耳鼻咽喉科医が診察の際に座右に置くべき1冊

JOHNS Vol.33 No.1(2017年1月号) 書評より

書評者:武田憲昭(徳島大学医学部耳鼻咽喉科学教室)

耳鼻咽喉科の多忙な外来診察において,うっかり注意を向けなかった症状や所見が,後になって重大な疾患の初期であったことに気づいてヒヤリとした経験は,臨床医であれば必ず記憶にあると思われる。その時にお勧めしたいのが,新潟大学耳鼻咽喉科教授の堀井 新先生と浦野耳鼻咽喉科医院(新潟市)院長の浦野正美先生の編集による本書である。耳鼻咽喉科外来診察で見逃してはいけない危険な疾患の鑑別をテーマに,耳鼻咽喉科の外来診察で経験する耳・鼻・口腔・のど・顔面頸部に関する35の主訴を網羅し,主訴ごとに共通した構成で解説が行われている。
まず,主訴から想定して説明すべき5大疾患には,頻度の高い疾患に加えて,頻度は低いものの外来診療で決して見逃してはいけない危険な疾患が挙げられている。次に見逃してはいけない危険な疾患の鑑別診断のポイントと,それに対応する診断の進め方を示すフローチャートがあり,危険なサインである重大疾患の徴候が挙げられている。
場面による注意点と検査と診断の注意点には,危険なサインを見逃さないためのポイントが列挙されていてわかりやすい。フローチャートによる系統だった診断の進め方に加えて,診断基準や疫学も記載されていて,日常診療においても十分に役立つ内容である。また,見逃してはいけない疾患の実際の症例も,写真を多用して具体的に紹介されていて,興味深く読むことができる。さらに,主訴の発症メカニズムも図を多用して説明されていて,理解が深まる。患者の年齢や性別だけでなく,気質による対応も記載されていて,非常に具体的である。最後に患者説明のためのイラスト集が付けられている。
この本の構想は,浦野先生が医院のホームページに作られた主訴から推定できる疾患の患者さん用の説明サイトがもとになっているとお聞きした。この構想を堀井先生が発展させて新潟大学耳鼻咽喉科の先生が中心となって執筆していることは本書の特徴である。真摯に患者に向き合う浦野先生と,堀井先生をはじめとする新潟大学耳鼻咽喉科の知恵が詰まった1冊になっている。
優れた医師の定義はさまざまだが,患者の訴えからできるだけ多くの鑑別疾患を考えることができる医師は優れた医師である。本書は熟読することで鑑別診断の引き出しを増やすことができる好著であり,外来でのヒヤリハットを避けるためにも,われわれ耳鼻咽喉科医が診察の際に座右に置くべき1冊として推薦したい。