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外来精神科診療シリーズ メンタルクリニック運営の実際

外来精神科診療シリーズ メンタルクリニック運営の実際 published on
精神医学 59巻11号(2017年11月号)「書評」より

評者:神田橋條治(伊敷病院)

「よの中に交わらぬとにはあらねどもひとり遊びぞ我はまされる」(良寛)。いのちにとって「閉ざす」ことが必然です。そのなかで成長と熟成が進みます。「開く」は,成長と熟成とに寄与する次の策です。「閉ざす」自体が損なわれるといのちが自立性を失います。文化も同じです。開化期の先人たちは,「攘夷」という被害妄想のかわりに「和魂洋才」との心構えをもつことで,「鎖国」のなかで熟成してきた日本文化を守りました。当時の被植民地諸国の見聞からの知恵だったのでしょう。からだ→こころ→魂と並べたとき,その順に「閉ざす」が大切になります。「魂だけは売り渡さない」はさまざまな極限状況で現れる決意です。「身は売っても思いは主さまだけのもの」との遊女の覚悟もそのひとつです。魂を守る決意には切ない気分があります。グローバル化の流れやAIの発展がこころの領域にまで支配を広げてきたので,切なさは日常に瀰漫してきました。最近の奇妙な社会現象の多くを,切なさへの対処行動,せめて魂だけは守ろうとする工夫,として眺めると腑に落ちる気分が湧きます。
精神科臨床を選択した人々の多くは,からだ→こころ→魂の総合体を援助する志向を持っています。いのちの鎖国文化を援助したいとの意図を持つ資質です。いずれが先かは微妙ですが,我が内なる鎖国文化を維持し熟成したいとの志向と互いに響き合います。「わたしの精神医学」です。内なる鎖国文化が形を現し,幾つかの援助手技を手に入れた人は,クリニックを立ち上げます。鎖国環境の設定です。精神科臨床のロマンですから,当然の流れです。
グローバル化の奔流がロマンを壊し始めました。診断の領域での世界標準化すなわちDSMと援助手技の領域でのEBMです。診断については,表向きのDSMを尊重しながら援助作業においてはわたしの内なる精神医学を用いるという二重帳簿で凌ぐことができます。しかもそれは精神科を選んだ資質の中にある,裏世界嗜好を充たしさえします。深刻なのは援助手技についてです。中でも精神薬物療法については甚大です。手持ちの援助手技の中で薬物を主な手立てにしている治療者は,洋才に侵食されて魂の危機にあります。
ところで「エビデンス」なるものの成立過程を眺めてみると,それは正規分布の両端を切り捨てて作った「多数決」の成果です。多数決が参考資料以上の力を持つと薄っぺらな全体主義の本流を形成し少数者切り捨てに至ることはすべての世界で具現されています。この気分が医療を覆うようになると,「少数者への援助」という医療の原点が失われ,医学は疫学になります。珍しい疾患の見落としや頻度の稀な重大な副作用の見落としとして臨床現場で現れています。臨床は五感と第六感とを総動員して行うアートです。魂の営みです。その営みからの経験が各人の体験として刻み込まれて鎖国文化の中の「わたしのエビデンス」となっています。職人の「勘どころ」です。
薬物については事態はさらに深刻です。科学主義・客観化に根ざしているからです。これに侵食されて「薬物依存」「薬物乱用」風医療になってしまっている治療者はすべての医療分野に蔓延しています。向精神薬については,からだ(脳)への作用に限って客観化が行われ,しかも関連する変数を極力少なくするという科学実験の原則に沿ってエビデンスが得られています。その判定はこころの変化,しかも辛うじて有意差が出る程度の微かな多数決のデータです。現場では個体を共同研究者にして,その主観的判断(こころ→魂)を組み込みながら処方を決めて,テーラーメイドのエビデンスを積み上げていくのが医療です。
皆さん気づいておられますか? わたしたちは分担執筆で編纂された全書の類を購入しても,たまに参照するだけでおおかたは本棚の肥やしになっています。折に触れてページをめくるのは単著です。単著による精神医学教科書はしばしば座右の書になります。信者になっているわけではありません。その著者のなかで熟成した鎖国文化に触れることで自分の鎖国文化を省みる欲求ゆえです。このシリーズは分担執筆であるけど分担執筆ではありません。五人の「野武士」の方々が,精神医療の現状への危機感から立ち上げたシリーズです。野武士とは,鹿鳴館の賑わいを横目に見ながらも,自らの鎖国文化を育成し,それに支えられて「開く」が自在になり,被害感なしに,DSMやEBMの有用なところは取り入れて成長と成熟を歩み続けている人の謂です。「和魂洋才」です。シリーズは全10冊からなっており,最後の巻にシリーズ全体の執筆者一覧が載ります。野武士五人の方々の論述はもちろんですが,その他にも多くの方が複数の論述を寄稿しておられ,それらを縦断して読むことで多種多様な鎖国文化に触れることになります。単著の乱舞です。全10冊が医局の本棚にあると,ベテランの精神科医にとってはさまざまな鎖国文化を批判的に読むことができます。そのことはとりもなおさず自らの鎖国文化を省みる作業になります。歩きはじめの精神科医にとっては,自分の未来にさまざまの道が開けていることが見えて,こころと魂が定まります。なかにはどの道も自分の資質と馴染まないと分かって,脳科学の方向を選ぶかたもありましょう。それもまた素晴らしい選択です。
最後に,このシリーズには当事者の寄稿もあります。なかでも小石川真実という方の二本の論文「『患者を良くする』ことを念頭においた診断を」(診断の技と工夫 214頁)「本気でわかろうとしてくれる人が一人でもいると患者は立ち直れる」(精神療法の技と工夫 226頁)を是非お読みください。標準化とEBMの「洋才」に浮かれた被植民地化された精神科臨床でからだもこころもモミクチャにされながらも,辛うじて魂だけは守り抜いた人の「叫び」です。「わたしならどうするか?」と自問して下さい。魂までも毀損された「声なき声」が現場に溢れておりテーラーメイドの援助で叫びが蘇る経験は非医師の報告に散見します。
最近注目をあびている「オープンダイアローグ」という手法は見かけとは逆に,その個体独自の鎖国文化の回復が本質です。そう考えると,あの目を見張る効果が腑に落ちます。


クリニックを開きたいと願っている医師たち,あるいは精神科外来自体に関心を持つ医師たちにとっては必読の書

精神医学 Vol.58 No.5(2016年5月号) 書評より

書評者:松下正明(東京大学名誉教授)

評者はかつて,クレペリンにせよヤスパースにせよ従来の精神医学は精神病院に入院している患者を基礎に築かれてきたが,これからは外来診療を主とした精神医学が構築されるべきで,その内容は随分と変わってくるだろう,極端な言い方をすれば,疾患慨念自体,あるいは疾患名も一変するのではないかと,述べたことがある。将来は,精神科医療は外来診療中心の時代となるという脈絡の中での発言であった。
このたび,本書を含めて,「外来精神科診療シリーズ,全10冊」が刊行されることになり,いよいよ時期到来かと内心喜んだものであるが,予想通り,シリーズが刊行されてまだ半ばではあるが,すでにしてメンタルクリニックを中核とした精神科外来診療の時代の出現を予感させる出来栄えである。
編集主幹の原田誠一さんが「刊行にあたって」で,この企画は,「精神科クリニックでの実践を通じて集積されてきた膨大な〈臨床の知〉を集大成して,世に間うこと」,「現場に根差した〈臨床の知〉をひっくるめて示し,現在の正統的な精神医学~精神医療に対する自分たちなりの意見表明や提言をすること」にあると述べられていることも,精神科外来診療での〈臨床の知〉が,これからの精神医学の革新につながることを心ひそかに断言した自負に違いない。
本シリーズは,メンタルクリニックにおける精神科外来診療にみる新しい臨床の知から,診断の薬物療法,身体療法,精神療法,あるいは東日本大震災における精神科外来診療やギャンブル依存症などに至るまで,その関心の広さは大きいが,とりわけ今回書評の対象とする本書はメンタルクリニックの運営の実際についての知と技の詳細を示して尽きない。
本書は,計23の論考と28のコラムからなり,「クリニック開業の条件を考えてみよう」「クリニックの外的構造」「クリニック診療の内的構造」「クリニックと地域医療」「クリニックのリスク管理,安全の確保」「クリニックの経営」「クリニック開業医が担うもの―診療・経営以外のあれこれ」などといったタイトルを持つ10の章に分けられている。表題の目新しさに惹かれて本文を読み,またその内容のユニークさに一驚してしまう。
日本での精神科関連の全集では初めての試みと思われる本シリーズは,すでに開業しているメンタルクリニックにとってはおそらく座右の書であり,これからクリニックを開きたいと願っている医師たち,あるいは精神科外来自体に関心を持つ医師たちにとっては必読の書となるに違いない。

あたらしい皮膚病診療アトラス

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見ればわかる皮膚病診療アトラス

Derma No.244(2016年5月号) BookReviewより

書評者:天谷雅行(慶應義塾大学医学部皮膚科学教授)

北海道大学皮膚科教授の清水 宏先生が,皮膚疾患アトラス『あたらしい皮膚病診療アトラス』を刊行されました.本書は妥協を許さない筆者の執筆姿勢を反映し,高画質の臨床写真のみが厳選されているのみならず,誰が手にとってもわかるように,余計な説明を省き大変わかりやすく構成されています.数多くある皮膚疾患アトラスの中で,秀逸な一冊であり,皮膚科専門医はもちろんのこと,あらゆる医師,医療従事者に役立つこと間違いない一冊です.是非,一度手にとって本書を見ていただければその良さが体感できます.
総論のところでは,それぞれの特徴ある皮疹がどのように出現するのか,3D模式図が添えられています.本という出版形態が2Dの世界であるだけに,3Dによる解説は大変わかりやすく,新鮮な輝きを放っています.さらに,表表紙と裏表紙の見開きには,光沢をつけた皮疹を「触れて」体感することのできる工夫もしてあり,その輝きが見かけだけでないことを感じることができます.
皮膚には,実に多くの皮膚病変があります.しかも,何の技術に依存することなく,誰でも観察することができます.皮膚病変を診断する上で役に立つのは,自分の中で典型的な皮疹を思い浮かべることができ,診断における軸ができることが第一歩と思います.そのためには,数多くの患者さんを経験しなければなりませんが,この一冊を通読していただければ,10年分の臨床経験を短時間で体験することができます.すべての疾患は見開き2ページ以内に収められており,左側にはごく簡単な解説がついています.絶対に知らなければいけない知識をよりすぐって記載されています.診断名は,日本語のみならず英語も併記されており,同義語も記載されています.より深く調べたいときにこれらの診断名の記載は大変役に立ちます.
是非皆さんも,清水 宏先生の渾身の一冊『あたらしい皮膚病診療アトラス』をお楽しみ下さい.

精神医学の知と技 沖縄の精神医療

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沖縄の精神医療を論じながら,日本全体,そして世界の精神医療の動向もが明らかにされている

精神医学 Vol.58 No.3(2016年3月号) 書評より

書評者:西園昌久(心理社会的精神医学研究所)

沖縄は日本人の良心を問うている。それが本土復帰直前とその後の若干でも沖縄の精神医療を垣間見た評者の実感である。
著者は戦禍が残り,本土復帰後の社会変動の激しい中で誕生した琉球大学医学部の精神科初代教授として赴任し,沖縄の精神医療の改善向上に尽力し,退任後の今もそれを続けている人である。
内容は,第一章 沖縄県の概要から始まり,沖縄県の医療の歴史,沖縄の民族信仰とシャーマニズム,沖縄の精神医療の歴史と現状,沖縄における地域精神医療の歩み,沖縄における予防精神医療の歩みと続き,第七章 沖縄の精神医学・医療における国際交流で終わっている。さらに巻末に,沖縄県の精神医療に関する年表が記載され,読者の便宜が配慮されている。科学あるいは理念としての精神医学は万国共通であろうが,その実践としての精神医療はその国,あるいは地域の歴史,文化,習慣,法律,経済事情,住民の理解,さらには社会変動と深く関わるものである。本書では上記の章立ての内容にみられるようにそれらを的確に把握して記述されている。しかも,沖縄のみならず,必要に応じて日本全体,さらには外国の統計資料を駆使し理解を助けている。したがって,沖縄の精神医療を論じながら,日本全体,そして世界の精神医療の動向もが明らかにされている。
沖縄戦の犠牲者は,日米の軍関係者は別として,沖縄住民,十数万人といわれるから全住民の10%強に相当する。当時,外傷後ストレス障害の概念はなかったが,「この世が信じられない」という外傷体験を多くの住民が体験したことは想像できるところである。本書の中で,本土復帰前,「精神衛生実態調査」が行われ,その結果,精神障害有病率は本土の約2倍に相当するとされたことが明らかにされた。それは,沖縄戦によって住民が受けた心的トラウマと無関係でないであろう。精神医療の決定的不足を補う「派遣医制度」,復帰後の精神科病床ならびに精神科クリニックの急増が数字を挙げて明らかにされている。そのような精神医療の充実の進んだ時点で著者はその動向にある種の危惧を体験された模様である。
その後,著者は琉球大学精神科の診療ならびに研究活動として,予防精神医療を始められたことが明らかにされている。同教室の研究成果のみならず,国際交流,国内における予防精神医学の主導,その後の発展が記載されている。それは,著者が精神科医になって間もなく,派遣された精神科病院での原体験と深く関わっていることが読みとれる。本書は読みながら,精神科医としての自分の立ち位置を内省させられる内容を含んでいる。そして,沖縄戦で戦死された著者のご尊父への鎮魂の報告書でもあろうと思われた。

レジデントのための薬物療法 呼吸器内科 薬のルール73!

レジデントのための薬物療法 呼吸器内科 薬のルール73! published on

実践的な知恵が平易に身に着く

メディカル朝日 2014年2月号 BOOKS PICKUより

種類が多く難解に感じる呼吸器疾患の薬物療法のポイントをつかみやすく、臨床現場ですぐに役立つように解説した一冊。喘息を合併しているか迷う時の対処は? 治療はいつまで続ける? 分子標的薬の使い方は? かぜに薬は必要? しゃっくりはどう治す?…など、興味を引くテーマに、図入りの見開きページで端的に答え、様々な日常診療の疑問を解決。

朝日新聞出版より転載承諾済み(承諾番号24-0347)
朝日新聞出版に無断で転載することを禁止します

動画でわかる 実践的心エコー入門

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おそらく世界で初めてのスタイル

medicina Vol.53 No.1(2016年1月号 書評より

書評者:吉川純一(西宮渡辺病院循環器センター 最高顧問)

小室一成先生が監修され,小室先生に信頼を受けている3人の優秀な医師が,この新しい本を執筆している.
この本の最大の特徴は,画像を印刷された紙の上でだけ見るのではなく,またCDやDVDで見るのではなく,パソコンおよびモバイル端末の指定のブラウザで画像(動画)を観察できる.今までのようにCDやDVDを持ち歩かないでも心エコー画像が観察される.
掲載されているすべての画像を見てみた.
いずれの画像も美しい.
私は,この類のテキストを今まで見たことはなく,おそらく世界で初めてのスタイルの著作であろう.
この本の名前は「動画でわかる実践的心エコー入門」であり,心エコーの鉄則をも意味している.
昔から,心エコー画像を見れば,MSやなとかASDやなとか,左房粘液腫だろうなと判断できるのが,心エコーの神髄であろう.その意味では心エコーの歴史は今でも当然不変である.
本書でも頑張っておられるが,次の著作では大幅に症例数を増やされることをぜひおすすめしておきたい.このテキスト名を活かすにふさわしい方法であろう.
聡明な循環器内科教授の指導の下,力もエネルギーも持ち合わせた人々が,世界で初めての形式の本を生み出された.症例数が増えれば「画像」→「診断」,「画像」→「診断」と続く夢のような本ができるであろう.

循環器内科ポケットバイブル

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東京大学循環器内科らしく「考えて医療をする」という姿勢を貫く,他書とは一線を画したポケットバイブル

Medical Practice Vol.32 No.12(2015年12月号)

書評者:坂田泰史(大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学)

本書は,循環器内科診療において必要となるエッセンスのみを抽出し,あくまでも現場で役立つことを目指したものであり,その内容を臨床現場に持ち歩けるように,ポケットに入るサイズに収めたいわゆるポケットバイブル本である.印刷は色刷りであり,key point やtipsも非常に見やすく,図表も豊富である.構成は,診療編,治療編,検査・手技編,薬剤編に分けられ,参照したいところも探しやすい.執筆は東京大学循環器内科の先生方が行っており,序文では彼らの経験を共有できると記載されている.このような本は,すでにいくつか出版されているが,本書はやはり東京大学循環器内科らしさがここかしこに溢れている点で,他書と一線を画している.

最も東大循環器内科らしさが出ている点は,病態への言及に比較的多くの枚数が割かれているところである.このようなポケットバイブル本では,枚数制限もあり,病態的理解を助ける内容は省略される傾向にあるが,本書は,重要な内容だけを取り出す形で各項目で記載されており,「考えて医療をする」という姿勢が貫かれている.例えば心不全の項では,1ページではあるが図を用いて心機能低下が神経体液性因子の活性を介して,うっ血や末梢血管抵抗の増大,リモデリングを起こしていく機序が説明されている.この分量のポケットバイブルではあまり見られないが,実際の臨床現場では,この機序を思い出せるかどうかで治療方針が異なってくる場面もある.また,肥大型心筋症の項でも,病理写真での錯綜配列がカラーで掲載されている.できれば,正常心筋配列との比較があれば,より親切であるが,重要な部分には紙面をケチらないという姿勢が良いと感じた.

今後このようなポケットバイブルはどのような方向に向かっていくのか.単なるマニュアルであれば,むしろ例えばgoogle glassのようなwearable deviceに内蔵され,音声で「胸痛の鑑別」などと言えば,いつでもどこでも参照できるようなものになっていくと思う.ただし,病態生理などは,そのようなデバイスではなく,当面は落ち着いて一人で患者さんを見つめながら参考にできる本やタブレットを必要とするであろう.本書は,そのようなニーズにも応えるために今後も改訂され,息長く若い医師の必携となってゆくことを期待したい.

予防接種コンシェルジュ

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学術と臨床両面に携わってこられた中野教授ならではといえる良書

小児内科 Vol.47 No.10(2015年10月号) 書評より

書評者:高橋謙造(帝京大学公衆衛生学研究科)

小児科臨床,予防接種に携わる全ての医師たちにとっての必読書が現れた。研修医や,新規に予防接種事業に乗り出した開業の先生方などが,一度はつまずくポイントひとつひとつに配慮されているようで,非常に行き届いた内容の教科書である。長年にわたり,学術と臨床両面に携わってこられた(そして,われわれ世代にとってのロールモデルでもあり続ける)中野教授ならではといえる良書である。
実例を挙げよう。予防接種の有効率のようなアカデミックな内容が,平易に解説されている。実は,予防接種においては,有効率などを考慮せすとも安全な業務遂行は成立しうる。しかし一方で,患者さんにワクチンの必要性などについて納得して接種を受けていただこうということになると,少し掘り込んだ説明が必要にもなる。そういった時には,この知識は役立つであろう。また,疾病罹患後の接種や同時接種などの実務的な解説も,全てが平易な文章で書かれている。併用薬剤に関する記述などは,なかなか煩雑で調べにくい内容であるが,2015年6月時点での最新知見をまとめてある。さらに疾病別の解説に関しても「免疫原性の評価」といった項目があり,対象疾病の確定診断のためには,どのような抗体検査で調べるのが確実か?についてまとめてあり,非常に有益である。臨床家がどこで迷うか?について,知り尽くして書かれているのである。
欲を言うなら,最初の10ページほどはやや表が多い印象がある。情報量が多い図表で挫折する若手も多いので,この部分の情報は巻末に回すなり工夫が必要であろう。このあたりは今後の改訂に期待したい。
臨床医にとっても,研究や行政サービスなどで予防接種に携わる方々にとっても,必読の書であろう。


すべての予防接種に携わる医療関係者に本書をお奨めする

小児科診療 Vol.78 No.10(2015年10月号) 書評より

書評者:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科教授)

本書のタイトル『予防接種コンシェルジュ』は序文によると「予防接種よろず承り係」という意味とのことである.内容はまさにその通りで,理想的な予防接種実践の手引き書となっている.現場で困ったとき必要な手がかりが必ず得られるよう配慮された構成がなされている.本書の最大の特徴は単著であるということである.最初から最後まで著者のポリシーが貫かれており,たいへん読みやすい.
本書は3部で構成されている.Part 1「予防接種の基本とスケジュール」,Part 2 「接種の実際」,Part 3 「ワクチンの接種法,個別対応」の3部である.Part 1 とPart 2 が予防接種実践書としての根幹部分である.Part 1で特に目を引くのが,同時接種や筋肉内注射などホットなテーマに個別に項目が割かれていることである.ワクチンの有効率の解説も有用である.Part 3 はワクチンの各論部分である.多くのワクチンが含まれるため個々の解説の紙面は限られるが,その中で「免疫原性の評価」は必ずふれられていて,著者のこだわりを感じる.
本書には全体にわたり日本の複雑な予防接種制度の変遷とその経緯の理解に役立つよう,随所に歴史的解説が挿入されているのも特徴である.さらに限られた紙面の中で情報が吟味されており,予防接種に不慣れな方はもちろん,ベテランの方でも必ず必要な情報が得られる良書である.文体も平易で読みやすい.日本の予防接種普及に資する必携の書である.すべての予防接種に携わる医療関係者に本書をお奨めする.

皮膚科臨床アセット 17 皮膚の悪性腫瘍

皮膚科臨床アセット 17 皮膚の悪性腫瘍 published on

使いやすさ,見やすさといった面での実用性にも心配りがなされた,読者に優しい書

Visual Dermatology Vol.13 No.11(2014年11月号) Book Reviewより

書評者:土田哲也(埼玉医科大学皮膚科)

現在,皮膚悪性腫瘍診療,とくにメラノーマの治療においてはブレイクスルーがおこっている.難攻不落であった進行期メラノーマに対して,DTIC(ダカルバジン)を凌ぐ薬剤が次々と開発されている.このことは,皮膚悪性腫瘍診療の範疇にとどまらず,医療界全般および社会からも大きな注目を浴びている.そういった情勢を背景に,この書は刊行された.専門編集者である国立がん研究センター中央病院の山﨑直也先生は,日本の皮膚悪性腫瘍診療のトップリーダーとして活躍中の現役バリバリの先生である.「序」で述べられている「初めて」のオンパレードは,まさしくこの時代背景を反映している.この書には,こういった「新しい」事実が,大変わかりやすく記載されていることが一つの特徴である.今まで断片的には目にすることはあったけれども,これらの新情報をまとめて勉強したい,と考えておられる先生方には待ち望まれた書であるといえる.
ただし,この書は,単に最新知識をまとめただけの書ではない.優れた臨床家である山﨑先生が,実際の皮膚悪性腫瘍診療に本当に必要な事項は何か,という実践診療の観点から組み立てた書である,という点がむしろ一義的な特徴といえる.そこに,大きな変革の波がかぶって,実践のみならず画期的な最新知識も得られる書に仕上がったところに,時代に求められているという山﨑先生の運をも感じてしまう.そう感じるのは,本年7月に第30回日本皮膚悪性腫瘍学会学術大会が山﨑先生を会長として開催されたが,この第30回という記念の学会期間中に,日本で開発され山﨑先生が臨床治験でご尽力なさった抗PD-1抗体が,世界に先駆けてメラノーマの治療薬として承認されたことも関係している.
この書の項目をみて,内容を読み進めれば,皮膚悪性腫瘍の診療を実践するのに必要な知識は何か,ということが否応なく頭の中に入ってくる.それぞれのパートを担当された先生方も,日本の皮膚悪性腫瘍診療を第一線で担われている正真正銘のエキスパートばかりである.記載に説得力があるのは,単なる教科書的知識の羅列ではなく,先人の業績は尊重しつつ,実践経験に裏づけられたリアリティも感じさせるためではないかと思う.
先人の業績ということについていえば,皮膚悪性腫瘍の診療に現在大きな変動が生じているとはいっても,ここまでずっと停滞していたわけではない.地道な努力が積み重ねられ着実な進歩はみられていた.ダーモスコピーなどによる診断精度の向上,センチネルリンパ節生検の導入などによる手術療法の改善などは,患者さんの負担の軽減,早期診断・早期治療の増加につながっていた.こういった皮膚悪性腫瘍診療の根幹をなす地道な進歩も,この書から読み取ることができる.
若い先生方には皮膚悪性腫瘍診療の実践書として,ベテランの先生方には最新知識を整理する書として,いずれの立場においても,この書の利用価値は高い.
最後に,この皮膚科臨床アセットシリーズは,皮膚科診療に役立つ読みやすい実用書として企画されているが,内容が実用的なことはもちろんのこと,装丁・レイアウトも工夫され,使いやすさ,見やすさといった面での実用性にも心配りがなされた,読者に優しい書であることを付記しておく.

総合小児医療カンパニア 移行期医療

総合小児医療カンパニア 移行期医療 published on

具体的な小児疾患の移行期における問題と解決策がわかりやすく記載されている

小児科診療 Vol.78 No.9(2015年9月号) 書評より

書評者:五十嵐隆(国立成育医療研究センター理事長)

かつて,わが国では血液悪性腫瘍,先天性心疾患,神経筋疾患などの重篤な慢性疾患をもつ子どもや低出生体重児の生命予後は悪く,成人にまで到達できないことが多かった.近年の医療の進歩は慢性疾患の子どもの生命予後を劇的に改善させ,その結果として,疾患やその後遺症を抱えて成人に至る患者が増加している.
成人になっても治療が必要な患者だけでなく,新たな後遺症への対策が必要な患者も少なくない.さらに,長期間にわたる入院生活や治療のために学校・社会生活を送るうえで何らかの障害をもち,悩んでいる患者もみられる.身体・発達・行動・精神状態に慢性的な障害があり,何らかの医療や支援が必要な子どもが,米国では17歳の時点で17%を占めており,わが国でも同様である.こうした状況をふまえ,日本小児科学会は移行期の患者とご家族に対する保健・医療と社会的支援がこれからのわが国の大きな課題と認識し,2014年に移行期医療に関する基本的な考えを提言として公表した.慢性的に身体・発達・行動・精神状態に障害をもち,何らかの医療や支援が必要な子どもと青年がself-esteemをもって社会の一員として活躍できるようにするために,彼らとご家族を支援する医療・保健・福祉をわが国に充実させることが責務であるからである.
本書では,わが国の移行期医療の現状,移行期医療に関する基本的な考え方,主として米国における移行期医療の先進的取り組み,そして,様々な具体的な小児疾患の移行期における問題と解決策がわかりやすく記載されている.わが国における今後の移行期医療をより適切に実践するうえで,本書は明らかな道筋を示していると強く感じた.小児医療に携わる方が本書をご一読いただき,多くの方々の力を結集して,わが国の移行期医療を発展させていただきたい.

レジデントのための糖尿病・代謝・内分泌内科ポケットブック

レジデントのための糖尿病・代謝・内分泌内科ポケットブック published on

無駄な記載を省き,現時点でのコンセンサスを十分踏まえたうえで,臨床的に必要なノウハウを具体的かつ明快に解説している

Diabetes Frontier Vol.25 No.5(2014年10月号) BOOK REVIEW

書評者:駒津光久(信州大学医学部糖尿病・内分泌代謝内科教授)

国立国際医療研究センターの野田光彦博士監修による「レジデントのための糖尿病・代謝・内分泌内科ポケットガイドブック」が上梓された。充実した内容をコンパクトなサイズに凝縮し,無駄な記載を省き,現時点でのコンセンサスを十分踏まえたうえで,臨床的に必要なノウハウを具体的かつ明快に解説している。本書は,レジデントには必須の「Ⅰ. 救急対応と電解質異常」,「Ⅱ. 糖尿病」,「Ⅲ. 高血圧・代謝疾患」,「Ⅳ. 内分泌疾患」の4部構成になっている。また,合計33項目についてColumnとして当該分野のトピックスに解説が加えられている。
例えば,糖尿病ケトアシドーシスの治療では,補液,速効型インスリン,カリウムの重要かつ十分な3項目についてわかりやすいフローチャートで極めて明解に描かれている。また,原発性アルドステロン症の鑑別も現時点で妥当かつ使いやすいフローチャートが書かれている。文章だけではなくこのような秀逸なチャートや,最新の診断基準の掲載など,レジデントの困りそうなところすべてに手が届いている。全体を通して,記載の姿勢や記述分量,文体などに統一感がある。これは,執筆者の田中隆久,辻本哲郎,小菅由果,財部大輔の4先生が,監修者の野田光彦博士の直弟子であり,その薫陶をうけ,意思疎通が十分にできたことによるのだろう。
内分泌代謝内科学は,負荷試験の方法や具体的な判定基準など,多くの数字が付きまとう。レジデントの間は,この本を傍らにおけば,そのような問題は解決する。基本的には,必要な項目を拾い読みすることになるが,時間の許すときに,33項目のColumnを熟読することも勧めたい。専門医が読み直しても頭の整理に役立つほど良質な内容である。また巻末には通常の索引に加えて,略語の解説や,内分泌負荷試験一覧,糖尿病注射薬の一覧が添えられており極めて実用的である。
本書は「初期研修医」が内分泌代謝内科をローテートする際に是非とも携行していただきたい一冊である。研修医が日々遭遇する臨床現場で,その分野での専門知識を迅速かつ適切に習得することは容易ではない。研修医といえども自分の担当患者における診断や治療に関しては,教科書をよく理解したうえで,総説や原著論文にあたる姿勢が,とくに内分泌代謝内科の分野では求められる。一方,日々の研修現場やカンファレンスで耳慣れない,あるいは理解が不十分な問題点が否応なく押し寄せてくる。そのような時,本書が手元にあれば心強い。研修終了時に本書が書き込みや付箋だらけになれば,そのまま読者の研修目標の達成につながるだろう。まさに,監修者が序で述べているように「お勧めできる珠玉の一冊」である。
当教室でも研修医に携行させたい。そして,その内容を深く理解することが私たち指導者こそ求められるので(自室にこもってひっそりと)勉強しておこうと思う。