Visual Dermatology Vol.17 No.5(2018年5月号)「Book Review」より

評者:多田弥生(帝京大学医学部皮膚科学講座)

皮膚科は,臨床は楽しいけれど,教科書を読むのは苦痛,というイメージが若い頃にあった.皮膚科学の重要な要素の一つにパターン認識があり,初学者は「典型的な臨床症状」を数多くみることが重要なのに対し,教科書はそれを典型的な臨床所見の記述で補おうとしていたことに起因すると今は思っている.2005年にあたらしい皮膚科学第1版を見たときの衝撃は今でも覚えている.臨床写真がとにかく多い.各項目において要点が整理されており,読みやすい.しかも,読み手のレベルに応じて,情報を取捨選択できるようになっている.海外の重要な新規知見も網羅されていて,「理解する皮膚科学」の側面もふんだんに盛り込まれている.単著の教科書の長所は記述や表現に統一性があることであり,短所は著者の得意分野と不得意分野で内容の質の差ができてしまうことであるが,あたらしい皮膚科学においてはその短所がみつからない.当時,自宅用と職場用に2冊買って,職場では調べ物に使い,自宅には通読用として置いた.第2版ではさらに臨床写真が充実し,例えば,毛孔性紅色粃糠疹のオレンジ色の乾癬様の局面を伴う臨床写真などまさに典型的で,感動した.ただ,昨今の皮膚科学の進歩が早すぎて,どんな教科書でもあっという間に古くなる.血管炎,皮膚リンパ腫の分類が変更され,混乱したのはつい先日のことであるが,なかなか教科書にはこの変更が反映されない.むしろ,ここまでのスピード感を教科書に要求するのはむずかしい,と思っていたが,そこはさすが,「あたらしい皮膚科学」である.第3版では「もっともあたらしい皮膚科学」が網羅されている.生物学的製剤はその種類や適応疾患が猛スピードで増えているが,それらはもちろんのこと,バイオシミラーにまで言及されているのには感服した.教科書は開くと著者と対話できるようになっている.この疾患,病態について,あの先生に聞いたら,どんな答えが返ってくるだろうか,と聴きたくなることがある.清水宏先生ならどう答えるか,が,この教科書には書いてあり,贅沢である.臨床と研究の両面において,常に世界のトップクラスを走り続ける清水宏先生が学会などで言及された事象が,10年後に現実となるのをみてきた.未来までみえている著者が書いた教科書なので,開くと,まず,現在の皮膚科学が網羅でき,丁寧に読み進めると,未来の皮膚科学までもが見えてくるようにできている.あたらしい皮膚科学の進化は,まさに,清水宏先生の進化そのものであるが,私たちがこの本を手にする時には,すでに清水宏先生はもっと新しくなっていることを考えると,そのスピード感には驚きを禁じ得ない.皮膚科学の勉強の楽しさを実感し,その意欲をかきたててくれる一冊である.同時に,このような「常にもっとも」あたらしい, 日本語の皮膚科の教科書が存在することをありがたく思う.