世界中で読まれているてんかん学の教科書

BRAIN and NERVE Vol.66 No.11(2014年11月号) 書評

書評者:永井利三郎(大阪大学大学院医学系研究科教授)

本書は,本書の日本語版の序文で井上有史先生が述べておられるように,世界中で読まれているてんかん学の教科書です。近年,国際抗てんかん連盟(ILAE)の新しいてんかん症候群分類の提案があり,本書はそれに基づいて第5版として刊行されたもので,各てんかん症候群について詳細な記載がなされており,てんかん学の基本となる本です。本書の日本語版の刊行に当たった井上有史先生をはじめ,静岡てんかんセンターの先生方に感謝いたします。本書の特色は,何と言ってもDVDが添付されており,動画でてんかん発作を見ることができることです。この動画をご提供いただいた当事者やご家族の方々に心から感謝したいと思います。
今ほどてんかんに関する教育の意義が高まっている時期はこれまでになかったと思われます。てんかんの有病率は約1%と言われ,これはわが国に,約100万人のてんかん患者がおられることになります。日本てんかん学会の会員は現在2,000人余りで,このうちてんかん専門医は400人余りであり,当然ながらてんかん患者の診療には,てんかん専門医以外の多くの医師が関わっています。
残念ながらてんかんという疾患に関する誤解や偏見は,一般の方々の中に,まだまだ多くみられるのが現状です。てんかん専門医は,てんかん診療に関与している一般の医師や看護師などの医療職者だけでなく,一般の方々に,てんかんに関する正確な情報を提供していく責務を負っていると考えています。てんかん専門医の方々はもちろん,てんかんを学ぶ若手の先生方には,ぜひこの本を現場に活用していただきたいと思います。
また私たちの調査では,てんかん患者の生活の援助に当たる立場におられる,学校教員や施設職員などの援助職においても,「てんかんのことがよくわからない」,「発作の時どうしたらいいかわからない」,「発作対応のマニュアルが欲しい」などの意見があり,てんかんに関する正しい情報の提供を熱望されています。 この本が活用され,てんかん診療やてんかん患者への支援を高めることにつながることを期待しています。