日常診療にすぐに役立ち最新の知識も得られる

日本医事新報 No.4537(2011年4月9日) BOOK REVIEW 書評より

評者:藤澤知雄(済生会横浜市東部病院こどもセンター肝臓消化器部門長)

下痢・便秘は小児医療の中では中心的な症状であり,一般外来で遭遇するコモンな症状である.あまりにも日常的すぎるので,この分野は今まで学問として重視されていなかった.したがって,多くの施設ではこの分野に関して優れた臨床能力を有する指導者がきわめて少なかった.最近になり感染症学,免疫・アレルギー学,分子生物学の進歩とともに内視鏡や画像診断学の進歩により下痢・便秘を含む小児消化器学が大きく進歩している.さらに,エビデンスレベルの高い治療法が開発された.本書は最近出版された下痢・便秘に関する教科書の中では秀逸である.

本書は大きく下痢と便秘に分け,それぞれの病態と診断,治療,病因による特徴が記載されている.特に病態生理を重視し,「下痢の病態と診断」の章(1章)では,発症機序と原因診断,細菌感染,ウイルス感染,消化管免疫,腸内細菌叢,消化酵素と下痢の関連が記載されている.
「便秘の病態と診断」の章(4章)では,発症機序と原因診断,消化管運動,食事内容,器質的疾患,遺伝的因子と便秘の関連が述べられている.病態に続き「下痢の治療」が2章に,「便秘の治療」が5章に述べられ,次に代表的な各疾患の特徴が3章と6章に記載されている.

各項目には図表が多く,必要に応じてアルゴリズム,著者からのアドバイス,症例提示,脚注などで最新の知見が紹介されている.

私は最初に各症例提示を読んでから本文を読んだが,専門編集者が意図したように,ベッドサイドで指導医から教わっているようだった.これは,各執筆者が小児栄養消化器肝臓学会の会員であり,臨床や研究の第一線で活躍をしているためである.

本書は,シリーズ名にあるように,まさにピクシス(羅針盤となる星座)として見やすく理解しやすい.本書が,正しい治療を選択する「道標」となることを確信した.