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皮膚科臨床アセット 17 皮膚の悪性腫瘍

皮膚科臨床アセット 17 皮膚の悪性腫瘍 published on

使いやすさ,見やすさといった面での実用性にも心配りがなされた,読者に優しい書

Visual Dermatology Vol.13 No.11(2014年11月号) Book Reviewより

書評者:土田哲也(埼玉医科大学皮膚科)

現在,皮膚悪性腫瘍診療,とくにメラノーマの治療においてはブレイクスルーがおこっている.難攻不落であった進行期メラノーマに対して,DTIC(ダカルバジン)を凌ぐ薬剤が次々と開発されている.このことは,皮膚悪性腫瘍診療の範疇にとどまらず,医療界全般および社会からも大きな注目を浴びている.そういった情勢を背景に,この書は刊行された.専門編集者である国立がん研究センター中央病院の山﨑直也先生は,日本の皮膚悪性腫瘍診療のトップリーダーとして活躍中の現役バリバリの先生である.「序」で述べられている「初めて」のオンパレードは,まさしくこの時代背景を反映している.この書には,こういった「新しい」事実が,大変わかりやすく記載されていることが一つの特徴である.今まで断片的には目にすることはあったけれども,これらの新情報をまとめて勉強したい,と考えておられる先生方には待ち望まれた書であるといえる.
ただし,この書は,単に最新知識をまとめただけの書ではない.優れた臨床家である山﨑先生が,実際の皮膚悪性腫瘍診療に本当に必要な事項は何か,という実践診療の観点から組み立てた書である,という点がむしろ一義的な特徴といえる.そこに,大きな変革の波がかぶって,実践のみならず画期的な最新知識も得られる書に仕上がったところに,時代に求められているという山﨑先生の運をも感じてしまう.そう感じるのは,本年7月に第30回日本皮膚悪性腫瘍学会学術大会が山﨑先生を会長として開催されたが,この第30回という記念の学会期間中に,日本で開発され山﨑先生が臨床治験でご尽力なさった抗PD-1抗体が,世界に先駆けてメラノーマの治療薬として承認されたことも関係している.
この書の項目をみて,内容を読み進めれば,皮膚悪性腫瘍の診療を実践するのに必要な知識は何か,ということが否応なく頭の中に入ってくる.それぞれのパートを担当された先生方も,日本の皮膚悪性腫瘍診療を第一線で担われている正真正銘のエキスパートばかりである.記載に説得力があるのは,単なる教科書的知識の羅列ではなく,先人の業績は尊重しつつ,実践経験に裏づけられたリアリティも感じさせるためではないかと思う.
先人の業績ということについていえば,皮膚悪性腫瘍の診療に現在大きな変動が生じているとはいっても,ここまでずっと停滞していたわけではない.地道な努力が積み重ねられ着実な進歩はみられていた.ダーモスコピーなどによる診断精度の向上,センチネルリンパ節生検の導入などによる手術療法の改善などは,患者さんの負担の軽減,早期診断・早期治療の増加につながっていた.こういった皮膚悪性腫瘍診療の根幹をなす地道な進歩も,この書から読み取ることができる.
若い先生方には皮膚悪性腫瘍診療の実践書として,ベテランの先生方には最新知識を整理する書として,いずれの立場においても,この書の利用価値は高い.
最後に,この皮膚科臨床アセットシリーズは,皮膚科診療に役立つ読みやすい実用書として企画されているが,内容が実用的なことはもちろんのこと,装丁・レイアウトも工夫され,使いやすさ,見やすさといった面での実用性にも心配りがなされた,読者に優しい書であることを付記しておく.

皮膚科臨床アセット 14 肉芽腫性皮膚疾患

皮膚科臨床アセット 14 肉芽腫性皮膚疾患 published on

今後の診療,教育を楽しみにさせる良著

臨床皮膚科 Vol.67 No.10(2013年9月号) 書評より

書評者:鶴田大輔(大阪市立大学大学院医学研究科教授・皮膚病態学)

皮膚科臨床アセットシリーズは,私のお気に入りのシリーズである.総編集の古江増隆氏の序文にもあるが,「専門書でありながら肩の凝らない読み物」というポリシーが私の琴線に触れるのである.これまで発刊された書籍はすべて目を通しており,一部は私も分担執筆させていただいた.今回新たに,「肉芽腫性皮膚疾患」についての書籍が関西医科大学教授の岡本祐之氏の編集により刊行された.
私は以前,皮膚疾患の病態生理に関する教科書を執筆したことがある.担当は水疱症と膿疱症であった.水疱症の病態生理は本邦の皮膚科医も含めた先人の多大な努力によりかなり解明されてきたことは言うまでもなく,比較的容易に書くことができた.問題は膿疱症であった.当時,不勉強のせいではあろうが,全くお手上げの状態であった.幸運にも(不運にも??)肉芽腫症についての病態生理の項目の執筆の機会は現在までない.私の講義担当はしかしながら,「水疱症・膿疱症・肉芽腫症」である.どうしてもこれらのなかでは比較的良くわかっている水疱症のパートに,多くの時間を割いてきた.肉芽腫症についてはサルコイドと環状肉芽腫を紹介するだけであった.今回,本邦におけるサルコイドーシス学の権威である岡本祐之氏が編集された,過去に類を見ない書籍を目の当たりにした.目からうろこが落ちるとはまさにこのことで,時間がすぎるのを忘れて,わずか数日で読破してしまった.私は肉芽腫の講義を担当しておりながら,全くもって不勉強であることを痛感した.肉芽腫の病態解明がかなり進んでいることがわかった.
本書籍の大きな特徴は全345頁の約半分をサルコイドーシスに割いていることである.サルコイドーシスの疫学に始まり,診療・病因・分類・肉眼診断・他臓器病変・類縁疾患・治療と,網羅的にすべてのサルコイドーシスの領域をカバーする.常識的な部分を完全に記載するだけではなく,最新かつ最先端の学問的知見も確実にカバーできていると考える.また,その他の稀であるが重要な肉芽腫性疾患である,環状肉芽腫・annular elastolytic giant cell granuloma・リポイド類壊死症・肉芽腫性口唇炎・その他の肉芽腫についても,サルコイドーシスの執筆部分と同様に十分網羅的ではあるが,より簡潔に記載がなされている.以上から,文字どおり「これ一冊で」皮膚科専門医として恥ずかしくない知識が数日で得られることが確実であると考えられる.
執筆は,考えられる最高のメンバーであろう,多数の本邦の皮膚科医によりなされている.多数の著者で書かれた書物にありがちな記載の統一性の欠如は本書籍では全く見当たらず,おそらくチームワークのなせる技,プラス総編集の古江増隆氏,岡本祐之氏の綿密かつ繊細な細心の注意によるところであろう.
本書のなかで特に私が感銘を受けたのはサルコイドーシスの病因論である.アクネ菌(Propionibacterium acnes)のサルコイドーシス病変形成における役割について非常に詳細に書かれている.また,サルコイドーシスの各病型で特徴的な他臓器疾患の合併なども,今回初めて本書で学ぶことができた.そして治療についての項目では経験的なものだけではなく,病態生理に立脚した最新の治療についても触れられている.
私にとっては本書を通読することは発見の連続で楽しい体験であった.今後は,もっと肉芽腫についての講義を面白くできるかもしれない.また,該当患者への説明も,よりクリアカットにでき,しかも新しい治療法の提案もできるかもしれない.今後の診療,教育を楽しみにさせる良著であると確信し,自信を持って諸先生方,医学生に強く推薦する次第である.

皮膚科臨床アセット 13 皮膚のリンパ腫 最新分類に基づく診療ガイド

皮膚科臨床アセット 13 皮膚のリンパ腫 最新分類に基づく診療ガイド published on

待望の皮膚悪性リンパ腫の最新解説書が登場

皮膚科の臨床 Vol.55 No.6(2013年6月号) 書評より

評者:石河晃(東邦大学医学部皮膚科学講座)

悪性リンパ腫ほど概念の変遷により病名分類が変化している分野は無いのではないかと思われる。近代では病理形態に基づく分類としてRappaport分類が長らく使用されてきた。しかし,免疫組織染色法の発展により表面抗原の解析が可能となり,T細胞B細胞など腫瘍細胞の由来が明らかにされ,T細胞性,あるいはB細胞性に大別するところから分類されるようになった。また,染色体転座などの遺伝学的解析手法の発達により,さらに細分化されることとなった。このように,解析技術の変遷とともに,あたらしい概念が登場してきた。
さらに,同じ病理形態であってもリンパ節発症と皮膚発症では予後が異なり,一般病理医と皮膚科医との問で認識のギャップも存在したため,散発的にリンパ腫に遭遇する可能性がある臨床皮膚科医にとって,非常に難解な領域であったと言える。しかし,それまでダブルスタンダードとして存在した一般病理分類(WHO分類)とヨーロッパのグループが中心となった皮膚リンパ腫分類(EORTC分類)が2005年に統合し,WHO-EORTC分類が発表され,さらに2008年にこの流れを汲んでWHO分類(第4版)が発表され一応の決着をみた。大きく変遷してきた疾患概念をみていると,せっかく覚えたことが突然使えなくなる危惧があり,次のような声がよく聞かれた。
「いつ勉強したらよいのか?」そして本書の発刊により答えが出た。
「それは今でしょう。」
少なくとも病理形態,免疫組織,遺伝子解析以外に革命的な解析手法が登場するまで現在の分類は踏襲されるであろう。これまでは,成書を勉強しようと思っても新分類に基づく日本製の良い解説書がなかった。英文では改訂を重ねている皮膚リンパ腫の単行本があるが,皮膚リンパ腫には人種差もあり,日本の実情にマッチした解説書の登場が待たれた。このたび,岩月啓氏教授の専門編集により,最新分類に基づく診療ガイドが皮膚科臨床アセットシリーズの13巻として発刊された。
これまでのリンパ腫分類の変遷の歴史から述べられ,新分類に基づく解説へと続く。それぞれ各論では皮膚リンパ腫のエキスパートが分担執筆し,豊富な臨床写真,病理写真によりわかりやすく解説されている。また,岩月教授が世界に発信してきた種痘様水庖症様リンパ腫がWHO分類に取り入れられ,本書においても詳説されていることは特筆すべきと思われる。これまでのリンパ腫の教本は診断と予後の記載に特化しているものが多かったが,治療についてもかなりのページ数を使って具体的に記載されており,日常診療においてリンパ腫の診療をする可能性のある皮膚科医の必携の書として是非おすすめしたい。

皮膚科臨床アセット 12 新しい創傷治療のすべて 褥瘡・熱傷・皮膚潰瘍

皮膚科臨床アセット 12 新しい創傷治療のすべて 褥瘡・熱傷・皮膚潰瘍 published on

医学的エビデンスに基づいた創傷治療のための実践的な一冊

Derma No.207(2013年8月号) BookReviewより

紹介者:佐藤伸一(東京大学大学院医学系研究科皮膚科学教授)

創傷治癒に関する実践的な本ができあがった.創傷治癒は皮膚科診療に携わるものにとっては,その根幹に位置する診療分野であるといえる.従って,創傷治癒は本来皮膚科医が先導的な役割を果たして発展させていくものである.しかしながら,本書の専門編集の熊本大学皮膚科尹浩信教授による序にもある通り,創傷は頻度が高いものであるが故に,多くの職種が取り扱うことになり,その考え方,治療に混乱を生じていた.このような現状に対して,これも尹教授が責任者となってまとめた日本皮膚科学会の「創傷・熱傷ガイドライン」が公開され,医学的エビデンスに基づいた創傷治癒の幕開けとなった.本書と日本皮膚科学会の「創傷・熱傷ガイドライン」は共に尹教授によってまとめられたものであるため,本書の第一の特徴は,学術性が重視され,しばしば無味乾燥となりがちなガイドラインに対して,多数のわかりやすい写真,図表,見やすいレイアウトを駆使して,ガイドラインの精神をわかりやすく解説したことにあるといえる.従って,本書はガイドラインの欠点を補うものであると同時に,ガイドラインと一緒に理解すべきものと考えられる.
本書では,まず創傷一般として,創傷治癒に関する基本的考え方を理解することから始まっている.ここでは,創傷治癒環境の整え方から,これまで様々な考え方のあった洗浄,消毒の是非について具体的かつ学術的に解説されている.その後の各論では,褥瘡,糖尿病性皮膚潰瘍・壊疸,膠原病・血管炎に伴う皮膚潰瘍,下腿潰瘍・下肢静脈瘤,熱傷がカバーされている.どれも皮膚科医にとっては高頻度に出会い,かつ治療に難渋することの多いものである.それぞれの疾患について,概説,分類,評価,診断,外用薬の選択,治療,患者教育などが,詳細かつわかりやすく解説されている.本書を熟読されれば,これまで留意してこなかった新たな考え方,新しい治療法,エビデンスに基づいた処置の是非などについて,必要かつ十分な実践的知識が身につくように編集されている.また,日常の診療の傍らに本書をおいて,その都度,疑問点を参照するのにも十分対処できるような項目立てがなされているのも本書の特徴の一つである.
医学的エビデンスに基づいた創傷治癒の考え方,実践法を広く読者に伝えたいという,尹教授の情熱が凝集した本書は,従来にない実践的な創傷治癒対処法を提示した新しい試みでもあるが,その試みは今後も好評をもって迎えられることは疑いない.しかしながら,創傷治癒は日進月歩であり,「新しい創傷治療」に相応しく,つねにUp to dateな内容になるよう将来改訂を重ねられることを期待している.

皮膚科臨床アセット 11 シミと白斑 最新診療ガイド

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付録の「シミ・白斑のメーキャップ」も,実際の患者指導にきわめて有益であり,診察室にも常備したい

Visual Dermatology Vol.12 No.3(2013年3月号) Book Reviewより

評者:川田 暁(近畿大学医学部皮膚科教授)

「皮膚科臨床アセット」は,古江増隆先生が総編集をされ,各巻ごとにエキスパートの先生の専門編集による,皮膚科医向けのMOOKである.このシリーズのコンセプトは,「皮膚科学の最新の情報を,専門書でありながら肩の凝らない読み物として提供する」ものである.すでに10巻が発行されており,私自身も分担執筆をさせていただいた.そのうち何冊かを読んでみたが,いずれも総編集の古江増隆先生と,各巻の専門編集の先生方の明確な意図と熱意が感じられる本となっている.
さて本書「シミと白斑 最新診療ガイド」は「皮膚科臨床アセット」の11巻として発行された.市橋正光先生が専門編集を担当されている.市橋正光先生は前神戸大学皮膚科の教授で,現在再生未来クリニック神戸の院長をされている.神戸大学ではメラノサイトの生物学,悪性黒色腫,光発癌,色素性乾皮症,光生物学などの研究を中心に,現在ではそれに加えて皮膚のアンチエイジングの研究も精力的にされている.したがって本書の編集には最適の先生であるといえる.本書のテーマと,それぞれの筆者の選び方はきわめて適切であると思われた.
本書では色素異常症として,色素が沈着するもの(シミ)と,色素が脱失するもの(白斑)に分けている.シミの総論では,その病態とメラニン生成機序が解説されている.難解ではなく,きわめてわかりやすい記載である.シミの病態を正しく理解することは,診断と治療を適切に進めていくのに重要である.その後の「シミの予防と治療」と「わたしの勧めるシミ対策」の部分では最先端の予防と治療について理解することが可能となる.シミは美容皮膚科におけるメジャーな項目の1つである.美容皮膚科に興味を持っている方は是非この総論を一読して理解していただきたい.各論ではさまざまな色素異常症が紹介されている.いずれも重要な疾患であり,とくに皮膚科専門医をめざす方にとって有益である.
次いで白斑の総論では,疫学,病態,鑑別診断,遺伝が詳しくかつわかりやすく記載されている.尋常性白斑以外にもさまざまな白斑があることが理解できる.さらに,白斑の治療として9項目があげられている.白斑の治療は一般的にむずかしいとされている.本書を読むと,現在多くの治療法が検討されていることに驚く.各論では,疾患を重要な4つの疾患に絞っている.とくに「薬剤・化学物質による白斑」と「メラノーマに伴う白斑」は皮膚科専門医が認識しておくべき疾患といえる.
シミと白斑のそれぞれの最後に,「最新研究からのインサイト」として基礎と臨床研究の最近のトピックスがわかりやすく紹介されており,とても興味を惹かれた.
これらの厳選された項目を,とてもみやすいカラーの図や写真とともに一読すれば,色素異常症の最新の情報を把握し,かつ実際の診療に活かすことが可能である.さらに付録の「シミ・白斑のメーキャップ」も,実際の患者指導にきわめて有益であり,診察室にも常備したいと思われた.本書は皮膚科専門医をめざす若手医師,すでに専門医の資格を有している方,指導的な立場の方,すべての皮膚科医師にとってアセット(財産・資産)としてふさわしい書籍と思われた.

皮膚科臨床アセット 10 ここまでわかった 乾癬の病態と治療

皮膚科臨床アセット 10 ここまでわかった 乾癬の病態と治療 published on

「ない項目」を探すのが難しい:現代化学が到達した乾癬に関する知識をすべて網羅

臨床皮膚科 Vol.66 No.11(2012年10月号) 書評より

評者:塩原哲夫(杏林大学教授・皮膚科学)

今,乾癬の治療が熱い.学会でも乾癬と生物学的製剤のセミナーは,いつも満員の盛況である.現在のところ,各種生物学的製剤を自由に使えるのは,大学と総合病院など一部の施設だけであることを考えると,この状況は驚くべきことである.同じ慢性炎症性疾患でありながら,いつも話題に事欠かないアトピー性皮膚炎と違って,乾癬がこのような一般的なブームの対象となったことはなかったのではあるまいか.しかし基礎研究の対象としての乾癬は古くから多くの研究者を惹きつけており,その積み重ねはアトピー性皮膚炎を大きく上回る.
そんな状況が,ここへ来て大きく変わった.それは何と言っても,Kruegerらのグループにより明らかにされたTIP DC,Th17細胞説が,単なる研究室レベルの仮説ではなく,それらの細胞の働きを抑制することが実際の治療法として極めて有用であることが明らかになったからに他ならない.アトピー性皮膚炎において,いくらセラミドやフィラグリンの異常が注目されても,それが直ちに劇的な効果を生み出す薬剤の開発にはつながらなかったことと比べて見ると良い.乾癬においては,まさに仮説が仮説でなくなったのである.
このように病態の解明と治療が見事に結びついた乾癬に,今注目が集まるのは極めて当然であろう.これほどわかりやすい病気と化した乾癬であるにもかかわらず,不思議なことに乾癬の病態と治療を一冊にまとめた本は皆無であった.確かに生物学的製剤は乾癬の治療に革命をもたらしたが,いまだに多くの皮膚科医が用いているのは旧来の外用,内服療法であり,紫外線療法である.つまり,乾癬のすべてを一冊でまとめるのなら,この伝統的な治療法と,新しい生物学的製剤による治療をうまくバランスさせなければならない.これがどちらに片寄っても,本書の価値は半減してしまう.つまり大学などで生物学的製剤を駆使している医師から,伝統的な治療のみを行っている実地医家までを満足させるような本をまとめることの困難さゆえに,そのような本がなかったのである.しかし,本書を見て,このような難問が見事に,しかもあっさりと解決されている事実に驚嘆させられた.そこに,『Visual Dermatology』などでの企画力に定評のある大槻教授の手綱さばきの素晴らしさを改めて見る思いがした.ない項目を探すのが難しいくらい,本書には現代皮膚科学が到達した乾癬に関する知識のすべてが網羅されている.
普通本書のようにすべてを網羅しようとすると著者は多くなり,項目毎のバラつきが目立ち,統一性を失うとともにハンディさをも失うことになる.編集者は完璧なものを作ろうとする意図と,手軽さを失いたくないという2つの考えの間で揺れ動くのである.本書がすべてを網羅しつつ,手軽さを失っていないのは,本シリーズ独自の箇条書きという記述法のお陰かもしれない.書く立場に立つと,本書のような記述法は,説明的な文章をよく使う筆者のような書き手は苦手なのだが,読者として見た場合には著者ごとの記述のバラつきがなくなり,通して見るときわめて読みやすいことに改めて気付かされるのである.
“乾癬の今”を一冊で知ることができ,しかもハンディにまとめられた本書を見て,値段をはるかに上回る価値があると考えるのは筆者だけではあるまい.生物学的製剤を使えない実地医家の方々には,これからの乾癬治療を学ぶのに最適の書であり,大学で生物学的製剤を使いこなしている方々には,いつも座右において知識を確認するための書として強く薦めたい.

皮膚科臨床アセット 9 エキスパートに学ぶ 皮膚病理診断学

皮膚科臨床アセット 9 エキスパートに学ぶ 皮膚病理診断学 published on

若者はとにかく一気に読んでみようか

Derma No.196(2012年9月号) BookReviewより

評者:荒瀬誠治(健康保険鳴門病院院長/徳島大学名誉教授)

今が旬の皮膚病理専門家56人が書き上げた568ページ,圧巻の教本である.編者は「誰もが無理をせず皮膚病理学世界に入るための道標になってほしい」と謙虚に述べているが,読み進むうちに皮膚病理学の虜になるような仕掛けがなされている.内容は疾患別というより病理所見別の101項目に分かれており,その項目の選択,並べ方,分担執筆者の選出に,編者の皮膚病理への強い思いがみえる.新しい切り口はそれだけにとどまらない.「皮膚病診断学」ではなく「皮膚病理診断学」である本書の主役は,あくまで選びぬかれた病理標本/所見で,臨床写真は1/100~1/2倍のマクロ病理像として扱われる.「この病理学的変化が起こると皮膚はこのように変化する(であろう)」との考えを証明するために提示されているようにみえる.一部では臨床写真が省かれているが,組織像とその説明だけで臨床像がイメージできるほどである.
皮膚科の先人達は臨床情報と病理学的情報を徹底的にすりあわせ,皮膚の病態を考えぬき,診断にたどりつく努力をしてきた.ただし病理組織情報を引き出す力が弱まると,この過程は「臨床像と病理像の絵合わせ」になりがちで,絵が合致しない場合はすべてが専門家まかせの丸投げとなる.思考の丸投げは皮膚科力を高めない.近年,両者の隙間を埋めるべく,ダーモスコピーという新しい皮膚情報収集装置が開発され,診断への有用性が注目されているが,それとて最終診断は病理所見に立脚している.診断機器や検査法は変われども,スライドグラス上の小切片から得られる情報の質と量は昔も今も全く変わらない.
本書では,まず組織標本の病理学的変化を的確に表現することが徹底される.続けてその変化が起こったわけ,病態を考えるうえで必要な手がかりとなる病理情報の詳細,最終的な診断にいたる決定情報などが惜しみなく述べられる.病理専門家の自信だろうか,説明内容はストレートで迷いがない.執筆者の文章には特徴があり,同じリズムで101項目を読み通すことはできないが,その引っかかり部分こそが皮膚病理学者の肉声と思う.皮膚科専門医を目指す若者には必読の書となるだろうが,瞬発力のあるうちに一気に読み通すことをすすめたい.持続力をもつ人は執筆者らの顔や言動を思い浮かべ,にんまりしながら1項目ずつ読み進めばよい.患者を前に最終診断/結論を下さなければならない現場の皮膚科医にとって,本書を通読した前後では,結論に対する責任と自信は違ったものとなろう.

皮膚科臨床アセット 8 変貌するざ瘡マネージメント

皮膚科臨床アセット 8 変貌するざ瘡マネージメント published on

セミナーで語られるような新しさ

皮膚科の臨床 Vol.54 No.8(2012年8月号) 書評より

評者:村上早織(村上皮フ科クリニック)

2011年に皮膚科臨床アセットシリーズが刊行され,その第8号として『変貌するざ瘡マネージメント』が出版された。ちょうどざ瘡治療についての講演依頼を受けていて,疫学的なデーターや,最近の治療法についてまとまっているものがどこかにないかなと思っていた私のもとに,とても良いタイミングで,配達されてきた。
ざ瘡治療は,ご存じのように,2008年秋に保険適応となったアダパレンの出現で,それまでとは大きく変貌することとなり,それに伴い皮膚科医のざ瘡治療に対する関心も少し高くなったように思われる。新しい薬を使いこなす必要があるし,ざ瘡に関しても,もう一度勉強しなおす必要が出て来たからである。この本は,こういう時期に、本当にみんなが待ち望んでいたものが出て来たという形で出現したといえるのではないだろうか。以前に刊行された,何冊かのざ瘡関連の本を読んで,正直,実際の治療現場に即さないような記載が多いという感じを受けていたが,この本は違う。まずとても,新しいという感じを受ける。そして,普段知りたいと思ったことが探せばどこかに書いているという感じがするのは,実際現場でざ瘡に向かい合っている先生方が著者となっているからなのだろう。例えば,「アクネ桿菌の菌量測定,薬剤耐性の評価方法と値の読み方」とか,「ニキビ患者のバリア機能や皮脂量の評価法」とか,「コメドジェニック試験の方法」など,詳しく写真入りで掲載されている。こんな風に測定されているのだと思うと,その臨床的な意義も,具体的なイメージとして自分の中に定着する。また,アダパレンや,抗生物質内服外用という治療だけでなく,保険外治療の,PDT,色素レーザーによる治療,ケミカルピーリング,経口避妊薬による治療,そして,スピロノラクトン内服による男性ホルモン抑制療法についてまでも詳しく,実際に行えるレベルまでの具体性を持って書かれている。瘢痕冶療に関しては,現在,私たちが一生懸命やっている,フラクショナルレーザーによる治療についても書かれているがまさに,現時点での最新レベルの記載がされており,今読む本としてまさにセミナーで語られるような新しさである。
ざ瘡治療に関しては,治療だけではなく,スキンケアの指導もとても大切な要因となるが,本書では,ざ瘡患者の皮膚の状態がきちんとしたデータとして示されている。ざ瘡患者たちは,体質的な問題だけではなく,その化粧行動により,肌表面の状態が悪くなっているように感じているが,「ざ瘡患者のスキンケア」の項では,実際のざ瘡患者の化粧品の選び方や使い方の問題点も,筆者のコラムとしてまとめられている。外来診療で患者さんの問診から日々感じていたことと同じようなことを書かれてあって力強い味方ができたようなうれしさを覚えた。
また,本書の特徴の一つにBOX,Advice,Topicsという囲み記事があり,筆者がコラム的に強調したいことや,説明しておきたいことなどが書かれている。その分野において専門的に力を入れて治療をされている先生方のちょっとしたコツや,プロの技のようなものが,いろいろなところにちりばめられていて,「ああ,今度こうしてみよう」と思うようなものも多い。読み物としても楽しいが,何と言っても,発症メカニズム,日本の治療法,海外の治療法,治療と研究の最先端についてエビデンスに基づいた解説がなされていて,最新の発症メカニズムの研究などの知識も含めて,現時点でのざ瘡治療のすべてを網羅できたのではないかという,専門編集をされた林伸和先生の言葉通りの力強い診療の相棒となる最新ざ瘡本である。

※ 原文では,ざ瘡の「ざ」は「やまいだれに坐」

皮膚科臨床アセット 7 皮膚科 膠原病診療のすべて

皮膚科臨床アセット 7 皮膚科 膠原病診療のすべて published on

まさに膠原病診療のすべてが凝縮された一冊

Derma No.190(2012年4月増刊号) 書評より

評者:五十嵐敦之(NTT東関東病院皮膚科)

「手のひらを見ただけで皮膚科医はSLEと診断できる」と医学部最終学年時の皮膚科入局説明会で当時の医局長が語られた一言は今も鮮明に覚えている.この言葉を聞いたときは甚だ懐疑的であったが,皮膚科を専攻し膠原病診療に少なからず携わってきた半生を振り返ってみて,この言葉は正しいと断言できる.皮診は膠原病とは切り離せない関係にあり,早期診断のきっかけとなるだけでなく予後をも占うことのできる重要な臨床所見である.皮膚観察のプロである我々皮膚科医は膠原病診療で一歩アドバンテージを持っているわけだから,この立場を生かさない手はない.しかし,診断・評価だけに留まらず治療に深く介入していくためには,責任編集の佐藤伸一教授が「序」でも述べておられるとおり皮診のアセスメントだけでは不十分で,内臓病変など膠原病全体について実践的な知識を持っておかなければならない.診療に窮した場面に遭遇したとき,実地診療に即した判断が求められるが,一般的な教科書では情報量が不十分であり,何を紐解けばよいのか悩むことが多い.こういったときに大いに活用できる書として本書はお勧めできよう.

本書の特色はまず,膠原病の基礎的事項から診断・治療まで見やすく,コンパクトに網羅されている点である.特に重要なポイントはAdviceやTopics,Boxなどのコラムを用いて目にとまるように簡潔に記載され,また比較的新しい用語についてもKeywordとして解説されており,読み手を疲れさせない工夫がなされている.時間のある時に学習書として用いるのもよいだろうし,索引も充実していることから日常診療での必要時に調べたいときにも重宝しそうである.また,病因論等では最新の知見も紹介され,さらに最終章では膠原病の新規治療についても言及しており,第一線の情報に触れることができる.こうして改めて目を通してみると,私が医師になった四半世紀前と比べて頭に入れておくべき新しい知識がいかに増えているかに驚かされる.

大病院であっても膠原病内科が存在しないことは未だ珍しくない.内科等と連携して治療を進めていく際に皮膚科の存在感をアピールできるよい機会であるが,この好機に膠原病診療における重要ポイントが凝縮された本書が活用されることを望みたい.さらには,皮膚科医にとどまらず研修医から一般医に至るまで膠原病に接する機会のある先生方にとっても,疾患への理解を深める上でお勧めできる一冊である.

皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略

皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略 published on

脱毛症治療のバイブル出現!

Visual Dermatology Vol.11, No.3(2012年3月号) Book Reviewより

評者:幸野健(日本医科大学千葉北総病院皮膚科)

旧約聖書の「サムソンとデリラ」の伝説において,怪力無双の英雄サムソンは,愛人にだまされ眠っている間に,神の恩寵のしるしである髪を切られてしまう.サムソンは力を失い,あわれ敵に囚われることになる.また,剃髪していたらしいブッダは,仏像ではまげを結った姿になっているし,短髪であったであろうイエスも絵画では長髪になっている.ことほど左様に人は髪に対して強い憧れを抱き,立派で美しい髪に自己同一性を投射するものである.それだけに,思いがけなくも脱毛症が発覚したとなると,人は慌て戦き,憂愁の淵にうずくまってしまう.

脱毛症患者の悲嘆は尋常ではない.それにもかかわらず,これまでの日本の皮膚科学界は患者たちに対して,あまりにも無力で頼りなかったと言わざるを得ないであろう.効果不定の育毛剤と適当な内服薬を出して「きっと生えるから頑張りなさい.ストレスを避けるようにね」くらいを言って,「どこか他の皮膚科に行ってくれないかなあ」などと思っていたのが本音ではないだろうか(私もそうであった).脱毛症に対し,皮膚科医は,さしずめ「髪を剃られたサムソン」状態であったといえよう.

このような現状を打破すべく,東京医科大学の坪井良治教授の下に,多くの勇士が結集し,本書が上梓されたのはまことに喜ばしい.これまでも脱毛に関する図書はあったが,経験論に基づくものが多く,本書のように確実なエビデンスに則って網羅的に編集されたものは皆無であった.まさに脱毛症治療のバイブル,いや日常診療での脱毛症治療への救世主降臨とでも言うべきであろうか.

日本皮膚科学会の脱毛症診療ガイドラインの作成委員である脱毛症治療のエキスパートたちが読者の側に座って,ガイドラインの内容を図表を豊富に駆使し,経験もまじえて懇切丁寧にわかりやすく説明し直してくれる……そのような気にさせてくれる本である.そして,だれしもが苦手としていた脱毛症治療に関し,本書一読後には,「こんな方法があったのか.自分もやってみよう!」という気になるであろう一書となっている.

また毛の生物学的基礎,遺伝子解析の最新知見,トリコスコピーなどの最新診断技術,各疾患のメカニズムも詳細かつきわめてわかりやすく記載されており,患者への説明の際のバックボーンを与えてくれる仕組みになっている(このバックボーンの体得が患者への納得感に大きくつながるのである).さらに,百戦錬磨の脱毛症のエキスパートたちによるものだけに,患者の心のケアに関するコメントも忘れられていないのはさすがである.

また,ヘアケアの実際,かつらの選択法,レーザー脱毛,染毛剤,パーマネント・ウェーブ剤,シャンプー,コンディショナー,フケ用香粧品に関する章から髪にまつわる迷信のコーナーまであり,まさに「痒い所に手が届く」心憎い編集になっている.300ページほどもある大著ながら,筆者はその面白さからあっという間に読破してしまった.

本書の魅力のために長々と書いてしまったが,本書の最大の意義は,「脱毛症という難治性疾患治療に関し,皮膚科医の一般臨床能力を非常に底上げする力の源泉となれる書」ということに尽きると思う.少なくとも皮膚科を標榜する医師は,すべからく本書を一読して頂きたいものと考える.