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エビデンスに基づく 皮膚科新薬の治療指針

エビデンスに基づく 皮膚科新薬の治療指針 published on
Visual Dermatology Vol.20 No.9(2021年9月号)「Book Review」より

評者:井川 健(獨協医科大学医学部皮膚科学講座)

皆さんご存じ(本当の意味でこの言葉を使える方です),京都大学名誉教授/静岡社会健康医学大学院大学学長でいらっしゃいます宮地良樹先生とその時その時のguest editorsともいえる先生(方)が編集を担当されておられる,「エビデンスに基づく」シリーズの第5弾です.
今回は,これまた皆さんご存じ(本当の意味で……以下略),京都大学教授でいらっしゃいます椛島健治先生とご一緒で,前/現京都大学教授による編集はこのシリーズだけでももう2冊目のようですね.さらに内容とは関係のないお話で恐縮ですが,最近,自分も我が医局のFacebookを通して宮地先生の情報を時々収集しておりますが(お友達申請ありがとうございます!),その情報によると,この本が217冊目の,いわゆる「宮地本」になるそうです.
さて,ここ10年くらい,皮膚科における治療薬物のラインナップの充実具合といいますか,臨床の現場に供されるスピードといいますか,そのあたりをみてみますと,自分が皮膚科医になった2〇年前(隠す必要はないですが……)ころに比べると隔世の感があります.
おそらく,20世紀後半あたりからの生命科学分野の研究の爆発的な進歩があり,そのような中から,まだまだほんの少しだと思うのですが,実を結んだものが少しずつ臨床の現場に出てきている状況なのでしょう.
いずれにしろ,最近の新規薬物をみておりますと,ターゲットを絞った,いわゆる,分子標的のお薬が多くなってきております.これは,近年の薬物開発の流れが,蓄積された研究の結果から推測される病態形成機序をバックにして,病態特異的に治療ターゲットを設定するという傾向があるからだろうと考えられます.この場合,基本的に余計なものに影響を与えることをなるべく排除する方向ですから,副反応発現の面からすると従来のものに比べて少ないことが予想されますし,治療効果発現はターゲットがピンポイントに近くなり,はまれば絶大である(狭く,深く)ことは,乾癬やアトピー性皮膚炎ですでに経験していることです.本書を一読し,新規治療薬物の根底にあるこのようなストラテジーを頭の片隅においておくことは臨床の場において決して損にはなりません.
本書で論じられる対象疾患は,最近ブレイク中(?)のアトピー性皮膚炎や乾癬のみならず,悪性腫瘍,感染症から自己免疫疾患,希少疾患に至るまで,皮膚科のかなり広い分野にわたっております.しかも,どれもわれわれ皮膚科医がちょっと困ったなー,と思うような疾患であるところがまたにくいところです.さらに言えば,これほど多くの分野で新しい薬物,新しい治療方針が論じられる必要がある皮膚科という診療科のここ最近の大躍進の様がこの本に凝縮されているような気もしたりするのです.
『エビデンスに基づく皮膚科新薬の治療指針』,間違いなく素晴らしい本です.あとは皆さんが手にとって確かめてください.

皮膚科ベストセレクション 皮膚科 膠原病

皮膚科ベストセレクション 皮膚科 膠原病 published on
Visual Dermatology Vol.20 No.7(2021年7月号)「Book Review」より

評者:椛島健治(京都大学大学院医学研究科皮膚科学)

われわれ皮膚科医が教科書を購入してまで勉強すべき領域として,まず膠原病があげられよう(あくまで個人的な意見ではあるが).われわれが目にする多くの皮膚疾患は,皮膚科医のみで対応することが可能であるのに比し,膠原病は他科との連携が不可欠であり,また,皮膚科とは離れたところで疾患概念や診断・治療法が発展することも多い.それゆえ,皮膚科が主催する学会に参加しても,膠原病に対する他科のアプローチや動向を探ることは難しいのが現実である.
そのような状況のなか,膠原病に関する新知見が次々と見出されている.例えば,皮膚筋炎における自己抗体のプロファイルに基づく臨床型・合併症・予後に関する新知見は,臨床の現場において非常に有益である.また,治療の選択肢も格段に増え,それらを適切に用いることができるかどうかで患者の予後は大いに変わってくる.それゆえ,医師たるもの,診療に関わる限り,勉強し続けなければならない.
これまでの皮膚科医向けの膠原病関連の教科書は,皮膚科医が執筆陣を占めることがほとんどであった.しかし本書は日本の第一線で活躍する免疫・膠原病内科,肝臓内科, 呼吸器内科医,さらには基礎医学研究者といったオールジャパン体制での陣容となっている.そしてなんと,間質性肺炎・腎クリーゼなどの診断と治療法や,線維化の基礎的な病態の詳細にまで触れられている.これだけ幅広い項目と執筆陣を取りそろえることができたのは,本書の編者である藤本学先生の見識の広さと人徳の成せる技であろう.
本書を通読すれば,膠原病に関しては怖いものなしである.あるいは通読するほどまでの時間や意欲がなくても,レファレンス本として用いるだけでも十二分の価値がある.それゆえ,本書があれば,膠原病に関する他科依頼を受けたときにもしっかりと対応できる(他科依頼に対して,皮膚科医が期待に応えられないようでは,皮膚科医の存在価値は下がってしまいますよね).それほどに完成度の高いー冊と言える.
しかしその一方で,膠原病には解明されなければならない課題がまだ残っていることにも気付く.本書を手にした次世代の人材が膠原病に興味を持ち,そしてその問題を解決していってくれることにも大いに期待したい.

皮膚科ベストセレクション 乾癬・掌蹠膿疱症ー病態の理解と治療最前線

皮膚科ベストセレクション 乾癬・掌蹠膿疱症ー病態の理解と治療最前線 published on
Visual Dermatology Vol.19 No.12(2020年12月号)「Book Review」より

評者:飯塚 一(医療法人社団 廣仁会 札幌乾癬研究所,旭川医科大学名誉教授)

評者は,長年,乾癬を専門にしてきた経緯があるが,乾癬と掌蹠膿疱症をテーマにした本書を手にして,この2つの疾患についての,特に近年の進歩を幅広く網羅した充実ぶりに驚きを感じざるを得なかった.この本には,この2つの難治性皮膚疾患についての,現時点で想定されるあらゆる問題点とその回答,さらに具体的な治療指針が満載されている.
基本的に情報は箇条書きに整理されており読みやすい.教育的な典型例の写真が冒頭に収められているのも親切であるし,何よりも編集者を含め,各執筆者の最新の情報を入れ込もうとする熱意が素晴らしい.おそらく本書を読んだ後では,個々の医師は,日常診療における対処に相当の変容がおこると予想される.
通常,皮膚科医にとって乾癬や掌蹠膿疱症は,決して診断に難渋するような疾患ではない.ところが,一歩病態に入ると,たとえば生物製剤の劇的な有効性に現れてくる病態理解は複雑になる一方である.これらを適切に整理した具体的な根拠と対応の記載は貴重であり,一読して,進歩を網羅した理解の深さと幅広さに感銘を受けるところが多かった.
今はやりのAIの世界ではディープラーニングという一種のブラックボックス化が進行中である.医師にとって本当に必要なのは,病態に基づく無理のない自然な説明と理解であり,クラスタリングと称して答えだけを提示されても納得感が得られないのは自明のことである.患者一人一人は千差万別であり,この教本に,詳しく述べられている病態理解を前提とした具体的なアプローチこそが重要と思われる.
われわれ皮膚科医は,乾癬にせよ掌蹠膿疱症にせよシンプルな病像を想定することが多いのだが,そのバックにある巨大な,それも最新の情報を,治療まで含めて深いレベルで提示しているという意味で本書は貴重であり,広く読まれることが期待される.本書は確かに「病態の理解と治療最前線」の名前に値する情報量に富む立派な教本である.

エビデンスに基づく Q&Aでわかる皮膚感染症治

エビデンスに基づく Q&Aでわかる皮膚感染症治 published on
Visual Dermatology Vol.19 No.10(2020年10月号)「Book Review」より

評者:門野岳史(聖マリアンナ医科大学医学部皮膚科)

皮膚感染症は日々遭遇する重要な疾患でありながら,確固たるエビデンスなしに,どちらかというと経験則でなんとなく診療しがちである.学生の頃の細菌学の思い出は,菌名を覚えるのにうんざりし,試験前に詰め込んで,あっという間に消え去ってしまったことであり,非常にとっつきにくい学問というイメージを持っていた.しかしながら,この“エビデンスに基づくQ&Aでわかる皮膚感染症治療”は,非常に読みやすく,分かりやすい.お馴染みの豪華メンバーによる編集で,皮膚感染症の診療にあたってわれわれが知っておくべき,知識,エビデンス,治療の仕方が非常にまとまって記されている良著である.
この本では,おのおのの単元がコンパクトにまとまっており,またQ&A方式であるので,要点を捉えやすい.色使いや下線の使用,ポイントの明確化,適切なガイドラインの引用を通じて,われわれがどこまで日常診療において皮膚感染症のことを知っておくべきかが分かる.エビデンスについても,何が分かっていて何が分かっていないかが明確に示されており,今まで先輩の受け売りや惰性で行っていたことを排除して新しい知識に置き換えることができて,少しだけ良い皮膚科医になったような気にさせてくれる.
皮膚感染症は,何となく旧態依然であまり大きな変化がないイメージがあったが,そのようなことはない.細菌感染症については,消毒の意義や抗菌薬の使い方が大きく変化してきた.真菌感染症については,分子生物学的に菌名が変更され,新しい内服薬が登場した.ウイルス感染症については帯状疱疹のワクチンなど新しい知識を身につける必要がある.抗酸菌感染症は,見逃してはいけない疾患でありながら,診断が容易ではない.性感染症,とくに梅毒は近年増加傾向であり,その対応法を改めて確認する必要がある.節足動物,輸入感染症は十分な情報を得難い疾患であり,エキスパートによる執筆内容は目から鱗である.ついでに,化膿性汗腺炎というおまけもついている.
本書は通読して,新たな知見を得るのにも良いし,それに加えて日常診療の傍において,対象となる患者さんと出くわした際に,情報を再確認するために用いるのにも適している.必要十分な写真とイラストがあり,また項目立てが見やすく,使いやすい.COVID-19がパンデミックになってしまった本年,本書は皮膚感染症に対して認識を改めさせてくれる良い契機となる書物だと言えよう.

エビデンスに基づくスキンケアQ&A

エビデンスに基づくスキンケアQ&A published on
Visual Dermatology Vol.18 No.10(2019年10月号)「Book Review」より

評者:藤本 学(大阪大学医学部皮膚科教授)

皮膚疾患の予防や再発の防止には,正しいスキンケアが重要なことはわれわれ皮膚科医はよくわかっている.しかしながら,「皮膚科学」の教科書は巷間にあふれているが,その中で「治療法」については述べられていても,「スキンケア」についてはあまり触れられることがない.むしろ,看護学の領域の方が多いかもしれない.しかし,そのような書籍は皮膚科医向けには書かれておらず,皮膚科医が知りたいスキンケアについての情報を得ることは意外に難しい.
一方,一般向けに「スキンケア」を取り上げる書籍や雑誌はたくさんある.その中には首をかしげたくなるような内容のものまであることも事実である.また,正しい内容であっても,その個人の皮膚にあっているかは別問題である. したがって,患者さんに,その個人の状況に応じた適切な正しいスキンケアの指導をすることは治療の一環として不可欠であるのみならず,患者満足度の面でも非常に重要である.そのような意味から,本書は皮膚科医必携の「スキンケアの教科書」の決定版といってよい.
本書は,ドライスキンや紫外線に対するケアはもちろんのこと,疾患別にざ瘡,アトピー性皮膚炎をはじめとして,なかなか体系だって勉強する機会の少ないストーマ・失禁のケアやスキン-テアのケアまで幅広く網羅されている.いわゆる「宮地本」の中では字が多い方に分類されるであろうが,項目ごとにコンパクトにまとめられており,通読するのも困難ではないし,辞書代わりにも便利に使用できる.
本書の特徴の一つは,「エビデンスに基づく」というタイトルのとおりに,根拠となっている文献をきちんと示していることである.日本の教科書は海外のものに比べて引用文献を極力減らそうとする傾向があるが,記載の基づいている根拠がわからないこともしばしばある.編者らが述べているように,スキンケアの領域はレベルの高いエビデンスが出しにくい分野であろうが,どのくらいのエビデンスレベルなのかも含めて把握できるのは,読者にとっては大変有り難い.
編者の安部先生の序文によれば,本書の活用法の一つが「酒宴での蘊蓄」とのことなので,筆者もそれを楽しみに本書でしっかり学習したいと考えている.もちろん,読者の諸先生方には,本来の日常診療の場でおおいに活用して頂きたい.

エビデンスに基づく美容皮膚科治療

エビデンスに基づく美容皮膚科治療 published on
Visual Dermatology Vol. 18 No.8(2019年8月号)「Book Review」より

評者:川田 暁(近畿大学医学部皮膚科教授/前 日本美容皮膚科学会理事長)

皮膚科領域において美容皮膚科の重要性が年々高くなっている.本邦の皮膚科領域では日本美容皮膚科学会が中心となって学会活動を行っており,2019年3月の時点で会員数2,496人を擁している.
このような現況の中で『エビデンスに基づく美容皮膚科治療』という本が発行されたのはとても意義が大きい.美容皮膚科領域は,(1)患者のニーズがきわめて高い,(2)自費診療が中心である,(3)機器や治療方法が先行する,などの特徴がある.その結果,確たるエビデンスがないまま患者の希望に応じて新しい治療を始めてしまうことが起こりやすい.どの分野でも同様であるが,治療で重要なのは有効性と安全性のエビデンスを確認してから行うことである.美容皮膚科領域では,他の領域と異なり良質なエビデンスが少ないのは事実である.本書はあえて美容皮膚科領域のエビデンスをターゲットにしており,野心的な本といえる.
本邦の皮膚科の教本の中でも,宮地良樹先生編集の本は数の多さだけではなく,企画のおもしろさ,着眼点のユニークさ,分担執筆の著者選択の適切さ,などで他を寄せつけない魅力がある.宮地良樹先生が新たに企画されたものが“エビデンスに基づく”シリーズである.同シリーズの本としては,本書の他に『エビデンスに基づくスキンケアQ&A』が発行されている.
『エビデンスに基づく美容皮膚科治療』は宮地良樹先生と葛西健一郎先生が編集されている.葛西健一郎先生は美容皮膚科全般とレーザー治療について豊富な経験と見識をもっておられ,多くの著書を刊行している.
このような背景から本書を読んでみた.まず分担執筆された著者は,編者と同様に豊富な経験と見識を有したエキスパートの方々である.次に項目の中に,機能性化粧品とAGAが含まれているのが通常の本と異なり興味深い.さらにどの項目でも,文頭にそのテーマのエビデンスレベルの提示があり,かつ各項目のエビデンスレベルがメーターを用いて5段階で評価されており,理解がきわめて容易である.最後に図と写真が大きく視覚的にわかりやすい.
これらを踏まえると,本書はエキスパートの方々が,美容皮膚科領域のエビデンスをしっかりと評価し,長所と短所を分析し,わかりやすく解説している初めてのものであり,良書といえよう.現在,美容皮膚科診療を実際に行っている方々はもちろん,これから始めようとしている方々にも是非読んでいただきたい

あたらしい皮膚科学 第3版

あたらしい皮膚科学 第3版 published on

Visual Dermatology Vol.17 No.5(2018年5月号)「Book Review」より

評者:多田弥生(帝京大学医学部皮膚科学講座)

皮膚科は,臨床は楽しいけれど,教科書を読むのは苦痛,というイメージが若い頃にあった.皮膚科学の重要な要素の一つにパターン認識があり,初学者は「典型的な臨床症状」を数多くみることが重要なのに対し,教科書はそれを典型的な臨床所見の記述で補おうとしていたことに起因すると今は思っている.2005年にあたらしい皮膚科学第1版を見たときの衝撃は今でも覚えている.臨床写真がとにかく多い.各項目において要点が整理されており,読みやすい.しかも,読み手のレベルに応じて,情報を取捨選択できるようになっている.海外の重要な新規知見も網羅されていて,「理解する皮膚科学」の側面もふんだんに盛り込まれている.単著の教科書の長所は記述や表現に統一性があることであり,短所は著者の得意分野と不得意分野で内容の質の差ができてしまうことであるが,あたらしい皮膚科学においてはその短所がみつからない.当時,自宅用と職場用に2冊買って,職場では調べ物に使い,自宅には通読用として置いた.第2版ではさらに臨床写真が充実し,例えば,毛孔性紅色粃糠疹のオレンジ色の乾癬様の局面を伴う臨床写真などまさに典型的で,感動した.ただ,昨今の皮膚科学の進歩が早すぎて,どんな教科書でもあっという間に古くなる.血管炎,皮膚リンパ腫の分類が変更され,混乱したのはつい先日のことであるが,なかなか教科書にはこの変更が反映されない.むしろ,ここまでのスピード感を教科書に要求するのはむずかしい,と思っていたが,そこはさすが,「あたらしい皮膚科学」である.第3版では「もっともあたらしい皮膚科学」が網羅されている.生物学的製剤はその種類や適応疾患が猛スピードで増えているが,それらはもちろんのこと,バイオシミラーにまで言及されているのには感服した.教科書は開くと著者と対話できるようになっている.この疾患,病態について,あの先生に聞いたら,どんな答えが返ってくるだろうか,と聴きたくなることがある.清水宏先生ならどう答えるか,が,この教科書には書いてあり,贅沢である.臨床と研究の両面において,常に世界のトップクラスを走り続ける清水宏先生が学会などで言及された事象が,10年後に現実となるのをみてきた.未来までみえている著者が書いた教科書なので,開くと,まず,現在の皮膚科学が網羅でき,丁寧に読み進めると,未来の皮膚科学までもが見えてくるようにできている.あたらしい皮膚科学の進化は,まさに,清水宏先生の進化そのものであるが,私たちがこの本を手にする時には,すでに清水宏先生はもっと新しくなっていることを考えると,そのスピード感には驚きを禁じ得ない.皮膚科学の勉強の楽しさを実感し,その意欲をかきたててくれる一冊である.同時に,このような「常にもっとも」あたらしい, 日本語の皮膚科の教科書が存在することをありがたく思う.

皮膚科臨床アセット 17 皮膚の悪性腫瘍

皮膚科臨床アセット 17 皮膚の悪性腫瘍 published on

使いやすさ,見やすさといった面での実用性にも心配りがなされた,読者に優しい書

Visual Dermatology Vol.13 No.11(2014年11月号) Book Reviewより

書評者:土田哲也(埼玉医科大学皮膚科)

現在,皮膚悪性腫瘍診療,とくにメラノーマの治療においてはブレイクスルーがおこっている.難攻不落であった進行期メラノーマに対して,DTIC(ダカルバジン)を凌ぐ薬剤が次々と開発されている.このことは,皮膚悪性腫瘍診療の範疇にとどまらず,医療界全般および社会からも大きな注目を浴びている.そういった情勢を背景に,この書は刊行された.専門編集者である国立がん研究センター中央病院の山﨑直也先生は,日本の皮膚悪性腫瘍診療のトップリーダーとして活躍中の現役バリバリの先生である.「序」で述べられている「初めて」のオンパレードは,まさしくこの時代背景を反映している.この書には,こういった「新しい」事実が,大変わかりやすく記載されていることが一つの特徴である.今まで断片的には目にすることはあったけれども,これらの新情報をまとめて勉強したい,と考えておられる先生方には待ち望まれた書であるといえる.
ただし,この書は,単に最新知識をまとめただけの書ではない.優れた臨床家である山﨑先生が,実際の皮膚悪性腫瘍診療に本当に必要な事項は何か,という実践診療の観点から組み立てた書である,という点がむしろ一義的な特徴といえる.そこに,大きな変革の波がかぶって,実践のみならず画期的な最新知識も得られる書に仕上がったところに,時代に求められているという山﨑先生の運をも感じてしまう.そう感じるのは,本年7月に第30回日本皮膚悪性腫瘍学会学術大会が山﨑先生を会長として開催されたが,この第30回という記念の学会期間中に,日本で開発され山﨑先生が臨床治験でご尽力なさった抗PD-1抗体が,世界に先駆けてメラノーマの治療薬として承認されたことも関係している.
この書の項目をみて,内容を読み進めれば,皮膚悪性腫瘍の診療を実践するのに必要な知識は何か,ということが否応なく頭の中に入ってくる.それぞれのパートを担当された先生方も,日本の皮膚悪性腫瘍診療を第一線で担われている正真正銘のエキスパートばかりである.記載に説得力があるのは,単なる教科書的知識の羅列ではなく,先人の業績は尊重しつつ,実践経験に裏づけられたリアリティも感じさせるためではないかと思う.
先人の業績ということについていえば,皮膚悪性腫瘍の診療に現在大きな変動が生じているとはいっても,ここまでずっと停滞していたわけではない.地道な努力が積み重ねられ着実な進歩はみられていた.ダーモスコピーなどによる診断精度の向上,センチネルリンパ節生検の導入などによる手術療法の改善などは,患者さんの負担の軽減,早期診断・早期治療の増加につながっていた.こういった皮膚悪性腫瘍診療の根幹をなす地道な進歩も,この書から読み取ることができる.
若い先生方には皮膚悪性腫瘍診療の実践書として,ベテランの先生方には最新知識を整理する書として,いずれの立場においても,この書の利用価値は高い.
最後に,この皮膚科臨床アセットシリーズは,皮膚科診療に役立つ読みやすい実用書として企画されているが,内容が実用的なことはもちろんのこと,装丁・レイアウトも工夫され,使いやすさ,見やすさといった面での実用性にも心配りがなされた,読者に優しい書であることを付記しておく.

皮膚科臨床アセット 11 シミと白斑 最新診療ガイド

皮膚科臨床アセット 11 シミと白斑 最新診療ガイド published on

付録の「シミ・白斑のメーキャップ」も,実際の患者指導にきわめて有益であり,診察室にも常備したい

Visual Dermatology Vol.12 No.3(2013年3月号) Book Reviewより

評者:川田 暁(近畿大学医学部皮膚科教授)

「皮膚科臨床アセット」は,古江増隆先生が総編集をされ,各巻ごとにエキスパートの先生の専門編集による,皮膚科医向けのMOOKである.このシリーズのコンセプトは,「皮膚科学の最新の情報を,専門書でありながら肩の凝らない読み物として提供する」ものである.すでに10巻が発行されており,私自身も分担執筆をさせていただいた.そのうち何冊かを読んでみたが,いずれも総編集の古江増隆先生と,各巻の専門編集の先生方の明確な意図と熱意が感じられる本となっている.
さて本書「シミと白斑 最新診療ガイド」は「皮膚科臨床アセット」の11巻として発行された.市橋正光先生が専門編集を担当されている.市橋正光先生は前神戸大学皮膚科の教授で,現在再生未来クリニック神戸の院長をされている.神戸大学ではメラノサイトの生物学,悪性黒色腫,光発癌,色素性乾皮症,光生物学などの研究を中心に,現在ではそれに加えて皮膚のアンチエイジングの研究も精力的にされている.したがって本書の編集には最適の先生であるといえる.本書のテーマと,それぞれの筆者の選び方はきわめて適切であると思われた.
本書では色素異常症として,色素が沈着するもの(シミ)と,色素が脱失するもの(白斑)に分けている.シミの総論では,その病態とメラニン生成機序が解説されている.難解ではなく,きわめてわかりやすい記載である.シミの病態を正しく理解することは,診断と治療を適切に進めていくのに重要である.その後の「シミの予防と治療」と「わたしの勧めるシミ対策」の部分では最先端の予防と治療について理解することが可能となる.シミは美容皮膚科におけるメジャーな項目の1つである.美容皮膚科に興味を持っている方は是非この総論を一読して理解していただきたい.各論ではさまざまな色素異常症が紹介されている.いずれも重要な疾患であり,とくに皮膚科専門医をめざす方にとって有益である.
次いで白斑の総論では,疫学,病態,鑑別診断,遺伝が詳しくかつわかりやすく記載されている.尋常性白斑以外にもさまざまな白斑があることが理解できる.さらに,白斑の治療として9項目があげられている.白斑の治療は一般的にむずかしいとされている.本書を読むと,現在多くの治療法が検討されていることに驚く.各論では,疾患を重要な4つの疾患に絞っている.とくに「薬剤・化学物質による白斑」と「メラノーマに伴う白斑」は皮膚科専門医が認識しておくべき疾患といえる.
シミと白斑のそれぞれの最後に,「最新研究からのインサイト」として基礎と臨床研究の最近のトピックスがわかりやすく紹介されており,とても興味を惹かれた.
これらの厳選された項目を,とてもみやすいカラーの図や写真とともに一読すれば,色素異常症の最新の情報を把握し,かつ実際の診療に活かすことが可能である.さらに付録の「シミ・白斑のメーキャップ」も,実際の患者指導にきわめて有益であり,診察室にも常備したいと思われた.本書は皮膚科専門医をめざす若手医師,すでに専門医の資格を有している方,指導的な立場の方,すべての皮膚科医師にとってアセット(財産・資産)としてふさわしい書籍と思われた.

皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略

皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略 published on

脱毛症治療のバイブル出現!

Visual Dermatology Vol.11, No.3(2012年3月号) Book Reviewより

評者:幸野健(日本医科大学千葉北総病院皮膚科)

旧約聖書の「サムソンとデリラ」の伝説において,怪力無双の英雄サムソンは,愛人にだまされ眠っている間に,神の恩寵のしるしである髪を切られてしまう.サムソンは力を失い,あわれ敵に囚われることになる.また,剃髪していたらしいブッダは,仏像ではまげを結った姿になっているし,短髪であったであろうイエスも絵画では長髪になっている.ことほど左様に人は髪に対して強い憧れを抱き,立派で美しい髪に自己同一性を投射するものである.それだけに,思いがけなくも脱毛症が発覚したとなると,人は慌て戦き,憂愁の淵にうずくまってしまう.

脱毛症患者の悲嘆は尋常ではない.それにもかかわらず,これまでの日本の皮膚科学界は患者たちに対して,あまりにも無力で頼りなかったと言わざるを得ないであろう.効果不定の育毛剤と適当な内服薬を出して「きっと生えるから頑張りなさい.ストレスを避けるようにね」くらいを言って,「どこか他の皮膚科に行ってくれないかなあ」などと思っていたのが本音ではないだろうか(私もそうであった).脱毛症に対し,皮膚科医は,さしずめ「髪を剃られたサムソン」状態であったといえよう.

このような現状を打破すべく,東京医科大学の坪井良治教授の下に,多くの勇士が結集し,本書が上梓されたのはまことに喜ばしい.これまでも脱毛に関する図書はあったが,経験論に基づくものが多く,本書のように確実なエビデンスに則って網羅的に編集されたものは皆無であった.まさに脱毛症治療のバイブル,いや日常診療での脱毛症治療への救世主降臨とでも言うべきであろうか.

日本皮膚科学会の脱毛症診療ガイドラインの作成委員である脱毛症治療のエキスパートたちが読者の側に座って,ガイドラインの内容を図表を豊富に駆使し,経験もまじえて懇切丁寧にわかりやすく説明し直してくれる……そのような気にさせてくれる本である.そして,だれしもが苦手としていた脱毛症治療に関し,本書一読後には,「こんな方法があったのか.自分もやってみよう!」という気になるであろう一書となっている.

また毛の生物学的基礎,遺伝子解析の最新知見,トリコスコピーなどの最新診断技術,各疾患のメカニズムも詳細かつきわめてわかりやすく記載されており,患者への説明の際のバックボーンを与えてくれる仕組みになっている(このバックボーンの体得が患者への納得感に大きくつながるのである).さらに,百戦錬磨の脱毛症のエキスパートたちによるものだけに,患者の心のケアに関するコメントも忘れられていないのはさすがである.

また,ヘアケアの実際,かつらの選択法,レーザー脱毛,染毛剤,パーマネント・ウェーブ剤,シャンプー,コンディショナー,フケ用香粧品に関する章から髪にまつわる迷信のコーナーまであり,まさに「痒い所に手が届く」心憎い編集になっている.300ページほどもある大著ながら,筆者はその面白さからあっという間に読破してしまった.

本書の魅力のために長々と書いてしまったが,本書の最大の意義は,「脱毛症という難治性疾患治療に関し,皮膚科医の一般臨床能力を非常に底上げする力の源泉となれる書」ということに尽きると思う.少なくとも皮膚科を標榜する医師は,すべからく本書を一読して頂きたいものと考える.