まさに臨床医の日常診療に必須の書

内科 Vol.118 No.5(2016年11月号) Book Reviewより

書評者:黒木宣夫(日本総合病院精神医学会理事長/東邦大学名誉教授)

本書は書名にあるとおり,精神科以外の医師に向けた精神疾患と精神科の入門書である.
第1章「状況別に学ぶ精神疾患」では,精神科以外の医師が精神疾患に直面した状況から,患者の訴えをどう解釈し,どのように対応するのが適切なのか,精神医学的根拠を示しつつ,わかりやすく具体的な対応が提示されている.精神疾患と接することは精神科以外の医師にとってはやや慎重になったり,気が重く感ずることもあるかもしれないが,一般の医師が精神疾患と遭遇する場面というのはある程度シチェーションに分けて考えられる.その状況別に「知っておくべきこと」「するべきこと」「してはいけないこと」を理解しておけば,決して精神疾患は恐れることはないことがよくわかる.対応すべきポイントが具体的に提示されているので,一般医にとって非常に参考になると思われる.
第2章では「精神科の基礎知識」として,精神症状の把握の仕方から,どのように見立てて治療方針を決めていくのか,まさに筆者の臨床経験から日常臨床に必須となる精神科の知識がまとめられている.この章を読んでいただけると,精神医学の必要性,さらに向精神薬を使う際のポイントに関しても,ただ投与するのではなく,一呼吸おいて本当に必要なのか,ほかに方法がないのか,薬物治療にさまざまな角皮から対応するという筆者の精神科治療に対する姿勢がにじみ出ており,本来の読者である精神科以外の医師だけでなく,精神科専門医,精神科をこれから目指そうという医師にも非常に参考になる内容となっている.
さらに,第4章「Q&A本当に知りたい精神疾患の疑問」では,精神科や精神疾患について,一般医から本当に集めた疑問に答えている.「精神科医はなぜなかなか病名を記載しないのか?」など興味深い解説や,精神科と心療内科の違い,新型うつ病,幻覚妄想への対応,認知症の対応などの現代のトピックスに関して,まさに臨床医が知りたい内容になっている.
また,精神科以外の医師と精神科医との連携は,地域医療,病院内医療,勤労者医療では欠くことができないと思われるが,さまざまな場面を想定して連携に関して解説がなされている.一般臨床医が,どのような患者であれば精神科診療所でもよいのか,単科精神病院の方が適切なのか,また総合病院精神科がより適切なのか,要領よくまとめられている.
2015年12月に義務化されたストレスチェック制度においても産業医と精神科医の連携が必要であるが,産業現場でいつ,どのようなタイミングで連携をとることが労働者の安定就労につながるのかという観点からも解説され,主治医の立場からの情報共有に関しての取り扱いにも言及されており,まさに臨床医の日常診療に必須の書であるといえる.