Skip to content

総合小児医療カンパニア 移行期医療

総合小児医療カンパニア 移行期医療 published on

具体的な小児疾患の移行期における問題と解決策がわかりやすく記載されている

小児科診療 Vol.78 No.9(2015年9月号) 書評より

書評者:五十嵐隆(国立成育医療研究センター理事長)

かつて,わが国では血液悪性腫瘍,先天性心疾患,神経筋疾患などの重篤な慢性疾患をもつ子どもや低出生体重児の生命予後は悪く,成人にまで到達できないことが多かった.近年の医療の進歩は慢性疾患の子どもの生命予後を劇的に改善させ,その結果として,疾患やその後遺症を抱えて成人に至る患者が増加している.
成人になっても治療が必要な患者だけでなく,新たな後遺症への対策が必要な患者も少なくない.さらに,長期間にわたる入院生活や治療のために学校・社会生活を送るうえで何らかの障害をもち,悩んでいる患者もみられる.身体・発達・行動・精神状態に慢性的な障害があり,何らかの医療や支援が必要な子どもが,米国では17歳の時点で17%を占めており,わが国でも同様である.こうした状況をふまえ,日本小児科学会は移行期の患者とご家族に対する保健・医療と社会的支援がこれからのわが国の大きな課題と認識し,2014年に移行期医療に関する基本的な考えを提言として公表した.慢性的に身体・発達・行動・精神状態に障害をもち,何らかの医療や支援が必要な子どもと青年がself-esteemをもって社会の一員として活躍できるようにするために,彼らとご家族を支援する医療・保健・福祉をわが国に充実させることが責務であるからである.
本書では,わが国の移行期医療の現状,移行期医療に関する基本的な考え方,主として米国における移行期医療の先進的取り組み,そして,様々な具体的な小児疾患の移行期における問題と解決策がわかりやすく記載されている.わが国における今後の移行期医療をより適切に実践するうえで,本書は明らかな道筋を示していると強く感じた.小児医療に携わる方が本書をご一読いただき,多くの方々の力を結集して,わが国の移行期医療を発展させていただきたい.

レジデントのための糖尿病・代謝・内分泌内科ポケットブック

レジデントのための糖尿病・代謝・内分泌内科ポケットブック published on

無駄な記載を省き,現時点でのコンセンサスを十分踏まえたうえで,臨床的に必要なノウハウを具体的かつ明快に解説している

Diabetes Frontier Vol.25 No.5(2014年10月号) BOOK REVIEW

書評者:駒津光久(信州大学医学部糖尿病・内分泌代謝内科教授)

国立国際医療研究センターの野田光彦博士監修による「レジデントのための糖尿病・代謝・内分泌内科ポケットガイドブック」が上梓された。充実した内容をコンパクトなサイズに凝縮し,無駄な記載を省き,現時点でのコンセンサスを十分踏まえたうえで,臨床的に必要なノウハウを具体的かつ明快に解説している。本書は,レジデントには必須の「Ⅰ. 救急対応と電解質異常」,「Ⅱ. 糖尿病」,「Ⅲ. 高血圧・代謝疾患」,「Ⅳ. 内分泌疾患」の4部構成になっている。また,合計33項目についてColumnとして当該分野のトピックスに解説が加えられている。
例えば,糖尿病ケトアシドーシスの治療では,補液,速効型インスリン,カリウムの重要かつ十分な3項目についてわかりやすいフローチャートで極めて明解に描かれている。また,原発性アルドステロン症の鑑別も現時点で妥当かつ使いやすいフローチャートが書かれている。文章だけではなくこのような秀逸なチャートや,最新の診断基準の掲載など,レジデントの困りそうなところすべてに手が届いている。全体を通して,記載の姿勢や記述分量,文体などに統一感がある。これは,執筆者の田中隆久,辻本哲郎,小菅由果,財部大輔の4先生が,監修者の野田光彦博士の直弟子であり,その薫陶をうけ,意思疎通が十分にできたことによるのだろう。
内分泌代謝内科学は,負荷試験の方法や具体的な判定基準など,多くの数字が付きまとう。レジデントの間は,この本を傍らにおけば,そのような問題は解決する。基本的には,必要な項目を拾い読みすることになるが,時間の許すときに,33項目のColumnを熟読することも勧めたい。専門医が読み直しても頭の整理に役立つほど良質な内容である。また巻末には通常の索引に加えて,略語の解説や,内分泌負荷試験一覧,糖尿病注射薬の一覧が添えられており極めて実用的である。
本書は「初期研修医」が内分泌代謝内科をローテートする際に是非とも携行していただきたい一冊である。研修医が日々遭遇する臨床現場で,その分野での専門知識を迅速かつ適切に習得することは容易ではない。研修医といえども自分の担当患者における診断や治療に関しては,教科書をよく理解したうえで,総説や原著論文にあたる姿勢が,とくに内分泌代謝内科の分野では求められる。一方,日々の研修現場やカンファレンスで耳慣れない,あるいは理解が不十分な問題点が否応なく押し寄せてくる。そのような時,本書が手元にあれば心強い。研修終了時に本書が書き込みや付箋だらけになれば,そのまま読者の研修目標の達成につながるだろう。まさに,監修者が序で述べているように「お勧めできる珠玉の一冊」である。
当教室でも研修医に携行させたい。そして,その内容を深く理解することが私たち指導者こそ求められるので(自室にこもってひっそりと)勉強しておこうと思う。

レジデントのための呼吸器内科ポケットブック

レジデントのための呼吸器内科ポケットブック published on

著者らが積み上げてきた「1分間指導法」の集大成

medicina Vol.49 No.7(2012年7月号) 書評より

川名明彦(防衛医科大学校内科学 教授)

レジデントが学ぶべき専門知識や技術は膨大である.彼らが成書を読み,最新の文献をチェックして知識を得ることはもちろん重要である.しかし病棟や救急外来で,患者さんの病状を評価し,素早くアクションを起こさなければならない場面では,優れた先輩医師や指導医のちょっとしたアドバイスがより貴重な指針となることも多い.また,このように差し迫った場で学んだことは一生忘れないものである.ただ残念なことに,当直や救急の現場で,いつも優れた指導医がいてくれるわけではない.さらにレジデントともなれば,一人で判断し,行動しなければならない場面も多い.そのような臨床の現場で,レジデントに対して迅速かつ適切なアドバイスをくれる,優秀な先輩医師のような役割を果たすのが本書である.
本書は,「指導医が研修医に,『1分間指導法』を実践している場面をイメージして作成」されたという.本書を編集した吉澤,杉山両医師は「教え上手」で有名である.私は,彼らがX線写真などの前で研修医にちょっとしたミニレクチャーを始めると,周りに何人もの研修医が集まって来て,そのレクチャーに聞き入っている様子を幾度も目にしたことがある.著者らがこれまで積み上げてきた,この「1分間指導法」の集大成が本書であると言えよう.
本書は「教科書の縮刷版のような『読む本』ではなく,必要な情報にすぐアクセスできる『実践的なテキスト』にすることをめざした」とある.私は書評を書くため本書を通読してみたが,比較的短時間で読了できる上,「読む本」としても充実していると感じた.本書を通読することで,現代の呼吸器診療のスタンダードを短時間に復習することもできる.その意味で,レジデントばかりではなく,呼吸器臨床のエッセンスを再確認したいシニアドクターにも有用である.
多くの分担執筆者の合作ということもあり,項目ごとの趣が若干異なっているが,それはむしろ先輩医師たる各執筆者の個性ということもできよう.また,本書はあくまでもポケットマニュアルであり,ぜひ本書で学んだことをさらに成書や学術論文をひもといて膨らませていただきたい.編集者が「この本に書かれた知識をもとに,英知につながる知恵の糸口をつかむことを期待している」と述べているのは,そのことであろう.

らくらく&シンプル ポジショニング

らくらく&シンプル ポジショニング published on

安全・安楽な方法 カラー写真で解説

介護新聞 2010年11月4日 「本」より

中山書店から刊行された「らくらく&シンプルポジショニング」は患者や介護される人にとって安全・安楽で、介護者にと
っても負担が少ないポジショニングのポイントを満載している。

著者は田中マキ子山口県立大教授。

拘縮、麻痺等があり、寝返りを打つなどできない人は褥瘡のリスクが高いため、適切なポジショニングが必要。一人ひとりの状態をしっかり観察し、アセスメントした上で実施する必要があるという。

少ないピローでシンプル、安全・安楽にポジショニングを実践でき、効果を向上させるためのポイントを紹介。

▼車椅子使用▼四肢拘縮▼人工呼吸器装着▼脊椎損傷―など、さまざまな状態でのポジショニング手順、ピローなど用具の適切な使用方法をカラー写真で解説。使用前後の状態や良い例、悪い例など示し分かりやすい。


豊富なカラー写真で,ポジショニングのコツを目で見て学べる

ベストナース、2010年10月号 Book Reviewより

少ないポジショニングピローでシンプルに、安全・安楽に実践するポジショニングのコツを伝授。すぐに実践できる技術を紹介すると同時にポジショニングのエッセンスを明示しています。体位の評価に始まり、その効果を向上させるポイント、円背・四肢拘縮・人工呼吸器装着患者などケース別対応を掲載。豊富なカラー写真を中心に展開しており、目で見て学べます。

耳・鼻・のどのプライマリケア

耳・鼻・のどのプライマリケア published on

これまでになかった新しい耳鼻咽喉科クリニカルトレンド

ENTONI No.166(2014年5月号) Book Review

書評者:黒野祐一(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学)

まさしく本書は“これまでになかった”耳鼻咽喉科外来診療の教則本であり,しかもその最先端が凝集されている.このことは,本書の執筆者が,実地医家でありながら現在国内外の学会で活躍し,数々の学会賞を受賞されている,今まさに時の人ともいえる佐藤公則先生であることから容易に想像できる.
本書の第1章には,まず「①耳鼻咽喉科外来診療に求められること」として,耳鼻咽喉科外来診療とくにオフィスサージャリーを行う際に留意すべきポイントが具体的に記されている.そして,これに続く第2章からは,②耳を診る,③鼻・副鼻腔を診る,④口腔・顎顔面を診る,⑤咽頭・喉頭を診る,⑥気管・食道・頸部を診る,⑦音声・言語を診るとして,それぞれの領域における代表的疾患の診断や保存的治療,さらに外科的治療の手技やコツが詳細に記されている.最近は大学病院など基幹病院でも外来手術が行われるようになり,また,多くのサージセンターが設置され,オフィスサージャリーが注目されている.しかし,その多くは複数の耳鼻咽喉科医で実施されており,一般の実地医家にはあまり関係が無いように思われるかもしれない.ところが,佐藤先生はただ一人でこれらすべての領域の診療そして手術を行い,本書に提示されている症例はいずれも先生の自験例である.それゆえに本書は大きな説得力を備えている.
本書の各論にも特色がある.たとえば,「デンタルインプラント治療に伴う上顎洞合併症に耳鼻咽喉科はどう対応するか」,「口腔粘膜疾患の診方・考え方」,「耳鼻咽喉科診療所における睡眠医療への取り組み」,「耳鼻咽喉科外来における音声治療への取り組み」等々,それぞれの専門書にはあっても,プライマリケア関連の書物ではほとんど取り扱われなかった事項である.その理由は,佐藤先生のクリニックが「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」だけでなく,同院の理事長であるお父様が歯科医であることから「歯科口腔外科」も標榜し,さらには「睡眠呼吸障害センター」と「ボイスセンター」を併設していることから納得できる.しかも,一般的な事柄に加えて,国内外の雑誌に掲載された先生ご自身の論文を引用した最新の情報も含まれ,非常に読み応えのある内容になっている.また,随所に鮮明な写真やイラストが挿入され,さらにアドバイス,コツ,メモ,ピットフォールなど著者のコメントが付記されており,とても理解しやすく,かつ楽しく読むことができる.
本書の「はじめに」に“医学と医術を研鑽する”というメッセージがあり,「鋭く観察し,深く思考し,洞察する努力をすることが医師としてのProfessional Careerの中で大切である」と記されている.基礎研究に今も携わっている佐藤先生の哲学をそこにみることができる.本書は単なる教則本ではなく,耳鼻咽喉科外来診療の新たなトレンドを示し,読者にもそれを実践する勇気を与えてくれるのではないか,そう予感させる一冊である.

見て・考える 褥瘡ケア 創面をみればすべてがわかる-ここで差がつくテクニック

見て・考える 褥瘡ケア 創面をみればすべてがわかる-ここで差がつくテクニック published on
ベストナース、2010年11月号 「必見! 2010年秋のお薦め図書総覧」より

大浦氏が主任研究員を務めた厚生労働科学研究費補助金事業「褥瘡の予防と治療に関する研究 ①栄養介入の効果の検討②保護機材の効果の検討」の研究を通して生まれたのが「見て・考える褥瘡ケア 創面をみればすべてがわかる ここで差がつくテクニック」です。
「今色々な方々が勉強していて、褥瘡が圧とズレである程度起きることが分かってきました。ところが、実際に皆さんが創面を見て、褥瘡の創面が色々な変化をしてきます。その変化がどういうケア、あるいはどういう圧やズレがかかったために変化したかを分かる人は非常に少ない。体位変換やギャッジアップは圧とズレを排除するために行うケアとして、良かれと考えて実施しています。しかし、体位変換やギャッジアップを行うことによって色々な変化を創面に与え悪い影響を与えてしまっているのです。それを分かっていないのがほとんどの人です」。

本著はこのような現状を打破するために編まれました。「常々思っていましたが、本当に分かっていないことが分かったのは、科学研究事業の研究計画で栄養介入の効果を検討するための前提条件に、体位変換やギャッジアップがきちんと行われている必要があったからです」。

そのため、大浦氏は全国35病院で当該病院スタッフと一緒に褥瘡回診を行いました。「登録してくれようとする病院は、みなケアの質のレベルが高い病院ばかりです。そこの人たちでさえも創を見てケアが悪かった、体位変換が少しおかしい、ギャッジアップが問題ということが分からなかった」と言います。
「真剣に創面を見るとそれがどんな創か、どんなケアを行ったからできた創かが分かるので、端的な表現としてタイトルに採用しました。また、内容も今までにはなかったもの」と、大浦氏は自負を語ります。

編集にも緻密な工夫を凝らしています。第1章は、「やっていませんか、こんなケア」と題して褥瘡ケア・治療の現状と問題点、実際に問題がある創面の変化を写真と断面図を使い多数掲載しています。同時に創面の変化から治療・ケアの問題点を推定し解決法を単純に要約しています。

第2章「押さえておきたい基礎知識」では、詳細を圧とズレの点から解説するとともに、第1章での問題事項を深く掘り下げて解説を加えています。第1章と第2章でリンクするページは、それぞれのページに参照ページ数をガイド。すぐにリンク先に飛んでいける仕掛けに工夫しています。

さらに、第3章「症例から学ぶ『創面から考えるケア』」では、症例を中心に当該症例に起きた創面の変化と、それにつながるエピソードが褥瘡ケアと治療と密接につながっていることを解説。症例ごとにエピソードを丁寧に説明しています。

たとえば、尾骨・仙骨部の深い褥瘡は第1章24ページに写真と断面図を掲載。写真症例の要点に深い褥瘡と肉芽魂を指摘。解説でどのようなケアが原因になっているか、その簡単な対策を「尾骨・仙骨の褥瘡は主として背上げの方法が悪いから」、あるいは「車椅子乗車・降車の圧とズレの発生は、姿勢が悪いためであることが多いので点検すべきである」と簡潔に記述。それをさらに詳しく知るために同ページにガイドされた第2章48ページに飛ぶと「深い褥瘡の治癒経過」が詳説、見開き右ページには対応した治癒経過の断面図が掲載されています。

これをさらに第3章では、深い褥瘡の症例を最初から治るまで追っています。中心静脈栄養の回数を減らしたり、自己導尿中止などを行い改善していくプロセスが示されています。

大浦氏は本著が画期をなすもう一つのポイントに肉芽には多くの種類があり、その組織学的な違いを記述したことを挙げます。
「従来は、潰瘍は病理学的に『良い肉芽』と『悪い肉芽』があるとしか書かれていませんでした。それは病理学の怠慢であることを本著で指摘しています。表皮形成の仕方、白っぽいものができてしまう、盛り上がってしまう、ポケットのようになってしまうなど肉芽には色々な種類があります。これを組織学的に見てきちんと分かるよう、色々な診断名を書いて組織学的な違いを記しています。それも本書で初めて解説できました。病理学に一石を投じたはずです」。

本著ではまた、圧とズレの測定器械を毎回使用することができない中、「手当て」の活用をアドバイスしています。「手を当てることによってギャッジアップなどの時にどの程度圧やズレがかかっているかを確かめられます」。また、「医師、看護師ら褥瘡治療・ケアに携わるすべての人が一つひとつ自分の治療・ケアを考えながら確実に進め、正しい治療・ケアを提供できるよう、是非購入して読んでもらいたい」と願います。


褥瘡治療・ケアに携わるすべての人に読んでもらいたい 病理学にも一石を投じた渾身の書

ベストナース、2010年11月号 「必見! 2010年秋のお薦め図書総覧」より抜粋

「見て・考える 褥瘡ケア 創面をみればすべてがわかる」(大浦武彦著)は、褥瘡ケアに関わる看護師に必要な知識とスキルを実際の創部の症例写真を示して解説。リスク要因、創部の観察ポイント、効果的なケア方法と留意事項などをわかりやすくまとめています。

ビギナーのための小児内分泌診療ガイド

ビギナーのための小児内分泌診療ガイド published on

実臨床に即応して内分泌系の基本的なしくみを理解しながら用いることができる診療ガイド

小児科診療 Vol.77 No.7(2014年7月号) 書評

書評者:雨宮伸(埼玉医科大学小児科教授)

本書は有阪教授の画期的アイデアにより,巻頭に,小児内分泌疾患で遭遇する症候や異常から記述ページにたどり着く目次・索引機能,年齢ごとのホルモン変動,視診で認める症候,成長異常を認める症候群がQuick Indexとして掲載されています.
また,一般小児科医,特に小児内分泌学のビギナーにとって基本的理解が進みやすいように,Part 1 「ホルモンの作用と病態」,Part 2 「さまざまな症状や検査異常への対応と診断,治療」,Part 3 「救急処置」の3つで構成されています.そこでは,従来の教科書的な疾患別の解説と異なり,実臨床に即応して内分泌系の基本的なしくみを理解しながら用いることができる診療ガイドとなっています.さらに,テーマごとのエッセンスが“Consideration points”として冒頭にまとめられ,重要語句は“Keyword”として解説されています.
本書は小児内分泌学を取りつきにくい分野ととらえている一般小児科医のみならず,本格的に小児内分泌をサブスペシャルティーにしようと考えているビギナーにとっても,患者に遭遇するたびにくり返し活用でき,明日の診療に役立てていただける絶好の診療ガイドです.
楽しく学べる小児内分泌学を目指した有阪教授の意図が随所に認められ,ぜひ一度手に取っていただきたい良書として推薦いたします.

皮膚科臨床アセット 14 肉芽腫性皮膚疾患

皮膚科臨床アセット 14 肉芽腫性皮膚疾患 published on

今後の診療,教育を楽しみにさせる良著

臨床皮膚科 Vol.67 No.10(2013年9月号) 書評より

書評者:鶴田大輔(大阪市立大学大学院医学研究科教授・皮膚病態学)

皮膚科臨床アセットシリーズは,私のお気に入りのシリーズである.総編集の古江増隆氏の序文にもあるが,「専門書でありながら肩の凝らない読み物」というポリシーが私の琴線に触れるのである.これまで発刊された書籍はすべて目を通しており,一部は私も分担執筆させていただいた.今回新たに,「肉芽腫性皮膚疾患」についての書籍が関西医科大学教授の岡本祐之氏の編集により刊行された.
私は以前,皮膚疾患の病態生理に関する教科書を執筆したことがある.担当は水疱症と膿疱症であった.水疱症の病態生理は本邦の皮膚科医も含めた先人の多大な努力によりかなり解明されてきたことは言うまでもなく,比較的容易に書くことができた.問題は膿疱症であった.当時,不勉強のせいではあろうが,全くお手上げの状態であった.幸運にも(不運にも??)肉芽腫症についての病態生理の項目の執筆の機会は現在までない.私の講義担当はしかしながら,「水疱症・膿疱症・肉芽腫症」である.どうしてもこれらのなかでは比較的良くわかっている水疱症のパートに,多くの時間を割いてきた.肉芽腫症についてはサルコイドと環状肉芽腫を紹介するだけであった.今回,本邦におけるサルコイドーシス学の権威である岡本祐之氏が編集された,過去に類を見ない書籍を目の当たりにした.目からうろこが落ちるとはまさにこのことで,時間がすぎるのを忘れて,わずか数日で読破してしまった.私は肉芽腫の講義を担当しておりながら,全くもって不勉強であることを痛感した.肉芽腫の病態解明がかなり進んでいることがわかった.
本書籍の大きな特徴は全345頁の約半分をサルコイドーシスに割いていることである.サルコイドーシスの疫学に始まり,診療・病因・分類・肉眼診断・他臓器病変・類縁疾患・治療と,網羅的にすべてのサルコイドーシスの領域をカバーする.常識的な部分を完全に記載するだけではなく,最新かつ最先端の学問的知見も確実にカバーできていると考える.また,その他の稀であるが重要な肉芽腫性疾患である,環状肉芽腫・annular elastolytic giant cell granuloma・リポイド類壊死症・肉芽腫性口唇炎・その他の肉芽腫についても,サルコイドーシスの執筆部分と同様に十分網羅的ではあるが,より簡潔に記載がなされている.以上から,文字どおり「これ一冊で」皮膚科専門医として恥ずかしくない知識が数日で得られることが確実であると考えられる.
執筆は,考えられる最高のメンバーであろう,多数の本邦の皮膚科医によりなされている.多数の著者で書かれた書物にありがちな記載の統一性の欠如は本書籍では全く見当たらず,おそらくチームワークのなせる技,プラス総編集の古江増隆氏,岡本祐之氏の綿密かつ繊細な細心の注意によるところであろう.
本書のなかで特に私が感銘を受けたのはサルコイドーシスの病因論である.アクネ菌(Propionibacterium acnes)のサルコイドーシス病変形成における役割について非常に詳細に書かれている.また,サルコイドーシスの各病型で特徴的な他臓器疾患の合併なども,今回初めて本書で学ぶことができた.そして治療についての項目では経験的なものだけではなく,病態生理に立脚した最新の治療についても触れられている.
私にとっては本書を通読することは発見の連続で楽しい体験であった.今後は,もっと肉芽腫についての講義を面白くできるかもしれない.また,該当患者への説明も,よりクリアカットにでき,しかも新しい治療法の提案もできるかもしれない.今後の診療,教育を楽しみにさせる良著であると確信し,自信を持って諸先生方,医学生に強く推薦する次第である.

皮膚科臨床アセット 13 皮膚のリンパ腫 最新分類に基づく診療ガイド

皮膚科臨床アセット 13 皮膚のリンパ腫 最新分類に基づく診療ガイド published on

待望の皮膚悪性リンパ腫の最新解説書が登場

皮膚科の臨床 Vol.55 No.6(2013年6月号) 書評より

評者:石河晃(東邦大学医学部皮膚科学講座)

悪性リンパ腫ほど概念の変遷により病名分類が変化している分野は無いのではないかと思われる。近代では病理形態に基づく分類としてRappaport分類が長らく使用されてきた。しかし,免疫組織染色法の発展により表面抗原の解析が可能となり,T細胞B細胞など腫瘍細胞の由来が明らかにされ,T細胞性,あるいはB細胞性に大別するところから分類されるようになった。また,染色体転座などの遺伝学的解析手法の発達により,さらに細分化されることとなった。このように,解析技術の変遷とともに,あたらしい概念が登場してきた。
さらに,同じ病理形態であってもリンパ節発症と皮膚発症では予後が異なり,一般病理医と皮膚科医との問で認識のギャップも存在したため,散発的にリンパ腫に遭遇する可能性がある臨床皮膚科医にとって,非常に難解な領域であったと言える。しかし,それまでダブルスタンダードとして存在した一般病理分類(WHO分類)とヨーロッパのグループが中心となった皮膚リンパ腫分類(EORTC分類)が2005年に統合し,WHO-EORTC分類が発表され,さらに2008年にこの流れを汲んでWHO分類(第4版)が発表され一応の決着をみた。大きく変遷してきた疾患概念をみていると,せっかく覚えたことが突然使えなくなる危惧があり,次のような声がよく聞かれた。
「いつ勉強したらよいのか?」そして本書の発刊により答えが出た。
「それは今でしょう。」
少なくとも病理形態,免疫組織,遺伝子解析以外に革命的な解析手法が登場するまで現在の分類は踏襲されるであろう。これまでは,成書を勉強しようと思っても新分類に基づく日本製の良い解説書がなかった。英文では改訂を重ねている皮膚リンパ腫の単行本があるが,皮膚リンパ腫には人種差もあり,日本の実情にマッチした解説書の登場が待たれた。このたび,岩月啓氏教授の専門編集により,最新分類に基づく診療ガイドが皮膚科臨床アセットシリーズの13巻として発刊された。
これまでのリンパ腫分類の変遷の歴史から述べられ,新分類に基づく解説へと続く。それぞれ各論では皮膚リンパ腫のエキスパートが分担執筆し,豊富な臨床写真,病理写真によりわかりやすく解説されている。また,岩月教授が世界に発信してきた種痘様水庖症様リンパ腫がWHO分類に取り入れられ,本書においても詳説されていることは特筆すべきと思われる。これまでのリンパ腫の教本は診断と予後の記載に特化しているものが多かったが,治療についてもかなりのページ数を使って具体的に記載されており,日常診療においてリンパ腫の診療をする可能性のある皮膚科医の必携の書として是非おすすめしたい。

皮膚科臨床アセット 12 新しい創傷治療のすべて 褥瘡・熱傷・皮膚潰瘍

皮膚科臨床アセット 12 新しい創傷治療のすべて 褥瘡・熱傷・皮膚潰瘍 published on

医学的エビデンスに基づいた創傷治療のための実践的な一冊

Derma No.207(2013年8月号) BookReviewより

紹介者:佐藤伸一(東京大学大学院医学系研究科皮膚科学教授)

創傷治癒に関する実践的な本ができあがった.創傷治癒は皮膚科診療に携わるものにとっては,その根幹に位置する診療分野であるといえる.従って,創傷治癒は本来皮膚科医が先導的な役割を果たして発展させていくものである.しかしながら,本書の専門編集の熊本大学皮膚科尹浩信教授による序にもある通り,創傷は頻度が高いものであるが故に,多くの職種が取り扱うことになり,その考え方,治療に混乱を生じていた.このような現状に対して,これも尹教授が責任者となってまとめた日本皮膚科学会の「創傷・熱傷ガイドライン」が公開され,医学的エビデンスに基づいた創傷治癒の幕開けとなった.本書と日本皮膚科学会の「創傷・熱傷ガイドライン」は共に尹教授によってまとめられたものであるため,本書の第一の特徴は,学術性が重視され,しばしば無味乾燥となりがちなガイドラインに対して,多数のわかりやすい写真,図表,見やすいレイアウトを駆使して,ガイドラインの精神をわかりやすく解説したことにあるといえる.従って,本書はガイドラインの欠点を補うものであると同時に,ガイドラインと一緒に理解すべきものと考えられる.
本書では,まず創傷一般として,創傷治癒に関する基本的考え方を理解することから始まっている.ここでは,創傷治癒環境の整え方から,これまで様々な考え方のあった洗浄,消毒の是非について具体的かつ学術的に解説されている.その後の各論では,褥瘡,糖尿病性皮膚潰瘍・壊疸,膠原病・血管炎に伴う皮膚潰瘍,下腿潰瘍・下肢静脈瘤,熱傷がカバーされている.どれも皮膚科医にとっては高頻度に出会い,かつ治療に難渋することの多いものである.それぞれの疾患について,概説,分類,評価,診断,外用薬の選択,治療,患者教育などが,詳細かつわかりやすく解説されている.本書を熟読されれば,これまで留意してこなかった新たな考え方,新しい治療法,エビデンスに基づいた処置の是非などについて,必要かつ十分な実践的知識が身につくように編集されている.また,日常の診療の傍らに本書をおいて,その都度,疑問点を参照するのにも十分対処できるような項目立てがなされているのも本書の特徴の一つである.
医学的エビデンスに基づいた創傷治癒の考え方,実践法を広く読者に伝えたいという,尹教授の情熱が凝集した本書は,従来にない実践的な創傷治癒対処法を提示した新しい試みでもあるが,その試みは今後も好評をもって迎えられることは疑いない.しかしながら,創傷治癒は日進月歩であり,「新しい創傷治療」に相応しく,つねにUp to dateな内容になるよう将来改訂を重ねられることを期待している.