Skip to content

小児科ベストプラクティス 外来で見つける先天代謝異常症

小児科ベストプラクティス 外来で見つける先天代謝異常症 published on
小児内科 Vol.55 No.4(2023年4月増大号)「Book Review」より

評者:乾あやの(済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科)

本書では,先天性代謝異常症の工キスパートが,いかにして日常診療から希少疾患である先天性代謝異常症を見つけ出し,診療していくのかがわかりやすく記載されている。

本書のタイトルでもある「外来で見つける先天性代謝異常症─シマウマ診断の勧め」(太字は筆者編集)も魅力的である。編集された窪田 満先生の「シマウマ談」は納得した。私はこのタイトルを見たとき,シマウマの身体の色と特徴を想像した。しかし,その「序」で実は,シマウマの鳴き声が犬のように「ワンワン」であることを初めて知った。なぜシマウマ?と思った方はぜひこの本を手に取ってその思いを感じとってほしい。本書はいつもそばに置いて,救急診療から日常診療まで,ふと疑問に思った兆候,検査所見,臨床経過を照らし合わせて考えてみるのに最適である。

先天性代謝異常症の著書は,「執筆者は頭がいいのだなあ」と感心するばかりで,「でも私には無理,無理」と最初の数ページで本を閉じてしまい,そのまま本棚の奥に鎮座してしまうものが多かった。

本書は,先天性代謝異常症診断のための検査のノウハウ,検体の保存方法から送付先,症例提示も含まれており,一人でも多くの未診断の患者さんを見出し,診断・診療・治療に結び付ける熱意あふれる名著といえる。

講座 精神疾患の臨床 6 てんかん 睡眠・覚醒障害

講座 精神疾患の臨床 6 てんかん 睡眠・覚醒障害 published on
精神医学 Vol.64 No.7(2022年7月号)「書評」より

評者:菊知 充(金沢大学医学系精神行動科学教授)

日本国内の最近の調査によると,てんかんの有病率は0.69%であった.さらに睡眠・覚醒障害の有病率は10%以上と報告されており,ごく「ありふれた」疾患である.これら2つの疾患群「てんかん」「睡眠・覚醒障害」は,精神科だけの領域とは言えないことから,国際疾病分類表第11班(ICD-11)では,「精神,行動または神経発達の疾患」とは別の分類をされている.つまり,この2つは,精神科医が,複数の診療科の医師が連携して治療にあたる頻度の高い疾患群である.たとえば,「てんかん」においては一般救急の現場でも,精神科医が他科の医師と連携して見立てにあたることが多い.睡眠・覚醒障害については,そのものの見立てだけでなく,併存する精神疾患の見立てと治療において,精神科医としての専門性が求められることが多い.いずれの疾患群においても,治療方法が急速に発展し,複数の治療選択肢から治療方法を選べるようになってきた.さらに,疾患分類が改変されつづけている.それゆえに,治療する側としては,個々に最適化された治療戦略を組むために,たえず知識をアップデートしていく必要がある.

てんかん診療を行っていて痛感するのは,最近10年あまりで,使用できる薬剤の選択肢が急速に広がったことである.日本では2022年現在,20を超える抗てんかん薬が使用できる.そのため薬剤選択において,知識と経験が問われるようになった.たとえば,てんかんの発作型のみならず,内服薬間の相互作用,薬の副作用プロフィールと患者の背景(精神症状の有無など)との相性などが重要になる.本書は治療薬選択においても,図や表を用いて初期研修医にも分かりやすく解説されている.さらに,突然死,自己免疫性脳炎,高齢者のてんかんなど,最近のトピックについても解説されている.

睡眠・覚醒障害については,疾患ごとに病態メカニズムがわかりやすく解説されている.さらに治療に関しては,薬物選択から睡眠衛生にいたるまで広く網羅されている.最近の治療ガイドラインの解説だけでなく,長期薬物療法を行っている患者の出口戦略にいたるまで,実践的な内容となっている.さらには,睡眠の生理的制御について,最新の研究成果が解説されており,睡眠について深く学ぶこともできる.

本書は,「てんかん」「睡眠・覚醒障害」の歴史,疫学,臨床診断,病態生理,治療,精神医学的側面,生活支援にいたるまで,包括的にまとめられている.精神科医が臨床場面で遭遇しそうな具体的場面がイメージしやすいように配慮され,精神科医として診察室で必須の知識が網羅されている.治療選択に悩んだときに,基礎知識を確認するための参考書としても便利である.精神科専門医の基盤の上に,てんかん,あるいは睡眠・覚醒障害の専門医を目指す精神科医にも役立つ内容である.

小児科ベストプラクティス 新分類・新薬でわかる 小児けいれん・てんかん診療-Classification and Practice

小児科ベストプラクティス 新分類・新薬でわかる 小児けいれん・てんかん診療-Classification and Practice published on
小児科診療 Vol.85 No.8(2022年8月号)「書評」より

評者:高橋孝雄(慶應義塾大学医学部小児科)

まず医学部学生に読んでいただきたい。なぜなら、小児科の魅力を伝えるのに本書はうってつけであるからである。小児てんかんの専門書であるにもかかわらず、過度に深堀りせずにポイントのみを分かり易く説くことにより、総合診療を重んじる小児医療の神髄が感じられる。また、図表の構成、カラー印刷のメリットを存分に生かしている点も “敷居”を低くしている。

初期研修医にも読んでいただきたい。総合診療としての小児科を習得するにはCommon Diseaseも不可欠だが、包括的視野を駆使する小児てんかん診療もまた、医師としての視野を広げる一助となるはずだ。そのことを本書の構成が見事に語っている。基礎的、生物学的な背景から、患者、家族のQOLをふまえた診断・治療戦略まで、総合診療としての小児医療の深みを感じ取るのに、てんかん診療はきわめて適した領域であると再認識した。

若手小児科医にも是非、読んでいただきたい。小児てんかんの多くは予後良好である。つまり一般小児科医による診療が可能な場合が多い。本書の軸足がそれらの病態にあることは明らかだ。また、病名告知や制度活用など、患者家族を支えるためのノウハウについての記載も抜かりがない。広い視野と深い思慮を備えた小児科専門医を育成するために絶好の教科書ではないか。

そして、もちろん小児神経やてんかん診療を専門とする指導医クラスの方々にも読んでいただきたい。腑に落ちる、印象に残る指導を行うためには、自身の経験や知識を整理整頓し、平易な表現で伝えることが必須である。ベテランが初学者にてんかん学、てんかん診療の魅力を伝える際に本書は必ず役に立つはずである。

今回、発売を前にいち早く本書をご提供いただいた。全体を通じて、個々の文章が比較的短く、切れ味が良く、リズム感があり、一気に通読した。小児てんかんの診療に携わっていることに感謝する気持ちが自然に芽生えてきた。だれにでもおすすめできる良書であった。

排泄リハビリテーション  改訂第2版

排泄リハビリテーション  改訂第2版 published on
Journal of CLINICAL REHABILITATION Vol.31 No.5(2022年5月号)「書評」より

評者:山西友典(獨協医科大学排泄機能センター)

超高齢社会を迎え,寿命のみでなく,QOLの重要性が課題になってきた.その中でも,排泄,すなわち排尿・排便は最も重要な課題の一つである.この分野は,これまであまり重要視されておらず,また排尿に関しては泌尿器科,排便に関しては消化器(内科・外科)の各科で,一部の特化した医師のみが診療にあたっているという歴史があった.現在でも,専門といいながら,どこの泌尿器科でも軽視され,まともに診療してくれないと,遠方から当センターを尋ねてくる患者さんが多くみられる.

その理由として,外科医は手術が中心で,それ以外に時間を費やすことが困難なこと,また単純な分野のようで,実は専門的にも難しく,とっつきにくい感があること,そして何より行動療法などの排泄リハビリテーション(リハ)をいくら行っても診療報酬が全く得られなかったことが関連しているのであろう.また同様の理由で,看護師,理学療法士,作業療法士などのメディカルスタッフが,排泄の診療に携わるシステムがなかったことも大きい.

しかし,最近では排泄(特に排尿)を中心とした種々の基礎研究や臨床研究が行われ,排泄リハを専門とする医師が増加してきた.この背景には排泄に関する多数の医薬品,医療機器の開発,排泄に関連する新規治療法,とくに仙骨神経刺激療法やボトックスなどの手術療法が保険適用になったことなどがある.加えて2016年度や2020年度の診療報酬改定における排尿自立指導料関連の保険収載も,メディカルスタッフが共同で排泄リハを行うようになったことの要因となっている.

本書は,2009年に発刊された初版における「排泄に関するすべてのことが網羅され,辞書的な役目を果たす」という狙いを継承し,ガイドラインに沿った新たなエビデンスなどを盛り込んで改訂がなされている.第I部,第Ⅱ部の基礎編では,疫学,解剖,生理といった専門的な知見が分かりやすい図を用いて解説され,第Ⅲ部の実際の排泄リハ編では,用語の定義,原因疾患,アセスメント(種々の機能検査法),そして実際の治療・ケアについて,詳細な記載がある.さらには,おむつから医療機器まで排泄障害に用いる製品の最新の情報も網羅されている.

この分野の成書の多くが,排尿または排便機能に分かれて記載されており,まさにこの1冊で排泄のすべてが把握できる本書は稀である.そのうえ,医師,看護師,理学療法士,作業療法士等の医療職のどなたもが(専門職のみでなく専門外も含め)理解できるような記述によって,それぞれの専門や職域からの考えや対応が明らかにされている.本書は,医療者間の相互理解を深めることもできる排泄リハの総合専門書として,大いに役立つであろう.

NOGA血流維持型汎用血管内視鏡ガイドブック

NOGA血流維持型汎用血管内視鏡ガイドブック published on
評者:平田健一(神戸大学大学院医学研究科循環器内科学分野教授)

今回、「血流維持型汎用血管内視鏡(NOGA)」の解説書が出版されました。本書は、わが国における冠動脈疾患治療の黎明期から臨床の現場で活躍され、血管内視鏡の開発に貢献された児玉和久先生が監修されました。血管内視鏡は、1980年代に開発が進み始めましたが、最初は、血流を完全に遮断する必要があり、危険性がありました。しかし、様々な技術改良によって血流維持下で血管内腔を観察できる「血流維持型汎用血管内視鏡(NOGA)」が開発され、安全に多くの情報を得ることが可能となりました。現在CT,MRI,OCTや超音波などの画像診断技術は目覚ましい発展を遂げていますが、血管内視鏡は血管内腔の動脈硬化性プラークなどの血管病変を直接観察できます。「百聞は一見にしかず」という言葉の通り、優れた空間分解能に加えて、血管病変を直接観察できることは、その病態の観察だけでなく、動脈硬化の発症、進展のメカニズムを解明する上でも重要な所見を得ることができます。

本書は、「I 総論、II 画像、III 手技」からなり、それぞれ「冠動脈、大動脈、共通」の項目に対してQ&Aの形でたいへんわかりやすく記載されています。得られた画像をどのように解釈するか、実際の手技の手順や注意点から、トラブルシューティングについてまで、多くの写真や動画を駆使して具体的に記載されており、非常に有用な内容になっています。

本書のサブタイトルには「あらゆる臓器の動脈硬化の概念が変わる!」とありますが、NOGAの画像からは、単に臨床上の画像情報のみならず、動脈硬化の成因に関する研究の発展につながる所見が得られる可能性があります。過去の多くの研究成果により、動脈硬化の発症、進展のメカニズムについては、血管の慢性炎症と変性コレステロールの蓄積によるプラークの形成が重要だと考えられています。また、冠動脈病変に関してはプラークの不安定化とその破綻による血栓形成が、急性冠症候群の発症メカニズムであると考えられています。しかし、実際のヒトにおいて、動脈硬化の初期病変から不安定プラークの破綻までを直接観察することは、血管内視鏡でのみ可能なのです。

本書は、NOGAを使用する入門書であると同時に、冠動脈や大動脈などの動脈硬化の成因や病態を考察する上での新しい現象を体験でき、動脈硬化への興味と理解が深まるお勧めの一冊です。

てんかん症候群 第6版

てんかん症候群 第6版 published on
小児科診療 Vol.84 No.12(2021年12月号)「書評」より

評者:大塚頌子(旭川荘療育・医療センター)

“Epileptic Syndromes in Infancy, Childhood and Adolescence”,通称「ブルーガイド」の第6版が2019年に出版され,このたび日本語版が刊行された.
ブルーガイドは1984年の初版後一貫しててんかん症候群を中心に記述されてきた.1989年の国際抗てんかん連盟による「てんかん,てんかん症候群および発作性関連障害の分類」の発表以来,てんかん分類においててんかん症候群が特に重視されるようになった.てんかん症候群はてんかんという広い夜空の中でそれぞれ独特の光を放ちながら存在する星座のようなものであり,我々は星座に導かれて宇宙を理解する手がかりを得ることができるといえる.
個々の患者の臨床像,脳波像,検査所見などの情報を吟味しながらてんかん症候群の診断に至るプロセスはてんかん診療の醍醐味であり,そのプロセスの道標としてブルーガイドはてんかん診療に携わる多くの医療従事者の身近に存在してきた.初版後35年の歳月を経て版を重ねるごとに時代に合わせて内容も充実し,第4版から発作ビデオ集も加わった.今回の第6版からはWEBでも閲覧できる.また,各てんかん症候群について,臨床像・脳波像に加えて病因に関る最新情報として遺伝子解析,画像検査の進歩を反映していることも特筆される.はじめの数章は総論に当てられ,その後主に年齢別にてんかん症候群が列記され,主要な文献も網羅されている.目当ての症候群を中心に読み込むとともに総論にも目を通していただきたい.
2007年の第4版から今回の第6版まで3回にわたり国立病院機構静岡てんかん・神経医療センターのスタッフが総力を挙げて日本語版の刊行に尽力された.センターにはてんかんに関連するすべての診療科が存在し,指揮をとられた井上有史先生をはじめとして皆さんが常に連携して活動されていることの成果が発揮されたと思われる.その成果を我々読者にも惜しみなく与えてくださったことに心から感謝したい.
本書がてんかん診療・研究に携わる人たちに大いに役立つことを確信する.

産科婦人科ベストセレクション 産科救急マニュアル

産科婦人科ベストセレクション 産科救急マニュアル published on

産科救急に対応するための必読書が登場!

産科と婦人科 Vol.88 No.10(2021年10月号)「書評」より

評者:三浦清徳(長崎大学産科婦人科教授)

このほど中山書店から,『産科救急マニュアル』が発刊された.
本書は,我が国の産科医療のトップリーダーである藤井知行先生と永松健先生が監修,編集を担当し,いずれの項目も第一線のスペシャリストが執筆を担当している.本書の内容は3つの側面から構成され,産科救急に対応するための必修知識から,いわゆる「ガイドライン」に記載されている標準治療を補完する最新知識まで盛り込まれている.それぞれ,1章の基本手技編では産科救急の現場で共通言語となるバイタルサイン・検査・救急蘇生の基礎知識について,2章の症候編では産科救急で遭遇することが想定される臨床所見への対応について,3章の疾患編では妊産婦の救急疾患への対応について記載されている.よって,本書を最初から最後まで通読すると,産科救急の基礎から最新知識まで体系的に理解し,突然の母体・胎児の急変に遭遇しても最善の診療を行いうる知識が自然と身につくようになっている.
これからの産婦人科医療を担う若手医師については当然のこと,すでに最前線で活躍されている指導医にとっても,日々の産科救急医療の向上に役立つ一冊である.“Hope for the best and prepare for the worst”ということわざもある.ぜひ,母児の健康を願う(hope)多くの医師にご一読いただきたい医学書(prepare)として推薦したい.

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 4 不妊症

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 4 不妊症 published on

評者:苛原 稔(徳島大学大学院医歯薬学研究部長・産科婦人科)

 かつて中山書店から刊行された『新女性医学大系』は、産科婦人科学の膨大な領域を網羅し、刊行当時の最高水準の医学者によって執筆された、日本の産科婦人科学の知の集大成といえるシリーズで、他を寄せつけない堂々たる存在感があった。
このたび完結となった『Science and Practice産科婦人科臨床』シリーズは、ボリュームこそコンパクトになったが、知の集大成という『新女性医学大系』の系譜を確実に受け継いで企画されているのに加えて、総編集にあたられた藤井知行先生の高い見識から、近年の医療の流れであるEBMや各種ガイドラインとの整合性を重視する編集コンセプトを導入し、単なる知識の羅列でなく、産科婦人科学の本質に迫る構成と内容となり、ある意味で『新女性医学大系』を越える進化を遂げている。実地医家が診療机の上に置いて日常診療に役立てることも、産婦人科研究医や研修医が基礎から臨床までの詳細を知ることもできる、コンパクトにして重厚な素晴らしいシリーズといえる。
 そのシリーズの最後に今回配本された4巻『不妊症』は、現代日本の生殖医学のトップリーダーである大須賀穣先生が専門編集され、最新鋭の研究者や実地医家を執筆者に選び、EBMに基づく膨大な知識をみごとに整理・解説しており、現在の生殖医学や不妊症学の全てを知る上で必要かつ十分な構成と内容である。生殖医学や不妊症学は生物学、基礎医学、臨床医学が複雑に交じり合う特殊で奥深い体系の学問である上に、治療には倫理や社会的な知識を要するなど、多彩な知識を適切に理解することが必要で、またEBMが得にくい領域でもある。それゆえ、EBMに基づいて多様な知識をわかりやすく解説する書物は得難い。この4巻『不妊症』はまさにそれを実現しており、生殖医学や不妊症を正しく理解したい医師や研修医、医学生や医療関係者に最適の必携書である。

エビデンスに基づく 皮膚科新薬の治療指針

エビデンスに基づく 皮膚科新薬の治療指針 published on
Visual Dermatology Vol.20 No.9(2021年9月号)「Book Review」より

評者:井川 健(獨協医科大学医学部皮膚科学講座)

皆さんご存じ(本当の意味でこの言葉を使える方です),京都大学名誉教授/静岡社会健康医学大学院大学学長でいらっしゃいます宮地良樹先生とその時その時のguest editorsともいえる先生(方)が編集を担当されておられる,「エビデンスに基づく」シリーズの第5弾です.
今回は,これまた皆さんご存じ(本当の意味で……以下略),京都大学教授でいらっしゃいます椛島健治先生とご一緒で,前/現京都大学教授による編集はこのシリーズだけでももう2冊目のようですね.さらに内容とは関係のないお話で恐縮ですが,最近,自分も我が医局のFacebookを通して宮地先生の情報を時々収集しておりますが(お友達申請ありがとうございます!),その情報によると,この本が217冊目の,いわゆる「宮地本」になるそうです.
さて,ここ10年くらい,皮膚科における治療薬物のラインナップの充実具合といいますか,臨床の現場に供されるスピードといいますか,そのあたりをみてみますと,自分が皮膚科医になった2〇年前(隠す必要はないですが……)ころに比べると隔世の感があります.
おそらく,20世紀後半あたりからの生命科学分野の研究の爆発的な進歩があり,そのような中から,まだまだほんの少しだと思うのですが,実を結んだものが少しずつ臨床の現場に出てきている状況なのでしょう.
いずれにしろ,最近の新規薬物をみておりますと,ターゲットを絞った,いわゆる,分子標的のお薬が多くなってきております.これは,近年の薬物開発の流れが,蓄積された研究の結果から推測される病態形成機序をバックにして,病態特異的に治療ターゲットを設定するという傾向があるからだろうと考えられます.この場合,基本的に余計なものに影響を与えることをなるべく排除する方向ですから,副反応発現の面からすると従来のものに比べて少ないことが予想されますし,治療効果発現はターゲットがピンポイントに近くなり,はまれば絶大である(狭く,深く)ことは,乾癬やアトピー性皮膚炎ですでに経験していることです.本書を一読し,新規治療薬物の根底にあるこのようなストラテジーを頭の片隅においておくことは臨床の場において決して損にはなりません.
本書で論じられる対象疾患は,最近ブレイク中(?)のアトピー性皮膚炎や乾癬のみならず,悪性腫瘍,感染症から自己免疫疾患,希少疾患に至るまで,皮膚科のかなり広い分野にわたっております.しかも,どれもわれわれ皮膚科医がちょっと困ったなー,と思うような疾患であるところがまたにくいところです.さらに言えば,これほど多くの分野で新しい薬物,新しい治療方針が論じられる必要がある皮膚科という診療科のここ最近の大躍進の様がこの本に凝縮されているような気もしたりするのです.
『エビデンスに基づく皮膚科新薬の治療指針』,間違いなく素晴らしい本です.あとは皆さんが手にとって確かめてください.

脳卒中データバンク2021

脳卒中データバンク2021 published on
内科 Vol.128 No.5(2021年11月号)「Book Review」より

わが国の脳卒中医療の現状を映す鏡

評者:戸田達史(東京大学大学院医学系研究科神経内科学教授)

国内多施設での登録事業「日本脳卒中データバンク」が活動を始めてから20年余が過ぎました.本事業を創始された小林祥泰先生(島根大学名誉教授)を中心に数年ごとに解析結果をまとめて出版されるのを,これまで楽しみに読んできました.数年前に国立循環器病研究センターに管理運営が移管されたと聞き及んでいましたが,移管後初めてのまとめとなる最新版「脳卒中データバンク2021」が,今春刊行されました.「脳卒中・循環器病対策基本法」も法制化され,一般市民の方々の脳卒中への関心も高まる中で,時宜を得た企画といえます.
脳卒中は戦後の一時期,国民の最大の死因であり続け,現在でも約300万人の有病者をかかえる国民病です.一命を取り留めても高度の後遺症を遺す患者も多く,国民の健康寿命の延伸に大きな障碍となります.発症後早期に脳組織を不可逆的に損傷させるため,長年にわたって有効な治療法を欠き,治らぬ病気とみなされた時期が続きました.しかし今世紀に入ってt-PA静注療法(静注血栓溶解療法)や経皮的な機械的血栓回収療法の開発,脳画像診断の進歩などに伴い,飛躍的に治療成績を高めるようになりました.そのような脳卒中診療の転換期であるこの約20年のデータをふんだんに掲載した本書は,まさに「わが国の脳卒中医療の現状を映す鏡」といえましょう.
本書では,2018年末までに登録された急性期脳卒中(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血),一過性脳虚血発作の患者20万例弱の臨床情報を,多くの分担執筆者が独自の切り口で解析しています.たとえば脳卒中は何歳くらいで多く発症するのか,どのくらい重症で,どのくらいの割合で後遺症を遺し,また自宅復帰できるのか,そのようなごく単純な疑問にも,十分な症例数で回答を示しています.興味深いテーマごとに解析された結果は,多数のグラフや表で示されており,視覚的にもわかりやすいものになっています.
わが国には,脳卒中や認知症,頭痛,てんかんなど,非常に多くの患者を有する神経疾患がありますが,その正確な発症者数や臨床転帰を把握するのはなかなか困難です.脳卒中においては,前述した対策基本法に基づく全国患者登録が早晩始まるそうですが,全国の患者を悉皆性高く収集するにはまだ相当の時間を要するでしょう.そのような中で脳卒中医家はもとより,一般開業医の先生方やふだん神経疾患を診る機会の少ない医師,脳卒中のリハビリに携わる医療スタッフの方々などにも,本書をお手元に置き,あるいは電子版を端末に載せ,脳卒中に関して湧き上がる疑問を解く参考書として,ぜひ役立てていただきたく思います.


medicina Vol.58 No.9(2021年8月号)「書評」より

評者:宮本 享(京都大学医学部附属病院長)

「脳卒中データバンク2021」には,1999年に研究開始された日本脳卒中データバンクに,日本全国の130を超える施設から登録され蓄積された約17万例の急性期脳卒中の臨床情報解析が掲載されている.
本書の第1部には,日本脳卒中データバンクの概要とデータ分析が記載されている.まず,脳卒中に対する医療政策を行うにあたって,本邦における脳卒中のデータベースがないことが大きな問題であることに20年以上前に注目し,本事業を立ち上げられた小林祥泰先生をはじめとする先達の慧眼に深甚なる敬意を表したい.標準化された診断名と評価尺度に基づいて登録された精度の高いデータに基づく分析であり,経年変化などの分析は本邦における脳卒中の変遷を示す貴重なデータと考えられる.
つづいて第2部では,疾患や病態,治療法その他のテーマごとに,日本脳卒中データバンクに登録された膨大な症例をもとに分析と解説がなされている.各項目の冒頭には,わかりやすくサマリーが箇条書きに掲載されている.
さいごに第3部では,日本脳卒中データバンクを用いた研究論文についての解説がなされており,本書は「本邦における最近20年間の脳卒中医療のとりまとめ」といってよい内容となっている.豊田一則先生を中心とした「国循脳卒中データバンク2021編集委員会」の皆様のご尽力に感謝したい.
2018年12月に「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」いわゆる脳卒中・循環器病対策基本法が成立し,循環器病対策推進基本計画が策定され,悉皆性がある脳卒中・循環器病の情報をどのように収集していくかということが,現在検討されている.多数の治療施設が全国に分散していて均てん化が求められ,急性期医療であり,地域連携で転院をしていく脳卒中の登録には,治療施設が集約化されており,データ登録に時間的余裕がある「がん登録」とは異なる課題がある.今後,循環器病対策推進基本計画に基づく登録事業を成功させるうえでも,日本脳卒中データバンクのこれまでのノウハウは大変貴重な経験であり,それをまとめた本書を,本邦における脳卒中医療従事者には是非精読していただきたい.