しばしば治療に難渋する腎症の診療・研究の方向性を明確に示している

小児科診療 Vol.76 No.6(2013年6月号) 書評より

評者:田村正徳(埼玉医科大学総合医療センター小児科主任教授)

「タンデムマス法により日本の新生児マススクリーニングの対象が大幅に広がった」という情報につられて軽い気持ちで本書を手にしました.ところが予想に反して小生の苦手とする代謝サイクル図もポイントを絞っていて理解しやすく,臨床最優先の視点から病態・症状・診断・治療・予後が簡潔明瞭に解説されているため,ぐいぐいと引き込まれて徹夜して最後まで読み通すことになりました.
本書は“ハンドブック”でありながら2012年までの最新の検査法や治療法の情報がつまっています.読み進めるにつれて,小生の30年以上の小児科医師の人生の中で,確定診断がつかないまま死なせてしまった子どもたちや“○○症候群”という診断名だけですませていた予後不良の赤ちゃんの顔が次々と思い出されてきて,「なぜ先天代謝異常の可能性を疑ってここまでの検査をせずにすませてしまったのだろう」と,後悔の念にさいなまれました.
小生のような悔いを残さないためにも,ぜひ臨床医を自負する小児科医師の皆様方には本書を手元に置いておくだけでなく,必ず通読しておくことをお薦めします.また一部には胎児診断のポイントも記載されていますので,小児科医師だけでなく出生前診断や胎児治療に従事する産科医師や麻酔科医師にも一読をお薦めする次第です.
文末になりますが,おそらくは一癖も二癖もある(失礼!)129名の専門家の最新の知見をもとにした記述を,かようにもわかりやすく統一した書式で纏めあげられた総編集者と専門編集者の統率力と監修力に最大限の敬意を表したいと思います.