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第11回 オンライン用にスライドデザインを見直す

第11回 オンライン用にスライドデザインを見直す published on

会場で発表する場合、参加者は関心がなくなっても、途中で退席しない限りは最後まで説明を聞くしかない。それに対してオンラインの発表では参加者の退席はクリックひとつのみ、自由で、簡単だ。発表者や他の参加者への気づかいや遠慮は一切、必要ない。
「よくわからない、読む気がしない」と感じさせるスライドや、「ポイントはなに?」「何が言いたいの?」と思わせたりする表現は、会場での発表ならがまんして聞いてもらえるが、オンラインではあっという間に参加者がいなくなってしまう。次々と画面から参加者の姿が消えて、やがて誰もいなくなったまま説明しなくてはいけないということも起こりえる。
そこまで極端でなくても、会場での発表では、参加者がわかりにくいと感じていると気がつけば、その場で言い換えたり、説明を補足したりして、リカバリーを図ることができる。
また関心をひいてない部分は、簡単にポイントだけ説明して次のスライドの説明に移ることもできるし、その部分がほんとうに大切なところであれば「ここが重要なところですが」と告げ、関心をひくことも可能だ。
一方、オンラインでは参加者の反応を十分にとらえることが難しい。参加者が途中でどこを説明しているかわからなくなったり、理解できない部分があったりしてまごついていても、発表者はそのことを把握できないまま、説明はどんどん進んでいく。わからなくなった相手は置いてきぼりだ。そうなれば、ぜひ質問しようと思っている者以外は退席するか、パソコンの前で他のことを始める。
こうしたオンラインならではの悲劇を避けるためには、オンラインの発表では、よりわかりやすく、ひきつける発表資料が必要だ。

■「読ませる」より「見せる」表現を
「広い会場で後ろの席からスクリーンを見るのと違い、オンラインでは参加者の目の前にあるパソコンの画面を見るのだから、文字を小さくしても大丈夫だろう」。
こうした考え方をしていると、参加者に説明内容は届かない。
パソコンの画面をただ受け身の立場で、じっと凝視し続けるのは思っている以上に疲れる。この疲労については大学のオンライン授業でも多くの学生が訴えているところだ。
同じことが学会発表にもあてはまる。ひとつの発表はわずかな時間でも、連続していくつかの発表に参加し、説明が進むうちに、つぎつぎと切り替わるスライドの内容を正確に把握していると、少なくない負担を感じるようになり、理解しようという意欲を削いでいく。
こうした負担はスライドの表現方法で軽減できる。その方法とは、スライドは「読んでわかる」よりも「見てわかる」表現にすることだ。
パソコン画面の凝視が疲れさせることに加え、オンラインの発表では、さまざまな画面サイズで見られることにも配慮しておく必要がある。
発表者はデスクトップの大きなサイズのモニタを使っていても、参加者のなかにはノートパソコンで見る人もいるかもしれない。画面サイズにすれば27インチのモニタを使って発表し、見る側は13インチということになる。
その結果、27インチのサイズで問題なく判読できるスライドが、ノートパソコンの画面では解読は難しいということもありうる。
やはり読んでわかる前に見てわかるスライドの表現が必要だ。

■これをやってはいけない
見てわかるスライドにするために、まずはここを押さえるというポイントを3つ、紹介しよう。
(1)文字が入りきらないので小さくする
「あれもこれもと言いたいことがあるし、質問が出るといけないから、これもいれておこう」
こうした気持ちから、スクリーンを使った発表であれば注意することも、画面での発表になると、ついつい書き込み過ぎてしまう。
ところが人は一度にそれほど多くの情報を取り込むことができないし、短時間で理解する内容には限りがある。発表スライドでは、言っておきたいことをすべて盛り込むのではなく、これがないと理解に困るということだけに絞った表現をしよう。
(2)論文・レポートの表やグラフを見やすさをチェックしないで、そのまま使う
論文・レポートの表やグラフはデータの特徴や分布などを解読するためのものだ。手元でじっくり精査する目的には適しているが、短い時間で理解するにはふさわしくない表現もある。そのままコピーして画面に映すと、細かすぎたり、すぐには理解できない表現になったりしてしまう。
表やグラフをコピーする前に、相手からの見やすさをチェックし、煩雑な印象を与えるようであれば表現を工夫しよう。
(3)スライドによってタイトルの位置や使っている文字のサイズを変える
スライドに盛り込む内容が多くなったり、大きなサイズの表やグラフを作ったりして、タイトルを上にずらしたり、小さい文字で表現している発表スライドをよく目にする。
しかし、パソコンのディスプレイのウィンドウの中に表示されるスライドが切り替わるたびにタイトルが大きくなったり小さくなったり、位置もその都度ずれていると見にくいだけでなく、内容が理解しにくくなってしまう。
作る側はスライドごとに表現を工夫して作るのだが、見る側は発表資料を連続で見ていくということを頭に入れておいて、スライドのタイトルは資料をとおして一貫した位置と文字サイズに統一しておこう。

■ウィンドウサイズを変えてチェックする
細かすぎる文字サイズや書き込み過ぎた表現を見直すためには、大きなディスプレイ画面でもウィンドウサイズを小さくし、スライドのサイズも小さく表示すればよい。
13インチ程度のディスプレイ画面を前提としたウィンドウサイズで確認したら、次は思い切って縮小した画面でもう一度確認しておこう。
具体的には[表示]メニューの[ズーム]を選ぶと表示される画面で25%程度にして確認する。この大きさだと細かい表現は判読できないが、おおまかな傾向は把握することができる。それがスライドを目にしたときの相手に与える印象だ。
縮小してごちゃごちゃしていたり、緻密過ぎると感じたりするスライドがあれば表現を見直しておく必要がある。

第10回 オンラインの発表の準備

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オンライの発表の場合、発表者自身が使っているパソコンに映っている様子と、ネットワークを経由して届く参加者のパソコンの画面に表示される発表の様子に違いが生じる。
発表者の声や身ぶり手ぶりはワンテンポ遅れて届き、相手に聞こえる声は発表者が聞いているほど明瞭ではない。また一般的に発表者のパソコンの画面では自身の顔がくっきり映っていても、相手のパソコンにはそこまで明瞭に映らない。
パソコンで行うインターネットを介したやりとりはテレビ中継のようにはいかない。精細な映像と音声がリアルタイムで伝わるわけではないのだ。
発表用のパソコンの表示と参加者のパソコンの表示の違いを一度、確認しておくと良い。またリハーサルを行うときにも参加者にどう映るかをチェックしておこう。
この原稿では代表的なオンラインサービスとしてZoomで説明するが、Microsoft Teamsなどの他のサービスも同種の機能があるので、必要に応じてホームページで調べて頂ければと思う。

■リハーサルの様子をモニタする
Zoomはアカウントを登録すれば無料プランで、1対1のやりとりが可能だ。このとき使うことのできる時間の制限はない。
この機能を使ってリハーサルの様子を発表者自らモニタすることができる。方法は、次のとおり。
(1)発表用のパソコンの隣にもう一台のパソコンのディスプレイを並べておく
(2)Zoomのホストとなってオンラインミーティングを開催する
具体的にはミーティングの時刻を設定し、ミーティングのURLを取得しておき、発表用のパソコンでミーティングを開始する。
(3)先ほど用意したもう一台のパソコンで取得したミーティングのURLを使って会議に参加する
このときモニタ用のパソコンではURLだけわかればメールアドレス等の入力は必要ない(URLはあらかじめメールで送っておくか、メモ帳などファイルの共有でコピーまたはクリックできるようにしておくと入力する必要がないので便利だ)。
こうして発表用のパソコンを使って話すと、すぐ隣のパソコンの画面で参加者が見る映像を見ることできる。
動作がワンテンポ遅れる様子や、発表用のパソコンの映像とモニタ用の映像の映り具合の違いが確認できるであろう。
Zoomの無料プランでは3人以上でも40分間までならば利用できる。協力してくれる人がいるならば、その人(あるいはその人たち)にも見てもらうことができる。40分間あれば、発表時間としては十分。残った時間で感想や気づいたことなどを、Zoomをつないだまま、相手とやりとりできる。
もしやりとりが長引いて、40分を過ぎてしまったら、終了次第、新たにミーティングを開催すれば、わずかな中断で再開が可能だ。

ディスプレイを二台並べて確認する
「steheap – stock.adobe.com」

■リハーサルの様子を録画してチェックする
有料プランになるが、Zoomには録画機能がある。発表の様子を録画しておけば、自分のパソコン(ローカル保存)、またはZoomのサーバー(クラウド保存)に映像ファイルとして録画できる。
有料といっても、最も安価なProプランで月払いにして一ヶ月2,000円(原稿執筆時の2020年11月時点)。
このプランならば、参加人数は100人まで、時間は無制限に使うことができる。ちなみに料金は米ドルで決済することも可能で、ドルによる支払いのほうが安いこともある。
録画したファイルは、終了次第利用でき、パソコンで再生すれば、自分の発表の様子を参加者の視点で確認できる。発表の様子を録画した映像を見ながら、発表資料が共有される様子を確認したり、映像と声のトーンをチェックしたりしよう。
映像を見て「もう少し上を向こう」「もっと明るい声にしたほうがよい」「メリハリのある話し方をするようにしよう」「このスライドの表現はわかりにくい」「ここはもう少し説明した方が良い」など、気になる点があれば改善する。
なお、Zoomの有料プランは月払いを選んでも自動継続となるので、有料プランの機能が不要になったら解約手続きを忘れずに。更新日前に解約しても、更新期限までは有料プランの機能を使うことができる(原稿執筆時の2020年11月時点)。

第9回 オンラインでは、まずこれを行う

第9回 オンラインでは、まずこれを行う published on

2020年、コロナ禍で多くの学会がオンライン開催に切り替えられた。オンラインの発表では、同じ会場で発表者と参加者が一堂に会し発表する場合とは異なる配慮が必要とされる。
今回から数回に分け、すぐできるオンライン発表への対応について、機器の見直し、効果的なリハーサル方法、スライドデザインで手を入れるところなど、私自身のオンラインプレゼンテーションや研修、会議の経験からわかったことも含め取り上げていく。

■必要に応じて外部マイクの導入を検討しよう
オンラインでは音声はマイク、映像はカメラによって届けられるが、まず気をつけるのはマイクの品質だ。私の周りでもオンラインの発表で声がはっきりしなくて聞きにくかったという意見を耳にする。
発表では映像より音声のほうが重要となる。たとえばネットワークでトラブルが起こったときのことを考えてみよう。声が聞こえずに映像だけが映っている状態では、参加者に内容を届けることは難しくお手上げだ。しかし、発表の途中で発表者の映像が届かなくなっても、声が明瞭に伝われば何とか切り抜けられる。話し方や話す内容によって相手の関心をひくことができるし、その場での臨機応変な対応も可能だ。
またトラブルがなくても、クリアな音質は、発表の質を向上させてくれる。だからマイクは音質のよいものを選ぶべきだ。パソコンにマイクが附属していなかったり、附属していても十分な品質レベルでなかったりする場合には、外部マイクの導入を検討しよう。
パソコンに接続する外部マイクはオーディオインターフェイスとUSBのものがあり、どちらも簡単にパソコンにつなげることができる(ちなみに私は数万円するUSB接続のマイクを使っている)。

■カメラは、それほど気にする必要はない
マイクに比べ、発表者を映すカメラはそこまでこだわる必要はない。発表では共有されたドキュメントが画面のなかで大きく映され、発表者の姿は画面の端にそれほど大きく表示しないで発表を聞くことが一般的であろう。相手が注意して見るのは発表者よりも資料だ。
そもそも、YouTubeやあらかじめ録画されたものを使う場合と違い、Zoomのようなオンライン会議サービスでは画像の解像度をそこそこのものにして配信する。そのため、いくら高精細のカメラで撮影しても、自分のパソコンの画面でくっきり映っていた映像も、相手の画面にはそこまできれいに表示されない(この違いを確認する方法がある。それについては次回で紹介する)。
高精細な画像を撮影できる一眼レフのデジタルカメラやビデオカメラをビデオキャプチャという機器を介しパソコンと接続することもできるが、すでに手元にあるものを使えるのでなければ、わざわざあつらえる必要はない。
パソコンに一定品質以上のカメラが附属していれば、それを使う。そうでなければ外付けのカメラを使う。外付けカメラの場合、ディスプレイにひっかけられるような小型の一般的なWebカメラで十分だ(私はWebカメラに別売りの小型の三脚をつけて使っている)。
Webカメラであれば、自動で焦点を合わせる機能があるもののほうが手軽に綺麗に映る。同一メーカーの同じ製品系列のものであれば解像度は同じでも新しいものほど、価格が高いものほど色味や映り具合が改良されていることが多いが、こればかりは比較してみないとわからない。
また同じカメラを使っても実際に画面に映る顔が、蛍光灯や窓から入ってくる日差しによって驚くほど違うことがある。家電量販店やネット通販で通称「女優ライト」と呼ばれる照明器具が数千円から売られていて、利用している人もいるが、発表のときに光が目に入りまぶしかったり、環境によってはそれほど効果を上げられなかったりすることもある。
もしパソコン画面に映った表情が暗く見えるならば、まずはカーテンや周りの照明を工夫してみよう。


ディスプレイにひっかけられる小型のWebカメラの例
「DedMityay – stock.adobe.com」

もうひとつの注意は、実際に映る範囲を確認しておくことも忘れないことだ。カメラによって映る範囲が異なるので、事前に本番で使うカメラで上下左右どこまで映るのか確認しておこう。この作業をおこたると、発表のとき、映像の端に思わぬものが映り込んで参加者の注意をひくことになる。

■スライドショーの画面切り替え効果は使わない
マイクとカメラが整ったら、いよいよ発表資料に注意を向ける。オンラインでは、パワーポイント資料は手元のパソコンで操作するように動作しない。ネットワークを介してやりとりするので、手元のパソコンのようにスムーズに動かないのだ。
そこで、まず気をつけるのはパワーポイントの画面切り替え効果。従来の会場の発表では相手の関心をひきつけておくために、さまざまな切り替え効果が使われていたが、Zoomのようなオンライン会議サービスで同様の画面切り替え効果を使っていると、もっさりした印象で表示が切り替わる。限られた時間しかない発表で無駄な時間がかかって、緩慢なイメージを与える。
オンラインでは画面切り替え効果はやめておいたほうがよい。

■アニメーション効果はシンプルなものを必要最低限に
オンライン発表では、アニメーション効果にも気をつける必要がある。
画面切り替え効果と同様に、会場での発表のようにスムーズには動いてくれない。アニメーションを使った飽きさせない演出は逆効果になるので使わないほうがよい。使う場合には、各部分を順番に見せていくというような説明のために必要なもののみにして、効果はシンプルなものを使うようにしておこう。