Visual Dermatology Vol.20 No.9(2021年9月号)「Book Review」より
評者:井川 健(獨協医科大学医学部皮膚科学講座)
皆さんご存じ(本当の意味でこの言葉を使える方です),京都大学名誉教授/静岡社会健康医学大学院大学学長でいらっしゃいます宮地良樹先生とその時その時のguest editorsともいえる先生(方)が編集を担当されておられる,「エビデンスに基づく」シリーズの第5弾です.
今回は,これまた皆さんご存じ(本当の意味で……以下略),京都大学教授でいらっしゃいます椛島健治先生とご一緒で,前/現京都大学教授による編集はこのシリーズだけでももう2冊目のようですね.さらに内容とは関係のないお話で恐縮ですが,最近,自分も我が医局のFacebookを通して宮地先生の情報を時々収集しておりますが(お友達申請ありがとうございます!),その情報によると,この本が217冊目の,いわゆる「宮地本」になるそうです.
さて,ここ10年くらい,皮膚科における治療薬物のラインナップの充実具合といいますか,臨床の現場に供されるスピードといいますか,そのあたりをみてみますと,自分が皮膚科医になった2〇年前(隠す必要はないですが……)ころに比べると隔世の感があります.
おそらく,20世紀後半あたりからの生命科学分野の研究の爆発的な進歩があり,そのような中から,まだまだほんの少しだと思うのですが,実を結んだものが少しずつ臨床の現場に出てきている状況なのでしょう.
いずれにしろ,最近の新規薬物をみておりますと,ターゲットを絞った,いわゆる,分子標的のお薬が多くなってきております.これは,近年の薬物開発の流れが,蓄積された研究の結果から推測される病態形成機序をバックにして,病態特異的に治療ターゲットを設定するという傾向があるからだろうと考えられます.この場合,基本的に余計なものに影響を与えることをなるべく排除する方向ですから,副反応発現の面からすると従来のものに比べて少ないことが予想されますし,治療効果発現はターゲットがピンポイントに近くなり,はまれば絶大である(狭く,深く)ことは,乾癬やアトピー性皮膚炎ですでに経験していることです.本書を一読し,新規治療薬物の根底にあるこのようなストラテジーを頭の片隅においておくことは臨床の場において決して損にはなりません.
本書で論じられる対象疾患は,最近ブレイク中(?)のアトピー性皮膚炎や乾癬のみならず,悪性腫瘍,感染症から自己免疫疾患,希少疾患に至るまで,皮膚科のかなり広い分野にわたっております.しかも,どれもわれわれ皮膚科医がちょっと困ったなー,と思うような疾患であるところがまたにくいところです.さらに言えば,これほど多くの分野で新しい薬物,新しい治療方針が論じられる必要がある皮膚科という診療科のここ最近の大躍進の様がこの本に凝縮されているような気もしたりするのです.
『エビデンスに基づく皮膚科新薬の治療指針』,間違いなく素晴らしい本です.あとは皆さんが手にとって確かめてください.