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小児科臨床ピクシス 18 下痢・便秘

小児科臨床ピクシス 18 下痢・便秘 published on

日常診療にすぐに役立ち最新の知識も得られる

日本医事新報 No.4537(2011年4月9日) BOOK REVIEW 書評より

評者:藤澤知雄(済生会横浜市東部病院こどもセンター肝臓消化器部門長)

下痢・便秘は小児医療の中では中心的な症状であり,一般外来で遭遇するコモンな症状である.あまりにも日常的すぎるので,この分野は今まで学問として重視されていなかった.したがって,多くの施設ではこの分野に関して優れた臨床能力を有する指導者がきわめて少なかった.最近になり感染症学,免疫・アレルギー学,分子生物学の進歩とともに内視鏡や画像診断学の進歩により下痢・便秘を含む小児消化器学が大きく進歩している.さらに,エビデンスレベルの高い治療法が開発された.本書は最近出版された下痢・便秘に関する教科書の中では秀逸である.

本書は大きく下痢と便秘に分け,それぞれの病態と診断,治療,病因による特徴が記載されている.特に病態生理を重視し,「下痢の病態と診断」の章(1章)では,発症機序と原因診断,細菌感染,ウイルス感染,消化管免疫,腸内細菌叢,消化酵素と下痢の関連が記載されている.
「便秘の病態と診断」の章(4章)では,発症機序と原因診断,消化管運動,食事内容,器質的疾患,遺伝的因子と便秘の関連が述べられている.病態に続き「下痢の治療」が2章に,「便秘の治療」が5章に述べられ,次に代表的な各疾患の特徴が3章と6章に記載されている.

各項目には図表が多く,必要に応じてアルゴリズム,著者からのアドバイス,症例提示,脚注などで最新の知見が紹介されている.

私は最初に各症例提示を読んでから本文を読んだが,専門編集者が意図したように,ベッドサイドで指導医から教わっているようだった.これは,各執筆者が小児栄養消化器肝臓学会の会員であり,臨床や研究の第一線で活躍をしているためである.

本書は,シリーズ名にあるように,まさにピクシス(羅針盤となる星座)として見やすく理解しやすい.本書が,正しい治療を選択する「道標」となることを確信した.

小児科臨床ピクシス 14 睡眠関連病態

小児科臨床ピクシス 14 睡眠関連病態 published on

国際分類に沿った各疾患別解説のほか豊富な内容で「睡眠」をイチから学べる

日本医事新報 No.4549(2011年7月2日)BOOK REVIEW 書評より

評者:小沢浩(島田療育センター医務部長)

人生の約3分の1は睡眠である。本来,睡眠とは,健康の維持や健全な生活を営むために人類に与えられた“当然の生理現象”であった。しかし現代においては,テレビ・ビデオ・インターネット・深夜の仕事・喫煙や飲酒など,不適切な睡眠衛生環境により,睡眠が妨げられている。これは,いわば「睡眠の逆襲」である。この「逆襲」に対し,医療はあまりにも無力であった。しかし,我々は「睡眠」に立ち向かうための最大の武器を得た。それが,本書なのである。

本書は,「睡眠機構の基礎」「睡眠の加齢変化」「睡眠の評価」「小児でよく見る睡眠関連病態」「トピックス」「症例」,そして終章という順に構成されている。本書を開いてみると,まず序において,sleep disordersの訳を「睡眠関連病態」とした理由(睡眠不足症候群や不適切な睡眠衛生など,生じて当然であるはずの眠気のなさが症状となる疾患も包括するため)のいきさつが紹介されている。このことからも,編者の神山 潤先生の睡眠に対する強い想いを感じることができる。

ページを進めていくと,2005年に改定された睡眠関連疾患国際分類第2版(ICSD-2)も解説されている。その和訳案を掲載している本は未だ少なく,その意味でも本書は貴重である。

最後に,神山先生は失同調という概念を提唱している。失同調とは,「夜間の受光がきっかけとなって,生体時計の機能低下,セロトニン活性の低下,メラトニンの分泌抑制などがかかわり悪循環を形成し,回復が困難な病態」である。この概念の提唱は,social jet lag(社会的時差ぼけ状態)を改善し,規則正しい生活リズムを形成していこうという神山先生からの強烈なメッセージである。この当たり前のことを,我々医療者,いや社会全体が忘れてしまっている。「睡眠の逆襲」には,睡眠を知り,そして寄り添うことが一番大切なのである。必読の1冊である。

小児科臨床ピクシス 4 予防接種 全訂新版

小児科臨床ピクシス 4 予防接種 全訂新版 published on

「予防接種」に関する解説書として「すぐれもの」と評価できる

小児科診療 Vol.77 No.9(2014年9月号) 書評

書評者:富樫武弘(札幌市立大学)

わが国の小児を接種対象とした予防接種の動向には,近年めざましいものがある.つい最近までのわが国は「ワクチン後進国」と揶揄されていた.しかしながら,ここ数年間に新たな定期接種が採用されたり.用法・用量が国際標準に変更されたワクチンは数々あり,その様相は「後進国」を脱した感がある.
本書は総編集を国立成育医療研究センターの五十嵐隆先生が,専門編集を帝京大学医学部附属溝口病院の渡辺 博先生が担当しており,2008年12月の初版刊行から5年を経てこのたび全面改訂された.
その道の大家34名の分担執筆による本書は,予防接種総論と各論からなっており.本文に加え脚注を重視してEBM情報,キーポイント,補足説明に分けて解説され,さらに近年に変更された事項も丁寧に書き込まれている.2012~2013年にわが国で流行した成人を中心とした風疹とこれに続く先天性風疹症候群の発生動向.2013~2014年に発生した麻疹の流行にまで言及しており,さらに本年10月に定期接種化が予定されている水痘,成人への肺炎球菌ワクチンも紹介している.各論には定期接種に限ることなく,必要とされるワクチンを接種開始年齢順に並べて記載しており.その面でも使いやすい構成となっている.
本書は.現在わが国で使われる「予防接種」に関する解説書として「すぐれもの」と評価できるとともに,渡辺先生の本書に対する「思い入れ」がところどころに感じられ,よいガイドブックが完成したそのご尽力に感謝したい.

これから出会う物語 小児科症例集40話

これから出会う物語 小児科症例集40話 published on
月刊ナーシング Vol.30 No.8(2010.7) Book Review & Presentより

症状を適切に説明できる成人患者とは違い,小児患者と意思疎通するのはむずかしい.本書は,53人の医師たちが実際に体験したことを40話にまとめた事例集.小児患者の特徴,所見,注意点などが項目別に記され,読みやすい.小児の胃がん,結核などの珍しいケースもあり,医師は常識にとらわれず,患者を観察し判断することが必要だと痛感させられる.小児科の医師・看護師は必読.


疾患とその治療法を検討する際にインスピレーションも得ることが期待できる一書

Medical Tribune紙 2010年9月23日 p.64 本の広場・紹介コーナーより抜粋

40人の小児科医が実際に臨床で経験した症例を解説。感染症から消化器,呼吸器,循環器など,広範な領域にわたり,豊富な検査所見やデータが盛り込まれている。症例の背景から最終診断まで,順を追って丹念に記述し,各文の末尾には,診療の要点を“clinical pearl”としてコンパクトにまとめる。

さらに巻末には,「緊急度の高い疾患を念頭に置く」,「一度つけた診断でも見直す」など,小児科医に向けたしん言に対応する症例ごとに分類した索引が掲載され,各疾患別にまとめた形式とは違った切り口で読み直すこともできる。

教科書からは類推できない症例に遭遇したとき,選択した治療法が奏効しなかったときなど,判断材料を再検討し,インスピレーションを得ることが期待できる一書。


“ひとりの人間としての患者”を忘れない医療の重要性を説く

日本医事新報 No.4576(2012年1月7日) BOOK REVIEWより

評者:松井陽(国立成育医療研究センター院長)

秀逸の書である.それは,第一に,臨床の第一線病院の小児医療の現場で働く,編者を含む53人の著者たちが,多くは直接的,時には間接的に経験した症例を,老若を問わず同様の現場で働く仲間たちに,これから出会うかもしれない物語として語りかけているからである.

第二に,その内容が,稀な症例をよく発見したといった,いわゆるサクセスストーリーではなく,むしろ反省すべき点をも含めて,日常診療で気をつけるべき点を具体的に挙げて読者に伝えようとしているからである.例えば,急性心筋炎を疑う患者に聴診が重要であるとか,最悪の事態を想定して診療するように注意を促している.そして繰り返し強調されていることは,「思い込み」を排することである.説明のつかない臨床所見があるとか,初期治療への反応が想定と異なる場合こそ,前医の診断および治療で果たしてよいのか振り返ってみるべきである.

第三に,多数の著者による共同執筆でありながら,体裁の統一がとれていて非常に読みやすいことである.Introductionで現病歴,First Diagnosisで来院時所見,検査所見,初期診断,Final Diagnosisで入院後経過,最終診断,Noticeで考案,Clinical Pearlでまとめが,それぞれ簡潔に述べられている.本書1冊通読するのに一度半日かけたら,あとはClinical Pearlに時々目を通せばよい.

第四に,最後の物語だけでも反復,熟読に値すると思うからである.これには救急外来(ER)におけるクレーム症例から学ぶべきことが,他とは別の形式で書かれている.evidence-based medicine隆盛の今日ではあるが,それだけでは本物の医療は提供できない.narrative-based medicine,つまり患者や家族の話をよく聞き,“ひとりの人間としての患者”を忘れない医療の重要性を説いている.

編者には,この40話にとどまることなく,続編を世に出していただきたい.