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小児科ベストプラクティス 新分類・新薬でわかる 小児けいれん・てんかん診療-Classification and Practice

小児科ベストプラクティス 新分類・新薬でわかる 小児けいれん・てんかん診療-Classification and Practice published on
小児科診療 Vol.85 No.8(2022年8月号)「書評」より

評者:高橋孝雄(慶應義塾大学医学部小児科)

まず医学部学生に読んでいただきたい。なぜなら、小児科の魅力を伝えるのに本書はうってつけであるからである。小児てんかんの専門書であるにもかかわらず、過度に深堀りせずにポイントのみを分かり易く説くことにより、総合診療を重んじる小児医療の神髄が感じられる。また、図表の構成、カラー印刷のメリットを存分に生かしている点も “敷居”を低くしている。

初期研修医にも読んでいただきたい。総合診療としての小児科を習得するにはCommon Diseaseも不可欠だが、包括的視野を駆使する小児てんかん診療もまた、医師としての視野を広げる一助となるはずだ。そのことを本書の構成が見事に語っている。基礎的、生物学的な背景から、患者、家族のQOLをふまえた診断・治療戦略まで、総合診療としての小児医療の深みを感じ取るのに、てんかん診療はきわめて適した領域であると再認識した。

若手小児科医にも是非、読んでいただきたい。小児てんかんの多くは予後良好である。つまり一般小児科医による診療が可能な場合が多い。本書の軸足がそれらの病態にあることは明らかだ。また、病名告知や制度活用など、患者家族を支えるためのノウハウについての記載も抜かりがない。広い視野と深い思慮を備えた小児科専門医を育成するために絶好の教科書ではないか。

そして、もちろん小児神経やてんかん診療を専門とする指導医クラスの方々にも読んでいただきたい。腑に落ちる、印象に残る指導を行うためには、自身の経験や知識を整理整頓し、平易な表現で伝えることが必須である。ベテランが初学者にてんかん学、てんかん診療の魅力を伝える際に本書は必ず役に立つはずである。

今回、発売を前にいち早く本書をご提供いただいた。全体を通じて、個々の文章が比較的短く、切れ味が良く、リズム感があり、一気に通読した。小児てんかんの診療に携わっていることに感謝する気持ちが自然に芽生えてきた。だれにでもおすすめできる良書であった。

てんかん症候群 第6版

てんかん症候群 第6版 published on
小児科診療 Vol.84 No.12(2021年12月号)「書評」より

評者:大塚頌子(旭川荘療育・医療センター)

“Epileptic Syndromes in Infancy, Childhood and Adolescence”,通称「ブルーガイド」の第6版が2019年に出版され,このたび日本語版が刊行された.
ブルーガイドは1984年の初版後一貫しててんかん症候群を中心に記述されてきた.1989年の国際抗てんかん連盟による「てんかん,てんかん症候群および発作性関連障害の分類」の発表以来,てんかん分類においててんかん症候群が特に重視されるようになった.てんかん症候群はてんかんという広い夜空の中でそれぞれ独特の光を放ちながら存在する星座のようなものであり,我々は星座に導かれて宇宙を理解する手がかりを得ることができるといえる.
個々の患者の臨床像,脳波像,検査所見などの情報を吟味しながらてんかん症候群の診断に至るプロセスはてんかん診療の醍醐味であり,そのプロセスの道標としてブルーガイドはてんかん診療に携わる多くの医療従事者の身近に存在してきた.初版後35年の歳月を経て版を重ねるごとに時代に合わせて内容も充実し,第4版から発作ビデオ集も加わった.今回の第6版からはWEBでも閲覧できる.また,各てんかん症候群について,臨床像・脳波像に加えて病因に関る最新情報として遺伝子解析,画像検査の進歩を反映していることも特筆される.はじめの数章は総論に当てられ,その後主に年齢別にてんかん症候群が列記され,主要な文献も網羅されている.目当ての症候群を中心に読み込むとともに総論にも目を通していただきたい.
2007年の第4版から今回の第6版まで3回にわたり国立病院機構静岡てんかん・神経医療センターのスタッフが総力を挙げて日本語版の刊行に尽力された.センターにはてんかんに関連するすべての診療科が存在し,指揮をとられた井上有史先生をはじめとして皆さんが常に連携して活動されていることの成果が発揮されたと思われる.その成果を我々読者にも惜しみなく与えてくださったことに心から感謝したい.
本書がてんかん診療・研究に携わる人たちに大いに役立つことを確信する.

小児科ベストプラクティス 小児白血病・リンパ腫-Strategy & Practice

小児科ベストプラクティス 小児白血病・リンパ腫-Strategy & Practice published on

小児科診療 Vol.84 No.8(2021年8月号)「書評」より

評者:五十嵐 隆(国立成育医療研究センター理事長)

ヒトの遺伝子は24,000以上が同定され,いわゆる難治性疾患の約6割は遺伝子の異常に起因する.小児のがんも同様で,体細胞のみならず生殖細胞の遺伝子の変異が単一あるいは複数組み合わさることが原因となることが明らかとなった.小児白血病・リンパ腫を正しく理解し,原因に応じた個別化治療を実施することが求められており,そのためには病気の原因となる遺伝子の異常を知ることが第一歩である.近年の遺伝子解析技術の劇的な進歩により,小児白血病・リンパ腫の原因遺伝子の異常が多数解明されている.
小児がんの研究で画期的貢献を果たした滝田順子教授がこのたび編集された本書には,こうした小児白血病・リンパ腫の原因に関する最新かつ難解な知見が疾患ごとにわかりやすく記載されているだけでなく,CAR-T療法などの最新の治療法の紹介や移行期医療を含めた長期フォローアップ体制など,白血病・リンパ腫に罹患した子どもやAYA世代の人たちにbiopsychosocialな観点から総合的に最善の治療を提供するために必要な貴重な情報も紹介されている.小児白血病・リンパ腫の生存率は確かに改善したが,現時点でも救命できない患者さんも少なくない.さらに,救命されても治療に起因する様々な障害に悩み,将来への不安を抱えて生活されているのが実情である.小児白血病・リンパ腫の治療にあたる小児科医・内科医等に本書が大いに利用されることを願う.

小児コモン60疾患実践的ガイドライン活用術

小児コモン60疾患実践的ガイドライン活用術 published on
小児科診療 Vol. 82 No.9(2019年9月号)「書評」より

評者:幡谷浩史(東京都立小児総合医療センター総合診療科)

本書は,子どもの診療の場面で遭遇するcommon diseaseについて,各疾患の第一人者が,複数症例をもとにガイドライン活用のエッセンスを伝える実践書である.巻末には各ガイドラインが採用する推奨グレード・エビデンスレベルの区分,ガイドラインの入手先を収録し,まさにかゆいところに手が届かんばかりの作りである.
60疾患には基本的な小児科領域だけでなく,中耳炎,ヘルニア,側弯症,ADHDなど,幅広い疾患を網羅する.小児科の道を歩み出した若い先生方にとって,モノクロで無味乾燥なガイドラインから疾患を学ぶのは途方もない困難を伴う.しかし,本書では典型例,非典型例,重症例とバラエティに富む症例とその解説により,カラフルな実臨床を仮想体験し,最新のガイドラインの一端に触れることができる.各疾患についてはガイドラインの一部の紹介にとどまるが,その続きを学ぶための情報として,付録に記載されたガイドライン情報(web上のpdf情報など)から進むことができる.
しかし,読み進めるうちに,common diseaseを診る自信がつき,一般外来を担当している中堅以上の小児科医(つまりは私自身のことであるが)にこそ,本書は役に立つのではないかと思い至った.昔の知識からなかなか進歩せず,時に自己流に陥る私にとって,習得したと勘違いしていたcommon diseaseのガイドライン・知識を得る,またとないチャンスを与えてくれた.
以上のことから,この本を,子どもの診療に携わるすべての医師にお勧めする.

小児内分泌学会ガイドライン集

小児内分泌学会ガイドライン集 published on
小児科診療 81巻5号(2018年5月号)「書評」より

評者:横谷 進(福島県立医科大学 甲状腺・内分泌センター長)

このたび,一般社団法人 日本小児内分泌学会から診療ガイドライン集が刊行されました.さまざまな学会からガイドライン集が発刊されていますが,小児内分泌学の領域でも待望のガイドライン集が入手可能になりました.各領域が専門分化していくなかで,臨床小児内分泌学も独自の進歩を急速に遂げていることから,的確な診療のためにはこのようなガイドラインが必須になっています.
日本小児内分泌学会は,私が知る限りでも30年以上前からいくつかの疾患に対するガイドラインを公表してきました.その後に明らかになった多くの臨床的知見に基づく改訂や,新たに確立されてきた診療ガイドラインのあり方に即した改訂も必要になっています.こうした地道な作業は,学会内に設置されたガイドライン委員会が担うことにより着実に進められてきました.今回の刊行に際して,以前に公表されたガイドラインも含めて再点検されたことにより,最新のガイドラインになっているので,安心して利用することができます.
目次を見ただけで,どのようなガイドラインがあるのか(ないのか)がすぐにわかります.小児内分泌領域の診療ガイドラインを探すなら,まず,本書にあたってみることをお勧めします.

予防接種コンシェルジュ

予防接種コンシェルジュ published on

学術と臨床両面に携わってこられた中野教授ならではといえる良書

小児内科 Vol.47 No.10(2015年10月号) 書評より

書評者:高橋謙造(帝京大学公衆衛生学研究科)

小児科臨床,予防接種に携わる全ての医師たちにとっての必読書が現れた。研修医や,新規に予防接種事業に乗り出した開業の先生方などが,一度はつまずくポイントひとつひとつに配慮されているようで,非常に行き届いた内容の教科書である。長年にわたり,学術と臨床両面に携わってこられた(そして,われわれ世代にとってのロールモデルでもあり続ける)中野教授ならではといえる良書である。
実例を挙げよう。予防接種の有効率のようなアカデミックな内容が,平易に解説されている。実は,予防接種においては,有効率などを考慮せすとも安全な業務遂行は成立しうる。しかし一方で,患者さんにワクチンの必要性などについて納得して接種を受けていただこうということになると,少し掘り込んだ説明が必要にもなる。そういった時には,この知識は役立つであろう。また,疾病罹患後の接種や同時接種などの実務的な解説も,全てが平易な文章で書かれている。併用薬剤に関する記述などは,なかなか煩雑で調べにくい内容であるが,2015年6月時点での最新知見をまとめてある。さらに疾病別の解説に関しても「免疫原性の評価」といった項目があり,対象疾病の確定診断のためには,どのような抗体検査で調べるのが確実か?についてまとめてあり,非常に有益である。臨床家がどこで迷うか?について,知り尽くして書かれているのである。
欲を言うなら,最初の10ページほどはやや表が多い印象がある。情報量が多い図表で挫折する若手も多いので,この部分の情報は巻末に回すなり工夫が必要であろう。このあたりは今後の改訂に期待したい。
臨床医にとっても,研究や行政サービスなどで予防接種に携わる方々にとっても,必読の書であろう。


すべての予防接種に携わる医療関係者に本書をお奨めする

小児科診療 Vol.78 No.10(2015年10月号) 書評より

書評者:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科教授)

本書のタイトル『予防接種コンシェルジュ』は序文によると「予防接種よろず承り係」という意味とのことである.内容はまさにその通りで,理想的な予防接種実践の手引き書となっている.現場で困ったとき必要な手がかりが必ず得られるよう配慮された構成がなされている.本書の最大の特徴は単著であるということである.最初から最後まで著者のポリシーが貫かれており,たいへん読みやすい.
本書は3部で構成されている.Part 1「予防接種の基本とスケジュール」,Part 2 「接種の実際」,Part 3 「ワクチンの接種法,個別対応」の3部である.Part 1 とPart 2 が予防接種実践書としての根幹部分である.Part 1で特に目を引くのが,同時接種や筋肉内注射などホットなテーマに個別に項目が割かれていることである.ワクチンの有効率の解説も有用である.Part 3 はワクチンの各論部分である.多くのワクチンが含まれるため個々の解説の紙面は限られるが,その中で「免疫原性の評価」は必ずふれられていて,著者のこだわりを感じる.
本書には全体にわたり日本の複雑な予防接種制度の変遷とその経緯の理解に役立つよう,随所に歴史的解説が挿入されているのも特徴である.さらに限られた紙面の中で情報が吟味されており,予防接種に不慣れな方はもちろん,ベテランの方でも必ず必要な情報が得られる良書である.文体も平易で読みやすい.日本の予防接種普及に資する必携の書である.すべての予防接種に携わる医療関係者に本書をお奨めする.

総合小児医療カンパニア 移行期医療

総合小児医療カンパニア 移行期医療 published on

具体的な小児疾患の移行期における問題と解決策がわかりやすく記載されている

小児科診療 Vol.78 No.9(2015年9月号) 書評より

書評者:五十嵐隆(国立成育医療研究センター理事長)

かつて,わが国では血液悪性腫瘍,先天性心疾患,神経筋疾患などの重篤な慢性疾患をもつ子どもや低出生体重児の生命予後は悪く,成人にまで到達できないことが多かった.近年の医療の進歩は慢性疾患の子どもの生命予後を劇的に改善させ,その結果として,疾患やその後遺症を抱えて成人に至る患者が増加している.
成人になっても治療が必要な患者だけでなく,新たな後遺症への対策が必要な患者も少なくない.さらに,長期間にわたる入院生活や治療のために学校・社会生活を送るうえで何らかの障害をもち,悩んでいる患者もみられる.身体・発達・行動・精神状態に慢性的な障害があり,何らかの医療や支援が必要な子どもが,米国では17歳の時点で17%を占めており,わが国でも同様である.こうした状況をふまえ,日本小児科学会は移行期の患者とご家族に対する保健・医療と社会的支援がこれからのわが国の大きな課題と認識し,2014年に移行期医療に関する基本的な考えを提言として公表した.慢性的に身体・発達・行動・精神状態に障害をもち,何らかの医療や支援が必要な子どもと青年がself-esteemをもって社会の一員として活躍できるようにするために,彼らとご家族を支援する医療・保健・福祉をわが国に充実させることが責務であるからである.
本書では,わが国の移行期医療の現状,移行期医療に関する基本的な考え方,主として米国における移行期医療の先進的取り組み,そして,様々な具体的な小児疾患の移行期における問題と解決策がわかりやすく記載されている.わが国における今後の移行期医療をより適切に実践するうえで,本書は明らかな道筋を示していると強く感じた.小児医療に携わる方が本書をご一読いただき,多くの方々の力を結集して,わが国の移行期医療を発展させていただきたい.

ビギナーのための小児内分泌診療ガイド

ビギナーのための小児内分泌診療ガイド published on

実臨床に即応して内分泌系の基本的なしくみを理解しながら用いることができる診療ガイド

小児科診療 Vol.77 No.7(2014年7月号) 書評

書評者:雨宮伸(埼玉医科大学小児科教授)

本書は有阪教授の画期的アイデアにより,巻頭に,小児内分泌疾患で遭遇する症候や異常から記述ページにたどり着く目次・索引機能,年齢ごとのホルモン変動,視診で認める症候,成長異常を認める症候群がQuick Indexとして掲載されています.
また,一般小児科医,特に小児内分泌学のビギナーにとって基本的理解が進みやすいように,Part 1 「ホルモンの作用と病態」,Part 2 「さまざまな症状や検査異常への対応と診断,治療」,Part 3 「救急処置」の3つで構成されています.そこでは,従来の教科書的な疾患別の解説と異なり,実臨床に即応して内分泌系の基本的なしくみを理解しながら用いることができる診療ガイドとなっています.さらに,テーマごとのエッセンスが“Consideration points”として冒頭にまとめられ,重要語句は“Keyword”として解説されています.
本書は小児内分泌学を取りつきにくい分野ととらえている一般小児科医のみならず,本格的に小児内分泌をサブスペシャルティーにしようと考えているビギナーにとっても,患者に遭遇するたびにくり返し活用でき,明日の診療に役立てていただける絶好の診療ガイドです.
楽しく学べる小児内分泌学を目指した有阪教授の意図が随所に認められ,ぜひ一度手に取っていただきたい良書として推薦いたします.

総合小児医療カンパニア 乳幼児を診る

総合小児医療カンパニア 乳幼児を診る published on

小児臨床に携わる方は是非一読を

小児科診療 Vol.78 No.5(2015年5月号) 書評より

書評者:堀内 勁(聖マリアンナ医科大学小児科)

小児科の実地診療では本来の疾病治療から疾病予防と育児支援へとその内容が広がってきている.特に育児支援は,症状から病因を探り治療するという,通常の医療の取り組みだけでは足りない.
本書は育児支援を自然科学と人間科学とをあわせた視点で捉えることから始め,子どもの成長発達と親としての成長,それに伴う育児不安までを視野に入れた構成となっている.また,成長発達に伴うつまづきについても簡潔に要点が捉えられ,小児科医としてどのように対処すればよいかが述べられている.
実際に乳児健診の場で傷つけられ,自信をなくして,私のもとに相談にみえる家族は少なくない.小児科医として育児支援に携わっていると,自分の知識は仮説の集まりにすぎず,親子1組ずつの真実はすべて同一ではないことに気づく.
私たちが親子を評価し,判断し,挙げ句の果てに品定めをするのではなく,親子をとりまく環境や,子育ての物語を傾聴することで,その物語の流れの中で問題が解消していくように支えることができる.いってみれば,解決型の小児科臨床から解消型の育児支援への転換が期待される.小児臨床に携わる方は是非一読をお薦めする.

総合小児医療カンパニア 小児科医の役割と実践

総合小児医療カンパニア 小児科医の役割と実践 published on

奇妙にして,稀有なる本

小児科診療 Vol.76 No.12(2013年12月号) 書評より

書評者:岩田健太郎(神戸大学医学部教授)

本書は一見,実に奇妙な本である.でも,得心した.本書は「小児医学」のテキストではなく,「小児医療学」のテキストなのだ.
たとえば,地域や行政とのかかわりかたを論じる教科書は稀有である.しかし,予防接種の公費負担を勝ち取るためのノウハウは,小児科医としてはぜひ教えてほしいところだろう.子育て関連支援法についてだって学びたい.現代小児の周辺にある衣食住の現実(レトルト食品の売上とか)も知りたい.小児慢性疾患患者の成人医療へのトランジションも切実な問題だ.本書にはこうした現場の切実な問題が(たぶん)すべて網羅されている.
自分たちが有効活用されるためには,家庭での小児のケアが重要になる.小児が発熱したとき,どのように家庭でケアできるのか.ふつうのテキストは医療が何を提供するのかを語る.本書は医療が提供しなくてもよい条件を検討する.
あるいは,時間外診療のありかた,電話のかけかた.いずれも現場における切実な問題で,どれも(ふつうの)教科書には書いていない.学校でも教えてくれない.保護者に電話で「大丈夫でしょうか」と言われたとき,どう答えるか.「ご心配だったら,受診してください」は通俗的な回答だ(ぼくもよくそう言っていた)が,相手の欲するのはそういうことではない.では,どう答えればよいのか.それは本書の103ページに書いてある.
とくに感心したのは,「他科協働」というセクションを設けていることだ.眼科との,耳鼻科との,歯科との,整形外科との協働のありかた.実に必要なスキルだが,Nelsonにはこういうセクションはないし(18版),Rakelの家庭医学にもない(8版).他科との協働はスローガンとしてはよく聞かれる.本書ほど具体性をもってそれを示した教科書をぼくは他に知らない.
本書はおそらく,きわめて厳しい環境下で歯を食いしばる小児科医たちの切実な魂の結実である.教科書を読んで感動することは,まずない.でも,本書には心が震えた.