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プラクティス耳鼻咽喉科の臨床 1 耳鼻咽喉科 日常検査リファレンスブック

プラクティス耳鼻咽喉科の臨床 1 耳鼻咽喉科 日常検査リファレンスブック published on

ENTONI No.300(2024年8月号)「Book Review」より

評者:村上信五(名古屋市立大学名誉教授)

この度,中山書店から新シリーズ《プラクティス耳鼻咽喉科の臨床》の第1巻として『耳鼻咽喉科 日常検査リファレンスブック』が発刊されました.リファレンスブックとは「参考図書」のことで,資料や事柄等,何かを調べるための本,つまり,その一部を読むだけで利用者の目的が達成できるように編集された書です.耳鼻咽喉科頭頸部外科領域において検査に特化した書籍の発刊は近年になく,本書は耳鼻咽喉科医のみならず臨床検査技師や言語聴覚士にとっても理解しやすい,最も頼れる一冊と言えます.

本書の特徴は,聴覚やめまい,平衡,顔面神経麻痺,音声言語,嚥下障害などにおける生理検査だけでなく,耳鼻咽喉科頭頸部外科疾患の画像診断や頭頸部腫瘍関連検査,感染症関連検査など,すべての検査を網羅していることです.そして第11章では「症候から考える検査バッテリー」として,めまいや難聴,顔面痛・頭痛,嚥下障害,頸部腫脹,呼吸困難など日常診療で頻回に遭遇する症候を取り上げ,診断のポイントとプロセス,必要な検査と鑑別をフローチャート形式で分かりやすく解説しています.最後のAppendix(付録)には,検査の正常値(基準値)と正常画像が掲載されており,各疾患における検査の値異常や重症度が一目瞭然に理解できるようになっています.検査を基本から学びたい方は各章をじっくり精読し,ある程度理解している方は迷った時に,そして,外来診療においては傍らに置いてAppendixを参照いただくのが本書の上手な活用と考えます.

平成16年に新医師研修制度が発足し,研修医の多くが大学病院や医育機関を離れ,市中の研 修指定病院で初期研修を行い,病院に留まるケースが多くなっています.そして,耳鼻咽喉科専攻医が諸検査を臨床検査技師や言語聴覚士に丸投げし,自ら実施する機会が少なくなっています.その結果,検査ができない医師や技師の検査の誤りを指摘できない医師が増えています.検査は治療の選択や予後の判断に重要で,正しく実施され,解釈されなければ患者に多大な不利益をもたらし信用をなくします.患者に正しい医療を行い,看護師や検査技師に信頼され尊敬されるためにも検査の正しい理解と実施は必須です.

『耳鼻咽喉科 日常検査リファレンスブック』は,一冊で医師,臨床検査技師,言語聴覚士が共に学べる最適の検査書として推奨できます.

プラクティス耳鼻咽喉科の臨床 5 難聴・耳鳴診療ハンドブック

プラクティス耳鼻咽喉科の臨床 5 難聴・耳鳴診療ハンドブック published on
ENTONI Vol.292(2024年1月号)「Book Review」より

評者:原 晃(筑波大学副学長・理事・附属病院長)

この度,《プラクティス耳鼻咽喉科の臨床》シリーズ(総編集:大森孝一先生)第5巻『難聴・耳鳴ハンドブック』(専門編集:佐藤宏昭先生)が刊行されました.

本書は難聴・耳鳴の領域を広くカバーし,実に73名の各領域のトップランナーが充実した内容を執筆されています.ざっと表題を追ってみても,先天性難聴,内耳・中耳奇形,先天性感染,後天性難聴,中枢性難聴の診断・検査の進め方,伝音難聴,急性感音難聴,外傷性難聴,慢性感音難聴,聴覚リハビリテーション,聴覚求心路障害,後迷路性難聴,耳鳴の診断と治療などが掲げられています.また,それぞれの疾患への診断・治療のエビデンスレベルも記載されており,ガイドラインとしても十分耐えうる内容と思料されます.さらには,adviceとして鼓膜の再生療法,迷路振盪症,身体障害者認定交付意見書作成に関する注意点および保険医療で扱われる範囲,難聴と認知症が解説されており,希少疾患・患者ながらも普段の診療で迷う事柄についても精緻に理解できるような構成になっており,まさに手元に置いておくことで極めて有用性が高いものと思われます.巻末にはAppendixとして急性感音難聴の診断基準と耳鳴の問診票と質問票が付されており,これも普段の診療において役立つこと請け合いです.

一方,Topicsとして,iPS細胞創薬の現状,ワイドバンドティンパノグラム,新しい埋め込み型骨導補聴器,内耳上皮細胞を標的としたバイオ医薬品の開発,反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法が掲載されております.これらは,これから聴覚基礎研究を志す若手の耳鼻咽喉科医にとってはまさに研究の糸口,入口を示唆されるのではないでしょうか.佐藤宏昭先生ならではの若手の基礎研究者へのencourageになっているのではないでしょうか.そういう意味からも,本書はできるだけ若手の耳鼻咽喉科医が読まれることを強く推奨します.また,検査や手術手技に関する動画もみることができるようになっており,若手臨床家のオリエンテーション資材としても誠に優れた構成になっているものと思料します.

耳鼻咽喉科医,殊に若手の耳鼻咽喉科医はぜひともご一読を! そして,常に眼科に比して10年遅れているといわれる基礎研究者が一人でも多く出てこられることを衷心より願っております.

プラクティス耳鼻咽喉科の臨床 3 耳鼻咽喉科 薬物治療ベッドサイドガイド

プラクティス耳鼻咽喉科の臨床 3 耳鼻咽喉科 薬物治療ベッドサイドガイド published on
ENTONI Vol. 288(2023年9月号)「Book Review」より

評者:村上信五(名古屋市立大学医学部附属東部医療センター耳鼻咽喉科 特任教授)

この度,中山書店から新シリーズ《プラクティス耳鼻咽喉科の臨床》の第3巻として『耳鼻咽喉科薬物治療ベッドサイドガイド』が発刊されました.

これまでの耳鼻咽喉科領域の薬物治療は外来診療を目的とする書物がほとんどでしたが,本書は入院治療,すなわちベッドサイドでの診療に主眼を置いているところが特徴です.とは言っても外来診療でも十分役立つ重宝な書物です.また, 目次は疾患別ではなく薬物のジャンルで括り,薬品の種類や効能発現機序,有害事象,副反応などについて,分かりやすいシェーマや表を用いて解説しています.そして,耳鼻咽喉科疾患の治療に関しては実際例を提示して,疾患の病態から診断,治療,予後について解説しています.薬物治療に関しては,最新のガイドラインに沿った処方がStep by Stepに重症度や難治度に対応して提示されており,実践的かつup to dateな薬物治療マニュアルと言えます.また,本書では頭頸部癌を代表する扁平上皮癌や唾液腺癌,甲状腺癌に対する抗がん薬に関してもシスプラチンなどの殺細胞性抗がん薬から分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬に至るまで,有効性と有害事象が詳細に解説されています.そして,新薬だけでなく漢方薬についても,選び方や使い方,有害事象がコンパクトにまとめられ,耳管開放症や耳鳴,めまい,味覚障害,舌痛症,口腔乾燥,咽喉喉頭異常感症,喉頭肉芽症など新薬が奏功しにくい疾患に対する漢方薬の具体的な処方が紹介されています.漢方薬治療が苦手な耳鼻咽喉科医にとっては有難く,漢方薬入門書であると同時に実践的漢方治療マニュアルと言えます.

また,本書のもうひとつの特徴として要所随所に「Topics」や「Advice」,「Pitfall」などのコーナーがあり,「Topics」には疾患や薬物の最新情報が,「Advice」には投与方法のコツや知りたいこと,疑問に思っていたことなどが,そして,「Pitfall」には薬剤の安全性や複数投与における相乗効果などの注意点や落とし穴が記載されています.いずれも日常診療を行うために必要不可欠な情報で,Coffee Break的な感覚で休憩時に薬物にまつわる豆知識を得ることができます.

総評として,本書は耳鼻咽喉科頭頸部外科領域のすべてを網羅するベッドサイドの薬物治療ガイドで病院や病床を有するクリニックは必須の書と考えます.また,外来診療においても十分活用でき,特に薬物の種類や効能,作用機序等が詳細かつ分かりやすく記載されているので,患者さんへの説明には最適の書と言えます.そして何より,耳鼻咽喉科専攻医は勿論,専門医にとっても薬物の基礎から適応,使い方の最新情報を得るための必携の書ではないでしょうか.

Jackler 耳科手術イラストレイテッド

Jackler 耳科手術イラストレイテッド published on
ENTONI Vol. 287(2023年8月号)「Book Review」より

評者:飯野ゆき子(東京北医療センター耳鼻咽喉科/難聴・中耳手術センター)

手に取ってみるとずっしり重い! そして内容もずっしり重い!! 本著は著名な米国の耳科・神経耳科医であるRobert K. Jackler教授の著書“Ear Surgery Illustrated-A comprehensive Atlas of Otologic Microsurgical Techniques”の日本語訳本である.Jackler教授は1987年に内耳の先天異常の分類を手がけ,現在最も標準的に用いられているSennaroglu and Saatciの分類の元になった研究で有名である.また比類のない耳科手術医としても知られており,本著に先立ち1996年に“Atlas of Skull Base Surgery and Neurotology”を刊行している.1995年から2006年まで“Otology&Neurotology”のEditor-in-Chiefを務められ,まさに米国の耳科学を長年牽引なさっているスーパースターで,現在はStanford Universityの名誉教授である.このJackler教授の英文書を,日本における耳科手術のスーパースターである欠畑誠治先生(山形大学名誉教授/太田総合病院中耳内視鏡手術センター長)と神崎晶先生(東京医療センター感覚器センター)が中心となり日本語訳し,このたび出版の運びとなった.日本語訳にあたり,これだけの素晴らしいイラストのatlasであれば何も訳本の必要はないという意見があったという.しかし自身も感じるが,手術の前にちょっと確認したいと思い,何気なく手に取るのは英語のatlasではなく,やはり日本語のatlasなのである.容易に頭に入ってくる.以下にこの訳本の特徴を列記する.

  • わかりやすいイラスト:Mrs. Christine Gralappという卓越した医学イラストレーターの協力を得て,美しいイラストで構成されている.色彩を豊富に使用し,余計な細かい点は除外しており,写真より重要な点が強調されているため非常にわかりやすい.手術手技ではこのイラストが段階ごとに非常にクリアーに紹介されている.
  • 眺めて楽しむ:大きく綺麗なイラストを見ているだけで,解説を読むことなく理解できる.解説は簡潔であるが,危険を伴う場合は詳細に記載されている.
  • 目次構成の素晴らしさ:第1章は耳科の手術解剖,2章は耳科手術の基本,そして3章から15章までは各疾患に対する手術法という構成から成る.中耳疾患のみならず,めまいに対する手術,人工内耳手術,脳瘤等の頭蓋底手術など,ほぼ網羅されていると言って過言ではない.
  • 蘊蓄のある“はじめに”:各章は“はじめに”という項で始まる.ここには著者のその章に対するこだわりが書かれている.例えば第2章「耳科手術の基本」では“術者は背もたれのある椅子を使用して適切な姿勢をとることが大切である.術者の多くはこの人間工学にほとんど注意しないので,慢性的な背部痛に苦しんでいる”とある.私自身も慢性的な頸部痛持ち.背もたれ付きの椅子が必要である.第4章「アブミ骨手術」では“手術の成功には技術的な卓越性よりも精神的な準備,適切な判断そして自分の限界を知ることが重要である”と.これはまさに私がアブミ骨手術のみならず,耳科手術全てに対していつも感じていることである.
  • 病態に迫った術式の解説:手術法のみならず,病態を理解することが必要な場合はその解説も述べられている.例えば第8章「真珠腫」では真珠腫の成因と成長様式に関する説明も加えられている.
  • 役立つ付録付き:第16章は付録となっている.これは患者向け教育用ハンドアウトであり,解剖や手術法に関するイラストを医師が患者さんの説明用に使えるように提供してくださっている.解剖学的用語は全て日本語訳されている.

この歴史に残る名著『耳科手術イラストレイテッド』を是非手に取ってページを繰っていただきたい.感動すること間違いなしである.特にこれから耳科医を目指す先生にとっては耳科手術の魅力を十分に伝えてくれるワクワクする一冊となろう.最後に本著の日本語訳に精力的に取り組んでくださった監訳者の欠畑誠治先生,神崎晶先生,そして他の訳者の先生方のご尽力に心から感謝申し上げます.

鼓膜再生療法 手術手技マニュアル

鼓膜再生療法 手術手技マニュアル published on
ENTONI Vol. 286(2023年7月号)「Book Review」より

評者:小川 郁(慶應義塾大学名誉教授/オトクリニック東京院長)

難聴は多くの疾病によって生じる最も頻度の高い耳症状の一つであり,昨今の高齢化によって認知症の観点からも注目されている.しかし,世界的な高齢化が急速に進んだ最近の40年間に難聴に対して保険適用された治療薬としては本書「鼓膜再生療法手術手技マニュアル」の主役である鼓膜穿孔治療剤リティンパRが初めてである.山中伸弥教授によってiPS細胞が発見されてから多くの領域で再生医療の研究開発がしのぎを削る中,いち早く保険適用された鼓膜穿孔治療剤による「鼓膜再生療法」はまさに画期的な薬剤であり,世界的にも注目されている治療法である.

鼓膜穿孔による難聴の頻度は加齢性難聴など超高齢社会で急増している難聴の中ではそれほど高いものではないが,合併する耳鳴や耳漏などの症状とともに患者さんのQOLに大きく影響し,その簡便な治療法となる鼓膜再生療法は患者さんにとっても大きな福音となることは間違いない.単に鼓膜穿孔閉鎖による難聴の改善のみならず,耳漏の停止による補聴器の適切な装用が可能になるなど,その効果は極めて大きい.従来,鼓膜穿孔の治療法としては鼓膜形成術や鼓室形成術が行われていたが,いずれも鼓膜形成に必要な筋膜や軟部組織の採取のための外切開や時には全身麻酔が必要になることを考えると,通常診療の座位で外切開を要しない「鼓膜再生療法」は高齢者にとっても極めてやさしい治療法になっている.

「鼓膜再生療法」は2004年に金丸眞一博士によって研究開発が始められ,足掛け20年を費やし完成した治療法である.多忙な日常臨床の合間にこつこつと研究開発を進め,基礎研究から臨床研究,そして2019年の保険適用までまさに孤軍奮闘で成し遂げた画期的な治療法であり,金丸博士の卓越した研究の構想力と遂行力,臨床応用における組織力には心から敬意を表したいと思う.また,本書『鼓膜再生療法 手術手技マニュアル』の発刊は編集を担当された金井理絵先生と各項目を執筆された先生方,素晴らしいイラストを提供された山口智也先生など主に田附興風会医学研究所北野病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科のチーム力によるものであり,改めて金丸眞一博士の人望のなせる大きな成果であると言える.金丸博士が序文で述べられているように,「鼓膜再生療法」は完成された治療法ではなく,生まれてやっと独り立ちできた段階である.今後,さらに「鼓膜再生療法」の改良や臨床例の蓄積により,一人でも多くの患者さんの笑顔に接することができるように「鼓膜再生療法」が普及,日常臨床に浸透することを,そして本書がそのための座右のテキストとして活用されることを期待したい.

プラクティス耳鼻咽喉科の臨床 4 めまい診療ハンドブック

プラクティス耳鼻咽喉科の臨床 4 めまい診療ハンドブック published on
ENTONI No.275(2022年9月号)「Book Review」より

評者:石川和夫(秋田大学名誉教授)

久しぶりに,「めまいの診断と治療」に関する良書が上梓された.

めまいの原因は多岐にわたるが,平衡機能の維持に関わる重要なセンサーが内耳に存在する故に,末梢前庭系の様々な機能異常により引き起こされるものが多い.めまいは,その辛さを他人に理解して頂くことが困難な病態である.従って,なるべく早期に適正な診断を下し,疾患特異的ですらある治療を施してなるべく早期にめまいから開放されるように対応しなければならない.

そのためには,適正な検査を施行し,その結果を正しく判断して患者特有のめまいの病態を把握して治療に結びつけなければならない.

こうした観点からみるとき,今回出版された武田憲昭教授専門編集による『めまい診療ハンドブック』は,実際的でよく纏め上げられている.めまい患者を取り扱う上で重要な事柄が,中枢性疾患との鑑別も含めて,めまい疾患全般にわたり,最近の新しい疾患概念(持続性知覚性姿勢誘発めまい〈PPPD〉,前庭性発作症,前庭性片頭痛など)も加えつつ解説されており,各種検査法においても,vHITや前庭誘発筋電位(VEMP)も取り入れ,理解を助けるための図表も適宜入れながら,各領域の専門家により実によく取りまとめられている.

治療薬については,なぜ有効なのかについて,その薬理学的背景などもよく説明されているのも大事な点である.さらに,我が国では,既に超高齢社会に突入していて,高齢者のめまい患者も多くなり,この観点に立った対処法についても,さらにまた,慢性めまい症に対する前庭リハビリテーションとその実施法などについても詳細かつ分かりやすく解説されている.本書の最後に補遺として,代表的な疾患の診断基準も示されており,使いやすいように配慮されている.

めまい相談医は勿論,めまい患者を取り扱う医師の座右の書として活用して頂きたい良書である.

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科 標準治療のためのガイドライン活用術

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科 標準治療のためのガイドライン活用術 published on
ENTONI No.210(2017年9月号)Book Reviewより

書評者:加我君孝(東京大学名誉教授/独立行政法人国立病院機構東京医療センター・名誉臨床研究センター長/国際医療福祉大学言語聴覚センター長)

耳鼻咽喉科領域の各疾患のガイドラインは現在のところ合計何点あるのであろうか.本書の目次を開いて疾患の項目数の多さに驚かされる.知らない間にガイドラインの数は増えたというより爆発的に増加していることに驚かされると同時に,このうち個人が平均何点を所有して使っているのかが気になった.ガイドラインは数年おきに改訂されるので自分の持っているものが最新なのかも気になるところである.第1章の「耳・めまい」は23項目,第2章の「アレルギー・鼻」は10項目,第3章の「頭顕部・咽頭」は11項目,以上で44項目となる.これに加えて,本書を特徴づけている第4章の関連領域が16項目あり,トータルで60項目もある.欲しいガイドラインをどのようにして手に入れたらよいかと思ったら,付録に「ガイドライン等の入手先一覧」という便利な案内もあり,本書はガイドラインのカタログのようでもある.
本書の各疾患項目の「概要」をみるとその疾患の病態の特徴,診断や治療の指針が準備され,ガイドラインとして学会でオーソライズされて出版されている場合と,現在もガイドライン化に向けて途上にあるもの,ガイドライン化には道が険しいものまでさまざまであることがわかる.読者にとっての大きなメリットは各疾患がどのような扱いになっているか把握できる点がいい.このー冊で各疾患の現在の動向がわかる.恐らく既によく知って理解していることも少なくないと思われるが,気がつかなかったことに気づかされる点も長所である.他領域でもガイドラインが次々と出版されると同時に数年で改訂されることも新聞や雑誌の広告でよく知ることができる.第4章の関連領域としてSjogren 症候群,顎関節症,インフルエンザなどの疾患の他に高齢者の薬物療法,妊産婦・授乳婦への投薬についてのガイドラインが解説されており,身近な問題であるがどの程度注意してよいか知ることができるのはありがたい.
もしガイドラインを片っ端から買い求めたりすると大いに散財することになろう.しかし本書の付録の「ガイドライン等の入手先一覧」をみると大半がウェブ上に公開され,URLを通してみてダウンロードして手に入れられることがわかる.多くのガイドラインは冊子として出版されていると同時にウェブサイトで公開されているので必ずしも冊子を購入する必要はないと思われる.
小生もいくつかの疾患のガイドライン作りに参加したことがあり,その準備の大変さはよくわかっている.例えばSystematic Reviewはその1例である.恐らく今後ガイドラインは年々増加することになるであろう.一方厚生労働省の班会議では少数例しかなかった難治性疾患ガイドラインが公表されている.そのような現状を考えると本書は数年おきに改訂して超短時間にガイドラインを把握するカタログ的テキストとして毎年のように刊行されることが期待されるであろう.

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科イノベーション-最新の治療・診断・疾患概念

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科イノベーション-最新の治療・診断・疾患概念 published on

どの単元もコンパクトにまとめられ、どの単元から読み始めても理解しやすい

ENTONI No.197(2016年9月号) Book Reviewより

書評者:佐藤公則(佐藤クリニック耳鼻咽喉科・頭頸部外科・睡眠呼吸障害センター)

実地臨床の日常診療で遭遇する実践的なテーマを中心にとり上げ、診療実践のスキルと高度な専門知識をわかりやすく解説した実践的な《ENT臨床フロンティア》シリーズ10冊が創刊されて4年あまりが経過した。多くの耳鼻咽喉科医に愛読され好評を博しているシリーズであるが、その続編として『耳鼻咽喉科イノベーション』が刊行された。
本書を手にしてまず思ったことはそのタイトルである。イノベーションとは経済学者J. Schumpeterにより、経済成長の原動力となる革新を指す広義な概念として用いられ、日本でもその概念で語られることが多い。しかし本来の英語としては、色々な分野における新しいアイデア、新手法、発明を意味する。本書を手にし、耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の新しいアイデア、新手法が豊富に解説されていることに心を躍らせながら、本書を紐解いた。
近年、ガイドライン、標準的治療にとらわれすぎているのではないかと思うことが多々ある。特に疾病に罹患した患者を最初に診察する開業医に、標準的治療が要求されているとも言われる。プライマリケアにおける外来診療は、患者に医療を施す第一歩である。診断能力の向上は、臨床医にとって日々研鑽し獲得すべきものであり、そのためにはガイドライン、標準的治療も有用である。しかし実際の臨床では、診断がついてもその病態は一様ではない。また複数の疾患、複数の病態が関与している場合もある。また診断に基づいた治療というよりも、病態に応じた治療が求められる場合もある。診断能力を日々向上させる努力は必要だが、一方で疾病を病態としてとらえ、疾病の病態をよく診る診療を行うことも大切である。その上で人としての患者を診る全人的医療を行うことが臨床医の使命である。
病態に応じた治療を行うためには幅広い医学的知識と経験が必要になる。一人で診療を行うことが多い診療所の診療では独善的になる傾向があり、最先端医療の知識を得ることが容易ではなくなる。開業医に最先端医療の知識は必要ないという意見もあるが、私はそうは思わない。最先端医療を含めた幅広い医学的知識がなければ、病態に応じた治療選択肢を患者に提示できないばかりか、全人的な医療は行えない。専門医自身が自覚して研鑽に努めなければ、患者に最良の医療を提供できないばかりか、患者の信頼と他科からの信頼を得られない。
そうは言っても実地臨床の現場では、最先端医療の知識を手際よく習得することは容易ではない。そのような中で耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域において研究・開発・実用化されているイノベーションの数々、改訂ガイドラインや最新の検査・治療法をはじめ、機器の改良・開発、新しい疾患概念などに焦点を当ててわかりやすく解説されている本書は、どの単元もコンパクトにまとめられ、どの単元から読み始めても理解しやすい。日々の診療でさらにステップアップを目指している開業医にとって、本書は良き指南書であることを確信する。

耳・鼻・のどのプライマリケア

耳・鼻・のどのプライマリケア published on

これまでになかった新しい耳鼻咽喉科クリニカルトレンド

ENTONI No.166(2014年5月号) Book Review

書評者:黒野祐一(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学)

まさしく本書は“これまでになかった”耳鼻咽喉科外来診療の教則本であり,しかもその最先端が凝集されている.このことは,本書の執筆者が,実地医家でありながら現在国内外の学会で活躍し,数々の学会賞を受賞されている,今まさに時の人ともいえる佐藤公則先生であることから容易に想像できる.
本書の第1章には,まず「①耳鼻咽喉科外来診療に求められること」として,耳鼻咽喉科外来診療とくにオフィスサージャリーを行う際に留意すべきポイントが具体的に記されている.そして,これに続く第2章からは,②耳を診る,③鼻・副鼻腔を診る,④口腔・顎顔面を診る,⑤咽頭・喉頭を診る,⑥気管・食道・頸部を診る,⑦音声・言語を診るとして,それぞれの領域における代表的疾患の診断や保存的治療,さらに外科的治療の手技やコツが詳細に記されている.最近は大学病院など基幹病院でも外来手術が行われるようになり,また,多くのサージセンターが設置され,オフィスサージャリーが注目されている.しかし,その多くは複数の耳鼻咽喉科医で実施されており,一般の実地医家にはあまり関係が無いように思われるかもしれない.ところが,佐藤先生はただ一人でこれらすべての領域の診療そして手術を行い,本書に提示されている症例はいずれも先生の自験例である.それゆえに本書は大きな説得力を備えている.
本書の各論にも特色がある.たとえば,「デンタルインプラント治療に伴う上顎洞合併症に耳鼻咽喉科はどう対応するか」,「口腔粘膜疾患の診方・考え方」,「耳鼻咽喉科診療所における睡眠医療への取り組み」,「耳鼻咽喉科外来における音声治療への取り組み」等々,それぞれの専門書にはあっても,プライマリケア関連の書物ではほとんど取り扱われなかった事項である.その理由は,佐藤先生のクリニックが「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」だけでなく,同院の理事長であるお父様が歯科医であることから「歯科口腔外科」も標榜し,さらには「睡眠呼吸障害センター」と「ボイスセンター」を併設していることから納得できる.しかも,一般的な事柄に加えて,国内外の雑誌に掲載された先生ご自身の論文を引用した最新の情報も含まれ,非常に読み応えのある内容になっている.また,随所に鮮明な写真やイラストが挿入され,さらにアドバイス,コツ,メモ,ピットフォールなど著者のコメントが付記されており,とても理解しやすく,かつ楽しく読むことができる.
本書の「はじめに」に“医学と医術を研鑽する”というメッセージがあり,「鋭く観察し,深く思考し,洞察する努力をすることが医師としてのProfessional Careerの中で大切である」と記されている.基礎研究に今も携わっている佐藤先生の哲学をそこにみることができる.本書は単なる教則本ではなく,耳鼻咽喉科外来診療の新たなトレンドを示し,読者にもそれを実践する勇気を与えてくれるのではないか,そう予感させる一冊である.

耳鼻咽喉科 早わかり 漢方薬処方ガイド

耳鼻咽喉科 早わかり 漢方薬処方ガイド published on

臨場感あふれる漢方医学の入門書であり専門書の内容を持つ医学書

ENTONI No.181(2015年6月号) Book Reviewより

書評者:峯田周幸(浜松医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科)

現在では漢方医学の授業がすべての大学でおこなわれており,漢方医学に違和感をもつ医師はほとんどいないと思われる.また今までに処方をしたことがないという医師もいないであろう.漢方薬が特集される雑誌はいくらでもあるし,勉強しようと思えば教科書はいくらでもある.しかし決め手となる成書といわれるものはない.漢方薬の処方にあたって,身体所見の把握とそれに基づく実際の処方内容(西洋医学との関連において)を簡潔に述べているものは極めて少ない.耳鼻咽喉科に限れば皆無であろう.
どうも治りが悪く,他に方法がないし,副作用もなさそうだから漢方薬でも出して終わろうか,そんなことを考えている先生はいませんか? 漢方薬も奥深くエビデンスのある薬であるとは思っていても,何をいつ処方すればいいのか,患者になんて言えばいいのか,そんなことで悩んでいる先生はいませんか? そうした先生方に本書は必携の教科書である.
第1章は「耳鼻咽喉科で漢方薬を使用するにあたって」で,簡潔に漢方の基本と使用するに当たって患者を前にした対応まで述べられている.付録に資料集もあり,漢方薬使用にあたって虚一実,陰一陽のとらえ方が述べられ,漢方薬の基礎を学ぶことができる.是非この章を読まれてから次の各疾患の実例を見ていただきたい.同じ症状であっても患者の状態により,異なる処方をする根拠とその漢方薬の種類を知ることができる.「効きが悪いとき何を考えるか」このようなテーマを真正面から取り扱ったものが今までにあったであろうか.
第2章では19疾患と処方に注意すべき子供・老化・合併症を持つ患者などへの実際の処方例とそのポイントが述べられている.外来診療中に必ず経験する19疾患(病態)であり,すべての耳鼻咽喉科医にとって必ず役立つ内容である.各項では,まずその項にでる漢方薬がすべて羅列されていて,疾患と漢方薬との関連がインプットされる.そしてはじめに疾患の簡単な総説があり,現在の標準的な治療法が述べられる.西洋医学を中心にした従来の治療のエッセンスが詰まっている.次に薬物療法のフローチャートが示され,漢方薬のしめる位置やどの段階で使用するのか,どういった漢方薬を使うのか述べられている.専門家が長年蓄積したデータがないと示されにくいものであるが,簡潔に示されていて,初心者にとっては至れり尽くせりなものとなっている.そして実際の処方例が提示されるが,ここでも従来とは異なって,同じ症状であっても患者の状態や訴えによって処方をどのように変更するか,極めて具体的に示されている.漢方薬には副作用はないと思いやすいが,そうではないことが次のテーマで述べられる.それは副作用症状の羅列ではなく,その予防法や対処法も記載されている.ここまで理解して初めて,自信をもって漢方薬に限らず全ての処方ができるものであろう.最後がインフォームド・コンセント(IC)になっている.特に漢方薬の処方にあたって,どのようにICを得るか,そこまで丁寧に説明されている成書を私は知らない.
本書は専門家によりわかりやすく簡潔に,しかもエビデンスをもって書かれている.患者を前にして書いているような臨場感あふれる漢方医学の入門書であり,かつ専門書の内容を持つ医学書である.一人でも多くの耳鼻咽喉科医の手許においていただき通読されれば,必ず外来診療の助けとなると,自信を持ってお勧めできる本である.付録の漢方薬資料集も一読をおすすめしたい.