使い分けの難しい心血管病治療薬を分かりやすく解説

日本医事新報 No.4434(2009年4月18日)「BOOK REVIEW」より

評者:高久史麿

中山書店刊行の『心血管病薬物治療マニュアル』の書評を依頼された。私自身のことを申し上げて恐縮であるが、私は元々、血液疾患を専門としてきており、しかも、現在はまったく診療に従事していないので、書評を書くのに最も相応しくない人間であると考え、依頼があった時には自動的にお断りするつもりだった。

しかし、表紙を見てみると、監修の山口徹先生は心血管病の臨床に長年従事しておられる方であり、また、編集に当たった苅尾七臣氏は私が勤務している自治医科大学の卒業生である。

苅尾氏の卒後の地域における勤務の経験から考えて、本書は臨床の現場で診療に当たっている医師たちにとって有用な内容の本であろうと推定し、執筆承諾の返事をした。実際に送られた本書を一見して、私の予想が当たっていることを実感した。

本書の特徴の一つは、全体が「病態編」と「薬剤編」の2部に分かれており、心血管系の各疾患に対する各種薬剤の使い方、ならびにこれらの薬剤の心血管系疾患への適応が独立して説明されていることである。

私が言うまでもなく、心血管病治療薬の特徴の一つとして、同じ薬剤が多くの心血管系の疾患に対して使われることがある。さらには、同じような薬効の薬剤が数多くあることが挙げられる。そうした点が、循環器系の専門家以外の医師にとって、薬剤の使い分けを困難にしている。

これらの点に関して、この本はきわめて分かりやすく解説しており、診療の第一線で心血管系疾患の治療に当たっている医師たちにとっては、使いやすい本になっている。

項目ごとに「Point」や「症例で考えるアプローチ」といった囲み記事を適宜挿入していること、また最近、心血管系の異常との関係が問題として取り上げられている糖尿病のこと、さらにメタボリックシンドロームやCKD(chronic kidney disease)を病態の項目に入れたことも適切な配慮と言えるであろう。