理学療法ジャーナル Vol.54 No.9(2020年9月号)「書評」より

評者:浅香満(高崎健康福祉大学保健医療学部理学療法学科)

本書の特徴は,政治家としての貴重な経験を有する理学療法士が責任編集をしているところにある.豊富な経験を活かし,幅広い内容で構成されており,鋭い視点で今後の課題に切り込んでいる.基本的には日本理学療法士協会が提唱した「理学療法学教育モデル・コア・カリキュラム」に準じて編成されているが,より実践的視点から社会保障制度や多職種連携,情報管理,リスク管理,政治などの分野に焦点を当てて解説している.「管理」というと,トップダウンのイメージをもつことが多いが,組織を構成する全員が,それぞれの立場で広義の管理学の知識と意識をもって組織に参加することは,その組織の果たす役割・運営に大きく貢献することとなる.

筆者が理学療法士になった当時(40数年前)は,医療機関の数ある部門のなかで,理学療法部門は最小規模のところがほとんどであった.それが現在では,多くの医療機関で看護部門に次ぐ大きな組織となっている.また,働き方も365日体制のリハビリテーションにより早番・遅番,休日出勤など多様化してきている.同じ医療機関においても,急性期・回復期・地域包括・訪問など細分化され,それぞれに求められる役割も異なる.組織が大きくなることは結構なことだが,その一方で課題も出てくる.大きな組織のなかで,自分の存在感を発揮しづらくなったり,周りに流されながら業務を行ったりと,自分の能力が十分に発揮できないマイナスの面が出てしまっては,組織にとっても個人にとっても大きな損失である.組織を構成する1人ひとりが自分の能力を十分に発揮し,やりがいを感じながら理学療法を実践するためには,トップダウンだけの管理では不可能である.

こうした背景により,理学療法教育においても「管理学」の知識が必須となった.学生のうちに管理学を学ぶことに違和惑をもつ学生もいると思うが,本書では管理学を学ぶ意義や必要性などを身近な事例を通して,学生でも興味深く読めるよう工夫している.また,学生のうちに管理学を学ぶことは,理学療法士として組織で働くようになったときに,組織の運営・発展に寄与できる高いマネジメント能力(自己管理も合め)をもった人材の育成にもつながる.新社会人として歩み始めた理学療法士にとっても,実践している業務内容を再確認しながら読むことにより,自分自身の成長に大いに役立つ.

「管理学」を学ぶことのもう1つの大きな目的は,理学療法自体の発展にある.10年後,20年後の日本の理学療法の在り方を考えるときに管理学の知識は必ず必要となる.理学療法をこれからも発展させるためには,人口動態や疾病構造の変化,医学の発展,政策など,いろいろな因子を分析し対応していかなくてはならない.1人ひとりの理学療法士が,頭の片隅に少しでもそのような意識をもって行動することにより,大きなうねりとなり社会を動かす力になる.

本書が高い意識をもって行動する理学療法士を育成し,理学療法の発展に寄与することを切望する.