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状況別に学ぶ  内科医・外科医のための精神疾患の診かた

状況別に学ぶ  内科医・外科医のための精神疾患の診かた published on

まさに臨床医の日常診療に必須の書

内科 Vol.118 No.5(2016年11月号) Book Reviewより

書評者:黒木宣夫(日本総合病院精神医学会理事長/東邦大学名誉教授)

本書は書名にあるとおり,精神科以外の医師に向けた精神疾患と精神科の入門書である.
第1章「状況別に学ぶ精神疾患」では,精神科以外の医師が精神疾患に直面した状況から,患者の訴えをどう解釈し,どのように対応するのが適切なのか,精神医学的根拠を示しつつ,わかりやすく具体的な対応が提示されている.精神疾患と接することは精神科以外の医師にとってはやや慎重になったり,気が重く感ずることもあるかもしれないが,一般の医師が精神疾患と遭遇する場面というのはある程度シチェーションに分けて考えられる.その状況別に「知っておくべきこと」「するべきこと」「してはいけないこと」を理解しておけば,決して精神疾患は恐れることはないことがよくわかる.対応すべきポイントが具体的に提示されているので,一般医にとって非常に参考になると思われる.
第2章では「精神科の基礎知識」として,精神症状の把握の仕方から,どのように見立てて治療方針を決めていくのか,まさに筆者の臨床経験から日常臨床に必須となる精神科の知識がまとめられている.この章を読んでいただけると,精神医学の必要性,さらに向精神薬を使う際のポイントに関しても,ただ投与するのではなく,一呼吸おいて本当に必要なのか,ほかに方法がないのか,薬物治療にさまざまな角皮から対応するという筆者の精神科治療に対する姿勢がにじみ出ており,本来の読者である精神科以外の医師だけでなく,精神科専門医,精神科をこれから目指そうという医師にも非常に参考になる内容となっている.
さらに,第4章「Q&A本当に知りたい精神疾患の疑問」では,精神科や精神疾患について,一般医から本当に集めた疑問に答えている.「精神科医はなぜなかなか病名を記載しないのか?」など興味深い解説や,精神科と心療内科の違い,新型うつ病,幻覚妄想への対応,認知症の対応などの現代のトピックスに関して,まさに臨床医が知りたい内容になっている.
また,精神科以外の医師と精神科医との連携は,地域医療,病院内医療,勤労者医療では欠くことができないと思われるが,さまざまな場面を想定して連携に関して解説がなされている.一般臨床医が,どのような患者であれば精神科診療所でもよいのか,単科精神病院の方が適切なのか,また総合病院精神科がより適切なのか,要領よくまとめられている.
2015年12月に義務化されたストレスチェック制度においても産業医と精神科医の連携が必要であるが,産業現場でいつ,どのようなタイミングで連携をとることが労働者の安定就労につながるのかという観点からも解説され,主治医の立場からの情報共有に関しての取り扱いにも言及されており,まさに臨床医の日常診療に必須の書であるといえる.

データで読み解く発達障害

データで読み解く発達障害 published on

必ずしもエビデンスは得られていないが保護者からの質問の多い補充代替療法についての項目や,そうした回答に役立つコラムも充実している

小児の精神と神経 Vol.56 No.3(2016年10月号) 書評より

書評者:山崎知克(浜松市子どものこころの診療所)

発達障害はさまざまな疾患を包括しており,その概念は歴史的に見ても大きな変革を遂げているため,専門家はそれに適応しようと近視眼的になってしまいやすいのではないだろうか.そうしたなかで,本書は発達障害の臨床と研究の連続性を意識した包括性をコンセプトにup to dateな知見と従来の基本的事項がそれぞれの第一人者により執筆された良書である.構成は「発達障害を理解する」,「社会的対応」,「治療と療育の原則」の3章からなっている.
「発達障害を理解する」では,そのはじめの項目でDSM-IV-TR(2000)から数えて13年ぶりの改定となったDSM-5(2013)について,特に広汎性発達障害から自閉スペクトラム症への診断基準の変化と,その重症度水準の変更についてわかりやすく述べられている.また,ASD,ADHD,LD,Tourette障害,発達性協調運動障害,選択性緘黙,表出性言語遅滞のそれぞれの項目において,診断,疫学と家族歴,遺伝子研究,自然経過と成人移行,必要な検査,治療と療育について見開き1頁とコンパクトにまとめられており,さらに臨床上必要となる主な検査,二次障害への対応,診断告知についてもバランスのよい解説がなされている.「社会的対応」では,発達障害者に対する行政的支援と教育的配慮(障害児保育と加配,就学相談,就学時健康診断,就学猶予,特別支援教育,通級指導教室など)について専門家が知っておかなければならない制度についての記載がわかりやすい.「治療と療育の原則」では医学モデルとの対比による生活モデルの重要性における説明につづき,乳幼児健診における療育では診断よりも先に対応が必要であること,家族支援の必要性が総論的に記載され,かかりつけ医による発達障害診断,薬物療法と注意点など臨床家にとって必要な心構えが述べられている.
さらに本書では,必ずしもエビデンスは得られていないが保護者からの質問の多い補充代替療法についての項目や,そうした回答に役立つコラムも充実している.特に入門者にとっては発達障害における臨床と研究の範囲を把握するのに優れており,また中堅以上の専門家にとっても知識の整理や簡潔な説明を求められた際にとても役立つと思われるため,ぜひご一読をお薦めしたい.

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 免疫性神経疾患

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 免疫性神経疾患 published on

神経免疫の領域で世界的に活躍している先生方を執筆陣としている

BRAIN and NERVE Vol.68 No.10(2016年10月号) 書評より

書評者:糸山泰人(国際医療福祉大学 副学長)

〈アクチュアル脳・神経疾患の臨床NEXT〉『免疫性神経疾患 病態と治療のすべて』を読ませていただきました。ずしっとした本書の重みが単なる病気の教科書的解説の寄せ集めではなく,実際の免疫性神経疾患の病態解明と治療の進歩の情報に満ちあふれていることが分かりました。一般に神経疾患には難病が多く,病態は不明で治療法は乏しいという印象がありますが,本書はそうした固定観念を一掃してしまった感があります。
例えば,免疫性神経疾患の代表的疾患である多発性硬化症を例にとってみますと,わが国で難病対策が始まった1970年代の本症の認識は,「病態に免疫の異常が関与しているも,再発を抑える治療はない」というものでしたが,本書ではその認識が一変していることが分かります。即ち,「多発性硬化症はその主な病態機序は明らかにされ,それに対する分子標的療法を含む各種の病態修飾薬が奏効し,再発はほぼコントロールされるようになり,今後は長期予後を改善させる個別化医療が模索されている」という認識です。本書では,多発性硬化症に限らず多くの疾患で,これに類する病態解明や治療法の進歩が示されています。
本書には幾つかの優れた特色があります。その一つは神経免疫の領域で世界的に活躍している先生方を執筆陣としていることです。本書の専門編集者の吉良潤一先生は厚労省の免疫性神経疾患調査研究班の班長を務めてこられ,執筆者の多くはその研究班を支えてこられた先生方でもあり,それぞれの分野でオリジナリティの高い研究をされています。なかでもHTLV-1関連脊髄症,視神経脊髄炎,フィッシャー症候群およびPOEMS症候群ではわが国の研究者の貢献度が高く,その内容は大変に読み応えがあります。
第二の優れた点は,日々進歩しつつある神経免疫領域の最新の情報を網羅していることです。例えば,多発性硬化症の治療は新規の病態修飾薬の開発に加え,本邦での急速なドラッグラグ解消の努力とが相候って,ほぼ毎年のように新薬の導入が行われていますが,これに対応した治療の実際や副反応などへの対処法などが漏れなく述べられています。また,近年の研究の進歩が著しく,多様な情報が含まれるサイトカイン,ケモカインそれに抗神経抗体,抗糖脂質抗体ならびに各種のモノクローナル抗体治療薬に関しても分かりやすく解説されています。
もう一つの特記すべき特徴として,本書は通常の教科書にある各論を中心とした記載内容のみではなく,免疫性神経疾患を「知る」,「測る」,「治す」という章立てにして,神経免疫の基礎,バイオマーカーの解釈,それに治療法という切り口から情報がまとめられているのは,この領域を大局的に理解するのに役立っています。是非とも免疫性神経疾患の治療に当たられる神経内科をはじめ内科,小児科,脳神経外科の先生方,それに神経免疫に興味のある研究者や学生の皆さまに読んでいただきたいと思います。

内科学書 改訂第8版

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当代の全ユーザー層にフレンドリーな良書

レジデントノート Vol.16 No.1(2014年4月号) 書評

書評者:能登洋(国立国際医療研究センター病院 糖尿病・代謝・内分泌科 医長,東京医科歯科大学 医学部 臨床教授)

「当代の全ユーザー層にフレンドリーな良書」
書籍がその内容を有効に伝えるためには,内容だけでなく伝達媒体も重要である.本書はこの両者において秀でた良書である.特に現代医療においては電子媒体の重要性が大きいが,PDF版とPDA(Personal Digital Assistant)版が充実している点は他に類を見ない.
まず,学生や研修医の視点も含んだ記載が豊富であることが目を引く.著者からの一方的な情報の展観ではなく読者の立場を考慮した解説なので読んでいて分かりやすいし,教育の立場にある人にとっても指導に役立つ.
次に特記すべきは,絨毯爆撃的検査や最新治療がもてはやされる目本の医療において,今回の改訂で臨床における判断の項が新設されたことである.診断過程においては,主訴と症状・所見から鑑別診断を挙げて検査で絞り込んでいくプロセスをとらずに検査にとびついたのでは誤診(見落とし・過剰診断)が増え,効果と安全性が確立していないような診療方針では患者の予後改善に結びつく可能性が低い.EBMを実践する際には,エビデンスだけあれば十分というのではなく,このような臨床判断力が必須である.本書は紙媒体を母体とした数年ごとの改訂書籍であるため,引用されているエビデンスは最新のものとは限らないことには気をつけなければならないがエビデンスを読解し活用するための教科書としては適役である.
近年,医療においても電子化が急速に進展しており,私は講演や講義ではスマートフォンから無線でスライド映写やポインター操作をしている.一方,ノートパソコンやタブレットでノートをとる聴講者や学生も増えてきている.本書は全編がそのままPDFとしてダウンロードできるため,CD/DVDドライブを内蔵していない薄型ノートパソコンやタブレットでも閲覧できる.また,PDA版(別売り)をスマートフォンで使用することもできる.紙媒体を好むユーザーにも電子媒体を活用するユーザーにも汎用性や機動性が高いのが嬉しい.ちなみにこのような普及ツールの充実は,EBM(特に診療ガイドライン)実践における国際的な評価点の一つにもなっている.
本書があらゆる立場の人に有効かつ効率的に活用されることを期待している.


学生だけでなく研修医にとっても最適の書

Medical Tribune 2013年12月26日号 本の広場より

内科学テキストとして第8版を重ねるロングセラー。詳細な病態の理解や症状の説明,さらにメジャー疾患の解説が充実している。全6冊に別巻付きのボリュームも最大となっており,学生だけでなく研修医にとっても最適の書といえる。
疾患の説明は,現象面にとどまらず機序から逐一解説され,診断ポイントも明示。例えばメジャー疾患の結核では,概念や徴候,医療面接のポイント,診断・検査,診断後の処置,治療に項目を分けて詳細に解説。感染症の中の,例えばアデノウイルス感染症という一分野を取り上げ,概念や病因,疫学,臨床症状,診断・治癒という項目に分けて詳述している。
分冊のため1冊が薄く,研修の場に持ち込むことも容易である。しかも,分冊でなければその疾患だけに説明が限られてしまう欠点があるが,本書では他領域の学際領域にまで踏み込み,同じ疾患でも臓器ごとの説明が付いている。
医師国家試験に出題されやすい問題の解説が豊富で,しかも全ページのPDFデータがダウンロードできるアクセス権が特典で付いている。3,000ページ分のデータをタブレットに入れれば,いつでもどこでも閲覧が可能になる。

外来精神科診療シリーズ メンタルクリニック運営の実際

外来精神科診療シリーズ メンタルクリニック運営の実際 published on
精神医学 59巻11号(2017年11月号)「書評」より

評者:神田橋條治(伊敷病院)

「よの中に交わらぬとにはあらねどもひとり遊びぞ我はまされる」(良寛)。いのちにとって「閉ざす」ことが必然です。そのなかで成長と熟成が進みます。「開く」は,成長と熟成とに寄与する次の策です。「閉ざす」自体が損なわれるといのちが自立性を失います。文化も同じです。開化期の先人たちは,「攘夷」という被害妄想のかわりに「和魂洋才」との心構えをもつことで,「鎖国」のなかで熟成してきた日本文化を守りました。当時の被植民地諸国の見聞からの知恵だったのでしょう。からだ→こころ→魂と並べたとき,その順に「閉ざす」が大切になります。「魂だけは売り渡さない」はさまざまな極限状況で現れる決意です。「身は売っても思いは主さまだけのもの」との遊女の覚悟もそのひとつです。魂を守る決意には切ない気分があります。グローバル化の流れやAIの発展がこころの領域にまで支配を広げてきたので,切なさは日常に瀰漫してきました。最近の奇妙な社会現象の多くを,切なさへの対処行動,せめて魂だけは守ろうとする工夫,として眺めると腑に落ちる気分が湧きます。
精神科臨床を選択した人々の多くは,からだ→こころ→魂の総合体を援助する志向を持っています。いのちの鎖国文化を援助したいとの意図を持つ資質です。いずれが先かは微妙ですが,我が内なる鎖国文化を維持し熟成したいとの志向と互いに響き合います。「わたしの精神医学」です。内なる鎖国文化が形を現し,幾つかの援助手技を手に入れた人は,クリニックを立ち上げます。鎖国環境の設定です。精神科臨床のロマンですから,当然の流れです。
グローバル化の奔流がロマンを壊し始めました。診断の領域での世界標準化すなわちDSMと援助手技の領域でのEBMです。診断については,表向きのDSMを尊重しながら援助作業においてはわたしの内なる精神医学を用いるという二重帳簿で凌ぐことができます。しかもそれは精神科を選んだ資質の中にある,裏世界嗜好を充たしさえします。深刻なのは援助手技についてです。中でも精神薬物療法については甚大です。手持ちの援助手技の中で薬物を主な手立てにしている治療者は,洋才に侵食されて魂の危機にあります。
ところで「エビデンス」なるものの成立過程を眺めてみると,それは正規分布の両端を切り捨てて作った「多数決」の成果です。多数決が参考資料以上の力を持つと薄っぺらな全体主義の本流を形成し少数者切り捨てに至ることはすべての世界で具現されています。この気分が医療を覆うようになると,「少数者への援助」という医療の原点が失われ,医学は疫学になります。珍しい疾患の見落としや頻度の稀な重大な副作用の見落としとして臨床現場で現れています。臨床は五感と第六感とを総動員して行うアートです。魂の営みです。その営みからの経験が各人の体験として刻み込まれて鎖国文化の中の「わたしのエビデンス」となっています。職人の「勘どころ」です。
薬物については事態はさらに深刻です。科学主義・客観化に根ざしているからです。これに侵食されて「薬物依存」「薬物乱用」風医療になってしまっている治療者はすべての医療分野に蔓延しています。向精神薬については,からだ(脳)への作用に限って客観化が行われ,しかも関連する変数を極力少なくするという科学実験の原則に沿ってエビデンスが得られています。その判定はこころの変化,しかも辛うじて有意差が出る程度の微かな多数決のデータです。現場では個体を共同研究者にして,その主観的判断(こころ→魂)を組み込みながら処方を決めて,テーラーメイドのエビデンスを積み上げていくのが医療です。
皆さん気づいておられますか? わたしたちは分担執筆で編纂された全書の類を購入しても,たまに参照するだけでおおかたは本棚の肥やしになっています。折に触れてページをめくるのは単著です。単著による精神医学教科書はしばしば座右の書になります。信者になっているわけではありません。その著者のなかで熟成した鎖国文化に触れることで自分の鎖国文化を省みる欲求ゆえです。このシリーズは分担執筆であるけど分担執筆ではありません。五人の「野武士」の方々が,精神医療の現状への危機感から立ち上げたシリーズです。野武士とは,鹿鳴館の賑わいを横目に見ながらも,自らの鎖国文化を育成し,それに支えられて「開く」が自在になり,被害感なしに,DSMやEBMの有用なところは取り入れて成長と成熟を歩み続けている人の謂です。「和魂洋才」です。シリーズは全10冊からなっており,最後の巻にシリーズ全体の執筆者一覧が載ります。野武士五人の方々の論述はもちろんですが,その他にも多くの方が複数の論述を寄稿しておられ,それらを縦断して読むことで多種多様な鎖国文化に触れることになります。単著の乱舞です。全10冊が医局の本棚にあると,ベテランの精神科医にとってはさまざまな鎖国文化を批判的に読むことができます。そのことはとりもなおさず自らの鎖国文化を省みる作業になります。歩きはじめの精神科医にとっては,自分の未来にさまざまの道が開けていることが見えて,こころと魂が定まります。なかにはどの道も自分の資質と馴染まないと分かって,脳科学の方向を選ぶかたもありましょう。それもまた素晴らしい選択です。
最後に,このシリーズには当事者の寄稿もあります。なかでも小石川真実という方の二本の論文「『患者を良くする』ことを念頭においた診断を」(診断の技と工夫 214頁)「本気でわかろうとしてくれる人が一人でもいると患者は立ち直れる」(精神療法の技と工夫 226頁)を是非お読みください。標準化とEBMの「洋才」に浮かれた被植民地化された精神科臨床でからだもこころもモミクチャにされながらも,辛うじて魂だけは守り抜いた人の「叫び」です。「わたしならどうするか?」と自問して下さい。魂までも毀損された「声なき声」が現場に溢れておりテーラーメイドの援助で叫びが蘇る経験は非医師の報告に散見します。
最近注目をあびている「オープンダイアローグ」という手法は見かけとは逆に,その個体独自の鎖国文化の回復が本質です。そう考えると,あの目を見張る効果が腑に落ちます。


クリニックを開きたいと願っている医師たち,あるいは精神科外来自体に関心を持つ医師たちにとっては必読の書

精神医学 Vol.58 No.5(2016年5月号) 書評より

書評者:松下正明(東京大学名誉教授)

評者はかつて,クレペリンにせよヤスパースにせよ従来の精神医学は精神病院に入院している患者を基礎に築かれてきたが,これからは外来診療を主とした精神医学が構築されるべきで,その内容は随分と変わってくるだろう,極端な言い方をすれば,疾患慨念自体,あるいは疾患名も一変するのではないかと,述べたことがある。将来は,精神科医療は外来診療中心の時代となるという脈絡の中での発言であった。
このたび,本書を含めて,「外来精神科診療シリーズ,全10冊」が刊行されることになり,いよいよ時期到来かと内心喜んだものであるが,予想通り,シリーズが刊行されてまだ半ばではあるが,すでにしてメンタルクリニックを中核とした精神科外来診療の時代の出現を予感させる出来栄えである。
編集主幹の原田誠一さんが「刊行にあたって」で,この企画は,「精神科クリニックでの実践を通じて集積されてきた膨大な〈臨床の知〉を集大成して,世に間うこと」,「現場に根差した〈臨床の知〉をひっくるめて示し,現在の正統的な精神医学~精神医療に対する自分たちなりの意見表明や提言をすること」にあると述べられていることも,精神科外来診療での〈臨床の知〉が,これからの精神医学の革新につながることを心ひそかに断言した自負に違いない。
本シリーズは,メンタルクリニックにおける精神科外来診療にみる新しい臨床の知から,診断の薬物療法,身体療法,精神療法,あるいは東日本大震災における精神科外来診療やギャンブル依存症などに至るまで,その関心の広さは大きいが,とりわけ今回書評の対象とする本書はメンタルクリニックの運営の実際についての知と技の詳細を示して尽きない。
本書は,計23の論考と28のコラムからなり,「クリニック開業の条件を考えてみよう」「クリニックの外的構造」「クリニック診療の内的構造」「クリニックと地域医療」「クリニックのリスク管理,安全の確保」「クリニックの経営」「クリニック開業医が担うもの―診療・経営以外のあれこれ」などといったタイトルを持つ10の章に分けられている。表題の目新しさに惹かれて本文を読み,またその内容のユニークさに一驚してしまう。
日本での精神科関連の全集では初めての試みと思われる本シリーズは,すでに開業しているメンタルクリニックにとってはおそらく座右の書であり,これからクリニックを開きたいと願っている医師たち,あるいは精神科外来自体に関心を持つ医師たちにとっては必読の書となるに違いない。

あたらしい皮膚病診療アトラス

あたらしい皮膚病診療アトラス published on

見ればわかる皮膚病診療アトラス

Derma No.244(2016年5月号) BookReviewより

書評者:天谷雅行(慶應義塾大学医学部皮膚科学教授)

北海道大学皮膚科教授の清水 宏先生が,皮膚疾患アトラス『あたらしい皮膚病診療アトラス』を刊行されました.本書は妥協を許さない筆者の執筆姿勢を反映し,高画質の臨床写真のみが厳選されているのみならず,誰が手にとってもわかるように,余計な説明を省き大変わかりやすく構成されています.数多くある皮膚疾患アトラスの中で,秀逸な一冊であり,皮膚科専門医はもちろんのこと,あらゆる医師,医療従事者に役立つこと間違いない一冊です.是非,一度手にとって本書を見ていただければその良さが体感できます.
総論のところでは,それぞれの特徴ある皮疹がどのように出現するのか,3D模式図が添えられています.本という出版形態が2Dの世界であるだけに,3Dによる解説は大変わかりやすく,新鮮な輝きを放っています.さらに,表表紙と裏表紙の見開きには,光沢をつけた皮疹を「触れて」体感することのできる工夫もしてあり,その輝きが見かけだけでないことを感じることができます.
皮膚には,実に多くの皮膚病変があります.しかも,何の技術に依存することなく,誰でも観察することができます.皮膚病変を診断する上で役に立つのは,自分の中で典型的な皮疹を思い浮かべることができ,診断における軸ができることが第一歩と思います.そのためには,数多くの患者さんを経験しなければなりませんが,この一冊を通読していただければ,10年分の臨床経験を短時間で体験することができます.すべての疾患は見開き2ページ以内に収められており,左側にはごく簡単な解説がついています.絶対に知らなければいけない知識をよりすぐって記載されています.診断名は,日本語のみならず英語も併記されており,同義語も記載されています.より深く調べたいときにこれらの診断名の記載は大変役に立ちます.
是非皆さんも,清水 宏先生の渾身の一冊『あたらしい皮膚病診療アトラス』をお楽しみ下さい.

精神医学の知と技 沖縄の精神医療

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沖縄の精神医療を論じながら,日本全体,そして世界の精神医療の動向もが明らかにされている

精神医学 Vol.58 No.3(2016年3月号) 書評より

書評者:西園昌久(心理社会的精神医学研究所)

沖縄は日本人の良心を問うている。それが本土復帰直前とその後の若干でも沖縄の精神医療を垣間見た評者の実感である。
著者は戦禍が残り,本土復帰後の社会変動の激しい中で誕生した琉球大学医学部の精神科初代教授として赴任し,沖縄の精神医療の改善向上に尽力し,退任後の今もそれを続けている人である。
内容は,第一章 沖縄県の概要から始まり,沖縄県の医療の歴史,沖縄の民族信仰とシャーマニズム,沖縄の精神医療の歴史と現状,沖縄における地域精神医療の歩み,沖縄における予防精神医療の歩みと続き,第七章 沖縄の精神医学・医療における国際交流で終わっている。さらに巻末に,沖縄県の精神医療に関する年表が記載され,読者の便宜が配慮されている。科学あるいは理念としての精神医学は万国共通であろうが,その実践としての精神医療はその国,あるいは地域の歴史,文化,習慣,法律,経済事情,住民の理解,さらには社会変動と深く関わるものである。本書では上記の章立ての内容にみられるようにそれらを的確に把握して記述されている。しかも,沖縄のみならず,必要に応じて日本全体,さらには外国の統計資料を駆使し理解を助けている。したがって,沖縄の精神医療を論じながら,日本全体,そして世界の精神医療の動向もが明らかにされている。
沖縄戦の犠牲者は,日米の軍関係者は別として,沖縄住民,十数万人といわれるから全住民の10%強に相当する。当時,外傷後ストレス障害の概念はなかったが,「この世が信じられない」という外傷体験を多くの住民が体験したことは想像できるところである。本書の中で,本土復帰前,「精神衛生実態調査」が行われ,その結果,精神障害有病率は本土の約2倍に相当するとされたことが明らかにされた。それは,沖縄戦によって住民が受けた心的トラウマと無関係でないであろう。精神医療の決定的不足を補う「派遣医制度」,復帰後の精神科病床ならびに精神科クリニックの急増が数字を挙げて明らかにされている。そのような精神医療の充実の進んだ時点で著者はその動向にある種の危惧を体験された模様である。
その後,著者は琉球大学精神科の診療ならびに研究活動として,予防精神医療を始められたことが明らかにされている。同教室の研究成果のみならず,国際交流,国内における予防精神医学の主導,その後の発展が記載されている。それは,著者が精神科医になって間もなく,派遣された精神科病院での原体験と深く関わっていることが読みとれる。本書は読みながら,精神科医としての自分の立ち位置を内省させられる内容を含んでいる。そして,沖縄戦で戦死された著者のご尊父への鎮魂の報告書でもあろうと思われた。

レジデントのための薬物療法 呼吸器内科 薬のルール73!

レジデントのための薬物療法 呼吸器内科 薬のルール73! published on

実践的な知恵が平易に身に着く

メディカル朝日 2014年2月号 BOOKS PICKUより

種類が多く難解に感じる呼吸器疾患の薬物療法のポイントをつかみやすく、臨床現場ですぐに役立つように解説した一冊。喘息を合併しているか迷う時の対処は? 治療はいつまで続ける? 分子標的薬の使い方は? かぜに薬は必要? しゃっくりはどう治す?…など、興味を引くテーマに、図入りの見開きページで端的に答え、様々な日常診療の疑問を解決。

朝日新聞出版より転載承諾済み(承諾番号24-0347)
朝日新聞出版に無断で転載することを禁止します

動画でわかる 実践的心エコー入門

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おそらく世界で初めてのスタイル

medicina Vol.53 No.1(2016年1月号 書評より

書評者:吉川純一(西宮渡辺病院循環器センター 最高顧問)

小室一成先生が監修され,小室先生に信頼を受けている3人の優秀な医師が,この新しい本を執筆している.
この本の最大の特徴は,画像を印刷された紙の上でだけ見るのではなく,またCDやDVDで見るのではなく,パソコンおよびモバイル端末の指定のブラウザで画像(動画)を観察できる.今までのようにCDやDVDを持ち歩かないでも心エコー画像が観察される.
掲載されているすべての画像を見てみた.
いずれの画像も美しい.
私は,この類のテキストを今まで見たことはなく,おそらく世界で初めてのスタイルの著作であろう.
この本の名前は「動画でわかる実践的心エコー入門」であり,心エコーの鉄則をも意味している.
昔から,心エコー画像を見れば,MSやなとかASDやなとか,左房粘液腫だろうなと判断できるのが,心エコーの神髄であろう.その意味では心エコーの歴史は今でも当然不変である.
本書でも頑張っておられるが,次の著作では大幅に症例数を増やされることをぜひおすすめしておきたい.このテキスト名を活かすにふさわしい方法であろう.
聡明な循環器内科教授の指導の下,力もエネルギーも持ち合わせた人々が,世界で初めての形式の本を生み出された.症例数が増えれば「画像」→「診断」,「画像」→「診断」と続く夢のような本ができるであろう.

循環器内科ポケットバイブル

循環器内科ポケットバイブル published on

東京大学循環器内科らしく「考えて医療をする」という姿勢を貫く,他書とは一線を画したポケットバイブル

Medical Practice Vol.32 No.12(2015年12月号)

書評者:坂田泰史(大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学)

本書は,循環器内科診療において必要となるエッセンスのみを抽出し,あくまでも現場で役立つことを目指したものであり,その内容を臨床現場に持ち歩けるように,ポケットに入るサイズに収めたいわゆるポケットバイブル本である.印刷は色刷りであり,key point やtipsも非常に見やすく,図表も豊富である.構成は,診療編,治療編,検査・手技編,薬剤編に分けられ,参照したいところも探しやすい.執筆は東京大学循環器内科の先生方が行っており,序文では彼らの経験を共有できると記載されている.このような本は,すでにいくつか出版されているが,本書はやはり東京大学循環器内科らしさがここかしこに溢れている点で,他書と一線を画している.

最も東大循環器内科らしさが出ている点は,病態への言及に比較的多くの枚数が割かれているところである.このようなポケットバイブル本では,枚数制限もあり,病態的理解を助ける内容は省略される傾向にあるが,本書は,重要な内容だけを取り出す形で各項目で記載されており,「考えて医療をする」という姿勢が貫かれている.例えば心不全の項では,1ページではあるが図を用いて心機能低下が神経体液性因子の活性を介して,うっ血や末梢血管抵抗の増大,リモデリングを起こしていく機序が説明されている.この分量のポケットバイブルではあまり見られないが,実際の臨床現場では,この機序を思い出せるかどうかで治療方針が異なってくる場面もある.また,肥大型心筋症の項でも,病理写真での錯綜配列がカラーで掲載されている.できれば,正常心筋配列との比較があれば,より親切であるが,重要な部分には紙面をケチらないという姿勢が良いと感じた.

今後このようなポケットバイブルはどのような方向に向かっていくのか.単なるマニュアルであれば,むしろ例えばgoogle glassのようなwearable deviceに内蔵され,音声で「胸痛の鑑別」などと言えば,いつでもどこでも参照できるようなものになっていくと思う.ただし,病態生理などは,そのようなデバイスではなく,当面は落ち着いて一人で患者さんを見つめながら参考にできる本やタブレットを必要とするであろう.本書は,そのようなニーズにも応えるために今後も改訂され,息長く若い医師の必携となってゆくことを期待したい.