最近の呼吸リハビリテーションの知識と技術を網羅した,多くの読者のニーズに応える名著

理学療法ジャーナル Vol.47 No.3(2013年3月号) 書評より
評者:千住秀明(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)

本書は2006年8月に初版が出版されて以来,2012年11月までに3回の改訂と10回の増刷を行うなど,最近の呼吸リハビリテーションの知識と技術を網羅した,多くの読者のニーズに応える名著である.
内容は「第1章 呼吸リハビリテーションとは」「第2章 呼吸リハビリテーションに必要な呼吸器の知識」「第3章 呼吸リハビリテーションの進め方」「第4章 呼吸リハビリテーションに必要な評価」「第5章 呼吸リハビリテーションのプログラム」「第6章 呼吸リハビリテーションの実際」で章立てされ,執筆者は秋田大学を中心としているが,重要な章では臨床現場の第一線で活躍している諸先生方を配置するなど,情報の偏在を少なくする工夫がなされている.
本書の特徴は,①呼吸リハビリテーションを多角的・包括的に記載し,最近の知見によって呼吸リハビリテーションの科学的根拠を示すなど豊富な情報が満載されている,②各章が独立した内容で構成されているので,基本的事項から最新の知識まで,読者のニーズに応じて得ることができる,③DVDの動画が付いているので,呼吸リハビリテーションのサイエンス(科学的根拠)とアート(技術)をともに修得することができる,④臨床でよくみられる代表的な症例提示があるため,学生の臨床実習などで参考書としても活用しやすいことが挙げられる.
特に,第1章に記載されている「呼吸リハビリテーションの定義」では,米国呼吸器学会,欧州呼吸器学会が共同提案しAm J Respir Crit Care Med などで公開予定の新たな定義である「徹底した患者評価に基づいた包括的な医療介入である.続いて,運動療法,教育,行動変容だけでなく,患者個人個人に対してオーダーメイド治療を行い,慢性呼吸器疾患患者の心身状況を改善し,長期のアドヒアランスを増強する行動を促進しようとするものである」を採用していることなどは,著者らの呼吸リハビリテーションのより新しい情報を提示したいとの熱意が読み収れる特記すべき事項である.また,本書の内容には,秋田大学グループの長年の臨床研究によって培われた知識と技術が随所に活用され,本テキストが単なる情報の提供だけでなく,臨床的な知識と技術に裏付けされた確かな情報であること示している.
2012年11月の同時期に,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸器学会,日本リハビリテーション医学会,日本理学療法士協会の共同により『呼吸リハビリテーションマニュアル―運動療法』(照林社)の第2版が出版されたが,本書とともに呼吸リハビリテーション分野で学ぶ理学療法士に愛読され,呼吸リハビリテーションの普及・発展に寄与し呼吸器障害の患者さんの福音となることを願っている.