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第17回 第120回内科学会を見て〜文字をとにかく大きく

第17回 第120回内科学会を見て〜文字をとにかく大きく published on

第120回内科学会の発表を見に行く

2023年4月14日から16日まで東京国際フォーラムで第120回内科学会総会・講演会が開催された。
私は二日目の15日に発表の様子を見るために会場に足を運んだ。
今回、ポスターセッションは紙媒体によるポスターによるものではなく、座長制によるPCプレゼンテーションとなり、発表時間7分間に質疑応答3分間の発表が次々と続けられる。
最初にそのポスターセッション会場である地下のホールEに向かった。

形式が変わったポスターセッション

会場は広いフロアに第1から第9までの9つのブースが並んでいた。
各ブースは三方が高いパーティションに囲まれたスペースの一番奥に発表者と座長の演台、そしてスライドの画面を映し出す大型のモニタが並んでいる。
発表者のすぐ前から、1列あたり3つか、4つの椅子が3列に置かれ、発表を聴く人は、その椅子に座っている。一度に12人から14人が椅子に座ることができるようになっている。一番後ろの三列目でも発表者から10メートルも離れていないぐらいの距離だ。
またブース内の椅子に座らずに、通路を兼ねているブースの外から立ったまま聴いている人も少なくなかった。

文字の大きさで発表の印象が変わる

9つあるブースをすべて回り、さまざまな発表の様子を見た結果、文字の大きさが説得力に大きく影響することをあらためて感じた。
使われているモニタのサイズは65型で、表示画面は横140センチ余り、縦80センチ余りの大きさで(正確には1428.4 × 803.5 mmの65v型)、16:9の比率の表示領域にスライドが映し出されている。
ところが、スライド内のフレーズに使われる文字や、グラフ、表、図の文字が小さすぎて、一番前に座っている人からも読み取ることのできない表現も少なくなかった。スライドの文字が小さいだけで明らかに損をしていた。
一方、判読できる大きさ以上の文字サイズを使ったスライドはそれだけで説得力を持っていた。

目の前にいる人にもっとも伝わらない

地下のポスター会場で行われるプレゼンテーションのうち、いくつかが選ばれてメイン会場でのプレナリーセッションとして発表される。選ばれたプレゼンテーションは、先ほどの地下の会場と、メイン会場の2回、同じ内容で発表される。
午前中のポスターセッションの発表を見終え、メイン会場に行った。メイン会場のホールAは動員力のあるプロのミュージシャンもコンサートを行う、一階席、二階席あわせて5,012席の都内有数規模の大きなホールだ。
会場に入って、空いた席を探して座り、舞台に目を移すと、下は床から上は天井に届きそうな巨大なスクリーンが設置されているのが目に入る。
発表が始まると、この巨大なスクリーンにスライドが映される。先ほどの地下のポスターセッション会場とは、参加者の数もスクリーンの大きさもまったく異なる。
私が座ったのは、会場一階席のまん中あたりの席であったが、おそらく先ほどの会場では読み取りにくかったであろう大きさの文字もはっきり読み取ることができた。これほど巨大なスクリーンだと後方からも判読できると思われた。
ひととおり発表を見たあとで、さらに別の場所に移動した。ポスターセッション会場の隣に、同じような広さの休憩コーナーでも大型モニタでメイン会場の発表の様子が映し出され、見ることができる。そちらでも発表の様子を確認してみた。
こちらの大型モニタは、最も離れた後方の位置からは、小さな文字がはっきり読み取ることができないスライドもあったが、それを補う形で大型テレビサイズのサブモニタがあちこちに置かれており、最後列からも近くのモニタで、はっきり読み取ることができた。
ポスターセッションは今回初めてオンデマンドで配信された。残念ながらオンデマンド配信での確認はしていないが、配信で映し出される画面が会場のモニタと同じであれば、かなり小さい文字でも読み取ることができるはずだ。
つまり発表で使う同じスライドは、メイン会場、休憩コーナー、そしておそらくオンデマンド配信では読み取ることができるが、発表者が目の前の手を伸ばせば届きそうな場所にいるポスターセッションの会場の相手にはスライドの表現が伝わらないということが起こっていた。

文字をとにかく大きく

発表の印象は、スライドの文字サイズが大きな影響を与える。説得力を感じさせるためには、文字の大きさを最も遠くの人から楽に見えるサイズにする必要がある。楽に見えるというのは、じっと目を凝らさなくても読み取れるということである。目を凝らさないと判読できないスライドは一定時間以上、見続けることが苦痛になってしまう。グラフや表、図に使う文字サイズも含め、すべてのスライドで、見る人が特別な努力を払わずに読めるサイズが必要だ。
適切な文字サイズは、上記のように会場の大きさや機材、環境などによって左右されるが、今回、唯一、読み取りにくかったポスターセッションではすでに述べたように横140センチ余り、縦80センチの画面の大きさのモニタが使われており、同じ状況であれば、モニタから10メートルほど離れて読み取れる文字の大きさで表現するとよい。病院に案内用のモニタがあれば、モニタの大きさを調べて、比較すればイメージしやすいであろう。
そうした確認ができなかったり、手間をかけられなかったりする場合のために、もうひとつ文字サイズを考えるときの目安を示しておく。
私が確認した範囲では、文字が小さすぎるスライドを使っている発表でも、「結語」に使われている文字はほとんどが小さすぎず大きすぎず適切な文字の大きさを使っていた。「結語」で使っている文字サイズを他のスライドにも適用して、表現を工夫すれば発表はずっとよくなると感じた。

もうひとつ大きくする必要があるのが、声

ポスターセッションの会場では、文字の大きさの他にもうひとつ、説得力に影響を与える要因が確認できた。それは声の大きさだ。
会場では、コロナ対策で発表はマスクをつけたまま行っていた。そのせいもあって、大きな声を出しにくいという事情もあったであろう。総じて発表者の声は小さかった。会場では、聞き取りにくい場合の対策として、ワイヤレスで聞き取りができる機器が貸し出されていた。聴きたい発表を確実に聞き取るための配慮であろう。
しかしそうした中でもブースの外にも漏れ聞こえてくるような、大きさのはっきりした声の大きさよる発表は、それだけでよい印象を与えた。
声の大きさを決めるには、一番前の人に向けて話すのではなく、最後列、またはブースの外に聴いてくれる人がいれば、その人たちに向かって話しかけることで自然と大きくなる。さらに最も離れた人たちに話しかけることで顔が上を向いて好い印象を与えることができるという利点もある。
先ほどの病院で使われているモニタで言えば、目の前の患者に話すのではなく、モニタの前の待合室にいる人たち全員に話しかけるイメージである。

今回の学会発表を見て、文字の大きさが説得力に大きく影響することや、声の大きさも重要であることをあらためて確認した。文字を見やすくするために、適切な文字サイズを用いること。また、声の大きさは最も離れた人たちに話しかけることで自然に大きくなること。これから発表する人は、まずこの二点に配慮すれば確実によくなるであろう。

第16回 図解-ここを直せばもっとよくなる 1

第16回 図解-ここを直せばもっとよくなる 1 published on

複数の項目を枠で囲み、順番に並べて矢印で結んだフロー図を見直す。

なんとなくパッとしない

どうしてパッとしないのか
    1. 枠内の表現が冗長で説明口調になっている
    2. 枠の大きさがバラバラ
    3. 配置に統一感がない
    4. 赤を使用している部分が多すぎる、必要以上に赤字に下線を引いて強調しすぎてる
改善してみた

ここがポイント

1.シンプルな表現にする

図解の効用はひと目見て言いたいことが理解できることにある。この特徴を生かすには、文字を枠で囲んだり、矢印で結んだりするだけでなく、使われている文字による表現をシンプルにすることが必要だ。説明口調の表現や冗長な表現があれば見直してシンプルな表現にする。シンプルにすることで余白を取ることができ、読み取りやすくなる。
また文を「見出し+内容」に分けられるのであれば下のように見出しを共通の視覚的なポイントとして表現する。

2.枠の大きさを揃える

同じ位置づけの枠は文字列の長短の違いに関わらず大きさを統一しておく。同じデザインパターンを繰り返すことでリズム感が生まれ、読み進みやすくなる。文字列を枠で囲むのではなく、枠があって、その中に文字列を入れていると作成するとよい。

[操作]枠の大きさを統一する
[図形の書式]タブの[サイズ]で図形の[高さ]と[幅]を数値で指定する。

いったん作った図形の大きさを揃える場合は、数値で指定することができる。しかし、ゼロから作るのであれば、次の方法のほうがよい。

[操作]ひな形をひとつ作って複製する
使い回し可能な図解の一部分を作成し、必要な数だけ複製する。複製したら 配置を整え、順に文字を入れ替えて、必要に応じて色を変える。
このとき最初に作る図解の一部は、文字列の最も長いもの、高さの高いものにする。それ以外をひな形とすれば、複製し、文字を入れ替えたときに枠をはみ出してしまい、最初から作り直すことになるからである。
複製する場合には、必要な図をすべて選択して[コピー][貼り付け]を使うか、[Ctrl]+D で複製する。

3.図形の配置を整える

図形の端(あるいは中央)を目に見えない線に揃えるとすっきりきれいに見せることができる。繰り返し要素の端(あるいは中央)を揃えて等間隔に配置する。

[操作]離れた図形の端や中央を揃える、等間隔に配置する
離れた図形の端や中央を揃えるには図形をすべて選択して[図形の書式]タブの[配置]をクリックし、表示される[オブジェクトの位置]の[配置]から揃え方を選択する。 図形を等間隔に配置するには図形すべて選択して[図形の書式]タブの[配置]をクリックし、表示される[オブジェクトの位置]の[整列]から整列の仕方を選択する。

4.強調部分を必要以上に目立たせない

一枚のスライドの中に赤や黄色が多数存在すると、どこが重要かがわからなくなってしまう。また文字を赤くし、アンダーラインを引くと、互いの強調手段がけんかをし、ごちゃごちゃしたイメージになってしまい、効果を上げることができない。
目を引く鮮やかな赤や黄色は、ほんとうに重要な部分だけに使うようにする。重要というのは部分部分の範囲の中での重要ではなく、説明に使うすべてのスライドの中で重要であるか、あるいは一枚のスライドで特別に重要な部分である。


この記事は4月1日刊行された「学会スライド図解の技術〜グラフと表効果的な見せ方・作り方〜」の内容の一部を再編集したものである。

第15回 表を見直す

第15回 表を見直す published on

表はデータを整理し、表現するために使われる。グラフに比べて詳細な数値を正確に表現でき、また数値を体系的に提示できるので、それ以外のデータも扱う。

こう表現する

ここを変える

表を作り上げていく手順
  1. 文字を読みやすいものにする
  2. 見出しを上下左右中央に配置する
  3. 見出し以外の文字を左寄せ上下中央に、数値を右寄せ上下中央に配置する
  4. 行間を整える
  5. セル内の余白を広げる
  6. セルの高さと幅を整える
  7. セルの色を変える
  8. セルの区切り線を太くする

(Excelでは行間はセルの高さによって決まるため調整できないPowerPointでは可能)


この記事は4月1日刊行される「学会スライド図解の技術〜グラフと表効果的な見せ方・作り方〜」の内容の一部を再編集したものである。

第14回 棒グラフを見直す

第14回 棒グラフを見直す published on

グラフは数値をビジュアル化する代表的な表現方法である。
グラフより表のほうが詳細な数値を正確に表現できるが、グラフは数値が持つ本質的な特徴や傾向などを容易に伝えられる。ただし、適切に表現されていないグラフは意図した内容が伝わらないだけでなく、事実と異なっている印象を与える場合がある。
グラフを生かすためには、適切な種類を選び、数値が持つ特徴を理解して適切に表現する必要がある。

グラフ作成のポイント
  1. 伝えるメッセージを明確にする
    グラフを使って何を伝えるかを明確にする。そしてひとつのグラフで伝えるメッセージはひとつに絞る。
  2. ふさわしい種類を選ぶ
    グラフにはさまざまな種類があって、それぞれの特徴は異なっている。目的に応じたふさわしい種類のグラフを選択する。
  3. 初期設定を見直す
    文字の読みやすいフォントとサイズにし、派手すぎないで品よく注目を引く表現にする。信頼性を損なわないように数値を含むファクトを必要な範囲で提示する。
  4. 各要素の記述を加える
    単位を忘れずに記述し、補足事項がある場合にはもれなく示し、出典や調査に関する情報などを記載しておく。
棒グラフを見直す

棒グラフはデータを比較するために使われる。棒の長さを比較することで数値の大小の違いを感覚的に理解できる。
棒グラフを見るときには、ひとつひとつの棒の長さを個別に読み取るのではなく、グラフ全体を見て、どの棒が長く、どの棒が短いかを確認している。
基点は原則として0である必要がある。

こう表現する

ここを変える


この記事は4月1日刊行される「学会スライド図解の技術〜グラフと表効果的な見せ方・作り方〜」の内容の一部を再編集したものである。

第13回「学会スライド図解の技術」はじめに、本書の考え方 公開

第13回「学会スライド図解の技術」はじめに、本書の考え方 公開 published on

「学会スライド図解の技術〜グラフと表効果的な見せ方・作り方〜」が4月1日に刊行される。
これは「はじめに」と「本書の考え方」の公開である。

はじめに

「わかりやすい表現をしたい」「相手の目をひくスライドを作りたい」
発表スライドを作るときにこうした気持ちになることは少なくない。
しかしいざスライドを作ろうとすると、どう表現したらいいのか思いつかなかったり、作ったスライドが「見づらい、伝わらない」ものになったりして、「自分にはセンスがない」「デザインのことはよくわからない」と悩んでいたり、諦めたりしていることも、また珍しくない。

本書は、センスがなくても、わかりやすく相手の目をひくスライドを作る方法を平易なことばと事例を使って解説する。

    説明はつぎの方針に基つづく。

  1. わかりやすい表現と、その背景を理解できる
    すばらしい例を見せられても自分のスライドにどう応用していいのかわからない。そうしたことがないように改善事例とそこに至るプロセスを示し、スライドの表現と、それを作っていく考え方と手順を理解できるようにする。
  2. 作成プロセスとPowerPointの機能と操作を解説する
    どのような表現をしたらよいかがわかっても、それだけではスライドを作ることはできない。作成していく過程とそこで必要なPowerPointの機能と操作を実際の画面を使って解説する。
  3. 多くのデザインパターンや色を取り上げる
    スライド作成では参考にできるものが多いほうがよい。作成のヒントとなるさまざまなデザインや色を使った事例を取り上げる。

本書は私の医学系の書籍として『驚くほど相手に伝わる学会発表の技術』(中山書店)に継いで、二作目となる。前作同様、多くの方に受け入れられ、役に立つことができれば幸いである。

最後に本書の企画・制作にご支援いただいた中山書店のみなさん、前著に続いて執筆した原稿をすばらしいデザイン・レイアウトに作り上げていただいた公和図書のみなさん、そして檮木治先生に感謝する。

本書の考え方

対象

スライド作りを始めたばかりの人から、ひととおり作成できるがそこからさらにステップアップしたいと思っていたり、まずまずのスライドを作っているのに思うような結果につながらないと感じていたりする人までを対象とする。

考えを「かたち」にして表現する

スライド作りにあたって陥りがちな問題を取り上げて、なんとなくパッとしない表現がなぜそうなってしまうのかを解明し、どこをどう変えていったら、すぐれたスライドになるのかを説明する。
スライド作成は、かっこよいデザインを作ることが最終目標ではない。かっこよいものは見た瞬間には目をひくかもしれないが、それは本来の目的ではない。本来の目的はきちんと内容を伝えることであり、専門的な内容を相手と共有するために、専門性への信頼を損なわないでわかりやすく伝えることにある。そこでは過剰な装飾で見た目をよくすることではなく、何を理解したらよいのかという内容の価値を正しく表現し伝えることが重要となる。
こうしたことから、見せ方にとどまらず、表現するときの考え方や、考えをどう「かたち」にして見せるかというところまで踏み込んで解説する。

グラフ、表を中心にしてスライドのビジュアル化全般を取り扱う

見やすい表現を苦手としている人が多いグラフ、表を中心にする。それらに加えて表現の統一ルール、文字、図解、写真、アイコン(ピクトぐラム)の使い方と、完成前の見直しの方法まで一貫してスライド作成に必要な内容を取り上げる。

操作方法を解説する

取り上げている事例を実際にスライドで使うことができるようにPowerPoint(Windows/Mac)の操作手順を取り上げる。

オンライン発表、ユニバーサルデザインへ対応する

一般化したオンライン発表への対応、ユニバーサルデザインの考え方と取り入れる方法についても取り上げる。

第12回 「学会スライド 図解の技術」目次公開

第12回 「学会スライド 図解の技術」目次公開 published on

「学会スライド 図解の技術 〜グラフと表効果的な見せ方・作り方〜」が4月1日に刊行される。
これは目次の公開である。

目次

本書の考え方
本書の内容でこう変わる
本書の構成
第1章 伝わる発表スライド

01 発表スライドをレベルアップする
02 読み取りやすい文字の大きさにする
03 文字のルールを守る
04 視認性の高い書体を選ぶ
05 重要度で文字の太さを変える
06 おすすめの和文フォント
07 欧文フォントを使いこなす
08 UD(Universal Design)フォント
09 行間にゆとりを持たせる
10 背景は表現をじゃまをしない色
11 統一感のある色を組み合わせる
12 統一感の中で注目をひく色づかい
13 目次で説明の流れを可視化する
14 統一フォーマットを使う
15 ワンスライドワンテーマ~段階を踏んで取り上げる
16 タイトルでメッセージを伝える
17 オンライン発表向けの表現にする
18 ディスプレイ・ネットワークへの配慮
19 オンラインで関心をひきつける

第2章 数値の持つ本質を視覚化するグラフ

20 グラフの種類を使い分ける
21 棒グラフで比較する
22 エラーバー付き棒グラフで比較する
23 箱ひげ図(ボックスプロット)で比較する
24 積み上げ棒グラフ・面グラフで比較する
25 折れ線グラフ・ファンチャート・複合グラフで推移を示す
26 ヒストグラムで分布やバらつきを表す
27 ピラミッドグラフで分布を表す
28 散布図で相関を表す
29 円グラフ・帯グラフで割合を表す
30 レーダーチャートで大小やバランスを表す
31 目盛線を省く、軸を省く
32 グラフで誤解を与えない

第3章 詳細なデータを正確に表現する表

33 表のデザインを見直す
34 文字が小さくなるならスライドを分ける
35 読み取りやすい表現にする
36 ヒートマップで分布や特徴を可視化する
37 デザインでひきつける
38 ポジショニングマップで位置づけを明確にする

第4章 ひと目でわかる図解表現

39 箇条書きを図解スライドにする
40 「見出し+ 0」を図解する
41 「見出し+ 1」を図解する
42 「見出し+複数」を図解する
43 ベン図で表現する
44 手順・タイムラインを図解する
45 ここを直せばもっと良くなる- 1
46 ここを直せばもっと良くなる- 2
47 ここを直せばもっと良くなる- 3
48 ここを直せばもっと良くなる- 4
49 アイコン(ピクトグラム)を活用する
50 写真の引き出し線を工夫する
51 手早くきれいな図を作る

第5章 完成前に最後の見直し

52 作った資料をチェックする
53 伝わらない理由から表現を見直す
最後に わかりやすいスライドにするための3つの原則

Technic & Column

Mac でグレースケールを使う
スライドは 4:3か、16:9か
グラフで世界を変えた二人のイギリス人
標準の色は強すぎる
重複のある項目名はまとめる
注釈を加える

第9回 オンラインでは、まずこれを行う

第9回 オンラインでは、まずこれを行う published on

2020年、コロナ禍で多くの学会がオンライン開催に切り替えられた。オンラインの発表では、同じ会場で発表者と参加者が一堂に会し発表する場合とは異なる配慮が必要とされる。
今回から数回に分け、すぐできるオンライン発表への対応について、機器の見直し、効果的なリハーサル方法、スライドデザインで手を入れるところなど、私自身のオンラインプレゼンテーションや研修、会議の経験からわかったことも含め取り上げていく。

■必要に応じて外部マイクの導入を検討しよう
オンラインでは音声はマイク、映像はカメラによって届けられるが、まず気をつけるのはマイクの品質だ。私の周りでもオンラインの発表で声がはっきりしなくて聞きにくかったという意見を耳にする。
発表では映像より音声のほうが重要となる。たとえばネットワークでトラブルが起こったときのことを考えてみよう。声が聞こえずに映像だけが映っている状態では、参加者に内容を届けることは難しくお手上げだ。しかし、発表の途中で発表者の映像が届かなくなっても、声が明瞭に伝われば何とか切り抜けられる。話し方や話す内容によって相手の関心をひくことができるし、その場での臨機応変な対応も可能だ。
またトラブルがなくても、クリアな音質は、発表の質を向上させてくれる。だからマイクは音質のよいものを選ぶべきだ。パソコンにマイクが附属していなかったり、附属していても十分な品質レベルでなかったりする場合には、外部マイクの導入を検討しよう。
パソコンに接続する外部マイクはオーディオインターフェイスとUSBのものがあり、どちらも簡単にパソコンにつなげることができる(ちなみに私は数万円するUSB接続のマイクを使っている)。

■カメラは、それほど気にする必要はない
マイクに比べ、発表者を映すカメラはそこまでこだわる必要はない。発表では共有されたドキュメントが画面のなかで大きく映され、発表者の姿は画面の端にそれほど大きく表示しないで発表を聞くことが一般的であろう。相手が注意して見るのは発表者よりも資料だ。
そもそも、YouTubeやあらかじめ録画されたものを使う場合と違い、Zoomのようなオンライン会議サービスでは画像の解像度をそこそこのものにして配信する。そのため、いくら高精細のカメラで撮影しても、自分のパソコンの画面でくっきり映っていた映像も、相手の画面にはそこまできれいに表示されない(この違いを確認する方法がある。それについては次回で紹介する)。
高精細な画像を撮影できる一眼レフのデジタルカメラやビデオカメラをビデオキャプチャという機器を介しパソコンと接続することもできるが、すでに手元にあるものを使えるのでなければ、わざわざあつらえる必要はない。
パソコンに一定品質以上のカメラが附属していれば、それを使う。そうでなければ外付けのカメラを使う。外付けカメラの場合、ディスプレイにひっかけられるような小型の一般的なWebカメラで十分だ(私はWebカメラに別売りの小型の三脚をつけて使っている)。
Webカメラであれば、自動で焦点を合わせる機能があるもののほうが手軽に綺麗に映る。同一メーカーの同じ製品系列のものであれば解像度は同じでも新しいものほど、価格が高いものほど色味や映り具合が改良されていることが多いが、こればかりは比較してみないとわからない。
また同じカメラを使っても実際に画面に映る顔が、蛍光灯や窓から入ってくる日差しによって驚くほど違うことがある。家電量販店やネット通販で通称「女優ライト」と呼ばれる照明器具が数千円から売られていて、利用している人もいるが、発表のときに光が目に入りまぶしかったり、環境によってはそれほど効果を上げられなかったりすることもある。
もしパソコン画面に映った表情が暗く見えるならば、まずはカーテンや周りの照明を工夫してみよう。


ディスプレイにひっかけられる小型のWebカメラの例
「DedMityay – stock.adobe.com」

もうひとつの注意は、実際に映る範囲を確認しておくことも忘れないことだ。カメラによって映る範囲が異なるので、事前に本番で使うカメラで上下左右どこまで映るのか確認しておこう。この作業をおこたると、発表のとき、映像の端に思わぬものが映り込んで参加者の注意をひくことになる。

■スライドショーの画面切り替え効果は使わない
マイクとカメラが整ったら、いよいよ発表資料に注意を向ける。オンラインでは、パワーポイント資料は手元のパソコンで操作するように動作しない。ネットワークを介してやりとりするので、手元のパソコンのようにスムーズに動かないのだ。
そこで、まず気をつけるのはパワーポイントの画面切り替え効果。従来の会場の発表では相手の関心をひきつけておくために、さまざまな切り替え効果が使われていたが、Zoomのようなオンライン会議サービスで同様の画面切り替え効果を使っていると、もっさりした印象で表示が切り替わる。限られた時間しかない発表で無駄な時間がかかって、緩慢なイメージを与える。
オンラインでは画面切り替え効果はやめておいたほうがよい。

■アニメーション効果はシンプルなものを必要最低限に
オンライン発表では、アニメーション効果にも気をつける必要がある。
画面切り替え効果と同様に、会場での発表のようにスムーズには動いてくれない。アニメーションを使った飽きさせない演出は逆効果になるので使わないほうがよい。使う場合には、各部分を順番に見せていくというような説明のために必要なもののみにして、効果はシンプルなものを使うようにしておこう。

第8回 強調するために赤だけを使わない

第8回 強調するために赤だけを使わない published on

一枚のスライドの中で特定の部分を強調する場合、もっとも大切なところ、一ヶ所からせいぜい二ヶ所に絞って、赤を使う。
私たちの身のまわりを見ると交通信号や道路標識など注意を徹底しようとする部分に赤い色が使われている。同様の考えから一般的にスライドは「ここが重要」という部分に鮮やかな赤を使って見る人の目を引こうとする。そこでは使う場所を絞っておくことで、狙いどおりの効果を上げることができる。

何カ所も赤字を使ったスライド

■赤が散見していればかえって注意をひかない
スライドを作るときにひととおり文字などを入力したあとメリハリをつけて重要な部分を強調する。このときにひとつのフレーズやビジュアル表現の中で重要な部分を、ラインマーカーを使って資料を読み込みながら色を塗っていくように赤に変えていくと、いくつもの部分に赤が使われることになる。
こうしたできあがったスライドは発表会場でスクリーンに大きく映し出されると、あちこちに赤が目立ち、いったいどこが重要なのかがわかりものとなる。ここも重要、あそこも重要というのではしょっちゅう大声を上げて怒鳴っている人と同じで、相手には「また同じことをやっている」と受け止められ注意をひくことはない。
■あなたが作った狙いは相手に受け入れてもらえない
伝える側が狙った効果が、受け取る側に伝わらないのは両者の感覚の違いがあるからだ。すでに述べたように伝わる側は特定フレーズやビジュアル表現の一部を目立たせ、そこが重要であることを伝えようとする。ところが見る側は初めからスライドを一行ずつ、ひとつずつ順に見ていくわけではなくて、スクリーン全体を一度にパッケージとして目に入れる。そして、さまざまな部分赤があることを認識する。結果として重要部分を理解することができない。

■他の強調手段を活用する
スライドを見る相手のことを考えると、赤を使う場所はスライドの中で絞っておかないと狙った効果を上げることができないということがわかる。
ただし、赤で強調するほどではないが「ここのパーツではここが(相対的に)重要」と伝えておきたいことがある。そのときには赤を使うのではなく(1)青など赤より目立たない色を使う(鮮やかな黄色は赤と同じ印象を与えるので使わない方が無難)、(2)重要部分を「 」(かっこ)や“ ”(ダブルクォーテーション)で囲む(3)フォントを変える、(4)文字の大きさを変えるといった方法を採用すればよい。

青色を使ったスライド
重要部分を「 」(かっこ)で囲んだスライド
“ ”(ダブルクォーテーション)で囲んだスライド
フォントを変えたスライド
フォントを変えたスライド

強調の赤は、「ここ!ここ!ここの部分はほんとうに重要!まずはここだけでいいから注目して!」という部分だけに絞って使うようにしよう。

第7回 箇条書きスライドは体言止めか用言止めで統一する

第7回 箇条書きスライドは体言止めか用言止めで統一する published on

項目をリストアップし、箇条書きで表現するスライドは、体言止めか用言止めで統一しておく。

体言止めと用言止めが混在しているスライド

体言止めとは文を名詞や代名詞で終わらせる表現、それに対して用言止めは動詞、形容詞、形容動詞で終わらせる表現を言う。たとえば
「新しい治療法の普及」
は体言止めであり、
「新しい治療法を普及する」
ならば用言止めとなる。

赤が体言止め、青が用言止め

■体言止めと用言止めを混在させるとわかりにくい
文末の表現をいちいち気にしていては手間がかかってしまうという考えもあるかもしれない。しかし、大きなスクリーンで体言止めと用言止めが混在していると見た目が悪いうえに、理解しにくい。
わかりやすいスライドにするために、ぜひ統一して欲しいのだが、実際に作っていくと用言止めは動詞を使うため、それほど難しくないけれど、体言止めの表現はすぐに思いつかないことがある。たとえば「普及する」を「普及」に変えるだけならば簡単だが「(相手の目を見て)話す」や「(意見を)述べる」といった表現はすぐには言い換えができないかもしれない。
■ネットの類義語辞典を使う
言い換えの表現が頭に思い浮かばない場合は Google などで「話す 類義語」「述べる 類義語」と検索してみよう。上位にリストアップされた結果にオンラインの類語辞典が含まれているので、それをクリックして該当ページを見れば、類義語が上げられている。その類義語からふさわしい表現を選んだり、ヒントにしたりすると、体言止めにしやすい。先にあげた例であれば
「相手の目を見て話す」は、「相手の目を見た対話」「相手の目を見た発声」「相手の目を見た発言」などに、「意見を述べる」は、「意見の表明」「意見の申し出」「意見の説明」などに変えることができる。

■単語の順番を入れ替え、全体の印象を整える
また文末の表現を工夫する以外にも、体言止めでは単語の順を入れ替える方法も有効だ。たとえば「構成メンバーが十分である」は、「十分な構成メンバー」と言い換えることができる。
こうした方法をヒントにしながらスライド全体として違和感のないように表現を整えていく。最初に上げたスライドを改善したものを下にあげておくので、参考にして欲しい。

用言止めで統一したスライド
体言止めで統一したスライド

箇条書きのスライドの項目は、体言止めか、用言止めのどちらかだけを使った表現にしておこう。

第6回 図を描く(その3)-ひな形を使い回す(後半)

第6回 図を描く(その3)-ひな形を使い回す(後半) published on

次のチャートを見て下さい.あなたが,このチャートを作るとしたら,どういう手順で作るでしょうか.どうやって作ったらよいのか,すなわち作成のアプローチを考えることによって,形や配置が整った見ばえのよいチャートを短時間で作ることができます.
図1

■グループ化を活用する
チャートを作るには,前回取り上げた,コピーと位置揃えの機能に加え,グループ化を使いこなすことが大切です.
グループ化とは複数の図を組み合わせ,ひとつにできる機能です.グループ化することによって,図の扱いが楽になります.

■複雑な図も作り方の工夫で手間を省ける
それでは,チャートを作る手順を見ていきましょう.
(1)タイトルと,ひな形を描きます.
図2

(2)ひな形をコピーし,矢印を描きます.
図3

(3)できあがった図を縦方向に位置を揃え,上下方向に等間隔に並べたあとで,グループ化します.
(PowerPoint でグループ化するには,複数の図を選んでおいて[ホーム]タブ→[配置]→[オブジェクトのグループ化]→[グループ化]をクリックします)
図4

(4)グループを必要な数だけコピーします.
図5

(5)各グループを横方向に位置を揃え,左右方向に等間隔に並べたあとで,ひとつにグループ化します.
図6

(6)枠を描き,(5)で作ったグループと,縦方向と横方向に位置を揃えたあと,ひとつにグループ化します.
図7

(7)図と文字を追加します.
図8

(8)(6)で作ったグループと(7)で作った図を縦方向に位置を揃え,上下方向に等間隔に並べます.
図9

(9)枠の中の文字を修正すれば,完成です.
図10

■頭の中でアプローチの構想を練る
いかがでしょうか.初めての方はたいへんに思われるかもしれませんが,慣れてしまえば,それほど手間でもありません.
ポイントは,キーボードを触る前に,頭の中でどのように作っていったらよいかアプローチを考えておくことです.作ろうとするチャートのイメージを,ラフでよいので紙に書き出し,どこか使い回しできるところはないか,少しでも省力化できるところはないか考えてみましょう.
このシリーズの第1回に取り上げたフローチャートのテンプレートも,こうした方法によって作っています.みなさんも必要に応じて,自分のテンプレートを作ってみましょう.テンプレートの数を増やしていけば,どんどん資料作りが楽になっていきます.