日常業務を淡々とこなしている麻酔科医に潤いを与え,意欲と勇気と自信を与えることに間違いない

LiSA Vol.20 No.12(2013年12月号) Medical Booksより

書評者:川前金幸(山形大学医学部 麻酔科学講座)

気道管理,呼吸管理は,麻酔科医に必須である。臨床でも,常に細心の注意を払わなければならない。専門医になる前の修練時代には,気道確保や呼吸管理で,ヒヤリとした経験が少なからずあるだろう。また,この領域のトラブルは致命傷となるため,裁判などで世間をにぎわす題材となってしまう。このような点からも,気道管理,呼吸管理の知識と技術の向上は必須である。
本書では,最新の気道確保法が多くの器具とともに解説される。特に解剖と器具の図版は,読み手の立場に立って丁寧に構成されており,非常にわかりやすい。
気道管理については,安全な気管挿管法の解説に加えて,覚醒下抜管,覚醒前抜管,抜管と残存筋弛緩など,抜管に関するテーマも深く広く取り上げられ,それぞれの特徴が手に取るように理解できる。
呼吸管理については,最近の人工呼吸器の複雑な換気モード,複合化した換気設定などの解説に加え,周術期管理で徐々に市民権を得つつある非侵襲的陽圧換気noninvasive positive pressure ventilation(NPPV)について,さらに呼吸不全に対するきわめつけの治療ともいうべき体外式膜型人工肺extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)の解説など,人工呼吸管理の最新情報が詳述されている。
そして,特にわれわれ麻酔科医が周術期の呼吸管理に難渋する疾患や病態に関しても,わかりやすい解説が加わる。また,麻酔・集中治療で使用する薬物が呼吸に及ぼす影響について,具体例を紹介しながら記載される。理解を助けるための図表,写真などにも種々の工夫がみられ,読んでいて疲れない。これらをもってすれば,呼吸器や循環器の医師とも大いに議論する基礎知識を習得できること請け合いだ。付録も含めて,麻酔科医が手術室の麻酔を中心として,気道管理,呼吸管理などに当たる際の最強の武器になるだろう。
『新戦略に基づく麻酔・周術期医学』シリーズは,高度な専門知識と診療実践のスキルを簡潔にわかりやすく解説することをモットーに,すべての内容にわたって最新の論文,関連する診療ガイドラインの動向,エビデンスにもとづく考察,先進的な取り組みを重視し,さらには「Advice」「Topics」「Column」欄を設けるなど,至るところに創意工夫を施している。日常の麻酔管理,周術期管理に疲れてソファーで一息つきながらページをめくるときでも,心地よく頭に入ってくる。これは,日常業務を淡々とこなしている麻酔科医に潤いを与え,意欲と勇気と自信を与えることに間違いない。
麻酔科医局に1冊,研修センターの本棚に1冊,専門医試験前であれば机の上にも1冊。仕事が楽しくなるだろう。