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皮膚科外来診療スーパーガイド

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皮膚科外来診療に役立ててほしい座右の書

日本医事新報 No.4598(2012年6月9日) BOOK REVIEWより

評者:本田光芳(日本医科大学名誉教授(皮膚科))

本書は,上田由紀子,畑 三恵子両先生を中心に,2人を心からサポートする14名の著者たちによる,全30章からなる“皮膚科外来診療”のための,文字通りの“スーパーガイド”である.
上田,畑両先生は,常日頃,真摯に各自の診療所で,得意分野を活かした皮膚科診療に従事する傍ら,皮膚科学会,美容皮膚科学会,皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会など多くの学会で大変華やかに活躍されている.
本書は,自らも謳っているように,まさに“教科書にない実践ヒント集!”である.「Part 1 皮膚科医にお勧めできる治療のヒント」では,多様なかぶれの症例を呈示,貼布試験により原因を確定・除去し,その後に使用すべきシャンプー・石鹸,化粧品,外用薬などを一般商品名で記載,販売価格,製造会社,問い合わせ電話番号,メールアドレスまで付記している.さらに肌着,靴下,イオントフォレーゼ,ピーリング,レーザー脱毛,化粧品指導(アトピー性皮膚炎,ざ瘡,光老化予防と改善)など,こまやかな指導方法が懇切丁寧に述べられ,“痒い所に手が届く”配慮が心憎い.
「Part 2 皮膚科治療に役立つ知識」では,栄養の知識から始まり,頸のシワ,足のタコ,外反母趾,便秘,若返りなどのためのトレーニングとエクササイズ,肌によい温泉,ヘアスタイル,顔色を引き立てるカラーコーディネート,禁煙によるよい変化と,多岐多彩で,真にユニークである.禁酒によるよい変化が欠落しているのは,上田,畑両先生のアルコールに対する寛容さを暗示するところであろうか.
いま,まさに脂の乗りきったお2人,と言えば女性に失礼なので,換言すれば,カサブランカのごとく薫り高い上田,畑両先生が,情熱を傾けて完成した本書は,諸先生方の座右の書として大いに役立つものと確信し,心から推薦する次第である.

早わざ外来診断術

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主要徴候からの鑑別診断に強い味方になってくれる1冊

日本医事新報 No.4463(2009年11月7日) BOOK REVIEW 書評より

評者:田妻進(広島大学病院総合内科・総合診療科長・教授)

外来診療とは実に奥が深い。そもそも医療の基本は外来での〝診たて〟であり、とりわけ、診断はその中心である。したがって、迅速かつ精度の高い診断が、外来診療の質を担保する。その観点から、本書のタイトル〝早わざ外来診断術〟は実に魅力的である。

さて、〝早わざ〟とは誰しも望むところではあるが、〝わざ〟とは〝技〟であり、〝術〟でもあるとともに、〝業〟にも通じる。これら①スキル、②アート、③プロフェッショナルを意識しながら本書を評すると、次のようになろうか。

(1) 「主要徴候」から鑑別診断をリストする道標となる。この作業(修行)を繰り返しながら、疾患スクリプトの引き出し(drawer)が豊富になる期待感に誘われる。ただ、挙げられている主要徴候の項目が豊富である反面、〝鑑別診断テクニック〟の情報が割愛されていて、読者自らが汗を流すべき点を提案しているとも受け取れる。

(2) 「主要徴候」は時として複合的であるとともに、その的確な聴き取りも決して容易ではない。その点、本書の冒頭に列挙された〝使い方シミュレーション〟は、読者の立場に配慮した演出として好感が持てる。外来診療(時にはベッドサイド)で直面する主要徴候に関して、自身で鑑別診断が挙げられない場合に、マメ辞典のように用いるのに優れており、また、表や写真も豊富で読者に親切である。

(3) ただ、あくまでも主訴に対する鑑別診断の確認が主体であり、その次のステップ(実際的な鑑別プロセス)には、適当なリリーフを待機させる必要がある。これは読者の側のビジネスである。蛇足ではあるが、〝ポケットサイズ〟というには、少し大きめのポケットを用意しないと収まりそうにないサイズである。

日常診療の外来という土俵で本書を有効に活用するには、主要徴候を診たてるコミュニケーションスキルが前提となるように思えてならないが、ある程度の臨床に関する基礎的知識を持っていても、着目した臨床上の特徴から診断へのアプローチができない場合に、心強い味方になってくれる1冊であることは疑う余地がない。

その論文は著作権侵害? -基礎知識からQ&A-

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論文執筆者のための著作権法入門書

日本医事新報 No.4595(2012年5月19日) BOOK REVIEWより

評者:北村行夫(弁護士 / 虎ノ門総合法律事務所)

コーネル大学に留学し,現在バークレーで教員をしている友人から,「大学に入って最初にcitation=引用について徹底的に叩き込まれたのには驚いた」と聞いたことがある.学問を始める1年生に,引用の適法性や発表誌別の引用スタイルなどをしっかりと教えているというのである.学術は,先人の知恵を批判的に継承することで成り立つ.学術論文に引用が多々用いられるのもそのためである.
しかし,それは,他人の成果へのタダ乗りと踵を接している.それゆえ,他人の著作物を利用する際の適法要件を正しく理解していないと,とんでもないことになる.ことに,昨今のように著作権に関する権利意識が高まると紛争に発展することも珍しくない.
本書は『その論文は著作権侵害?』と題して,論文執筆者に著作権の基礎知識を教えている.このような本の嚆矢と言えば宮田 昇著『学術論文のための著作権Q&A』(東海大学出版会)である.これは,著作権実務のオーソリティーである宮田氏が,学者の方々からの多くの相談事例をもとに著した本であり,版を重ねている.その意味で本書は,このジャンルに一書を加えたものである.ただし,本書は著作権法全体にわたる入門書的な内容となっている.この点が,論文執筆の周辺に絞った宮田氏の著作との違いである.
第1章「著作権の基礎知識」,第2章「医学研究と著作権」,第3章「Q&A」,そして「資料」の項からなるが,内容が著作権法全体にわたるため,論文を執筆する際に最も気遣うべき引用についてはやや物足りなさを感じる.本書の引用の項は72ページから正味4ページのほか,Q6,Q9等,随所にも解説されているが,引用問題の座右の書とされている『Q&A引用・転載の実務と著作権法』(中央経済社,雪丸慎吾弁護士)が,200ページあまりで構成されていることと比較すると少ない.しかし,論文を執筆するに際し,著作権法全体を学んでおくには格好の書である.

専門医のための精神科臨床リュミエール 18 職場復帰のノウハウとスキル

専門医のための精神科臨床リュミエール 18 職場復帰のノウハウとスキル published on
日本医事新報 No.4527(2011年1月29日) BOOK REVIEW 書評より

評者:大野裕(慶應義塾大学保健管理センター教授 )

うつ病と自殺の経済損失が年間2兆7000万円になるという試算が厚生労働省から発表された。

うつ病に関しては,うつ病のために仕事を休まざるを得なかった人を対象にしたアブセンティーズム中心の試算であるが,出社はしていてもうつ病のためにパフォーマンスが落ちているいわゆるプレゼンティーズムの経済的損失まで含めると,さらに同じくらいの損失が生じていると推計されるという。しかも,本書のIII章で紹介されている双極性障害やアルコール関連障害,その他の精神疾患まで含めると,その額はさらに膨らむことになる。

このように産業医学においてメンタルヘルスの問題が以前にも増して重要視されるようになってきている中,産業メンタルヘルスに長く積極的にかかわってこられた中村 純先生が編集された本書は,タイトルに示されている通り,そのノウハウとスキルを学ぶために必須の情報が満載の好書である。

本書の特徴は,II章「職場復帰にかかわる医療従事者・人事担当者の役割」,IV章「職場復帰を支援する人と仕組み」を中心に,ネットワークの中で社員の復帰を支援するという視点にあると思う。復職にあたっては,復職前からの準備にはじまり職場に定着して従来通りのパフォーマンスを発揮できるようになるまでの時間的流れの中で,産業医と精神科医,医療従事者と人事労務担当者などがそれぞれの立場から総合的に支援をしていくことが重要になる。

しかし,個々の役割をお互いに理解しながらスムーズな連携ができている企業はきわめて限られている。

その大きな理由を尋ねると,どのような体制を作って,どのような点に留意しながら取り組んでいけばいいか,具体策がわからないからと答える担当者が多い。

本書では,そうした職場復帰のポイントが実に丁寧に具体的に解説されている。職場復帰に携わる専門家はもちろん,非専門家にとっても,多くの実践的なコツを学べる貴重な1冊に仕上がっている。

精神科 退院支援ビギナーズノート

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なぜ精神障がいをもつ患者への退院支援が必要なのか

日本医事新報 No.4482(2010年3月20日 BOOK REVIEW 書評より

評者:野田寿恵(国立精神・神経センター精神保健研究所 社会精神保健部室長)

「なぜ、精神障がいをもつ患者への退院促進が必要とされているのか」。最近、ある臨床心理士がこのテーマの博士論文を提出した際に、そのような問いが審査委員から発せられたという。このように一般の理解が十分ではないとも取れる状況の中、平成21年9月、厚生労働省は「精神保健医療福祉の更なる改革に向けて」の報告書の中で、「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本理念に基づき、平成26年までに統合失調症の入院患者を4.6万人減少させるという具体的目標を掲げた。平成17年の患者調査では精神科病床の入院患者32.4万人のうち19.6万人が統合失調症である。

統合失調症の患者は、自発性や意欲の低下の症状ゆえに精神科病院に一度適応すると自らはそこから出られなくなる。しかし、精神科スタッフによる希望の再生、障がい受容と自己決定、地域での役割獲得に向けての援助を通して、患者が自分らしい生活を取り戻していく姿を見ることができれば、冒頭の命題には答えられるであろう。長期の入院には治療の滞りが隠れているのである。

本書は、長年、地道に退院支援にかかわってきた精神科看護師によって具体的な援助が記されており、退院支援を進めていくことのすばらしさを私たちに伝えてくれる。患者は回復していくのである。現行の診療報酬上の評価がこういった個別支援にはまだまだ不十分とはいえ、徐々に新たな制度ができており、その利用の仕方が詳述されていることもうれしい。経済的基盤がなければ持続可能性は探れない。

またチーム医療の具体的な進め方として、どのようなアセスメントシートを作り、いかに共有するかが示されている。チームの中には患者自身が含まれ、患者がもつ目標が第一にあり、それに沿ったアセスメントを行っていくことの重要性も織り込まれている。これは即実践への応用を可能にしている。さらには、起こりうる困難を前にどのような対処ができるのかのヒントまで与えてくれる。本書は退院支援にかかわる全職種に有用な一冊となろう。

心血管病薬物治療マニュアル

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使い分けの難しい心血管病治療薬を分かりやすく解説

日本医事新報 No.4434(2009年4月18日)「BOOK REVIEW」より

評者:高久史麿

中山書店刊行の『心血管病薬物治療マニュアル』の書評を依頼された。私自身のことを申し上げて恐縮であるが、私は元々、血液疾患を専門としてきており、しかも、現在はまったく診療に従事していないので、書評を書くのに最も相応しくない人間であると考え、依頼があった時には自動的にお断りするつもりだった。

しかし、表紙を見てみると、監修の山口徹先生は心血管病の臨床に長年従事しておられる方であり、また、編集に当たった苅尾七臣氏は私が勤務している自治医科大学の卒業生である。

苅尾氏の卒後の地域における勤務の経験から考えて、本書は臨床の現場で診療に当たっている医師たちにとって有用な内容の本であろうと推定し、執筆承諾の返事をした。実際に送られた本書を一見して、私の予想が当たっていることを実感した。

本書の特徴の一つは、全体が「病態編」と「薬剤編」の2部に分かれており、心血管系の各疾患に対する各種薬剤の使い方、ならびにこれらの薬剤の心血管系疾患への適応が独立して説明されていることである。

私が言うまでもなく、心血管病治療薬の特徴の一つとして、同じ薬剤が多くの心血管系の疾患に対して使われることがある。さらには、同じような薬効の薬剤が数多くあることが挙げられる。そうした点が、循環器系の専門家以外の医師にとって、薬剤の使い分けを困難にしている。

これらの点に関して、この本はきわめて分かりやすく解説しており、診療の第一線で心血管系疾患の治療に当たっている医師たちにとっては、使いやすい本になっている。

項目ごとに「Point」や「症例で考えるアプローチ」といった囲み記事を適宜挿入していること、また最近、心血管系の異常との関係が問題として取り上げられている糖尿病のこと、さらにメタボリックシンドロームやCKD(chronic kidney disease)を病態の項目に入れたことも適切な配慮と言えるであろう。

小児科臨床ピクシス 21 小児外来で役立つ外科的処置

小児科臨床ピクシス 21 小児外来で役立つ外科的処置 published on

必携! 小児診療における座右の書の1冊

日本医事新報 No.4600(2012年6月23日) BOOK REVIEWより

評者:久保実(石川県立中央病院副院長・いしかわ総合母子医療センター長(小児内科))

私は大学での研究生活を終えて地方の病院に赴任したが,そこは1人全科当直で,小児から成人まで,内科・外科を問わず救急診療する体制であった.小児のケガや腹痛などの症状に対し外科的処置の必要性の判断にしばしば迷い,そのつど外科の先生にコンサルトせざるをえず,心細く思ったものである.現在の病院には小児外科医が常勤でいるため,外科的疾患に出遭うことも多く,いろいろな経験ができて私は幸運であった.
近年では新臨床研修制度により外科の研修の機会はあるものの,小児科医を含め,ほとんどの医師は小児の外科的疾患について体系的な研修の機会はなく,稀に研究会や学会での報告に触れるのみである.しかし,実際には開業および病院小児科の診療においては,外科的疾患に出遭うことは日常茶飯事であり,医師には総合小児科的な役割,すなわち内科系・外科系疾患を問わず,すべての病態への初期対応・処置ができることが強く求められている.
編者の里見 昭先生は,小児救急医学会の副理事長をされていることからも分かるように,大学教授である一方,臨床の最前線において小児の外科的救急疾患の診療に当たってこられた臨床医でもある.本書には小児科医からよくコンサルトされる疾患,ぜひ知っておいてほしい疾患や処置などが選ばれている.
本書は「多くの小児科の先生方に臨床の場で気軽に使ってもらえる編集と内容に心がけた」とある通り,(1)日常診療に必要な外科的処置,(2)救急・応急のための外科的基本手技,(3)知っておくべき外科的救急疾患の病態と救急処置について,それぞれの章を設け,分かりやすく図解し,解説してある.巻末には,付表として小児急性中耳炎の治療アルゴリズムとアナフィラキシーショック治療が収載されている.
小児一般診療において座右の書として活用することをお勧めしたい.

小児科臨床ピクシス 20 かぜ症候群と合併症

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日常のかぜ診療を見直すきっかけとなる感染症の教科書

日本医事新報 No.4588(2012年3月31日) BOOK REVIEWより

評者:横田俊一郎(横田小児科医院院長)

小児科の外来診療はかぜに始まってかぜに終わると言っても過言ではない.かぜの大部分はウイルス感染症であり,有効な薬剤はほとんどない…と分かっていても,受診する患者の保護者の心配や要請も強く,投薬しないで帰宅させるのは容易ではない.自分自身も,副鼻腔炎や中耳炎,肺炎を合併していないだろうかと疑心暗鬼になり,つい過剰な検査や投薬を行ってしまうことも多い.できあがってしまった診療行動を変容させることは容易ではない.

しかし,日常のかぜ診療を見直し,少しは診療を変えてみようと真剣に考えさせてくれる本が出版された.それが本書である.

専門編集を担当している草刈 章氏は,日本外来小児科学会の中に生まれた,抗菌薬適正使用を考える会の主要メンバーの1人である.草刈氏が編集を担当したことにより,またこの会に参加した多くのメンバーが執筆を担当したことによって,本書は非常に内容の濃いものに仕上がったと言える.

かぜの診断と治療,特に抗菌薬の適正使用や保護者への説明,ホームケアについて詳しく解説されており,米国とのかぜ診療の違い,新しく始まったヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンが小児のかぜ診療にどのようなインパクトを与えているかなどが,分かりやすく述べられている.

それだけではなく,かぜ症候群の原因となる個別のウイルスや細菌感染症などの解説にも多くのページが割かれ,まさに日常診療の中で使える感染症の教科書ともなっている.一方で,外来では見逃してはならない合併症,鑑別しなくてはならない疾患をいつも考えながら診療しなくてはならないが,これらについても細やかな解説が加えられている.

かぜ診療を豊かなものにすることこそ,小児の外来診療を楽しむコツである.小児の外来診療に関わるすべての先生方に,ぜひ手に取っていただきたい1冊である.

小児科臨床ピクシス 18 下痢・便秘

小児科臨床ピクシス 18 下痢・便秘 published on

日常診療にすぐに役立ち最新の知識も得られる

日本医事新報 No.4537(2011年4月9日) BOOK REVIEW 書評より

評者:藤澤知雄(済生会横浜市東部病院こどもセンター肝臓消化器部門長)

下痢・便秘は小児医療の中では中心的な症状であり,一般外来で遭遇するコモンな症状である.あまりにも日常的すぎるので,この分野は今まで学問として重視されていなかった.したがって,多くの施設ではこの分野に関して優れた臨床能力を有する指導者がきわめて少なかった.最近になり感染症学,免疫・アレルギー学,分子生物学の進歩とともに内視鏡や画像診断学の進歩により下痢・便秘を含む小児消化器学が大きく進歩している.さらに,エビデンスレベルの高い治療法が開発された.本書は最近出版された下痢・便秘に関する教科書の中では秀逸である.

本書は大きく下痢と便秘に分け,それぞれの病態と診断,治療,病因による特徴が記載されている.特に病態生理を重視し,「下痢の病態と診断」の章(1章)では,発症機序と原因診断,細菌感染,ウイルス感染,消化管免疫,腸内細菌叢,消化酵素と下痢の関連が記載されている.
「便秘の病態と診断」の章(4章)では,発症機序と原因診断,消化管運動,食事内容,器質的疾患,遺伝的因子と便秘の関連が述べられている.病態に続き「下痢の治療」が2章に,「便秘の治療」が5章に述べられ,次に代表的な各疾患の特徴が3章と6章に記載されている.

各項目には図表が多く,必要に応じてアルゴリズム,著者からのアドバイス,症例提示,脚注などで最新の知見が紹介されている.

私は最初に各症例提示を読んでから本文を読んだが,専門編集者が意図したように,ベッドサイドで指導医から教わっているようだった.これは,各執筆者が小児栄養消化器肝臓学会の会員であり,臨床や研究の第一線で活躍をしているためである.

本書は,シリーズ名にあるように,まさにピクシス(羅針盤となる星座)として見やすく理解しやすい.本書が,正しい治療を選択する「道標」となることを確信した.

小児科臨床ピクシス 14 睡眠関連病態

小児科臨床ピクシス 14 睡眠関連病態 published on

国際分類に沿った各疾患別解説のほか豊富な内容で「睡眠」をイチから学べる

日本医事新報 No.4549(2011年7月2日)BOOK REVIEW 書評より

評者:小沢浩(島田療育センター医務部長)

人生の約3分の1は睡眠である。本来,睡眠とは,健康の維持や健全な生活を営むために人類に与えられた“当然の生理現象”であった。しかし現代においては,テレビ・ビデオ・インターネット・深夜の仕事・喫煙や飲酒など,不適切な睡眠衛生環境により,睡眠が妨げられている。これは,いわば「睡眠の逆襲」である。この「逆襲」に対し,医療はあまりにも無力であった。しかし,我々は「睡眠」に立ち向かうための最大の武器を得た。それが,本書なのである。

本書は,「睡眠機構の基礎」「睡眠の加齢変化」「睡眠の評価」「小児でよく見る睡眠関連病態」「トピックス」「症例」,そして終章という順に構成されている。本書を開いてみると,まず序において,sleep disordersの訳を「睡眠関連病態」とした理由(睡眠不足症候群や不適切な睡眠衛生など,生じて当然であるはずの眠気のなさが症状となる疾患も包括するため)のいきさつが紹介されている。このことからも,編者の神山 潤先生の睡眠に対する強い想いを感じることができる。

ページを進めていくと,2005年に改定された睡眠関連疾患国際分類第2版(ICSD-2)も解説されている。その和訳案を掲載している本は未だ少なく,その意味でも本書は貴重である。

最後に,神山先生は失同調という概念を提唱している。失同調とは,「夜間の受光がきっかけとなって,生体時計の機能低下,セロトニン活性の低下,メラトニンの分泌抑制などがかかわり悪循環を形成し,回復が困難な病態」である。この概念の提唱は,social jet lag(社会的時差ぼけ状態)を改善し,規則正しい生活リズムを形成していこうという神山先生からの強烈なメッセージである。この当たり前のことを,我々医療者,いや社会全体が忘れてしまっている。「睡眠の逆襲」には,睡眠を知り,そして寄り添うことが一番大切なのである。必読の1冊である。