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新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期の診療ガイドライン活用術

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期の診療ガイドライン活用術 published on
麻酔 Vol.70 No.1(2021年1月号)「書評」より

評者:山田芳嗣(国際医療福祉大学三田病院病院長)

今回紹介する「麻酔科医のための周術期の診療ガイドライン活用術」は《新戦略に基づく麻酔・周術期医学》シリーズ10冊目にあたる。シリーズ第1冊目「麻酔科医のための循環管理の実際」の刊行から7年を経て,本書の刊行をもって全10冊がそろいシリーズが完結した。本シリーズは“新戦略に基づく”というネーミングが表すように,コンセプトがたいへん斬新であり,今までにない構成の麻酔科学の教科書になっている。第1冊目の刊行から7年間の間に医学・医療は麻酔科領域も含めて凄まじい進歩と変容を遂げてきたが,当初計画された“新戦略”のアプローチは現在においても非常によくマッチしていると再認識できる。監修の森田 潔先生ならびに編集の川真田樹人先生,廣田和美先生,横山正尚先生の達見に深く敬服するものである。
本書の構成として,第1章は診療ガイドラインの総論であり,すでに学会やセミナーなどで何度も聞いた内容であるが,系統的な記述を理解して正確に把握することが診療ガイドラインを実臨床で適切に活用するために必要なことである。ガイドラインの限界と課題についても詳しく解説しているので確認していただきたい。第2章以降は“症例で学ぶ診療ガイドラインの実践”として,第2章は術前管理,第3章は術中管理,第4章は術後管理という単純明快な構成になっている。第2章の術前管理では,気道・呼吸評価,循環評価,薬剤(抗血栓療法,降圧薬),周術期禁煙,術前の絶飲絶食,重症患者の栄養療法になっている。第3章の項目は,血液製剤の使い方,神経ブロック,危機的出血,気道トラブル,麻酔薬,循環作動薬,予防的抗菌薬,医療安全対策,術中モニターとほぼ麻酔中の管理を網羅している。輸液療法・輸液管理は各所に分けられて記述されており,術中に独立の項目がないのは残念だが,ガイドラインのみで全体を包含して解説するのが難しいためかもしれない。第4章の術後管理では,術後痛管理,術後せん妄,日帰り麻酔への対応,敗血症への対応,早期リハビリテーションと特色のあるものになっている。どの項目の解説もガイドラインの焼き写しではなく,症例の具体的な提示になっており,ガイドラインを基盤として条件,状況,病態を考慮して診療する過程が解説されている。症例はどれも臨床で遭遇するなじみのある事例ばかりであり,自分であったらどのように対応するかが即座に想起されるものであり,自分のプランとガイドラインとの適合性を振り返るという形で自然にガイドラインの活用法を習得できる。第5章には研究倫理および終末期医療に関する指針がまとめられ,概説されているのもとても有益である。
今日の診療は麻酔においてもガイドラインに適合した診療を行わなければならない。一方で,ガイドラインの数は多く改訂も行われるので,常にキャッチアップしていくのは容易ではない。麻酔・周術期医学に関連する主要なガイドラインを網羅してその活用を実践的に解説した本書は,まさに麻酔・周術期医療にかかわる医療者の“新戦略”のアプローチとして日々の臨床で繰り返し参照する価値のある貴重な書籍である。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のためのリスクを有する患者の周術期管理

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のためのリスクを有する患者の周術期管理 published on
麻酔 Vol.67 No.12(2018年12月号)「書評」より

評者:落合亮一(東邦大学教授)

私の勤務する施設では,予定手術患者は手術予定日の2週間以上前までに麻酔科術前外来を受診し,リスク評価を行うことにしている。統計を取ってみると,診療報酬上の“麻酔困難な症例”に該当する予定手術患者が,2011年度には全体の4.8%であったのが2016年度には13.9%と著増していた。つまり,7人に1人はハイリスク症例と考えることができる。
ハイリスクである理由は多岐にわたり,冠動脈疾患や心臓の弁疾患,あるいは重症糖尿病であったり,混合性換気障害などさまざまな慢性疾患が含まれている。外来の限られた時間の中で,リスクを十分に評価し,合理的に説明してインフォームドコンセントを得ることは容易ではない。そこで,事前に外来担当日のカルテを開き,予習することになる。心疾患患者の非心臓手術については,米国循環器学会が中心となり診療ガイドラインが整備されているが,患者の多い慢性閉塞性肺疾患(COPD)や糖尿病あるいは慢性腎不全などの疾患については,確固たる診療指針は存在しない。私たちは,自分の経験値から“良かれ”と考えられることを計画するだけであり,そのより所を求めてきた。
今回紹介する「麻酔科医のためのリスクを有する患者の周術期管理」はまさにそうした,慢性疾患をどのように理解し,対応するのかについてまとめられた一冊である。
本書は3部構成で,第1章では麻酔薬や麻酔法がもつ有用性や問題点を整理している。患者にその麻酔法を選択する理由について合理的に説明するのに役に立つであろう。第2章は,各論ともいうべき部分で,リスクを有する患者の周術期管理の実際が整理され,述べられている。疾患ごとにまとめ方はさまざまであるが,基本的に疾患概念,術前評価と麻酔計画,術後管理,インフォームドコンセントについてツボを押さえた記載になっている。特に,情報のなかなか得にくい,心臓移植後の患者,複雑心奇形術後の成人患者,精神神経疾患,長期オピオイド使用中,拒食症・るいそう患者,妊娠中の非産科手術など,診療上のヒントに満ちた情報があり,周術期のアプローチを探るために大変に有用である。第3章は,緊急手術をテーマにしたもので,さらに対応の難しい応用問題と考えられる。喘息発作中の患者,扁桃摘出術後出血患者,RhD(-)型血液の患者,抗血栓療法を受けている患者など,できれば遭遇したくない,と考えがちなテーマが整理されて提供されている。
実際の症例を前に紐解くのもよし,コラムやトピックスというピンポイントの情報も紹介されているので,普段の読み物としても大変に興味深い。周術期医療を担う麻酔科医にとってタイムリーな1冊である。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期危機管理と合併症への対応

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期危機管理と合併症への対応 published on
麻酔 67巻1号(2018年1月号)「書評」より

評者:外 須美夫(九州大学)

周術期のさまざまな危険や危機や合併症から患者さんを守り,安全を確保するのがわたしたち麻酔科医の使命である。麻酔科医の仕事は,周術期の安全確保であり,安全確保のための危機管理であるといっても過言ではない。本書「麻酔科医のための周術期危機管理と合併症への対応」は,そのような麻酔科医に必須の危機管理に特化して作られたテキストブックである。
周術期の医療安全を死亡率という物差しで計ると,この数十年間に医療安全は格段に進んだといえるであろう。例えば,外科手術を受ける患者さんが周術期に死亡する確率は,1954年は75人に1人であったが, 2002年には500人に1人に減少している。同様に,麻酔に関連して死亡する確率も1,560人に1人から13,000人に1人へと大幅に減少している(ASA Newsletter,2007.10)。しかし同時に,安全に対する意識もこの間に大きく変化した。医療が進歩するとともに,医療への過度の期待と安全神話,そしてときに過剰ともいえる責任追及の社会的風潮が形成されていった。テクノロジーやエンジニアリングの進歩とともに安全対策にもさまざまな発展が見られるものの,先端医療,高回転医療,効率化医療が推進される現場では,潜在的リスクも広がっていく。特に周術期医療では,次々と新たな予期しないリスクが生まれている。周術期ほど危機管理が継続的かつ徹底的に求められる医療現場はほかにないであろう。
麻酔科医は外科的なリスクから患者さんを防御しようとして麻酔をする。しかし,麻酔自体もまたリスクを持っている。麻酔は意識を奪い,呼吸を止め,循環を乱れさせる。神経軸に針を刺し,麻痺させる。麻酔科医は侵襲から身体を守るために麻酔というリスクを新たに加えなければならない。麻酔単独で見れば,麻酔行為のリスク-ベネフィットは常にリスクに傾いている。麻酔のベネフィットは外科医療のリスクから患者さんを守るというベネフィットの形をとっているので,患者さんは麻酔に対しては絶対的安全を期待しがちである。ベネフィットが生まれないのなら,リスクを生んではならないというように。だから麻酔のリスクとしての麻酔合併症,偶発症を極力抑えなければならない。
本書は,周術期の安全対策と危機管理,そして麻酔の合併症を多面的にとらえ,詳細かつ網羅的に解説している。本書の前半では,安全を確保するための基本的な考え方,安全へのアプローチ,インフォームド・コンセント,消毒・滅菌に加えて,医薬品や医療機器の安全管理や医療事故対応について解説されており,後半では,術中・術後および麻酔の合併症や偶発症に焦点を当てて概要と対策が述べられている。
周術期の危険予知・危機管理に特化した本書は,麻酔科医にとって基本的で本質的な危機管理について集中的に教えてくれる本である。本書を読み込むことにより,周術期の医療安全の担い手としての麻酔科医に求められるレジリエンスを養うことができるであろう。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期のモニタリング

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期のモニタリング published on

従来の書籍にはない,経験に裏打ちされた技術と判断が十分に感じ取れる

麻酔 Vol.65 No.8(2016年8月号) 書評より

書評者:鈴木利保(東海大学教授)

本書は,新戦略に基づく麻酔・周術期医学シリーズの7冊目にあたるもので,今回は『麻酔科医のための周術期のモニタリング』がテーマである。本書は「神経系モニター」「呼吸器系モニター」「循環器系モニター」「筋弛緩モニター」「パルスオキシメータ」「体温」の6章から構成されている。まず驚かされるのは,執筆者がそれぞれの領域の第一人者であることにある。本書からは彼らが臨床に情熱を注いでいることが容易に想像でき,従来の書籍にはない,経験に裏打ちされた技術と判断が十分に感じ取れる。
第1章:神経系モニターでは,BISモニター,聴性誘発電位,運動誘発電位,体性感覚誘発電位,視覚誘発電位,脳酸素飽和度モニターの6つのモニターについて,80頁も解説が加えられている。これらのモニターの歴史,原理,測定に影響を及ぼす因子,実際の臨床使用について分かりやすく解説されている。
本書の特徴は,解説が4行程度の箇条書きで簡潔にまとめられており,読みやすい工夫がなされていること,表,イラスト,写真,フローチャートを多用しており,表やイラストは2~3色のカラーを使用しているために,視覚的にも理解しやすいこと,各要所に「Column」欄を設け,最新情報を適宜収載していることが挙げられる。
第2章:呼吸器系モニターでは,カプノグラム,麻酔ガスモニター,経皮血液ガスモニター,人工呼吸器モニターを取り上げている。なかでも興味深いのは人工呼吸器モニターである。近年,周術期の患者呼吸管理が予後に影響を与えるとの報告があり,1回換気量,気道内圧の正確なモニタリングが必要になっている。本項では人工呼吸モニタリングの意味,換気量の測定,呼吸機能モニターについて明快な解説を加えている。第3章:循環器系モニターは,古典的な動脈圧モニター,中心静脈圧モニター,心拍出量モニター,非侵襲的心拍出量モニターに加えて,経食道心エコー法,携帯型エコーについて解説されている。経食道心エコー法の詳細については,紙面の関係上,成書に譲るとしてあるが,携帯型エコーの上手な使い方について述べられていることは有益であろう。第4章:筋弛緩モニターでは,その意義,測定法,刺激の原則とパターンについて解説されているが,何より理想的なモニタリング部位とセットアップ上の細かい注意点まで詳述されており,大変役に立つ。第5章:パルスオキシメータについては通常型に加えて進化型パルスオキシメータの原理,測定項目について詳しく解説を加えており,パルスオキシメータの進化が実感できる。第6章:体温は深部体温計,末梢温測定の2項目からなり,体温測定の意義と実際について詳しく解説している。また付録として,本書に掲載されているモニター機器は,メーカー情報を加えて写真入りで紹介されているのが役に立つ。
本書は,ベテラン麻酔科医のみならず,麻酔科専門医を目指す若手麻酔科医,臨床研修医,医学部学生にも一読してほしい本である。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための区域麻酔スタンダード

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための区域麻酔スタンダード published on

すべての周術期臨床現場にあってしかるべき書

麻酔 Vol.65 No.5(2016年5月号) 書評より

書評者:小川節郎(日本大学教授 )

本書「麻酔科医のための区域麻酔スタンダード」は,監修者の森田 潔氏らが刊行している《新戦略に基づく麻酔・周術期医学》シリーズの第7冊日として発刊されたものである。森田氏による“シリーズ刊行にあたって”によると,本シリーズは周術期管理に焦点を絞り,麻酔科医の知識と技術の向上を目的とし,単なるマニュアル本ではなく,基礎的な生理学,薬理学などの知識を基にした内容にしたとあり,本書もまさにその理念に則ったものとなっている。
本書編者の横山正尚氏も述べているように,最近の麻酔科領域でもっとも注目を浴びている分野は“区域麻酔”といっても過言でないであろう。特に超音波ガイド下神経ブロックの導入により,周術期の麻酔管理に大きな変化がもたらされている。ではなぜ今,“区域麻酔”なのであろうか。本書の第1章“区域麻酔総論”の中からその理由を抜粋すると,①超音波装置等の医療機器の技術革新により,区域麻酔の技術も急速に進歩したこと,②使用する薬剤の進歩により,区域麻酔の応用範囲が広がっていること,③近年においては周術期の課題が死亡率の減少から回復の質の向上にシフトしており,この観点からみて,区域麻酔は他の麻酔・鎮痛法と比べて有効性が高いとするデータが出てきていること,④高齢者の周術期管理においても,区域麻酔がさまざまな点で有利であること,⑤医療費の軽減に寄与する可能性が高いこと,などが挙げられている。
本書では,現在行われている“区域麻酔”のすべてについて非常に要領よく,かつ,分かりやすく記述されている。主な内容を挙げると,第1章の“区域麻酔総論”は,なぜ今,区域麻酔なのか,区域麻酔の歴史,痛みの伝導機構と区域麻酔,区域麻酔の種類の4項目からなり,第2章の“区域麻酔で使用する薬剤”では局所麻酔薬の基礎的・臨床的知識を勉強でき,さらにオピオイドの使用法についても記述されている。第3章の“末梢神経ブロックに使用する機器の知識”では,超音波装置と神経刺激装置の基礎知識と使用法,テクニックなどが取り上げられている。以下,第4章は“周術期末梢神経ブロックの実際”,第5章は“超音波ガイド下末梢神経ブロック各論”と続き,第6章“硬膜外ブロックUp-To-Date”と第7章“脊髄くも膜下ブロックUp-To-Date”では,これまで行われてきたこれらの麻酔法に関する新しい知識が示されており,非常に興味深い。
本書の特長は,また非常に実践的な内容であることである。分かりやすい多くの図表,超音波画像,手技の実際を示す写真により,臨床の現場ですぐに役立つ知識が得られよう。また,各項目には内容の基となった最新の文献がまとめられているので,さらに詳しく知りたい場合に非常に有用である。
以上のように,本書は,いわば“区域麻酔のすべて”というべき内容から構成されていることから,すべての周術期臨床現場にあってしかるべき書であると思われた。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための気道・呼吸管理

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための気道・呼吸管理 published on

日常業務を淡々とこなしている麻酔科医に潤いを与え,意欲と勇気と自信を与えることに間違いない

LiSA Vol.20 No.12(2013年12月号) Medical Booksより

書評者:川前金幸(山形大学医学部 麻酔科学講座)

気道管理,呼吸管理は,麻酔科医に必須である。臨床でも,常に細心の注意を払わなければならない。専門医になる前の修練時代には,気道確保や呼吸管理で,ヒヤリとした経験が少なからずあるだろう。また,この領域のトラブルは致命傷となるため,裁判などで世間をにぎわす題材となってしまう。このような点からも,気道管理,呼吸管理の知識と技術の向上は必須である。
本書では,最新の気道確保法が多くの器具とともに解説される。特に解剖と器具の図版は,読み手の立場に立って丁寧に構成されており,非常にわかりやすい。
気道管理については,安全な気管挿管法の解説に加えて,覚醒下抜管,覚醒前抜管,抜管と残存筋弛緩など,抜管に関するテーマも深く広く取り上げられ,それぞれの特徴が手に取るように理解できる。
呼吸管理については,最近の人工呼吸器の複雑な換気モード,複合化した換気設定などの解説に加え,周術期管理で徐々に市民権を得つつある非侵襲的陽圧換気noninvasive positive pressure ventilation(NPPV)について,さらに呼吸不全に対するきわめつけの治療ともいうべき体外式膜型人工肺extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)の解説など,人工呼吸管理の最新情報が詳述されている。
そして,特にわれわれ麻酔科医が周術期の呼吸管理に難渋する疾患や病態に関しても,わかりやすい解説が加わる。また,麻酔・集中治療で使用する薬物が呼吸に及ぼす影響について,具体例を紹介しながら記載される。理解を助けるための図表,写真などにも種々の工夫がみられ,読んでいて疲れない。これらをもってすれば,呼吸器や循環器の医師とも大いに議論する基礎知識を習得できること請け合いだ。付録も含めて,麻酔科医が手術室の麻酔を中心として,気道管理,呼吸管理などに当たる際の最強の武器になるだろう。
『新戦略に基づく麻酔・周術期医学』シリーズは,高度な専門知識と診療実践のスキルを簡潔にわかりやすく解説することをモットーに,すべての内容にわたって最新の論文,関連する診療ガイドラインの動向,エビデンスにもとづく考察,先進的な取り組みを重視し,さらには「Advice」「Topics」「Column」欄を設けるなど,至るところに創意工夫を施している。日常の麻酔管理,周術期管理に疲れてソファーで一息つきながらページをめくるときでも,心地よく頭に入ってくる。これは,日常業務を淡々とこなしている麻酔科医に潤いを与え,意欲と勇気と自信を与えることに間違いない。
麻酔科医局に1冊,研修センターの本棚に1冊,専門医試験前であれば机の上にも1冊。仕事が楽しくなるだろう。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期の薬物使用法

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期の薬物使用法 published on

私たちが日常臨床で使用する機会のある薬物のほとんどすべてが網羅

麻酔 Vol.64 No.11(2015年11月号) 書評より

書評者:稲田英一(順天堂大学教授)

周術期計画の第一歩は,術前評価と管理である。原疾患に対する術式に関する理解はもちろん,患者の持つ併存疾患の有無と重症度評価,服用歴について理解が必要である。つぎつぎと新しい薬物が開発されるなか,術前使用薬物について理解し,さらに麻酔薬との相互作用について理解しておくことは必須である。周術期管理においては,血圧や心拍数変動,心筋虚血,気管支痙攣などに対する薬物療法を習得しておく必要がある。
最近,特に問題となるのは,抗血小板薬や抗凝固薬,血栓溶解薬など血液凝固系に関連する薬物である。これらの薬物は,継続することによる出血のリスクがある一方,中止による血栓発生のリスクを持っている。輸液に関する考え方も,early-goal directed therapy(EGDT)や,restrictive fluid therapy,中分子ヒドロキシエチルデンプン(HES)の市販により大きく変わってきた。周術期管理を行う麻酔科医にとって,維持輸液や補充輸液だけでなく,高カロリー輸液やアミノ酸輸液などの栄養管理に関する知識も必要である。今後の麻酔科専門医資格取得のためには,安全,倫理に加え,感染についての知識も必要となる。そのためには,感染症対策,抗菌薬投与の基本的考え方について理解しておく必要がある。
このような麻酔科医にとって必須の薬物使用法についてまとめたのが本書である。1章は術前使用薬物,2章は麻酔薬,麻酔関連薬,3章は全身管理薬,4章は輸液,輸血,5章は抗菌薬,6章は抗ウイルス薬,抗真菌薬,7章は周術期,ICUにおける栄養という7章から構成されている。私たちが日常臨床で使用する機会のある薬物のほとんどすべてが網羅されている。各項目の最初には,重要ポイントが記載されている。本文も箇条書きとなっており,読みやすく,重要なコンセプトは赤字で欄外に記載されており,知識の整理がしやすくなっている。図表は多く,図はカラフルで,重要な概念が一目で把握できるようになっている。
よく用いている薬物であっても,その作用機序や薬物動態,適応と効果,副作用と注意点などと読み進めると,改めてその薬物の持つ意味合いが理解できる。薬物だけでなく,その薬物を使用する周術期の場面はどのような場面であるか,どのように注意して薬物を投与すべきかなど,全体像を把握できるように記載されていることもありがたい。
周術期管理に関わる麻酔科医にとって有用なだけでなく,外科医や集中治療医にとっても有用な本であると考えられる。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための体液・代謝・体温管理

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための体液・代謝・体温管理 published on

本書を読めば周術期輸液・輸血管理のエキスパートになることは間違いない

麻酔 Vol.64 No.3(2015年3月号) 書評より

書評者:山蔭道明(札幌医科大学教授)

私が麻酔科医として臨床研修を始めてからすでに25年が経過した。研修を開始したころの会話を紹介したい。

麻酔科医「明日手術ですので,夜9時を過ぎたら,飲んでも食べてもいけませんよ」
患者「先生,外科の先生から今朝から何も食べるなって言われて,もう下剤もたっぷり飲まされたよ(>___<)」
指導医「HES製剤は多く投与すると腎機能にも止血機能にもよくないから,アルブミンを投与しよう」

外科医「腸管が腫れて閉腹できないんだけど(`_´)」
麻酔科医「……(外科医がぐちゃぐちゃ腸をいじるからthird spaceが増えちゃったせいだよ)(-_-#)」

こんなことが日常行われていたように思う。
最近では,(1)周術期輸液管理法も含めた術後回復力強化プログラム(Enhanced Recovery After Surgery : ERAS(R) )に始まり,(2)目標指向型の輸液管理(GDFT)の概念の普及,(3)それを助けるモニター機器の発達,(4)種々の晶質液の開発,(5)改良版HES製剤の発売,(6)third spaceに対する新たな考え方,そして(7)血管透過性に重要なグリコカリックスの概念など,多くのエビデンスが蓄積され,周術期における輸液のあり方も変わってきたように思う。レミフェンタニルの臨床使用,さらには各種神経ブロックの臨床応用によって,ストレスを十分に抑え込んだ麻酔管理が可能となってきた。そうなると,われわれ麻酔科医もそのエビデンスに則った周術期輸液管理を施行し,患者の予後改善に寄与しなければならない。しかし,それを実践するには実に多くの論文や著書に触れなければならない。
そこで,満を持して発刊された本書を紹介したい。本書は,難しい概念である体液バランスの話を分かりやすく説明するところから始まり,ERAS (R)の概念とその実践,GDFTの概念と実際の方法を具体的に紹介している。本書の目的からすればこれで十分であると思うが,本書ではさらに具体的な輸液製剤の使用法について血液製剤も合めて紹介している。また私も“同種血輸血”完全否定者ではないが,どうせなら輸血しないで手術を終えたいと思う。今回の専門編集者である廣田先生も私と同じ考えで,同種血輸血を回避させる方法として自己血輸血の利点と,その具体的方法に十分なページを割いている。さらに輸液も関与する低体温によるシバリングに対しても多くのページを割いており,本書を読めば周術期輸液・輸血管理のエキスパートになることは間違いない。
最後に,もっとも本書の特徴といってもいい点として,手技や製剤の写真や模式図を多く掲載しており,理解しやすく読みやすい紙面となっている。特に図表などには見やすく分かりやすいように手が加えられており,出版社の意気込みが感じられる。このシリーズはこれで4 冊目となる。早々,研修医用にもう一冊購入した。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期の疼痛管理

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期の疼痛管理 published on

多色刷りで図や表が表現されており,非常に分かりやすく,見やすい

麻酔 Vol.63 No.6(2014年6月号) 書評

書評者:花岡一雄(JR東京総合病院名誉院長)

本書は《新戦略に基づく麻酔・周術期医学》シリーズの3冊目として刊行された最新刊である。木シリーズの監修は森田潔岡山大学学長,また,本書の専門編集者は川真田樹人信州大学教授であり,総執筆者60名,総ページ数320ページという熱意にあふれる本書が誕生したのは,2014年2月10日である。
本書を手に取ってまず目に付くのは,多色刷りで図や表が表現されており,非常に分かりやすく,見やすいことである。本書の構成は8章からなっている。
導入部分である第1章の周術期疼痛管理の現在の動向から始まり,第2章の手術に関連する痛みについては手術侵襲による痛み,創傷治癒過程における痛み,いわゆる術後痛,そして遷延性術後痛に分類して説明してある。第3章では,周術期の痛みを評価するために,術前からの評価,術中の評価,術後の評価に分けて解説してある。第4章では,周術期疼痛の有害作用として,循環系への作用,呼吸との相互作用,内分泌・代謝への作用,交感・副交感神経機能への作用,消化器系・泌尿器系への作用,中枢神経系への作用,免疫系への作用など,考えられるかぎりの有害作用について言及してある。
ここまで,周術期疼痛についての基礎的知識を整理したうえで,第5章では,いよいよ周術期疼痛管理の実際について各手術別で解説してある。心臓外科手術,呼吸器外科手術,上腹部手術,下腹部手術,整形外科手術などの主たる手術における周術期疼痛管理の実際と,特殊な領域としての小児,産科,高齢者を取り上げ,それぞれの特殊性について分かりやすく解説してある。第6章では,さらに具体的に周術期疼痛治療法に触れて,薬物としてオピオイド,消炎鎮痛薬,COX-2阻害薬,アセトアミノフェン,ケタミン,トラマドール,α2アゴニスト,カルシウムチャネルα2δサブユニット遮断薬について説明を加えたうえで治療法として,患者自己調節鎮痛(PCA)とIV-PCA,硬膜外鎮痛と硬膜外PCA,脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔と脊髄くも膜下鎮痛単独法,末梢神経ブロックなど実際的鎮痛方法を解説してある。加えて,今後,臨床応用が期待される薬物として,nerve growth factor(NGF),transient receptorpotential vanilloid 1(TRPV1),tumor necrotic factor-α(TNF-α),interleukin-6(IL-6),カンナビノイド,ATPなどについて実に理解しやすく解説してある。
第7章では病室以外でのICU,ER,検査室での疼痛対策を取り上げ,最終の第8章では周術期管理として取り組む疼痛対策をAcute Pain Serviceとしての取り組み,周術期管理チームとしての取り組み,遷延性術後痛に対するペインクリニック外来での取り組みを挙げて説明してある。
TopicsやColumn欄が随所に掲出されており,山楸のようなピリッとした気分が味わえるとともに,周術期における疼痛管理の重要性も認識され,本書の特色が強調されている。
麻酔科医のみならず,手術に携わるすべての医師・研修医に自信をもって勧めることができる教科書である。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための循環管理の実際

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための循環管理の実際 published on

激変する時代のなかで多忙な麻酔科医に,適切な最新情報と知識を理解しやすくして伝えている

麻酔 Vol.62 No.9(2013年9月号) 書評より

書評者:並木昭義(小樽市病院局長)

この度,岡山大学の森田潔先生監修の《新戦略に基づく麻酔・周術期医学》シリーズが中山書店より上梓される。その第1冊目「麻酔科医のための循環管理の実際」は,高知大学の横山正尚先生が専門編集の任にあたり,この5月に刊行された。 この本の特徴は,激変する時代のなかで多忙な麻酔科医に,適切な最新情報と知識を理解しやすくして伝えていることである。そのために,次のような配慮がされている。紙面の両サイドの余白を利用してコメントや略語の説明などを加える。図表,イラストを充実させる。文中に執筆者の強調したいことをColumn,最近注目する話題をTopics,実践的な情報をAdviceとして載せる。基礎医学的知識そして,エビデンスに基づく臨床研究結果を重点的に取り入れる。執筆者達は,この分野における臨床的実力・実績を十分に有する専門家である。
私はつい最近A-Cバイパス手術を体験したこともあり,今回この書評を依頼されたとき特別な気持ちになった。本書に書かれている内容を自分で考える主体的な気持ちになって読み進めた。一読しながら重要な事項,興味ある箇所に付箋を入れたところ,その数は30枚に達した。以降に各章の内容と私の興味のあった箇所を紹介する。
本書は9章から構成される。1章は“術前の体液管理”で2項目7細目である。術前経口補水については,Columnで「点滴は不要!? みんなに優しい術前経口補水」として推奨している。体験者としては飲ませ方に工夫が必要であると思う。2章は“術前使用薬剤の管理”で3項目11細目である。
3章は“合併する心疾患のリスク評価と術前準備”で5項目13細目である。Topicsで「治療効果のクラスとエビデンスレベル」が紹介される。4章は“術中輸液・輸血の考え方”で5項目27細目である。私も治験に参加した「新しいHES製剤は輸液管理を変えるか?」の項目に興味がある。5章は“術中モニタリングのup-to-date”で4項目16細目である。「循環管理の新たな指標と可能性」の項目は重要であり,Adviceとして「収縮期血圧,拡張期血圧,平均動脈圧の臨床的な意義」が紹介される。6章は“麻酔方法と循環管理の考え方”で4項目13細目である。7章は“心血管手術の循環管理のコツ”で4項目13細目である。この項目のなかでは,私も経験のある「off-pump CABG」と「ロボット心臓手術」が注目される。私は手術を体験して,麻酔が上手であるということは,術直後の覚醒および術後経過が円滑で,患者に満足されることであると確信した。
8章は“術後循環管理の実際”で7項目30細目である。このなかでもっとも注目される項目は「心臓リハビリテーション」であり,そのプログラムの確立が求められる。9章は“術後痛と循環”で2項目5細目である。
この本は,単なるマニュアル本とは異なり,質の高い,実践的参考書である。レベルの高い内容であると思う。それを多くの読者が理解しやすいようにすべく,最大限努力していることは評価できる。本書「麻酔科医のための循環管理の実際」およびシリーズの続刊が多くの読者に喜ばれ,有効に活用されることを期待する。