医学的エビデンスに基づいた創傷治療のための実践的な一冊

Derma No.207(2013年8月号) BookReviewより

紹介者:佐藤伸一(東京大学大学院医学系研究科皮膚科学教授)

創傷治癒に関する実践的な本ができあがった.創傷治癒は皮膚科診療に携わるものにとっては,その根幹に位置する診療分野であるといえる.従って,創傷治癒は本来皮膚科医が先導的な役割を果たして発展させていくものである.しかしながら,本書の専門編集の熊本大学皮膚科尹浩信教授による序にもある通り,創傷は頻度が高いものであるが故に,多くの職種が取り扱うことになり,その考え方,治療に混乱を生じていた.このような現状に対して,これも尹教授が責任者となってまとめた日本皮膚科学会の「創傷・熱傷ガイドライン」が公開され,医学的エビデンスに基づいた創傷治癒の幕開けとなった.本書と日本皮膚科学会の「創傷・熱傷ガイドライン」は共に尹教授によってまとめられたものであるため,本書の第一の特徴は,学術性が重視され,しばしば無味乾燥となりがちなガイドラインに対して,多数のわかりやすい写真,図表,見やすいレイアウトを駆使して,ガイドラインの精神をわかりやすく解説したことにあるといえる.従って,本書はガイドラインの欠点を補うものであると同時に,ガイドラインと一緒に理解すべきものと考えられる.
本書では,まず創傷一般として,創傷治癒に関する基本的考え方を理解することから始まっている.ここでは,創傷治癒環境の整え方から,これまで様々な考え方のあった洗浄,消毒の是非について具体的かつ学術的に解説されている.その後の各論では,褥瘡,糖尿病性皮膚潰瘍・壊疸,膠原病・血管炎に伴う皮膚潰瘍,下腿潰瘍・下肢静脈瘤,熱傷がカバーされている.どれも皮膚科医にとっては高頻度に出会い,かつ治療に難渋することの多いものである.それぞれの疾患について,概説,分類,評価,診断,外用薬の選択,治療,患者教育などが,詳細かつわかりやすく解説されている.本書を熟読されれば,これまで留意してこなかった新たな考え方,新しい治療法,エビデンスに基づいた処置の是非などについて,必要かつ十分な実践的知識が身につくように編集されている.また,日常の診療の傍らに本書をおいて,その都度,疑問点を参照するのにも十分対処できるような項目立てがなされているのも本書の特徴の一つである.
医学的エビデンスに基づいた創傷治癒の考え方,実践法を広く読者に伝えたいという,尹教授の情熱が凝集した本書は,従来にない実践的な創傷治癒対処法を提示した新しい試みでもあるが,その試みは今後も好評をもって迎えられることは疑いない.しかしながら,創傷治癒は日進月歩であり,「新しい創傷治療」に相応しく,つねにUp to dateな内容になるよう将来改訂を重ねられることを期待している.