日本医事新報 No.4527(2011年1月29日) BOOK REVIEW 書評より

評者:大野裕(慶應義塾大学保健管理センター教授 )

うつ病と自殺の経済損失が年間2兆7000万円になるという試算が厚生労働省から発表された。

うつ病に関しては,うつ病のために仕事を休まざるを得なかった人を対象にしたアブセンティーズム中心の試算であるが,出社はしていてもうつ病のためにパフォーマンスが落ちているいわゆるプレゼンティーズムの経済的損失まで含めると,さらに同じくらいの損失が生じていると推計されるという。しかも,本書のIII章で紹介されている双極性障害やアルコール関連障害,その他の精神疾患まで含めると,その額はさらに膨らむことになる。

このように産業医学においてメンタルヘルスの問題が以前にも増して重要視されるようになってきている中,産業メンタルヘルスに長く積極的にかかわってこられた中村 純先生が編集された本書は,タイトルに示されている通り,そのノウハウとスキルを学ぶために必須の情報が満載の好書である。

本書の特徴は,II章「職場復帰にかかわる医療従事者・人事担当者の役割」,IV章「職場復帰を支援する人と仕組み」を中心に,ネットワークの中で社員の復帰を支援するという視点にあると思う。復職にあたっては,復職前からの準備にはじまり職場に定着して従来通りのパフォーマンスを発揮できるようになるまでの時間的流れの中で,産業医と精神科医,医療従事者と人事労務担当者などがそれぞれの立場から総合的に支援をしていくことが重要になる。

しかし,個々の役割をお互いに理解しながらスムーズな連携ができている企業はきわめて限られている。

その大きな理由を尋ねると,どのような体制を作って,どのような点に留意しながら取り組んでいけばいいか,具体策がわからないからと答える担当者が多い。

本書では,そうした職場復帰のポイントが実に丁寧に具体的に解説されている。職場復帰に携わる専門家はもちろん,非専門家にとっても,多くの実践的なコツを学べる貴重な1冊に仕上がっている。