随所に見られる治療側と患者側にたいする心くばり 日常診療の常備書として推薦したい一冊

ENTONI No.160(2013年11月号) Book Reviewより

書評者:小宗静男(九州大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科分野)

われわれ耳鼻咽喉科医にとって『のどの異常』を訴えてくる患者を診ることは日常茶飯事のことである.特に高齢者社会に突入しこれからさらに増加することは間違いない.しかしこのような訴えを持つ患者の裏に潜む疾患と病態を的確に捉えることできる知識と治療経験を多くの耳鼻咽喉科医が身につけているかというと,はなはだ心許ないのではないだろうか.私は耳科学が専門であるが立場上専門領域以外の知識は年ごとに遅れていくのを痛切に感じている.このたび本書を読む機会があり,またこの分野の知識不足も手伝って一気に通読させていただいた.読後の感想を一言で言うと,咽頭・喉頭疾患についての診断から治療までの概念がリフレッシュされ最新の知識とともにコンパクトに頭の中に整理整頓された感じがする.まさに実地医家をターゲットとしたプライマリケア書といえる.
本書は咽頭・喉頭疾患を網羅的にのべるのではなく診療に際して重要な事項を中心に実践的に解説することを目的としてある.総論としては3項目に分けてのべてあるが,まず「のどの異常」の三主徴,すなわち「咽頭痛」「嗄声」「嚥下障害」を訴える患者に対しての診療の流れについてフローチャートを用いて解説してあり大変わかりやすい.次に診断に必要な主な検査についてその意義,手技上の注意点なども含めて実地ですぐに役立つようのべてある.治療の実際では一般診療所でも行える手術を取り上げている.各論はこれも3項目になっており,咽・喉頭疾患,声帯麻痺,嚥下障害について最新の治療法を含め詳しく解説してあり,知識のリフレッシュができた.本書で特徴的なのは各ページのサイドメモである.見逃しそうであるがじつは大切な事項をワンポイントでのべてあり,貴重な知識として生かされる.また付録としての患者説明用の各疾患別の書類とわかりやすいイラストの資料集も実地医家にとって,とてもありがたいものである.このように,本書はその内容はいうまでもなく,編集者の治療側と患者側にたいする心くばりが随所に見られ,すばらしい本に仕上がっている.日常診療の常備書としてぜひ推薦したい一冊である.