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ENT臨床フロンティア  口腔・咽頭疾患 歯牙関連疾患を診る

ENT臨床フロンティア  口腔・咽頭疾患 歯牙関連疾患を診る published on

視診がとても重要な領域だからこそ,豊富な臨床写真やイラストが生きてくる

JOHNS Vol.30 No.2(2014年2月号) 書評より

書評者:氷見徹夫(札幌医科大学医学部耳鼻咽喉科学講座)

本書は10巻より構成される(ENT臨床フロンティア)シリーズのひとつである。「口腔・咽頭・歯牙疾患」をテーマとしてその日常診療に主眼を置いた内容で,鹿児島大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授の黒野祐一先生によって編集されている。まさに“多忙な臨床医でも読みやすく,臨床にすぐ役立つような実践的なものを”という本シリーズの方針通りで,充実した内容だけでなく,本の構成に関しても工夫が凝らされていて読みやすい本というのが第一印象である。
文字ばかりの成書も多いが,本書は臨床写真やフローチャート,表,グラフなど視覚に訴えるものが多い。特に執筆の諸先生が提供してくれた貴重な臨床写真は,基本的には視診が可能である口腔咽頭領域ではとても参考になる。また,本文の他にキーワードや注釈がサイドメモとして記されていることや,最近の話題や日常診療のコツをTips,Advicesなどにまとめていること,さらに患者への説明実例集やイラスト集まで掲幟されていることも本書の特徴である。
本書は領域別に3つの章から構成されている。
第1章は口腔疾患で,舌や口腔粘膜病変,性感染症についてはことさら局所写真が豊富でアトラスとしても使用できる。診断,治療に難渋することも多い口腔乾燥や味覚障害,口臭,舌痛に関しては,原因の鑑別診断や検査法,具体的な治療法がわかりやすく記載されている。
第2章は咽頭疾患で,急性咽頭・扁桃炎や性感染症などの炎症性疾患,睡眠時無呼吸症候群や扁桃病巣疾患などの扁桃関連疾患が中心である。手術適応や抗菌薬の使用法については,若手ドクターはもちろんのこと,専門医やベテランの先生まで参考になる。
第3章は歯牙に関連する疾患で,まさにわれわれの盲点を突いた内容だ。耳鼻咽喉科医なら一度は,診察して何かおかしいことに気づいたとしても,何の病気なのかわからずに歯科受診を勧めた経験があるだろう。歯科領域の代表疾患について述べられている点も特筆すべきことである。
本書にはさらに患者への説明書類実例集,説明用イラスト集がある。口腔咽頭領域の手術説明はもちろん,難治性口内炎や咽喉頭異常感症など比較的説明が難しい疾患についても患者用にわかりやすくまとめられており,これはクリニックにおいてもすぐ使えるであろう。イラスト集は中山書店のウェブサイトから画像をダウンロードできるようになっていて,早速手持ちのタブレットに保存したくなる。
視診がとても重要な領域だからこそ,豊富な臨床写真やイラストが生きてくる。臨床研修医から耳鼻咽喉科専門医,また口腔咽頭を診察する内科医にも役立つ臨床書。机上で読むだけでなく,診察室にも置いておきたい一冊である。

見逃してはいけない 耳・鼻・のどの危険なサイン

見逃してはいけない 耳・鼻・のどの危険なサイン published on

耳鼻咽喉科医が診察の際に座右に置くべき1冊

JOHNS Vol.33 No.1(2017年1月号) 書評より

書評者:武田憲昭(徳島大学医学部耳鼻咽喉科学教室)

耳鼻咽喉科の多忙な外来診察において,うっかり注意を向けなかった症状や所見が,後になって重大な疾患の初期であったことに気づいてヒヤリとした経験は,臨床医であれば必ず記憶にあると思われる。その時にお勧めしたいのが,新潟大学耳鼻咽喉科教授の堀井 新先生と浦野耳鼻咽喉科医院(新潟市)院長の浦野正美先生の編集による本書である。耳鼻咽喉科外来診察で見逃してはいけない危険な疾患の鑑別をテーマに,耳鼻咽喉科の外来診察で経験する耳・鼻・口腔・のど・顔面頸部に関する35の主訴を網羅し,主訴ごとに共通した構成で解説が行われている。
まず,主訴から想定して説明すべき5大疾患には,頻度の高い疾患に加えて,頻度は低いものの外来診療で決して見逃してはいけない危険な疾患が挙げられている。次に見逃してはいけない危険な疾患の鑑別診断のポイントと,それに対応する診断の進め方を示すフローチャートがあり,危険なサインである重大疾患の徴候が挙げられている。
場面による注意点と検査と診断の注意点には,危険なサインを見逃さないためのポイントが列挙されていてわかりやすい。フローチャートによる系統だった診断の進め方に加えて,診断基準や疫学も記載されていて,日常診療においても十分に役立つ内容である。また,見逃してはいけない疾患の実際の症例も,写真を多用して具体的に紹介されていて,興味深く読むことができる。さらに,主訴の発症メカニズムも図を多用して説明されていて,理解が深まる。患者の年齢や性別だけでなく,気質による対応も記載されていて,非常に具体的である。最後に患者説明のためのイラスト集が付けられている。
この本の構想は,浦野先生が医院のホームページに作られた主訴から推定できる疾患の患者さん用の説明サイトがもとになっているとお聞きした。この構想を堀井先生が発展させて新潟大学耳鼻咽喉科の先生が中心となって執筆していることは本書の特徴である。真摯に患者に向き合う浦野先生と,堀井先生をはじめとする新潟大学耳鼻咽喉科の知恵が詰まった1冊になっている。
優れた医師の定義はさまざまだが,患者の訴えからできるだけ多くの鑑別疾患を考えることができる医師は優れた医師である。本書は熟読することで鑑別診断の引き出しを増やすことができる好著であり,外来でのヒヤリハットを避けるためにも,われわれ耳鼻咽喉科医が診察の際に座右に置くべき1冊として推薦したい。

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科イノベーション-最新の治療・診断・疾患概念

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科イノベーション-最新の治療・診断・疾患概念 published on

どの単元もコンパクトにまとめられ、どの単元から読み始めても理解しやすい

ENTONI No.197(2016年9月号) Book Reviewより

書評者:佐藤公則(佐藤クリニック耳鼻咽喉科・頭頸部外科・睡眠呼吸障害センター)

実地臨床の日常診療で遭遇する実践的なテーマを中心にとり上げ、診療実践のスキルと高度な専門知識をわかりやすく解説した実践的な《ENT臨床フロンティア》シリーズ10冊が創刊されて4年あまりが経過した。多くの耳鼻咽喉科医に愛読され好評を博しているシリーズであるが、その続編として『耳鼻咽喉科イノベーション』が刊行された。
本書を手にしてまず思ったことはそのタイトルである。イノベーションとは経済学者J. Schumpeterにより、経済成長の原動力となる革新を指す広義な概念として用いられ、日本でもその概念で語られることが多い。しかし本来の英語としては、色々な分野における新しいアイデア、新手法、発明を意味する。本書を手にし、耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の新しいアイデア、新手法が豊富に解説されていることに心を躍らせながら、本書を紐解いた。
近年、ガイドライン、標準的治療にとらわれすぎているのではないかと思うことが多々ある。特に疾病に罹患した患者を最初に診察する開業医に、標準的治療が要求されているとも言われる。プライマリケアにおける外来診療は、患者に医療を施す第一歩である。診断能力の向上は、臨床医にとって日々研鑽し獲得すべきものであり、そのためにはガイドライン、標準的治療も有用である。しかし実際の臨床では、診断がついてもその病態は一様ではない。また複数の疾患、複数の病態が関与している場合もある。また診断に基づいた治療というよりも、病態に応じた治療が求められる場合もある。診断能力を日々向上させる努力は必要だが、一方で疾病を病態としてとらえ、疾病の病態をよく診る診療を行うことも大切である。その上で人としての患者を診る全人的医療を行うことが臨床医の使命である。
病態に応じた治療を行うためには幅広い医学的知識と経験が必要になる。一人で診療を行うことが多い診療所の診療では独善的になる傾向があり、最先端医療の知識を得ることが容易ではなくなる。開業医に最先端医療の知識は必要ないという意見もあるが、私はそうは思わない。最先端医療を含めた幅広い医学的知識がなければ、病態に応じた治療選択肢を患者に提示できないばかりか、全人的な医療は行えない。専門医自身が自覚して研鑽に努めなければ、患者に最良の医療を提供できないばかりか、患者の信頼と他科からの信頼を得られない。
そうは言っても実地臨床の現場では、最先端医療の知識を手際よく習得することは容易ではない。そのような中で耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域において研究・開発・実用化されているイノベーションの数々、改訂ガイドラインや最新の検査・治療法をはじめ、機器の改良・開発、新しい疾患概念などに焦点を当ててわかりやすく解説されている本書は、どの単元もコンパクトにまとめられ、どの単元から読み始めても理解しやすい。日々の診療でさらにステップアップを目指している開業医にとって、本書は良き指南書であることを確信する。

実践!耳鼻咽喉科・頭頸部外科オフィスサージャリー

実践!耳鼻咽喉科・頭頸部外科オフィスサージャリー published on

明日から,いや今日から役に立つ

JOHNS Vol.32 No.6(2016年6月号) 書評より

書評者:大森孝一(京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科)

耳鼻咽喉科・頭頸部外科の取り扱う領域は,耳,鼻副鼻腔,口腔,咽頭,喉頭,気管,食道,頭頸部と幅広く,それぞれ病態や治療手技は異なっている。耳鼻咽喉科医はこれらの領域に幅広くかつ高いレベルで対応する必要があるが,そう簡単ではない。本書は,佐藤公則先生が久留米大学病院で手術されていたころの経験を原点として,大分市で有床診療所として開業されてきた約23年間の手術治療のうち,主に局所麻酔で実施できるオフィスサージャリーについてまとめたものである。日常臨床で蓄積された智恵と技術がぎっしりつまっている。市中病院で行うような手術や処置を診療所で実現しておられ,カバーする疾患の多さに驚く。各項目では手術のポイントを最初にあげて,術中写真や手術シェーマをふんだんに使って理解を助けている。医療機器や記録装置などについて具体的に記述されているので,新たに始める読者にわかりやすい。内視鏡写真,CTだけでなく病理写真が豊富に載っていて,学術的な深みを感じる。
佐藤先生は術者にとって何百例,何千例の手術の中の1例であっても,患者にとっては一生に一度の手術であり,オフィスサージャリーに固執することなく,患者,医師,医療機関に適した手術の適応と限界を設定するべきであると書かれている。患者一人ひとりを考えて真剣に治療方針を決定されている臨床態度が伺える。また,佐藤先生は喉頭科学の基礎研究を継続しておられ,その成果が毎年のように海外一流医学誌に掲載されている。基礎研究への情熱と同時に,本書のような実践的な著書を出されることに舌を巻くと同時にただただ尊敬の念を感じている。耳鼻咽喉科疾患を幅広くカバーして質の高い医療を提供するスーパー開業医はもう出てこないかもしれないが,臨床や研究に対する態度を少しでも若い医師に見習って欲しい。
本書は,市中病院で手術治療を行っておられる医師に有用であることは間違いないが,診療所でもできる内容を満載している。将来の耳鼻咽喉科開業医像の1つを示しており,一部でも参考にしてオフィスサージャリーを実践していただければ,より専門力の高い開業医として評価されると思われる。日常臨床で標準的な手術手技を確認する際や難しい病態で手術に工夫が必要な際に,それぞれの項目を見ていただきたい。きっと明日から,いや今日から役に立つと確信している。

耳・鼻・のどのプライマリケア

耳・鼻・のどのプライマリケア published on

これまでになかった新しい耳鼻咽喉科クリニカルトレンド

ENTONI No.166(2014年5月号) Book Review

書評者:黒野祐一(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学)

まさしく本書は“これまでになかった”耳鼻咽喉科外来診療の教則本であり,しかもその最先端が凝集されている.このことは,本書の執筆者が,実地医家でありながら現在国内外の学会で活躍し,数々の学会賞を受賞されている,今まさに時の人ともいえる佐藤公則先生であることから容易に想像できる.
本書の第1章には,まず「①耳鼻咽喉科外来診療に求められること」として,耳鼻咽喉科外来診療とくにオフィスサージャリーを行う際に留意すべきポイントが具体的に記されている.そして,これに続く第2章からは,②耳を診る,③鼻・副鼻腔を診る,④口腔・顎顔面を診る,⑤咽頭・喉頭を診る,⑥気管・食道・頸部を診る,⑦音声・言語を診るとして,それぞれの領域における代表的疾患の診断や保存的治療,さらに外科的治療の手技やコツが詳細に記されている.最近は大学病院など基幹病院でも外来手術が行われるようになり,また,多くのサージセンターが設置され,オフィスサージャリーが注目されている.しかし,その多くは複数の耳鼻咽喉科医で実施されており,一般の実地医家にはあまり関係が無いように思われるかもしれない.ところが,佐藤先生はただ一人でこれらすべての領域の診療そして手術を行い,本書に提示されている症例はいずれも先生の自験例である.それゆえに本書は大きな説得力を備えている.
本書の各論にも特色がある.たとえば,「デンタルインプラント治療に伴う上顎洞合併症に耳鼻咽喉科はどう対応するか」,「口腔粘膜疾患の診方・考え方」,「耳鼻咽喉科診療所における睡眠医療への取り組み」,「耳鼻咽喉科外来における音声治療への取り組み」等々,それぞれの専門書にはあっても,プライマリケア関連の書物ではほとんど取り扱われなかった事項である.その理由は,佐藤先生のクリニックが「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」だけでなく,同院の理事長であるお父様が歯科医であることから「歯科口腔外科」も標榜し,さらには「睡眠呼吸障害センター」と「ボイスセンター」を併設していることから納得できる.しかも,一般的な事柄に加えて,国内外の雑誌に掲載された先生ご自身の論文を引用した最新の情報も含まれ,非常に読み応えのある内容になっている.また,随所に鮮明な写真やイラストが挿入され,さらにアドバイス,コツ,メモ,ピットフォールなど著者のコメントが付記されており,とても理解しやすく,かつ楽しく読むことができる.
本書の「はじめに」に“医学と医術を研鑽する”というメッセージがあり,「鋭く観察し,深く思考し,洞察する努力をすることが医師としてのProfessional Careerの中で大切である」と記されている.基礎研究に今も携わっている佐藤先生の哲学をそこにみることができる.本書は単なる教則本ではなく,耳鼻咽喉科外来診療の新たなトレンドを示し,読者にもそれを実践する勇気を与えてくれるのではないか,そう予感させる一冊である.

耳鼻咽喉科 早わかり 漢方薬処方ガイド

耳鼻咽喉科 早わかり 漢方薬処方ガイド published on

臨場感あふれる漢方医学の入門書であり専門書の内容を持つ医学書

ENTONI No.181(2015年6月号) Book Reviewより

書評者:峯田周幸(浜松医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科)

現在では漢方医学の授業がすべての大学でおこなわれており,漢方医学に違和感をもつ医師はほとんどいないと思われる.また今までに処方をしたことがないという医師もいないであろう.漢方薬が特集される雑誌はいくらでもあるし,勉強しようと思えば教科書はいくらでもある.しかし決め手となる成書といわれるものはない.漢方薬の処方にあたって,身体所見の把握とそれに基づく実際の処方内容(西洋医学との関連において)を簡潔に述べているものは極めて少ない.耳鼻咽喉科に限れば皆無であろう.
どうも治りが悪く,他に方法がないし,副作用もなさそうだから漢方薬でも出して終わろうか,そんなことを考えている先生はいませんか? 漢方薬も奥深くエビデンスのある薬であるとは思っていても,何をいつ処方すればいいのか,患者になんて言えばいいのか,そんなことで悩んでいる先生はいませんか? そうした先生方に本書は必携の教科書である.
第1章は「耳鼻咽喉科で漢方薬を使用するにあたって」で,簡潔に漢方の基本と使用するに当たって患者を前にした対応まで述べられている.付録に資料集もあり,漢方薬使用にあたって虚一実,陰一陽のとらえ方が述べられ,漢方薬の基礎を学ぶことができる.是非この章を読まれてから次の各疾患の実例を見ていただきたい.同じ症状であっても患者の状態により,異なる処方をする根拠とその漢方薬の種類を知ることができる.「効きが悪いとき何を考えるか」このようなテーマを真正面から取り扱ったものが今までにあったであろうか.
第2章では19疾患と処方に注意すべき子供・老化・合併症を持つ患者などへの実際の処方例とそのポイントが述べられている.外来診療中に必ず経験する19疾患(病態)であり,すべての耳鼻咽喉科医にとって必ず役立つ内容である.各項では,まずその項にでる漢方薬がすべて羅列されていて,疾患と漢方薬との関連がインプットされる.そしてはじめに疾患の簡単な総説があり,現在の標準的な治療法が述べられる.西洋医学を中心にした従来の治療のエッセンスが詰まっている.次に薬物療法のフローチャートが示され,漢方薬のしめる位置やどの段階で使用するのか,どういった漢方薬を使うのか述べられている.専門家が長年蓄積したデータがないと示されにくいものであるが,簡潔に示されていて,初心者にとっては至れり尽くせりなものとなっている.そして実際の処方例が提示されるが,ここでも従来とは異なって,同じ症状であっても患者の状態や訴えによって処方をどのように変更するか,極めて具体的に示されている.漢方薬には副作用はないと思いやすいが,そうではないことが次のテーマで述べられる.それは副作用症状の羅列ではなく,その予防法や対処法も記載されている.ここまで理解して初めて,自信をもって漢方薬に限らず全ての処方ができるものであろう.最後がインフォームド・コンセント(IC)になっている.特に漢方薬の処方にあたって,どのようにICを得るか,そこまで丁寧に説明されている成書を私は知らない.
本書は専門家によりわかりやすく簡潔に,しかもエビデンスをもって書かれている.患者を前にして書いているような臨場感あふれる漢方医学の入門書であり,かつ専門書の内容を持つ医学書である.一人でも多くの耳鼻咽喉科医の手許においていただき通読されれば,必ず外来診療の助けとなると,自信を持ってお勧めできる本である.付録の漢方薬資料集も一読をおすすめしたい.

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科 最新薬物療法マニュアル-選び方・使い方

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科 最新薬物療法マニュアル-選び方・使い方 published on

枠外解説を読んでいるだけでかなりの知識を得ることができる

JOHNS Vol.31 No.4(2015年4月号) 書評より

書評者:飯野ゆき子(自治医科大学附属さいたま医療センター耳鼻咽喉科)

ある講演会で市村恵一先生のご講演を拝聴する機会があった。ご講演のタイトルは「薬を上手く使うコツ」である。日常臨床に則したお話で,感冒薬から抗菌薬,副腎皮質ステロイド,さらには漢方薬まで幅広い視点からお話をいただいた。聴衆一同感銘を受けたのは言うまでもない。このご講演のように,わかりやすくまた楽しく知識が得られる薬剤に関する本があればいいなあと感じた次第である。この想いがこの度実現した。 ENT臨床フロンティアシリーズ「耳鼻咽喉科最新薬物療法マニュアル―選び方・使い方」である。市村恵一先生が専門編集を担当されている。まさに先生のご講演を拝聴して感じた想いをそのまま著書としてまとめていただいた感がある。
内容に少し触れてみたい。28章から成り立っている。最初の2章は薬物療法の基本的知識に関してである。第1章は「各症状に対する薬物の適応と選び方」,第2章は「薬物の有害事象とその対策」。第1章ではP-drug(personal drug)という概念についても言及されている。P-drugはあまり馴染みのない言葉であるが,日本語では“医師個人の薬籠の中の薬”ということになる。多くの医師が臨床の場で薬剤を選択していく過程は以下のように認識されている。まず先輩医師に習って処方し,薬の名前や薬理作用を徐々に覚え,自分なりの処方にアレンジしてゆき,自分の経験をフィードバックして更にいろいろな薬剤の組み合わせを工夫する,という過程である。しかしこれは独断的になりがちでエビデンスに乏しいと指摘されている。1995年,WHOによりP-drugの概念が医薬品の適正使用の出版物のなかで述べられた。P-drugは「私の薬籠」に留まることではなく,薬剤に関するすべての情報を完全に把握し,患者個々の病態に応じた適切な薬物を選択するための過程を含んでいる。P-drugに沿った診療の流れに関しては本書の中で詳細に解説されている。
第3章からは抗菌薬から健胃薬まで22種類の内服あるいは全身投与薬剤に関する解説,25章からは点耳薬,点鼻薬,口腔用薬,軟膏・クリームといった耳鼻咽喉科で頻用されている外用薬についての解説である。一般的な薬理作用,有害事象,注意すべき事項,適応等,これらは『今日の治療薬』やこれまでの薬物療法に関する種々の書物に記載されていることとさほど大差はない。しかし本書の素晴らしい点は“Advise”“Tips”“Topics”“Column”といった別枠がもうけられており,まさに臨床の場で最も知りたい薬物療法に関する知識,あるいは疑問点に対する解答がちりばめられていることである。たとえば頸部膿瘍等の嫌気性感染症に対する抗菌薬治療。これまではクリンダマイシンを用いることが多かった。近年ではクリンダマイシンの嫌気性菌に対する耐性化が指摘され,この神話が崩壊している。この点に関しても詳細に解説されている。このように枠外解説を読んでいるだけでかなりの知識を得ることができる。
困った時に頼りになる1冊であることは間違いないが,パラパラめくって読んでいても非常に楽しく,また勉強になる1冊である。市村恵一先生が“序”で書かれている「読者に,本書を座右のレファランス書として脇机に君臨させるのみならず,ある程度通読してもらいたいと思う」という願いが込められたすばらしい書と考える。是非ご一読願いたい。


レファレンス書としてばかりでなく「読み物」としての魅力に満ちている

ENTONI No.175(2015年1月号) Book Reviewより

書評者:丹生健一(神戸大学耳鼻咽喉科頭頸部外科)

この度《ENT臨床フロンティア》シリーズとして中山書店から『耳鼻咽喉科 最新薬物療法マニュアル』が発売された。編集は多くの雑誌や書籍の企画をされてきた自治医科大学名誉教授 市村恵一先生である。
耳鼻咽喉科疾患に対して処方される薬剤は、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、消炎鎮痛剤、粘液溶解薬、抗ヒスタミン薬、副腎皮質ステロイド薬、粘液溶解薬、抗ヒスタミン薬、抗止血薬などの内服薬、点耳薬、点鼻薬、軟膏・クリームなどの外用薬等と多岐にわたる。本書では、それぞれの薬剤について、適応や使い方・選び方、注意すべき副作用など、最新の情報にもとづいて第一線の医師により解説されている。漢方薬も大きく取り上げられ、主な疾患に対する処方例が具体例に示されているのが有り難い。従来処方薬であったものが次々とOTC薬品として薬局やドラッグストアで販売されるようになってきた時代に応え、関連する一般市販薬や他科の薬剤についても説明が加えられている。
クラシックな切り口に加え、使い方のコツが「Tips」に、日々の臨床で出会う疑問や迷いへのエキスパートからの回答が「Advice」に掲載され、「Topics」に最新の話題も紹介されているのも本書の大きな特徴である。いずれの項も各執筆者の熱意が感じられる素晴らしい出来で、レファレンス書としてばかりでなく「読み物」としての魅力に満ちている。編集者の狙いが見事に成功し、類書と一線を画する耳鼻咽喉科医師必携の薬物療法ガイドとなった。座右の書として診察室に備えるだけでなく、教科書として通読することをお勧めする。
いうまでもなく、薬物療法は局所処置や手術とならび、耳鼻咽喉科診療の大きな柱である。特に外来では、薬物療法は耳鼻咽喉科診療の根幹をなしている。個々の患者の病態を総合的に把握し、最適な薬物療法が選択されることが求められる。読者の皆さんは、先達の教えや様々な経験に基づいて自分なりの薬の使い方―スタイル―を築き上げておられると思うが、ぜひ、日常診療に本書を活用することにより、自らのスタイルを見つめ直す機会を持っていただきたい。

ENT臨床フロンティア 子どもを診る,高齢者を診る 耳鼻咽喉科外来臨床マニュアル

ENT臨床フロンティア 子どもを診る,高齢者を診る 耳鼻咽喉科外来臨床マニュアル published on

実践的かつ教育的な外来診療マニュアルとなっており、是非診察室に備えていただきたい一冊

ENTONI No.173(2014年11月号) Book Review

書評者:小川郁(慶應義塾大学耳鼻咽喉科)

《ENT臨床フロンティア》は耳鼻咽喉科の日常臨床に直結するテーマに絞ったシリーズで、臨床現場のニーズを反映した実践的かつ教育的な外来診療マニュアルとして好評を得ている。今回、山岨達也教授の企画、編集による『子どもを診る 高齢者を診る』がシリーズの第9弾として発刊された。子どもと高齢者を対象とした耳鼻咽喉科の外来診療マニュアルは私の知る限りでは初めての企画である。
少子高齢化が進む近年の耳鼻咽喉科の日常臨床では、患者の年齢構成のみならず疾患体系や治療戦略が急速に変化している。例えば少子化が進む小児医療の現場では、急性中耳炎や滲出性中耳炎、アレルギー性鼻炎の診療ガイドラインに基づく診療が求められるようになっており、また、小児難聴の早期診断や早期対応も耳鼻咽喉科医の重要な役割となっていることから、そのための最新の知識が必要になっている。一方、世界に先駆けて超高齢社会を迎え、高齢者、特に75歳以上の高齢者を診る機会がますます増加していることから、健康年齢の高齢化から手術適応を含めた治療戦略についての新たな知識が求められている。このような背景から本企画では小児と高齢者に特有な耳鼻咽喉科疾患の診療として、それぞれの「診療の進め方」、「診療のコツと注意点」、「治療上の注意点」を総論として提示し、各年齢における日常臨床で重要な耳鼻咽喉科疾患を各論としてまとめている。
特に山岨達也教授が重点的に取り上げたのは小児難聴の診療である。一側聾に次いで先天性高度難聴を遺伝性難聴と胎生期感染症、内耳奇形に分けてそれぞれの診断法について分かりやすく解説している。また、重複障害の影響についても一項目として取り上げている。治療に関しては補聴器装用のコツ、人工内耳の適応評価と成績について解説しており、人工内耳の登場によって劇的に変化した小児難聴診療における耳鼻咽喉科医の責任に応えるための充実した内容になっている。
もちろんその他の項目も力の入った読み応えのある内容である。特にすべての項目で診断から治療に至る考え方についてフローチャートでまとめており、診療の流れにより反映しやすい工夫となっている。また、最後には診療に役立つ資料集として、高齢者に対してとくに慎重な投与を要する薬物のリスト、高齢者に多い合併症と使用を控えるべき薬剤、そして学校健診のための市立幼稚園用、小学校用、中学校・中等教育学校・高等学校用の耳鼻咽喉科保健調査票を掲載しており、それぞれ大変役に立つ資料になっている。
日頃から日常臨床の合間に活用できる、まさに実践的かつ教育的な外来診療マニュアルとなっており、是非診察室に備えていただきたい一冊である。

ENT臨床フロンティア  のどの異常とプライマリケア

ENT臨床フロンティア  のどの異常とプライマリケア published on

随所に見られる治療側と患者側にたいする心くばり 日常診療の常備書として推薦したい一冊

ENTONI No.160(2013年11月号) Book Reviewより

書評者:小宗静男(九州大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科分野)

われわれ耳鼻咽喉科医にとって『のどの異常』を訴えてくる患者を診ることは日常茶飯事のことである.特に高齢者社会に突入しこれからさらに増加することは間違いない.しかしこのような訴えを持つ患者の裏に潜む疾患と病態を的確に捉えることできる知識と治療経験を多くの耳鼻咽喉科医が身につけているかというと,はなはだ心許ないのではないだろうか.私は耳科学が専門であるが立場上専門領域以外の知識は年ごとに遅れていくのを痛切に感じている.このたび本書を読む機会があり,またこの分野の知識不足も手伝って一気に通読させていただいた.読後の感想を一言で言うと,咽頭・喉頭疾患についての診断から治療までの概念がリフレッシュされ最新の知識とともにコンパクトに頭の中に整理整頓された感じがする.まさに実地医家をターゲットとしたプライマリケア書といえる.
本書は咽頭・喉頭疾患を網羅的にのべるのではなく診療に際して重要な事項を中心に実践的に解説することを目的としてある.総論としては3項目に分けてのべてあるが,まず「のどの異常」の三主徴,すなわち「咽頭痛」「嗄声」「嚥下障害」を訴える患者に対しての診療の流れについてフローチャートを用いて解説してあり大変わかりやすい.次に診断に必要な主な検査についてその意義,手技上の注意点なども含めて実地ですぐに役立つようのべてある.治療の実際では一般診療所でも行える手術を取り上げている.各論はこれも3項目になっており,咽・喉頭疾患,声帯麻痺,嚥下障害について最新の治療法を含め詳しく解説してあり,知識のリフレッシュができた.本書で特徴的なのは各ページのサイドメモである.見逃しそうであるがじつは大切な事項をワンポイントでのべてあり,貴重な知識として生かされる.また付録としての患者説明用の各疾患別の書類とわかりやすいイラストの資料集も実地医家にとって,とてもありがたいものである.このように,本書はその内容はいうまでもなく,編集者の治療側と患者側にたいする心くばりが随所に見られ,すばらしい本に仕上がっている.日常診療の常備書としてぜひ推薦したい一冊である.

ENT臨床フロンティア がんを見逃さない-頭頸部癌診療の最前線

ENT臨床フロンティア がんを見逃さない-頭頸部癌診療の最前線 published on

さらなる診断学の進歩が治療に反映される時代がきていることを強く感じさせる良書

耳鼻咽喉科・頭頸部外科 Vol.85 No.9(2013年8月号) 書評より

書評者:海老原敏(練馬光が丘病院,国立がんセンター東病院名誉院長)

『がんを見逃さない―頭頸部癌診療の最前線』は,《ENT臨床フロンティア》シリーズの5冊目となるものである。シリーズ刊行にあたって,編集委員が目的とした「実戦重視」耳鼻咽喉科診療の第一線ですぐに役立つという趣旨に沿って,頭頸部癌診療の現状について提示され,必要なことも網羅されている。
第2章の「頭頸部のさまざまな症状」では,日常診療でどのような場合に癌を疑い,その場合どのように対処すればよいかが,症状別に書かれている。それぞれ貴重な体験に基づいて書かれており,本書にあることをすべて実行できれば日常の癌診療では十分であろうといえるほどである。「頭頸部の前癌病変」にも章を設け,8頁を費やしている,前癌病変とはよく耳にする言葉であるが,実態はないに等しく,前癌病変という定義すらはっきりしていないし,粘膜内のとどまるいわゆる表在癌についても,病理学者により癌ととるか過形成ととるか意見が分かれるところも多い。この点著者たちも苦労されたところであろう。その結果がこの短い章として表れているのだと思う。付録に診断に役立つ資料集という日常診療,特に電子化が進む診療録に取り込むのに絶好な企画があるので,これと同じように付録として,前癌病変,早期癌,表在癌について扱う方法もあったのではないかと思う。また,この項については病理医の意見が反映されるべきとも考える。
近年著しい進歩がみられる画像診断についても,簡潔にわかりやすくまとめられている。細胞診,生検についても妥当な記載がなされている。内視鏡の機器の進歩もめざましく,数mmの表在癌が容易に発見される時代となり,この点についても紹介されている。
治療に関しては,第6章に「頭頸部癌治療の最前線」として,外科療法では機能を温存する外科療法,ロボット支援手術,鏡視下手術が紹介されている。いずれも今後発展していくものであろう。超選択的動注療法さらには分子標的治療もとりあげられている。なかでも放射線治療の項は機器ならびに手技の進歩がわかりやすく纏められ,放射線治療の現状と近い将来の進歩がみえてくるように感じられる好著といえる。リニアックを用いた高精度放射線治療,粒子線治療,密封小線源治療,ホウ素中性子捕獲療法,非密封線源治療まで,外科医にとっても理解しやすいものとなっている。
担当するテーマによっては文献が不要のものがあるだろうが,すべて独自の仕事とは思われないものにまで文献が挙げられていない項目もあり,近頃の考え方なのかと首を傾げてしまった。それはさておき,この1冊に頭頸部癌の統計,疫学,診療の最前線が盛り込まれており,手元に置いておきたい1冊といえる。欲をいえば,項目別にさらに詳しくみるにはという参考にすべき文献が記載されていると読者にとっておおいに役立つのだがと思う。
永年がん診療に携わってきて,頭頸部癌の診療は他部位のがんと同じく近年進歩の度合いが急速となっているが,多くの部位のがん診療は診断の進歩が治療の進歩に繋がってきたように思える。その点からみてもさらなる診断学の進歩が治療に反映される時代がきていることを強く感じさせる良書である。