2020年、コロナ禍で多くの学会がオンライン開催に切り替えられた。オンラインの発表では、同じ会場で発表者と参加者が一堂に会し発表する場合とは異なる配慮が必要とされる。
今回から数回に分け、すぐできるオンライン発表への対応について、機器の見直し、効果的なリハーサル方法、スライドデザインで手を入れるところなど、私自身のオンラインプレゼンテーションや研修、会議の経験からわかったことも含め取り上げていく。

■必要に応じて外部マイクの導入を検討しよう
オンラインでは音声はマイク、映像はカメラによって届けられるが、まず気をつけるのはマイクの品質だ。私の周りでもオンラインの発表で声がはっきりしなくて聞きにくかったという意見を耳にする。
発表では映像より音声のほうが重要となる。たとえばネットワークでトラブルが起こったときのことを考えてみよう。声が聞こえずに映像だけが映っている状態では、参加者に内容を届けることは難しくお手上げだ。しかし、発表の途中で発表者の映像が届かなくなっても、声が明瞭に伝われば何とか切り抜けられる。話し方や話す内容によって相手の関心をひくことができるし、その場での臨機応変な対応も可能だ。
またトラブルがなくても、クリアな音質は、発表の質を向上させてくれる。だからマイクは音質のよいものを選ぶべきだ。パソコンにマイクが附属していなかったり、附属していても十分な品質レベルでなかったりする場合には、外部マイクの導入を検討しよう。
パソコンに接続する外部マイクはオーディオインターフェイスとUSBのものがあり、どちらも簡単にパソコンにつなげることができる(ちなみに私は数万円するUSB接続のマイクを使っている)。

■カメラは、それほど気にする必要はない
マイクに比べ、発表者を映すカメラはそこまでこだわる必要はない。発表では共有されたドキュメントが画面のなかで大きく映され、発表者の姿は画面の端にそれほど大きく表示しないで発表を聞くことが一般的であろう。相手が注意して見るのは発表者よりも資料だ。
そもそも、YouTubeやあらかじめ録画されたものを使う場合と違い、Zoomのようなオンライン会議サービスでは画像の解像度をそこそこのものにして配信する。そのため、いくら高精細のカメラで撮影しても、自分のパソコンの画面でくっきり映っていた映像も、相手の画面にはそこまできれいに表示されない(この違いを確認する方法がある。それについては次回で紹介する)。
高精細な画像を撮影できる一眼レフのデジタルカメラやビデオカメラをビデオキャプチャという機器を介しパソコンと接続することもできるが、すでに手元にあるものを使えるのでなければ、わざわざあつらえる必要はない。
パソコンに一定品質以上のカメラが附属していれば、それを使う。そうでなければ外付けのカメラを使う。外付けカメラの場合、ディスプレイにひっかけられるような小型の一般的なWebカメラで十分だ(私はWebカメラに別売りの小型の三脚をつけて使っている)。
Webカメラであれば、自動で焦点を合わせる機能があるもののほうが手軽に綺麗に映る。同一メーカーの同じ製品系列のものであれば解像度は同じでも新しいものほど、価格が高いものほど色味や映り具合が改良されていることが多いが、こればかりは比較してみないとわからない。
また同じカメラを使っても実際に画面に映る顔が、蛍光灯や窓から入ってくる日差しによって驚くほど違うことがある。家電量販店やネット通販で通称「女優ライト」と呼ばれる照明器具が数千円から売られていて、利用している人もいるが、発表のときに光が目に入りまぶしかったり、環境によってはそれほど効果を上げられなかったりすることもある。
もしパソコン画面に映った表情が暗く見えるならば、まずはカーテンや周りの照明を工夫してみよう。


ディスプレイにひっかけられる小型のWebカメラの例
「DedMityay – stock.adobe.com」

もうひとつの注意は、実際に映る範囲を確認しておくことも忘れないことだ。カメラによって映る範囲が異なるので、事前に本番で使うカメラで上下左右どこまで映るのか確認しておこう。この作業をおこたると、発表のとき、映像の端に思わぬものが映り込んで参加者の注意をひくことになる。

■スライドショーの画面切り替え効果は使わない
マイクとカメラが整ったら、いよいよ発表資料に注意を向ける。オンラインでは、パワーポイント資料は手元のパソコンで操作するように動作しない。ネットワークを介してやりとりするので、手元のパソコンのようにスムーズに動かないのだ。
そこで、まず気をつけるのはパワーポイントの画面切り替え効果。従来の会場の発表では相手の関心をひきつけておくために、さまざまな切り替え効果が使われていたが、Zoomのようなオンライン会議サービスで同様の画面切り替え効果を使っていると、もっさりした印象で表示が切り替わる。限られた時間しかない発表で無駄な時間がかかって、緩慢なイメージを与える。
オンラインでは画面切り替え効果はやめておいたほうがよい。

■アニメーション効果はシンプルなものを必要最低限に
オンライン発表では、アニメーション効果にも気をつける必要がある。
画面切り替え効果と同様に、会場での発表のようにスムーズには動いてくれない。アニメーションを使った飽きさせない演出は逆効果になるので使わないほうがよい。使う場合には、各部分を順番に見せていくというような説明のために必要なもののみにして、効果はシンプルなものを使うようにしておこう。