私たちが日常臨床で使用する機会のある薬物のほとんどすべてが網羅

麻酔 Vol.64 No.11(2015年11月号) 書評より

書評者:稲田英一(順天堂大学教授)

周術期計画の第一歩は,術前評価と管理である。原疾患に対する術式に関する理解はもちろん,患者の持つ併存疾患の有無と重症度評価,服用歴について理解が必要である。つぎつぎと新しい薬物が開発されるなか,術前使用薬物について理解し,さらに麻酔薬との相互作用について理解しておくことは必須である。周術期管理においては,血圧や心拍数変動,心筋虚血,気管支痙攣などに対する薬物療法を習得しておく必要がある。
最近,特に問題となるのは,抗血小板薬や抗凝固薬,血栓溶解薬など血液凝固系に関連する薬物である。これらの薬物は,継続することによる出血のリスクがある一方,中止による血栓発生のリスクを持っている。輸液に関する考え方も,early-goal directed therapy(EGDT)や,restrictive fluid therapy,中分子ヒドロキシエチルデンプン(HES)の市販により大きく変わってきた。周術期管理を行う麻酔科医にとって,維持輸液や補充輸液だけでなく,高カロリー輸液やアミノ酸輸液などの栄養管理に関する知識も必要である。今後の麻酔科専門医資格取得のためには,安全,倫理に加え,感染についての知識も必要となる。そのためには,感染症対策,抗菌薬投与の基本的考え方について理解しておく必要がある。
このような麻酔科医にとって必須の薬物使用法についてまとめたのが本書である。1章は術前使用薬物,2章は麻酔薬,麻酔関連薬,3章は全身管理薬,4章は輸液,輸血,5章は抗菌薬,6章は抗ウイルス薬,抗真菌薬,7章は周術期,ICUにおける栄養という7章から構成されている。私たちが日常臨床で使用する機会のある薬物のほとんどすべてが網羅されている。各項目の最初には,重要ポイントが記載されている。本文も箇条書きとなっており,読みやすく,重要なコンセプトは赤字で欄外に記載されており,知識の整理がしやすくなっている。図表は多く,図はカラフルで,重要な概念が一目で把握できるようになっている。
よく用いている薬物であっても,その作用機序や薬物動態,適応と効果,副作用と注意点などと読み進めると,改めてその薬物の持つ意味合いが理解できる。薬物だけでなく,その薬物を使用する周術期の場面はどのような場面であるか,どのように注意して薬物を投与すべきかなど,全体像を把握できるように記載されていることもありがたい。
周術期管理に関わる麻酔科医にとって有用なだけでなく,外科医や集中治療医にとっても有用な本であると考えられる。