Skip to content

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 小児理学療法学

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 小児理学療法学 published on
理学療法ジャーナル Vol.56 No.10(2022年10月号)「書評」より

評者:田中弘志(心身障害児総合医療療育センター 医師)

理学療法の対象は高齢者を中心とした成人が多く小児は比較的少ない.小児の分野では「ハビリテーション」という言葉が用いられることがある.成人の理学療法が主にリハビリテーションによって元の状態に近づけることが目標になることに対し,小児の理学療法で行われるハビリテーションは先天性障害などに対して患者がもっている機能を生かして個々に応じて目標設定を行い,治療を行うことである.

小児の理学療法が難しいという印象をもつ人が多いことは,この個々に応じて目標を設定してハビリテーションを行うことの難しさのためではないかと考える.本書はまさに先天性疾患に対し,個々の目標設定を行うための多くの情報が示されている.

特に脳性麻痺に関して多くのページにわたって書かれているが,脳性麻痺は歩容異常のみがみられる軽度の症例から自力での運動が困難で日常生活はすべて介助が必要となる重度の症例に分かれる.小児のなかでも特に目標設定が重要な疾患であり,そのための基礎知識が網羅されている.新生児期からの理学療法に関しても書かれているが,正常発達からは逸脱して発達することも多く,それらに応じた理学療法を行うことが重要であり,そのエッセンスが随所に記されている.本書に示されているさまざまな評価を踏まえた理学療法を行うことは,脳性麻痺患者の運動機能向上のために非常に重要なことである.

発達障害は,近年,特に診断されることが多くなった疾患名であり,日常生活のしにくさやコミュニケーションのとりにくさのため,生活に困難が生じることが多い疾患である.脳性麻痺と異なり,筋肉や関節へアプローチをすることは少ないが,脳性麻痺の患者のなかで発達障害を合併している症例もある.本書の内容を参考にかかわり方を工夫することで,患者の治療が飛躍的に進むことは多い.

また,本書の最初に正常発達について詳細な記述がある.正常発達の理解は小児の理学療法を行ううえで不可欠である.運動発達の遅れや日常生活活動の遅れが主訴で治療に来る患者がいた場合,正常発達を理解したうえで獲得している機能と獲得していない機能を正確に把握することで適切なアプローチが可能となる.本書を読み小児の正常発達を理解することは,個々に応じた適切な理学療法の手助けとなる.

本書は,理学療法士をめざす学生がいろいろな小児の疾患を学習するうえで最適な教科書である.それだけでなく,理学療法士になって普段かかわることがない小児の症例に遭遇したときや,小児の理学療法士をめざす方々にとっても多くの貴重な情報が得られる.理学療法士を志す学生の期間だけでなく,いろいろな分野をめざす理学療法士にとって,そして将来の理学療法士の教育を行う立場の先生方にとっても有益な情報が多く書かれている良書である.

動画でわかる 運動器理学療法 臨床実習スキル

動画でわかる 運動器理学療法 臨床実習スキル published on
理学療法ジャーナル Vol.55 No.7(2021年7月号)「書評」より

評者:牧迫飛雄馬(鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻基礎理学療法学講座)

臨床実習は,理学療法士をめざすうえで必ず経験する過程であり,養成カリキュラムにおいても重要な修学過程に位置づけられる.学生にとっては理学療法士としての実臨床を実際に体験できるとともに,職業としての理学療法士に接することで,机上では感じることのできない疑問や難しさ,または奥深さなど,さまざまな貴重な経験の場となる.しかし,臨床実習の在り方は年々変化しつつあり,特にここ数年においては診療参加型への移行や感染症拡大予防策などへの配慮がこれまで以上に必要となっており,臨床実習での学修を支援する書籍の充実は誰しもが望むところであろう.
本書の特筆すべき特徴として,1)ポケットサイズによる携帯性,2)動画解説の充実,3)実習生目線での問診や検査・測定方法の解説,が挙げられる.ポケットサイズであるが,写真が多く用いられており,文字の大きさやフォント,背景の色使いにも工夫がなされており,「読み物」というより「実用書」としての配慮が随所にうかがえる.
運動器理学療法における臨床実習を想定した関節可動域(ROM)測定や徒手筋力検査(MMT)の実施方法が中心的な内容であり,特に運動器理学療法の臨床実習で遭遇する機会の多い人工膝関節置換術(TKA),人工股関節全置換術(THA)後の患者を想定した臨床に即した検査・測定スキルが解説されている.
さらに,これらを急性期(術後初期~1週以内),回復期(概ね3週以降)に分けて,具体的な検査・測定方法が解説されており,検査者のポジショニングや声かけの工夫,記録方法の注意点などの細かな解説が加えられている.例えば,急性期であればROMの制限や体位の制限(腹臥位や立位ができないなど),疼痛の考慮などが必要であり,これらの点に配慮したROM測定やMMTの実施方法が紹介されている.各期の臨床像を想定したモデル症例が提示されているため,「このような患者を担当することになったらどのように対応すればよいか」,「自分の担当する患者に今後どのような対応をしたらよいか」といった臨床を想定した学びに役立つ.その他,肩関節症例や脊椎疾患症例に対する検査・測定および治療,歩行観察のポイントなどが紹介されている.
本書ではROM運動や筋力増強運動などの治療プログラムに活用できる実践例も動画付きで紹介されている.運動器理学療法の臨床実習における検査・測定,およびその結果を統合して解釈する一連の評価にとどまらず,評価に基づく治療プログラムの立案や実践に結びつけるためにも有用となる.感染症拡大防止のために注意しておきたいポイントも考慮されており,今のこの時代における運動器理学療法の実技演習および臨床実習での学修を補う教材として価値のある一冊であろう.

15レクチャーシリーズ理学療法テキスト 装具学 第2版

15レクチャーシリーズ理学療法テキスト 装具学 第2版 published on
理学療法ジャーナル Vol.54 No.12(2020年12月号)「書評」より

評者:長倉裕二(大阪人間科学大学)

装具は疾患や病期においてエビデンス推奨グレードにおいて評価されていることもあり,理学療法の分野では介入手段として必須アイテムとなってきている.今回,『15レクチャーシリーズ理学療法テキスト 装具学』(中山書店)は第2版となり,ページ数も増加し,内容も充実してきている.
第1版と比較して基本的な章立てなどは大きく変わっていないが,今までのモノクロではわかりにくかった画像やイラストをカラーに置き換えることによって詳細な構造を鮮明にしているところは,学修する学生にとっても科目担当者にとっても利用しやすいものとなっている.装具部品は現物を見てもどのように機能するのかわかりにくいものも多く,新しい装具が出る度に知識もアップデートしていかなければならないため,教科書を改訂する側として悩ましい部分でもある.しかし画像情報を詳細にすることで理解しやすくなると考える.また最近では国家試験でも実際の装具の画像を用いた問題もあることから,画像として理解することは重要であると考える.
第2版では,歩行支援や介護支援などのロボット関連も一部導入されており,これからの装具の分野にも工学的な部分が大きく関与していくことが予測されるため重要な項目であると考える.従来の装具学関連の教科書や参考書の多くは,理学療法士だけでなく義肢装具士や医師も対象に含まれていたが,この「15レクチャーシリーズ」は理学療法士の養成課程を対象に書かれており,理学療法士にとってはわかりやすいテキストと考える.理学療法士が行う介入方法や理学療法士が臨床現場で対面する事象なども記されており,その対処方法や考え方などについても評価すべきところだと考える.第1版では「教科書には載っているが実際の臨床現場では利用されていない装具」などが紹介されていたが,第2版では現在利用されている装具を中心に整理されており,臨床現場においても利用しやすくなっている.しかし装具の利用に関しては地域や施設,製作業者によって利用装具や頻度に差が生じてくるため,一般的に利用されている装具の基準が定めにくいところでもある.
15回の講義コマ数で具体的に何をこのコマで学ぶのか,目的が明記されていることで学修に集中できることがこのシリーズのポイントだと考える. また第7レクチャーの「下肢装具のチェックアウト─実習」は見落しがちな部分も網羅され,臨床において優先的に理学療法士が行うチェックポイントとして学生にわかりやすく,臨床実習に結びつけやすいと考える.しかし,養成校によっては演習系などの義肢装具学の授業として30コマを設定しているところもあり,今後,実技内容のバリエーションを増やすことで教育現場での利用価値が高くなると考える.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 理学療法管理学

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 理学療法管理学 published on
理学療法ジャーナル Vol.54 No.9(2020年9月号)「書評」より

評者:浅香満(高崎健康福祉大学保健医療学部理学療法学科)

本書の特徴は,政治家としての貴重な経験を有する理学療法士が責任編集をしているところにある.豊富な経験を活かし,幅広い内容で構成されており,鋭い視点で今後の課題に切り込んでいる.基本的には日本理学療法士協会が提唱した「理学療法学教育モデル・コア・カリキュラム」に準じて編成されているが,より実践的視点から社会保障制度や多職種連携,情報管理,リスク管理,政治などの分野に焦点を当てて解説している.「管理」というと,トップダウンのイメージをもつことが多いが,組織を構成する全員が,それぞれの立場で広義の管理学の知識と意識をもって組織に参加することは,その組織の果たす役割・運営に大きく貢献することとなる.

筆者が理学療法士になった当時(40数年前)は,医療機関の数ある部門のなかで,理学療法部門は最小規模のところがほとんどであった.それが現在では,多くの医療機関で看護部門に次ぐ大きな組織となっている.また,働き方も365日体制のリハビリテーションにより早番・遅番,休日出勤など多様化してきている.同じ医療機関においても,急性期・回復期・地域包括・訪問など細分化され,それぞれに求められる役割も異なる.組織が大きくなることは結構なことだが,その一方で課題も出てくる.大きな組織のなかで,自分の存在感を発揮しづらくなったり,周りに流されながら業務を行ったりと,自分の能力が十分に発揮できないマイナスの面が出てしまっては,組織にとっても個人にとっても大きな損失である.組織を構成する1人ひとりが自分の能力を十分に発揮し,やりがいを感じながら理学療法を実践するためには,トップダウンだけの管理では不可能である.

こうした背景により,理学療法教育においても「管理学」の知識が必須となった.学生のうちに管理学を学ぶことに違和惑をもつ学生もいると思うが,本書では管理学を学ぶ意義や必要性などを身近な事例を通して,学生でも興味深く読めるよう工夫している.また,学生のうちに管理学を学ぶことは,理学療法士として組織で働くようになったときに,組織の運営・発展に寄与できる高いマネジメント能力(自己管理も合め)をもった人材の育成にもつながる.新社会人として歩み始めた理学療法士にとっても,実践している業務内容を再確認しながら読むことにより,自分自身の成長に大いに役立つ.

「管理学」を学ぶことのもう1つの大きな目的は,理学療法自体の発展にある.10年後,20年後の日本の理学療法の在り方を考えるときに管理学の知識は必ず必要となる.理学療法をこれからも発展させるためには,人口動態や疾病構造の変化,医学の発展,政策など,いろいろな因子を分析し対応していかなくてはならない.1人ひとりの理学療法士が,頭の片隅に少しでもそのような意識をもって行動することにより,大きなうねりとなり社会を動かす力になる.

本書が高い意識をもって行動する理学療法士を育成し,理学療法の発展に寄与することを切望する.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 理学療法概論

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 理学療法概論 published on
理学療法ジャーナル 52巻4号(2018年4月号)「書評」より

評者:瀧野勝昭(元社会医学技術学院学院長)

現在,理学療法士の養成校は263校あり,2017(平成29)年度各校の募集定員数の総計は約14,000名である.入学した学生の中には初めて学ぶ医学・医療は,難解な用語や記憶する教科が多いと感じている人も見受ける.「理学療法概論」は,理学療法のすべてを包括した内容が求められるが,入学して間もない学生に教授するため,必要な内容を満たし,かつ簡潔明瞭な記述が望ましい.「理学療法概論」の質の良い授業は,これから学ぶ基礎教科や専門教科などの理解を助けるのはもちろんのこと,学習へのモチベーションを高め,学習効果を得ることにつながる.
本書は,冒頭に教育方法の要件である「到達目標」を記載し,次に「学習主題」,「学習目標」,「学習項目」を明示したうえで,系統的に編集された15のlecture(講義)からなる.その内容は,理学療法の概要・背景・構成,必要な知識と実習,主対象(中枢神経系,運動器系,内部障害系,がん,介護予防),病期・職域別(急性期,回復期,生活期,在宅,行政,研究),そして最後に学習到達度をみる「試験・課題」で構成されている.
学習しやすい構成立てとなっており,難解な用語はサイドノートにて詳しく解説するなど,学生が理解しやすいよう随所に工夫がなされている.その他,サイドノートには「ここがポイント」,「試してみよう」,「覚えよう」,「調べてみよう」などがあり,よりいっそうの学習効果と効率化を図っている.写真と図表も多数用いられ,学生の理解を助けるものとなっている.
各講義にある「Step up」では,15領域のexpertが生の声で「仕事の内容」,「今の仕事を目指した理由」,「学生へのメッセージ」を執筆している.一部を紹介すると,国際協力機構(JICA)専門員は「途上国には多数の人が貧困と紛争に苦しんでいる.理学療法士として,あなたは何ができるでしょうか」と学生に問いかけている.さらに行政,スポーツ,一般企業など幅広い分野で活躍する理学療法士による執筆は,新鮮であり,力強く感じることだろう.
総体的にみて概論の必要条件である理学療法の歴史的変遷,語源,目指す理学療法士像,教育の現在,プロフェッショナリズム,現在の職域などを網羅した内容である.以上のことからも本書は,これまでにない最新のすぐれた「理学療法概論」の教科書であると評価できる.大学,専門学校などでぜひとも活用していただきたい.
また,理学療法士はもちろんのこと,看護師,作業療法士,言語聴覚士,義肢装具士などにとっても,理学療法の基本的な知識を補う参考書として,手元に置いておきたい専門書でもある.
今後は社会状況の変遷に伴い,その時代に見合った理論・技術などを取り込み,常に最新の「理学療法概論」として編集を重ねていただきたい.

リハビリテーション・ポケットナビ 今日からなれる! 評価の達人

リハビリテーション・ポケットナビ 今日からなれる! 評価の達人 published on

「まったく同感!」と,つい言葉に出したほど

理学療法ジャーナル Vol.49 No.8(2015年8月号) 書評より

書評者:松永篤彦(北里大学大学院医療系研究科教授)

チーム医療がうまく稼働している現場では,チーム内で構成されている専門家同士が互いに信頼関係にあるのと同時に,ある職種によって実施された診断および評価結果が,他職種にとっても必要かつ有益な情報となり,しかもその内容(意図)が的確に伝わっている.例えば,整形外科領域のチーム内に理学療法士がいれば,関節可動域検査は,理学療法士が測定した結果を信頼し,活用するはずである.つまり,理学療法士が評価した関節可動域は,罹患した関節の構造とその動きを的確に捉えたうえで疼痛等の制限因子を十分に考慮し,日々の理学療法(治療)後の変化(効果)を加味した最新の結果(角度)であり,その後の治療計画や患者の日常生活を推し量るうえでも貴重な情報となるに違いない.他職種からすれば,言わば「達人」による検査報告であろう.
もともと検査法や評価法は,その性質から,誰が実施しても正しく実施でき,同じ結果と解釈が得られることが求められる技法である.むしろ,上述のような「達人」技は敬遠されることが多い.しかし,理学療法士が臨床現場で実施する評価は,一般に,相手(対象)が「人」そのものであるだけに一様には行えず,患者の病期,病態および個人の特性に応じて実施方法を工夫し,しかも出てきた結果を解釈するにしても多くの情報を統合しなければならない.つまり,「達人」技が要求され,それには熟練を要する.ただし,「達人」技というと,達人たちによって技が異なり,千差万別の技があるように思われがちだが,そうではない.長い臨床経験をもつ理学療法士には賛同いただけると思うが,10年以上ともなると,どの理学療法士も,関節の持ち方,角度計の当て方,測定中の留意点など,ほぼ同じ方法で実施していることに気づく.実施者の手法を見れば,概ねどのくらいの臨床経験をもつ理学療法士であるかがわかるほどである.つまり理学療法士が実施する評価の技は,経験ある達人から的確に学べば,短期間にしかも汎用できる技として身につけることができる可能性があるわけである.
このたび,上記のような評価の達人となるための指針書が,中山書店から出版された.著者は,玉木彰先生(兵庫医療大学)と高橋仁美先生(市立秋田総合病院)であり,30年以上のキャリアをもつ達人たちである.この書には,臨床現場で活用する評価項目とその手法が図表入りで解説されている.しかも,現場で活用する手法に限定され,評価結果を解釈するための知識が端的に示されている.さらに,達人(著者)による,達人となるための視点,考え,解釈の方法などが惜しげもなく随所に明示されている.私も30年以上の経験をもつ理学療法士の一人だが,この達人たちの解説をすべて読ませていただいて,「まったく同感!」と,つい言葉に出したほどである.
理学療法士になって間もない方から10年未満の方,ぜひ,この書をポケットに入れて,日々の臨床で評価の技を会得してはいかがだろうか.また10年以上の経験をもつ方も,逮人の評価の技をあらためて確かめてはいかがだろうか.そして,この違人の技を活用し,現場の医療チーム内で頼れる専門家となってはいかがだろうか.30年以上の経験をもつ達人たちの「魂」のこもった,この指針書を強くお薦めする.

動画でわかる呼吸リハビリテーション 第3版

動画でわかる呼吸リハビリテーション 第3版 published on

最近の呼吸リハビリテーションの知識と技術を網羅した,多くの読者のニーズに応える名著

理学療法ジャーナル Vol.47 No.3(2013年3月号) 書評より
評者:千住秀明(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)

本書は2006年8月に初版が出版されて以来,2012年11月までに3回の改訂と10回の増刷を行うなど,最近の呼吸リハビリテーションの知識と技術を網羅した,多くの読者のニーズに応える名著である.
内容は「第1章 呼吸リハビリテーションとは」「第2章 呼吸リハビリテーションに必要な呼吸器の知識」「第3章 呼吸リハビリテーションの進め方」「第4章 呼吸リハビリテーションに必要な評価」「第5章 呼吸リハビリテーションのプログラム」「第6章 呼吸リハビリテーションの実際」で章立てされ,執筆者は秋田大学を中心としているが,重要な章では臨床現場の第一線で活躍している諸先生方を配置するなど,情報の偏在を少なくする工夫がなされている.
本書の特徴は,①呼吸リハビリテーションを多角的・包括的に記載し,最近の知見によって呼吸リハビリテーションの科学的根拠を示すなど豊富な情報が満載されている,②各章が独立した内容で構成されているので,基本的事項から最新の知識まで,読者のニーズに応じて得ることができる,③DVDの動画が付いているので,呼吸リハビリテーションのサイエンス(科学的根拠)とアート(技術)をともに修得することができる,④臨床でよくみられる代表的な症例提示があるため,学生の臨床実習などで参考書としても活用しやすいことが挙げられる.
特に,第1章に記載されている「呼吸リハビリテーションの定義」では,米国呼吸器学会,欧州呼吸器学会が共同提案しAm J Respir Crit Care Med などで公開予定の新たな定義である「徹底した患者評価に基づいた包括的な医療介入である.続いて,運動療法,教育,行動変容だけでなく,患者個人個人に対してオーダーメイド治療を行い,慢性呼吸器疾患患者の心身状況を改善し,長期のアドヒアランスを増強する行動を促進しようとするものである」を採用していることなどは,著者らの呼吸リハビリテーションのより新しい情報を提示したいとの熱意が読み収れる特記すべき事項である.また,本書の内容には,秋田大学グループの長年の臨床研究によって培われた知識と技術が随所に活用され,本テキストが単なる情報の提供だけでなく,臨床的な知識と技術に裏付けされた確かな情報であること示している.
2012年11月の同時期に,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸器学会,日本リハビリテーション医学会,日本理学療法士協会の共同により『呼吸リハビリテーションマニュアル―運動療法』(照林社)の第2版が出版されたが,本書とともに呼吸リハビリテーション分野で学ぶ理学療法士に愛読され,呼吸リハビリテーションの普及・発展に寄与し呼吸器障害の患者さんの福音となることを願っている.

ゴロから覚える筋肉&神経

ゴロから覚える筋肉&神経 published on

経験を積んだ人も長年の自己知識の確認を「今すぐに」行う際にも有益

理学療法ジャーナル Vol.47 No.6(2013年6月号) 書評より

評者:福井勉(文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科)

理学療法士や作業療法士になろうとする学生や新人の臨床家にとって,運動器の機能解剖は当然クリアしなければならない問題である.人参や玉葱を知らないままカレーライスを作ることが難しいのと同様,筋や神経の名称,機能についての知識なしに病態は語れないし,何より臨床的考察の発展性への大きな壁となる.つまり,運動器の知的基盤とも言うべき筋や神経の名称,機能,神経支配については,反射的に想起されたうえに人の運動への3次元的イメージが要求されている.これらの基礎体力をつけるためには,反復を伴う学習が余儀なくされ,多少の味気なさを伴うものである.本書にはそこに味付けを盛り込もうとした優しさが感じられる.
例えば,指の外転に関しては「じゃんけん,パーはハイ(8, 1)リスク」として,髄節レベルを覚えるゴロが盛り込んである.その他,いくつか紹介すると,「ハムストは,四股(4, 5)合図(1, 2)」「膝を,胃に指す(1, 2, 3, 4)腸腰筋」「三頭筋,軟派(7, 8)な腕立て伏せ」など,がある.ゴロにはすべてイラストが付き,各筋がページ単位で構成され,さらに「MEMO」として解説が加わり,イメージをしやすく,わかりやすくなっている.
理学療法士や作業療法士が学ばなくてはならない機能解剖学の学習経過においては,詳細な解剖学や運動学の成書を紐解き,あるときは模型などを用い,自分の身体を用いた体感性や,該当する筋のイメージを立体化する作業が欠かせないと思う.その総まとめや復習を行う際に本書があれば,確認作業にはうってつけである.特に髄節レベルの確認には優れていると考えられる.
本書は“くだけた”機能解剖学の書籍であり,多くの暗記に拒絶反応を示す学生や新人にできるだけ而白く覚えられるようにまとめたこと,自力でマスターするための入門書であることが,序文に記されている.しかしポケットサイズであるため,新人だけではなく経験を積んだ人も長年の自己知識の確認を「今すぐに」行う際にも有益である.
著者の高橋仁美先生は言わずと知れたわが国を代表する呼吸理学療法の先達である.残念ながら私自身は高橋先生の講義を拝聴した経験がないが,あえて予想すれば聞き手を飽きさせない真心をお持ちになる楽しい講義をしてくださるのであろう.著者が本書を上梓する背景には,知識を確実なものにすることを念頭に置かれているが,その先には,「さらに基礎知識を応用し,臨床に還元するところに力を注ぎなさい」と言われているように感じられた.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 運動療法学

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 運動療法学 published on

実に飽きさせないつくりになっている

理学療法ジャーナル Vol.49 No.2(2015年2月号) 書評より

書評者:高橋仁美(市立秋田総合病院リハビリテーション科)

好評教科書である中山書店の「15レクチャーシリーズ」から「運動療法学」が発刊された.運動療法は,疾病に侵されたものや障害を受けたものに対して,運動という手段を科学的に適用させる治療法であり,理学療法の中核として位置づけられる.理学療法士にとってはまさに治療の要となるわけだが,そのような意味からも本シリーズ待望の書と言える.
本書の最大の特徴は,運動療法を行ううえで必要な知識と技術を15回の講義で基礎から臨床まで深く理解できるようにまとめられている点である.学生はもちろんだが,教員にとっても非常に有用な教科書である.内容をみると,運動療法の基礎・リスク管理,そしてコンディショニング(全身調整)のための手段を最初に取り上げてから,関節可動域制限,筋機能障害,協調運動障害(運動失調とバランス機能障害)のそれぞれに対する運動療法,さらに基本動作能力・歩行能力再獲得と全身持久力改善のための運動療法が解説されており,背景となる基本的な理論と実際の介入方法をわかりやすく学ぶことできる.
意外であったのは,各論部分にあたるいわゆる疾患別の項である.感覚機能障害,がん,腎機能障害,熱傷,産科領域,高齢者,健康増進分野を対象としており,診療報酬体系の疾患別リハビリテーション料にある心大血管疾患,脳血管疾患等,運動器疾患,呼吸器疾患といった代表疾患については触れられていないことであった.しかし,この疑問は15レクチャーシリーズの他のテキストを参照することで理解できた.これらの代表疾患を含め理学療法の対象となる疾患の運動療法については,このシリーズの別のテキストで十分に記されているのである.15レクチャーシリーズは,限られた時間のなかで理学療法を効率的に教育できるよう工夫され,非常によくバランスがとれており,総編集の石川先生や責任編集の解良先生,そして玉木先生によるこのような着想力は流石であると感じた.
学生になった気分であらためて本書をじっくり拝読すると,実に飽きさせないつくりになっていると感じた.「図・写真・表」のほか,「MEMO」,「ここがポイント」,「覚えよう」,「気をつけよう」,「調べてみよう」などを欄外に入れることで,理解度を深めながら集中力が持続するように配慮されている.また,最初に到達目標,講義を理解するために必要なこと,講義後に確認することが明記されており,学生にとってはレクチャーごとに何を学ぶべきかが明確になっている.さらに,少し雑学的な要素も入った「Step up」や国家試験の備えにもなる「TEST試験」もうれしい.
本書によって,理学療法学の中心である運動療法学の講義を効率的に進めることができるものと確信する.このテキストは,学生の心をつかむことができる良書である.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 運動器障害理学療法学 II

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 運動器障害理学療法学 II published on

教育の本質をよく理解した執筆・編集陣によって完成度の高い内容にまとまっている

理学療法ジャーナル Vol.46 No.3(2012年3月号) 書評より

評者:内山靖(名古屋大学医学部保健学科)

わが国の理学療法士免許登録者は9万人を超え,理学療法士養成課程の一学年総定員数は18歳人口のおよそ1%を占めるに至っている.理学療法士の増加に伴い医学書に占める理学療法関連の書籍はここ10年で急増し,最近ではさまざまな特色を打ち出したシリーズ書も続々と発刊されている.

このような時流において,伝統ある医学書籍の出版社である中山書店から「15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト」が発刊されたことは誠に喜ばしい.本シリーズは,タイトルからも明らかなように,15コマで構成される講義形式に則った学生を読者対象に特化したものである.そのコンセプトに基づき,冒頭にはシラバスとともに流れがつかみやすい丁寧な目次が掲載され,本文には豊富な図表が取り入れられている.

今回紹介する運動器障害理学療法学は,IとIIの2冊に分けて30章で構成されている.特筆すべきは,講義と実技を連続した章として扱い,学生は病態を予め学んだうえで科学的背景に基づいた理学療法の評価と治療を一連の過程で学べるように工夫されている点である.実技の章では,実際の対象者や忠実なモデルによる写真が満載で,効率的かつ効果的な学習が展開されるように配慮されている.しかも,総分量を抑えた短文で表記されていながら,内容は基本に忠実で精選されている.ともすると,このくらいは分かっていてほしいという教員の願望から,内容が多岐にわたりかえって学習到達度を下げてしまうことがあるが,本書は教育の本質をよく理解した執筆・編集陣によって完成度の高い内容にまとまっている.まさに,学生主体のテキストであり,若手の教員への力強い教本ともいえるだろう.また,執筆は責任編集者と意思疎通がとれ認識を共有できる関係にある数人に限定されているため,全体の整合性が高く,細部にわたる統一感は学習者にとって理解を促す要素となる.

評者の役割としてあえて課題を提示するとしたら,運動器や運動器障害理学療法の枠組みや特徴について,明確に解説する総論部が見当たらないことである.15章の後にある試験のcomment欄で,運動器疾患について学んだ内容はすべての対象者に接するうえで生かすことができること,運動器疾患の理学療法は比較的理解しやすくほかの基本となる内容が数多く含まれていることが記載されているので,その具体的な内容を冒頭で記してあれば学生の学習意欲と理解が一層高まるものだろう.また,全項目を理学療法士のみで執筆することが最善かどうかは意見が分かれるところである.

いずれにしても本書は,これまでわが国で出版された学生を対象としたテキストのよい部分を存分に取り入れ,後発ゆえの利点を最大限に生かした所作である.教科書としてだけでなく,専門学校の学生はもとより大学生の自己学習書として,また,臨床学習でも大いに活用できる書籍として自信をもってお奨めしたい.