Visual Dermatology Vol.19 No.10(2020年10月号)「Book Review」より

評者:門野岳史(聖マリアンナ医科大学医学部皮膚科)

皮膚感染症は日々遭遇する重要な疾患でありながら,確固たるエビデンスなしに,どちらかというと経験則でなんとなく診療しがちである.学生の頃の細菌学の思い出は,菌名を覚えるのにうんざりし,試験前に詰め込んで,あっという間に消え去ってしまったことであり,非常にとっつきにくい学問というイメージを持っていた.しかしながら,この“エビデンスに基づくQ&Aでわかる皮膚感染症治療”は,非常に読みやすく,分かりやすい.お馴染みの豪華メンバーによる編集で,皮膚感染症の診療にあたってわれわれが知っておくべき,知識,エビデンス,治療の仕方が非常にまとまって記されている良著である.
この本では,おのおのの単元がコンパクトにまとまっており,またQ&A方式であるので,要点を捉えやすい.色使いや下線の使用,ポイントの明確化,適切なガイドラインの引用を通じて,われわれがどこまで日常診療において皮膚感染症のことを知っておくべきかが分かる.エビデンスについても,何が分かっていて何が分かっていないかが明確に示されており,今まで先輩の受け売りや惰性で行っていたことを排除して新しい知識に置き換えることができて,少しだけ良い皮膚科医になったような気にさせてくれる.
皮膚感染症は,何となく旧態依然であまり大きな変化がないイメージがあったが,そのようなことはない.細菌感染症については,消毒の意義や抗菌薬の使い方が大きく変化してきた.真菌感染症については,分子生物学的に菌名が変更され,新しい内服薬が登場した.ウイルス感染症については帯状疱疹のワクチンなど新しい知識を身につける必要がある.抗酸菌感染症は,見逃してはいけない疾患でありながら,診断が容易ではない.性感染症,とくに梅毒は近年増加傾向であり,その対応法を改めて確認する必要がある.節足動物,輸入感染症は十分な情報を得難い疾患であり,エキスパートによる執筆内容は目から鱗である.ついでに,化膿性汗腺炎というおまけもついている.
本書は通読して,新たな知見を得るのにも良いし,それに加えて日常診療の傍において,対象となる患者さんと出くわした際に,情報を再確認するために用いるのにも適している.必要十分な写真とイラストがあり,また項目立てが見やすく,使いやすい.COVID-19がパンデミックになってしまった本年,本書は皮膚感染症に対して認識を改めさせてくれる良い契機となる書物だと言えよう.