なぜ精神障がいをもつ患者への退院支援が必要なのか

日本医事新報 No.4482(2010年3月20日 BOOK REVIEW 書評より

評者:野田寿恵(国立精神・神経センター精神保健研究所 社会精神保健部室長)

「なぜ、精神障がいをもつ患者への退院促進が必要とされているのか」。最近、ある臨床心理士がこのテーマの博士論文を提出した際に、そのような問いが審査委員から発せられたという。このように一般の理解が十分ではないとも取れる状況の中、平成21年9月、厚生労働省は「精神保健医療福祉の更なる改革に向けて」の報告書の中で、「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本理念に基づき、平成26年までに統合失調症の入院患者を4.6万人減少させるという具体的目標を掲げた。平成17年の患者調査では精神科病床の入院患者32.4万人のうち19.6万人が統合失調症である。

統合失調症の患者は、自発性や意欲の低下の症状ゆえに精神科病院に一度適応すると自らはそこから出られなくなる。しかし、精神科スタッフによる希望の再生、障がい受容と自己決定、地域での役割獲得に向けての援助を通して、患者が自分らしい生活を取り戻していく姿を見ることができれば、冒頭の命題には答えられるであろう。長期の入院には治療の滞りが隠れているのである。

本書は、長年、地道に退院支援にかかわってきた精神科看護師によって具体的な援助が記されており、退院支援を進めていくことのすばらしさを私たちに伝えてくれる。患者は回復していくのである。現行の診療報酬上の評価がこういった個別支援にはまだまだ不十分とはいえ、徐々に新たな制度ができており、その利用の仕方が詳述されていることもうれしい。経済的基盤がなければ持続可能性は探れない。

またチーム医療の具体的な進め方として、どのようなアセスメントシートを作り、いかに共有するかが示されている。チームの中には患者自身が含まれ、患者がもつ目標が第一にあり、それに沿ったアセスメントを行っていくことの重要性も織り込まれている。これは即実践への応用を可能にしている。さらには、起こりうる困難を前にどのような対処ができるのかのヒントまで与えてくれる。本書は退院支援にかかわる全職種に有用な一冊となろう。