本書を読めば周術期輸液・輸血管理のエキスパートになることは間違いない

麻酔 Vol.64 No.3(2015年3月号) 書評より

書評者:山蔭道明(札幌医科大学教授)

私が麻酔科医として臨床研修を始めてからすでに25年が経過した。研修を開始したころの会話を紹介したい。

麻酔科医「明日手術ですので,夜9時を過ぎたら,飲んでも食べてもいけませんよ」
患者「先生,外科の先生から今朝から何も食べるなって言われて,もう下剤もたっぷり飲まされたよ(>___<)」
指導医「HES製剤は多く投与すると腎機能にも止血機能にもよくないから,アルブミンを投与しよう」

外科医「腸管が腫れて閉腹できないんだけど(`_´)」
麻酔科医「……(外科医がぐちゃぐちゃ腸をいじるからthird spaceが増えちゃったせいだよ)(-_-#)」

こんなことが日常行われていたように思う。
最近では,(1)周術期輸液管理法も含めた術後回復力強化プログラム(Enhanced Recovery After Surgery : ERAS(R) )に始まり,(2)目標指向型の輸液管理(GDFT)の概念の普及,(3)それを助けるモニター機器の発達,(4)種々の晶質液の開発,(5)改良版HES製剤の発売,(6)third spaceに対する新たな考え方,そして(7)血管透過性に重要なグリコカリックスの概念など,多くのエビデンスが蓄積され,周術期における輸液のあり方も変わってきたように思う。レミフェンタニルの臨床使用,さらには各種神経ブロックの臨床応用によって,ストレスを十分に抑え込んだ麻酔管理が可能となってきた。そうなると,われわれ麻酔科医もそのエビデンスに則った周術期輸液管理を施行し,患者の予後改善に寄与しなければならない。しかし,それを実践するには実に多くの論文や著書に触れなければならない。
そこで,満を持して発刊された本書を紹介したい。本書は,難しい概念である体液バランスの話を分かりやすく説明するところから始まり,ERAS (R)の概念とその実践,GDFTの概念と実際の方法を具体的に紹介している。本書の目的からすればこれで十分であると思うが,本書ではさらに具体的な輸液製剤の使用法について血液製剤も合めて紹介している。また私も“同種血輸血”完全否定者ではないが,どうせなら輸血しないで手術を終えたいと思う。今回の専門編集者である廣田先生も私と同じ考えで,同種血輸血を回避させる方法として自己血輸血の利点と,その具体的方法に十分なページを割いている。さらに輸液も関与する低体温によるシバリングに対しても多くのページを割いており,本書を読めば周術期輸液・輸血管理のエキスパートになることは間違いない。
最後に,もっとも本書の特徴といってもいい点として,手技や製剤の写真や模式図を多く掲載しており,理解しやすく読みやすい紙面となっている。特に図表などには見やすく分かりやすいように手が加えられており,出版社の意気込みが感じられる。このシリーズはこれで4 冊目となる。早々,研修医用にもう一冊購入した。