャリストである末光浩太郎氏が携わっている。この上のない両氏のサポートもあり,大変充実したテキストに仕上がっている。透析診療,血管診療に関わる医療者にとっては,まさに必携のテキストであり,多くの方に届いてほしいと願っている。

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 1 生殖生理

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 1 生殖生理 published on
産科と婦人科 Vol. 86 No.8(2019年8月号)「書評」より

評者:武谷雄二(東京大学名誉教授)

医学の歴史を紐解くと,科学としての医学と,その応用である医療とはともに進歩してきた.ある時は真理探究心に促された基礎医学の研究が先行し,その成果が医療に還元され,逆に医療人の使命感が医学の進歩を後押ししてきた.このように医学(Science)と医療 (Practice)は不即不離な関係にある.「Science and Practice 産科婦人科臨床」シリーズ(全6巻)に通底するのは,医学と医療の統合的理解である.
婦人科疾患を生殖機能の破綻という視点で捉えるならば,『生殖生理』は医療の課題に気づき解決の糸口を提供する,あるいは新たな発想で新規な医療技術の開発を手助けする未来志向性の著といえる.本書は生殖機能系を中心に据えて,個体の発達,性成熟期,閉経期という個体のー連の変化を通覧するとともに,その過程で女性の体内で進行する生殖細胞系列から新たな個体の誕生までの時系列を,母体と生殖細胞が織りなす精妙な相互作用という視点にたって見事に記述している.生殖現象は異なった部位に位置する臓器や組織が,新たな個体の創生という統一的な目的に向けて整然と協調的に機能している.これはホルモンに主導されるものであり,その理解は各種婦人科疾患の病態理解や最適な治療法の選択にも役立つものである.本書は最新の知見を交え,ヒトの生殖生理を体系化したものであり,産婦人科,生殖医療,生殖生物学などに携わる方々に,経験年数を問わず大いに活用していただけるものと確信している

小児コモン60疾患実践的ガイドライン活用術

小児コモン60疾患実践的ガイドライン活用術 published on
小児科診療 Vol. 82 No.9(2019年9月号)「書評」より

評者:幡谷浩史(東京都立小児総合医療センター総合診療科)

本書は,子どもの診療の場面で遭遇するcommon diseaseについて,各疾患の第一人者が,複数症例をもとにガイドライン活用のエッセンスを伝える実践書である.巻末には各ガイドラインが採用する推奨グレード・エビデンスレベルの区分,ガイドラインの入手先を収録し,まさにかゆいところに手が届かんばかりの作りである.
60疾患には基本的な小児科領域だけでなく,中耳炎,ヘルニア,側弯症,ADHDなど,幅広い疾患を網羅する.小児科の道を歩み出した若い先生方にとって,モノクロで無味乾燥なガイドラインから疾患を学ぶのは途方もない困難を伴う.しかし,本書では典型例,非典型例,重症例とバラエティに富む症例とその解説により,カラフルな実臨床を仮想体験し,最新のガイドラインの一端に触れることができる.各疾患についてはガイドラインの一部の紹介にとどまるが,その続きを学ぶための情報として,付録に記載されたガイドライン情報(web上のpdf情報など)から進むことができる.
しかし,読み進めるうちに,common diseaseを診る自信がつき,一般外来を担当している中堅以上の小児科医(つまりは私自身のことであるが)にこそ,本書は役に立つのではないかと思い至った.昔の知識からなかなか進歩せず,時に自己流に陥る私にとって,習得したと勘違いしていたcommon diseaseのガイドライン・知識を得る,またとないチャンスを与えてくれた.
以上のことから,この本を,子どもの診療に携わるすべての医師にお勧めする.

エビデンスに基づく美容皮膚科治療

エビデンスに基づく美容皮膚科治療 published on
Visual Dermatology Vol. 18 No.8(2019年8月号)「Book Review」より

評者:川田 暁(近畿大学医学部皮膚科教授/前 日本美容皮膚科学会理事長)

皮膚科領域において美容皮膚科の重要性が年々高くなっている.本邦の皮膚科領域では日本美容皮膚科学会が中心となって学会活動を行っており,2019年3月の時点で会員数2,496人を擁している.
このような現況の中で『エビデンスに基づく美容皮膚科治療』という本が発行されたのはとても意義が大きい.美容皮膚科領域は,(1)患者のニーズがきわめて高い,(2)自費診療が中心である,(3)機器や治療方法が先行する,などの特徴がある.その結果,確たるエビデンスがないまま患者の希望に応じて新しい治療を始めてしまうことが起こりやすい.どの分野でも同様であるが,治療で重要なのは有効性と安全性のエビデンスを確認してから行うことである.美容皮膚科領域では,他の領域と異なり良質なエビデンスが少ないのは事実である.本書はあえて美容皮膚科領域のエビデンスをターゲットにしており,野心的な本といえる.
本邦の皮膚科の教本の中でも,宮地良樹先生編集の本は数の多さだけではなく,企画のおもしろさ,着眼点のユニークさ,分担執筆の著者選択の適切さ,などで他を寄せつけない魅力がある.宮地良樹先生が新たに企画されたものが“エビデンスに基づく”シリーズである.同シリーズの本としては,本書の他に『エビデンスに基づくスキンケアQ&A』が発行されている.
『エビデンスに基づく美容皮膚科治療』は宮地良樹先生と葛西健一郎先生が編集されている.葛西健一郎先生は美容皮膚科全般とレーザー治療について豊富な経験と見識をもっておられ,多くの著書を刊行している.
このような背景から本書を読んでみた.まず分担執筆された著者は,編者と同様に豊富な経験と見識を有したエキスパートの方々である.次に項目の中に,機能性化粧品とAGAが含まれているのが通常の本と異なり興味深い.さらにどの項目でも,文頭にそのテーマのエビデンスレベルの提示があり,かつ各項目のエビデンスレベルがメーターを用いて5段階で評価されており,理解がきわめて容易である.最後に図と写真が大きく視覚的にわかりやすい.
これらを踏まえると,本書はエキスパートの方々が,美容皮膚科領域のエビデンスをしっかりと評価し,長所と短所を分析し,わかりやすく解説している初めてのものであり,良書といえよう.現在,美容皮膚科診療を実際に行っている方々はもちろん,これから始めようとしている方々にも是非読んでいただきたい

刑事精神鑑定ハンドブック

刑事精神鑑定ハンドブック published on
精神医学 Vol.61 No.7(2019年7月号)「書評」より

評者:西山 詮(錦糸町クボタクリニック名誉院長)

1948年,Schneider Kは法律家を前にした講演で,刑事責任能力につき次のように言った。「(われわれは)弁識能力および制御能力についてはほとんど言及しない。(中略)その理由は,この点については何人も(kein Mensch)答えることができないからである」つまり,鑑定人どころか裁判官も(何人も)心理学的要素に答えることができないというのである。
数十年にわたる論争を経て上記のような不可知論は克服され,精神科医はその専門知により裁判官の事実認定(弁識能力と制御能力の判断)を援助することができるようになった。言いかえれば,鑑定人は,収集した証拠およびそこから許されるかぎりの推認により,犯行時,精神障害がどのように,どの程度まで心理学的要素に影響を及ぼしたかにつき蓋然性の高い仮説を提供することができる。このような考え方を可知論と呼んでいる。
いまでは最高裁もこれを認め,「生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については,その判断が臨床精神医学の本分であることに鑑みれば,専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には,(中略)その意見を十分に尊重して認定すべきである」と判示している。
編者の一人,五十嵐禎人はこの可知論の旗幟を鮮明にしている。編者のもう一人,岡田幸之は可知論に対して慎重で,鑑定人の判断構造を8ステップに分け,心理学的要素の判断を含むステップ⑤以降を「能動的,主体的に行うことには疑問がある」と忠告している。しかしその彼も,求めがあれば,各論においてみられるように丁寧な「刑事責任能力に関する参考意見」を提供している。この参考意見は裁判官や裁判員の事実認定を大いに助けたと思われる。心底からの不可知論者ならば「この問いには回答できない」と言うであろう。
このハンドブックは上記のような討論の余地を残すことによって,初心の鑑定人はもとより中級以上の鑑定人にも興味深く読まれるに違いない。知的誠実を重視する両編者は,この点でわが国最高の陣容をととのえ,総論と各論を充実させている。
最近聞いたことであるが,ある裁判官は,被告人に複雑酩酊が強く疑われる事件において,期日前協議(裁判官,検察官,弁護人の3者による)の際,「裁判員裁判であるから複雑酩酊のような難しい概念は使用しないように」といい渡したそうである。そのためかどうか鑑定人は,血中アルコール濃度は泥酔に相当し,麻痺症状や失調症状の全くなかった被告人を単に「普通酩酊」と診断し,裁判所もこれを採用している。こんなことでは裁判官と裁判員の事実認定に公正と十全を期待することはできない。鑑定人は複雑酩酊などの必須の概念を分かりやすく正確に説明することができるはずである。その「わかりやすく正確に」が,実際にどういうものであるかをこのハンドブックが各論で示している。読者はかならず本書をカバーからカバーまで通読されるようおすすめする。

プリンシプル消化器疾患の臨床 膵・胆道疾患診療の最前線

プリンシプル消化器疾患の臨床 膵・胆道疾患診療の最前線 published on
胃と腸 Vol.54 No.1(2019年1月号)「書評」より

評者:田中雅夫(下関市立市民病院)

『膵・胆道疾患診療の最前線』は《プリンシプル消化器疾患の臨床》シリーズ4冊のうちの最後の発行である.人口の高齢化とともに胆膵疾患の増加は著しく,手前みそながら今や肝臓疾患よりも日常診療上重視すべきではないかと思うくらいであるが,消化器疾患の分類は一応上部・下部・肝胆膵となるので最後になるのは仕方がない.
この《プリンシプル消化器疾患の臨床》シリーズの頁構成は非常によくできている.最前線やアップデートと銘打った成書は多く,それぞれに工夫と趣向をこらしているが,本シリーズほど読んで頭に入りやすいページ構成はそうはない.フローチャートや図をたくさん有効に活用し,文章も少し長い程度の箇条書きで極めて読みやすい.全ての記述が一息で読めるように,細かいことは星印で示して注釈として別に解説している.急ぐ場合には,表題のすぐ下のPointの数行を読むだけでもざっとその項目の特徴をつかむことができる.これまでと常識が変わったというような話題はTOPICSとして色づけされているし,著者から「これだけは絶対に逃さないで欲しい」といった強調点もAdviceとして色づき枠で示してあって面白い.
第Ⅰ章が疾患の概念や疫学,病態生理などの総論,第Ⅱ章が検査・診断法,第Ⅲ章,第Ⅳ章が治療法の総論と各論になっている.第Ⅰ章で,疾患概念として書かれていることと,第四章で治療法各論として書かれていることに若干の重複は見られるが,使われている図はそれぞれに工夫されていて役に立つ.その一例をあげると,第Ⅰ章「疾患概念」の膵嚢胞性腫瘍の項目に膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)の画像(p.31)があるが,嚢胞内に造影される小結節が描出されていてIPMNの国際診療ガイドラインで提唱されているworrisome featuresの一つを例示している.第Ⅳ章「治療法各論」のIPMNの項目であげられている画像(p.250)も同じくworrisome featuresのうちの一つ,Doppler EUSで血流を認めない3.8mmの小結節を示しているが,膵液細胞診が陽性であり切除した結果はIPMN由来浸潤癌であったという.この例ひとつを見ても本疾患の診断の困難さとそれを克服する方法を理解することができよう.本書は項目によっては重複をよしとしてそのような読み方もできて面白い.
編集者の下瀬川徹氏は,日本消化器病学会と日本膵臓学会の理事長を合わせて務めるという忙しさをものともせず,いろいろあるであろう悩みを顔にも出さず淡々と業務を進める方で,多方面にわたって気配りのできる方である(日本膵臓学会は前理事長).本書の編集もそのような気配りが細かく行き届いて極めて読みやすいものとなっている.『膵・胆道疾患診療の最前線』は《プリンシプル消化器疾患の臨床》シリーズの最後を飾るのにふさわしい一冊で,ぜひとも手元において診療の役に立てたい.

プリンシプル消化器疾患の臨床 ここまできた肝臓病診療

プリンシプル消化器疾患の臨床 ここまできた肝臓病診療 published on
胃と腸 Vol.53 No.2(2018年2月号)「書評」より

評者:林紀夫(関西労災病院院長)

中山書店から《プリンシプル消化器疾患の臨床》シリーズ3巻の『ここまできた肝臓病診療』(専門編集 佐々木 裕)が刊行された.このシリーズでは消化器疾患の臨床を臓器別に4巻に分けて,日常臨床で遭遇することの多い疾患を中心に最新の専門知識と診療実践のスキルを,視覚的にわかりやすく提示している.本書は本邦に多い肝疾患について疾病構造の変化を俯瞰しつつ,新たな疾患概念,診断法・治療法について図表を多く取り入れ理解しやすく記載している.
医学・医療の進歩には目を見張るものがあり,肝疾患の領域でも新しい診断マーカー・画像診断や有効性の高い治療薬が開発されただけでなく,疾患の概念が変わった疾患もあり,その進歩は際立っている.特に,本邦において疾患頻度の高いC型肝炎ウイルス(HCV)やB型肝炎ウイルス(HBV)関連肝疾患では,その診断や治療は大きな変貌を遂げている.C型肝炎の領域では従来のインターフェロン治療からインターフェロンフリーのDAA製剤による治療に大きく変わり,C型肝炎ウイルス排除率は非常に高くその治療効果も大きく改善したが,これらの薬剤の投薬に当たっては副作用や薬剤耐性など多くの専門的な知識が要求される.一方,NAFLD (非アルコール性脂肪性肝疾患)やNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)などの新たな疾患概念なども提唱され,肝疾患や消化管疾患など多岐にわたる消化器系疾患の臨床に携わっている消化器系領域の専門医が,常に最新の情報を知り日常の診療に活用することは容易なことではない.本書は,肝疾患総論,検査・診断,治療法総論,治療法各論で構成されている.肝疾患では個々の疾患で共通の診断法や治療法があり,本書のような構成の方が診断や治療をより体系的に理解でき,先生方にも有用と考える.また,カラー図を多く使い最新の情報をまとめられており,多忙な先生方でも容易に肝疾患の最新情報をご理解いただけ,日常の臨床にも有用な実用書である.
現在,日本では高齢者の増加にともない医療制度が大きく変貌をとげようとしており,専門医制度に関しても日本専門医機構が中心となり2018年4月からの新専門医制度の見直しが行われている.総合内科医のように内科全般を診療できる医師も必要であるが,肝臓や消化器などのより専門性が高い専門医の育成も重要な課題である.日本は肝疾患が多い国であり,疾患の診断や治療に専門性の高い判断が要求される時代には多くの肝臓専門医が必要であるが,肝疾患を専門とされていない先生方が肝疾患を診療される機会も多く,そのような先生方にも実践的な内容となっている本書をご活用いただき,日常診療にお役立ていただければと考える.

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 published on
medicina Vol.55 No.13(2018年12月号)「書評」より

評者:菅野健太郎(自治医科大学)

佐々木裕教授の総編集による『最新ガイドライン準拠 消化器疾患診断・治療指針』は,症候論からはじまり,検査法,画像診断など,エビデンスやガイドラインが必ずしも十分でない領域にもゆきとどいた紙数が割かれており,本書が単にガイドラインの解説書ではなく,簡便な教科書としても通用する体裁となっている.これは,佐々木教授が序文に述べておられるように,本書が,すでに上梓されている全4巻の「プリンシプル消化器疾患の臨床」シリーズを一冊に纏められていることによる.このシリーズは肝臓をご専門とする佐々木裕教授のほか,木下芳一教授,渡辺守教授,下瀬川徹教授という,当代の日本を代表する上部・下部消化管ならびに胆膵疾患のリーダーがそれぞれのシリーズの一巻を担当され,高い評価を受けている消化器病専門書である.ただ,消化器病学を専門としない一般医家が座右において参考にするには全4冊を揃えるとなるといささか抵抗があるかもしれない.本書はその点で一般医家むけとしてきわめて利便性が高くなっているといえよう.実際,最新のガイドラインが取り入れられているだけでなく,プリンシプルシリーズの特徴でもある美しい画像・イラストを受け継いでいるほか,多くの項目ではシリーズの該当部分を参照できるような配慮がなされている.
エビデンスに基づく医療(EBM)は,単に臨床研究によって得られたエビデンスだけではなく,医師の技量,患者の価値観,患者を取り巻く状況という4本柱に基づく医療を指すのであるが,その実践にあたってガイドラインの果たす役割は大きい.それゆえ,これらの最新のガイドラインを要領よくまとめてある本書の有用性は高い.しかし,たとえば,新規薬の参入が相次いでいる炎症性腸疾患や,悪性腫瘍の治療については,現行のガイドラインでは必ずしも十分に対応できているとはいえず,アップデートが必要となるであろう.また,新薬も相次いで発売され,一般医家が遭遇する機会の多い便秘については,単に症候論だけでなく,その診断,治療に関する項目を設けていただきたいと思う.
すでに述べたように,ガイドラインは常に更新,改定されていく宿命を持っている.本書もまた,それらの新たなガイドラインを包摂し,常に更新・改訂され続けられていくことを願ってやまない.