産科と婦人科 Vol. 86 No.8(2019年8月号)「書評」より

評者:武谷雄二(東京大学名誉教授)

医学の歴史を紐解くと,科学としての医学と,その応用である医療とはともに進歩してきた.ある時は真理探究心に促された基礎医学の研究が先行し,その成果が医療に還元され,逆に医療人の使命感が医学の進歩を後押ししてきた.このように医学(Science)と医療 (Practice)は不即不離な関係にある.「Science and Practice 産科婦人科臨床」シリーズ(全6巻)に通底するのは,医学と医療の統合的理解である.
婦人科疾患を生殖機能の破綻という視点で捉えるならば,『生殖生理』は医療の課題に気づき解決の糸口を提供する,あるいは新たな発想で新規な医療技術の開発を手助けする未来志向性の著といえる.本書は生殖機能系を中心に据えて,個体の発達,性成熟期,閉経期という個体のー連の変化を通覧するとともに,その過程で女性の体内で進行する生殖細胞系列から新たな個体の誕生までの時系列を,母体と生殖細胞が織りなす精妙な相互作用という視点にたって見事に記述している.生殖現象は異なった部位に位置する臓器や組織が,新たな個体の創生という統一的な目的に向けて整然と協調的に機能している.これはホルモンに主導されるものであり,その理解は各種婦人科疾患の病態理解や最適な治療法の選択にも役立つものである.本書は最新の知見を交え,ヒトの生殖生理を体系化したものであり,産婦人科,生殖医療,生殖生物学などに携わる方々に,経験年数を問わず大いに活用していただけるものと確信している