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心臓血管外科手術エクセレンス 弁膜症の手術

心臓血管外科手術エクセレンス 弁膜症の手術 published on
胸部外科 Vol.72 No.2(2019年2月号)「書評」より

評者:上田裕一(奈良県立病院機構理事長)

大北裕先生と高梨秀一郎先生の巻頭の記述のとおり,まさに「ユニークで秀逸な心臓外科手術手技のテキストである」と断言できる.章立ても行き届いており,各章を担当された心臓外科医の方々の記述は細心で要点が網羅されており,経験年数を問わず多くの心臓外科医に本書を推薦したい.その根拠を以下に綴り,日常の手術や後進の指導に本書を活用していただけることを願う次第である.
筆者が1976年にはじめて購入したのはCooley先生のアトラス(今も手元にある)で,その後,ほとんどの手術アトラス,そしてKirklin/Barratt-Boyes両先生による圧巻のテキスト『Cardiac Surgery』(Saunders)は1986年の初版から2013年の最新版まですべて購入してきた.この経験から,この推薦文の冒頭の記述に加えて,本書の長田信洋先生による素晴らしいメディカル・イラストレーションには驚嘆したといっても過言ではない.所見や運針を主に,見事に描かれている.各執筆者の術中画像をもとに心臓外科医の長田先生の頭脳を介して描き出された挿画は,元写真とは何が違うのか? もちろん,21世紀の画像技術の進歩により,術中写真やビデオは超精細(ハイ・レゾリューション)画像となり,本書には綺麗な写真に加えて動画も閲覧できるようになっている.しかし高梨先生の「序」の記載のように,手術手技を伝達するにはその術式に限定した挿画は必要不可欠なのである.つまり,外科医の視点からの挿画でなければならない.心臓外科医ではないメディカル・イラストレータが忠実に術野を描いても,心臓外科医の視点に欠けるため,なんらかのアドバイスを要するのが常である[なお,唯一の例外であると筆者が思うのが,レオナルド・ダ・ヴィンチの心臓の解剖図譜(大動脈弁・僧帽弁の血流を想定した見事な線画)である].
付言すれば,読者(心臓外科医)が手術中に網膜に届いた刺激から脳でどう解釈したか,これに手術の成否がかかっているのである.その解釈が運動神経を介して手術操作として表現される.たとえば,外科医が術中に僧帽弁輪をどのように理解しているかを他人(指導者)が評価するには,手術所見を文字で正確に記述されても,術野でみえていた情報から弁輪を確実に立体的に把握したかは評価できないので,結局は図示してもらうよりほかにない.もちろん,僧帽弁輪は長田先生の挿画の二重線のようにはみえない.つまり,術中写真はリアルで素晴らしいが,外科医は手術の根幹となる解剖学的所見を描くことが必要であると強調したいのである.不要な術野の要素は削いで,手術後にはスケッチを記録し続けることである.なお,術者と助手がみた術中所見はそれぞれのヘッドカメラで撮影できるが,おそらく異なる術野像が脳で構築されているはずである.各外科医が長田先生のイラストレーションを参考に,術直後に記憶に新しい残像を描出すること,それらをもとに手術手技をお互いに確認して議論することをおすすめする.こうした確認と修練においても,本書はきわめて有用なお手本であり,情報源となるテキストである.
もう一点,各執筆者による要所を編集した動画も素晴らしい画質,画像である.運針にのみ集中せず,鑷子はどの箇所をどのように把持あるいは圧排しているかに注目していただきたい.なお,いうまでもなく術野の展開(exposure)がもっとも重要な要素であり,各術者は見事な術野を供覧されているが,この術野を展開するコツを文字で記載することはむずかしい.したがって,自施設での手術開始からすべての操作をつぶさに理解すること,さらに他施設での手術見学はたいへん貴重な経験となることを付記しておく.
最後に,本書を企画された高梨秀一郎先生と坂東興先生に敬意を表するとともに,長田信洋先生と各執筆者の先生方には賛辞を贈りたい.

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のためのリスクを有する患者の周術期管理

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のためのリスクを有する患者の周術期管理 published on
麻酔 Vol.67 No.12(2018年12月号)「書評」より

評者:落合亮一(東邦大学教授)

私の勤務する施設では,予定手術患者は手術予定日の2週間以上前までに麻酔科術前外来を受診し,リスク評価を行うことにしている。統計を取ってみると,診療報酬上の“麻酔困難な症例”に該当する予定手術患者が,2011年度には全体の4.8%であったのが2016年度には13.9%と著増していた。つまり,7人に1人はハイリスク症例と考えることができる。
ハイリスクである理由は多岐にわたり,冠動脈疾患や心臓の弁疾患,あるいは重症糖尿病であったり,混合性換気障害などさまざまな慢性疾患が含まれている。外来の限られた時間の中で,リスクを十分に評価し,合理的に説明してインフォームドコンセントを得ることは容易ではない。そこで,事前に外来担当日のカルテを開き,予習することになる。心疾患患者の非心臓手術については,米国循環器学会が中心となり診療ガイドラインが整備されているが,患者の多い慢性閉塞性肺疾患(COPD)や糖尿病あるいは慢性腎不全などの疾患については,確固たる診療指針は存在しない。私たちは,自分の経験値から“良かれ”と考えられることを計画するだけであり,そのより所を求めてきた。
今回紹介する「麻酔科医のためのリスクを有する患者の周術期管理」はまさにそうした,慢性疾患をどのように理解し,対応するのかについてまとめられた一冊である。
本書は3部構成で,第1章では麻酔薬や麻酔法がもつ有用性や問題点を整理している。患者にその麻酔法を選択する理由について合理的に説明するのに役に立つであろう。第2章は,各論ともいうべき部分で,リスクを有する患者の周術期管理の実際が整理され,述べられている。疾患ごとにまとめ方はさまざまであるが,基本的に疾患概念,術前評価と麻酔計画,術後管理,インフォームドコンセントについてツボを押さえた記載になっている。特に,情報のなかなか得にくい,心臓移植後の患者,複雑心奇形術後の成人患者,精神神経疾患,長期オピオイド使用中,拒食症・るいそう患者,妊娠中の非産科手術など,診療上のヒントに満ちた情報があり,周術期のアプローチを探るために大変に有用である。第3章は,緊急手術をテーマにしたもので,さらに対応の難しい応用問題と考えられる。喘息発作中の患者,扁桃摘出術後出血患者,RhD(-)型血液の患者,抗血栓療法を受けている患者など,できれば遭遇したくない,と考えがちなテーマが整理されて提供されている。
実際の症例を前に紐解くのもよし,コラムやトピックスというピンポイントの情報も紹介されているので,普段の読み物としても大変に興味深い。周術期医療を担う麻酔科医にとってタイムリーな1冊である。

TEES(経外耳道的内視鏡下耳科手術)手技アトラス

TEES(経外耳道的内視鏡下耳科手術)手技アトラス published on
JOHNS Vol.34 No.11(2018年11月号)「書評」より

評者:飯野ゆき子(東京北医療センター耳鼻咽喉科/難聴・中耳手術センター)

2016年9月に発行されたJOHNS特集「私はこうしている─耳科手術編─」“顕微鏡と内視鏡の使い分け”で,“主に顕微鏡の立場から”私は以下のようなことを書いている。これまで顕微鏡下手術を行ってきた耳科手術医が簡単に内視鏡下手術にシフトできない原因を以下と考える(以下原文を簡略化)。
1)内視鏡下手術のトレーニングを受ける機会が少ない。
2)高額な光学機器,周辺機器を揃えることが必須である。
3)顕微鏡下手術以上に経験と熟練した技術が必要である。
4)立体視ではないため深さの感覚がわかりにくい。
5)両手操作ができないため,時間がかかる。また片手操作では不利な処理が必要な部位がある。
6)出血が多い場合は時間がかかる。
7)見えても病巣に到達できない場合があるため,特別な器具の購入が必要である。
8)手ブレで内視鏡によって中耳構造物にダメージを与えることがある。
一方“主に内視鏡の立場から”を執筆なさったのが,日本における内視鏡耳科手術のパイオニアである欠畑誠治先生であった。この度欠畑誠治先生の編集による『TEES手技アトラス』が刊行された。執筆者は欠畑教授以下10名の山形大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の医局員であり,二井一則先生がイラストを担当している。手に取って感動したのは内視鏡画像写真が鮮明なこと,そしてイラストが綺麗でわかりやすいことである。
さらに本書に掲載されている画像写真の元となる実際のTEESの動画をweb siteで見ることができる。この動画も拝見した。23の動画からなり,1本が2~3分とコンパク卜に非常によくまとめられ編集されている。自分が知りたい項目や,目的とする疾患の動画をまず見て,それからアトラスの該当する項を読み込むと非常に理解が深まると思われた。すなわち,動画で全体の流れをつかんだ後,アトラスを読むことにより何気なく行っている手技がもつ意味,どのような手術器具を用いているのか,あるいは効率の良い手術の進め方がわかってくる。さらに執筆者らがこれまで経験し,行って来たさまざまな工夫が随所に散りばめられている。特に“Tips and Tricks”のコラムはとても面白く,顕微鏡下耳科手術を行う際にも大変参考になるコメントが多数記載されている。
私も耳科手術に内視鏡を用いる機会が増えてきた。顕微鏡下手術での病変残存の確認に用いるいわゆるassistのみならず,TEESも症例を選んで行っている。中鼓室内に限局した先天性真珠腫,真珠腫に対する2nd look,外リンパ瘻に対する内耳窓閉鎖術などである。TEESは慣れないこともあり,とてももどかしさを感じることが多い。しかしこの動画とアトラスは,TEESをもっとやってみようという気持ちにさせてくれる。冒頭にあげた8つの問題点のいくつは努力と金銭が解決してくれる。TEESの技術面での問題点に対しても,執筆者らがいろいろな工夫をすることによって克服している姿がこのアトラスから読みとれる。耳科手術を学んでいる若い耳鼻咽喉科医のみならず,顕微鏡下耳科手術に携わっているベテランの耳科手術医にとっても,是非手元に置きたい1冊と考える。


耳鼻咽喉科・頭頸部外科 Vol.90 No.11(2018年10月号)「書評」より

評者:小川 郁(慶應義塾大学耳鼻咽喉科)

素晴らしい耳科手術書『TEES(経外耳道的内視鏡下耳科手術)手技アトラス:導入・基本手技からアドバンスまで』が中山書店から発刊された。まさにTEESの先駆者である欠畑誠治教授の卓越した見識と情熱とがこもった渾身のテキストである。欠畑教授は山形大学教授に就任して以来,一貫して新しい耳科手術手技であるTEESに取り組み,手術手技の改良や周辺機器の開発などTEESを大きくブラッシュアップするとともに,TEESに関わる耳科医の輪を広げてきた。
また,2008年に開催されたCholesteatoma & Ear Surgery学会で国際学会として初めてのTEESのパネルにTEESの中興の祖であるTarabichi教授らとともに参加するなど,国内だけではなく国際的にもTEESを牽引し,今や世界的に最も有名な日本の耳科医のー人になっている。
本テキス卜では副題にもあるようにTEESのための中耳解剖や画像診断,手術のための手術器材のセッティングなどの導入から,手術器具の使い方を含めた基本手技,実際の様々な症例における手術手技をTips & Tricksを含めて紹介するなど,まさにビギナーからエキスパートまでが活用できる素晴らしいテキストになっている。また,本テキストにはWebビデオが付属しており,実際の手術動画によって手術手技が学べる新しい時代の画期的な手術テキストでもある。
本テキス卜を素晴らしい手術テキストにしたもう一つの特筆すべき特徴は,二井一則先生によるプロ並のイラストである。実際に手術に参加している耳科医によるイラストであり,美しいだけではなく,大変説得力がある。手術所見の写真とイラストを眺めているだけでも,実際の手術に参加しているような気持ちになり,時がたつのを忘れてしまう。
このように本テキストは欠畑教授の指揮のもとで山形大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室のメンバーがオーケストラのように創りあげた手術テキス卜であり,TEESといえば山形といわれるように後世まで受け継がれるテキストになると確信する。
欠畑教授は本テキストの「序」で「私たち医師の究極の願いが『世界中に一人でも多く笑顔の人を』ということであるならば,それは師から弟子へと受け継がれる継承の輪によってのみ達成できると考えている」と述べている。欠畑教授の師としての思いの結集の一つが内視鏡下耳科手術ハンズオンセミナーin山形であり,今回,本テキストが発刊されたことによって,欠畑教授の思いを進める両輪が揃ったことになる。
私が所属する慶應義塾には「半学半教」という草創期からの教育の理念があるが,欠畑教授の「継承の輪」はこの「半学半教」にも通じるものがある。学びながら教え,教えながら学ぶTEESの「継承の輪」がどこまで広がるか,これからが大変楽しみである。「TEESは,すべての医療技術がそうであるように発展途上の医療技術である」と冒頭で述べているように,これからの光学機器をはじめとする医療機器のさらなる進歩により,TEESもさらに大きく進歩し,安全かつ確実な医療技術としてさらに普及するものと期待される。
実際にこれからTEESを始めようとする若い耳科医だけではなく,広く耳科診療に関わる全ての耳科医に読んでいただきたい好著である。
最後に,是非,本テキストを熟読していただき,一人でも多くの耳科医が「継承の輪」に加わることを期待して,私の書評としたい。

整形外科手術イラストレイテッド 頚椎・胸椎の手術

整形外科手術イラストレイテッド 頚椎・胸椎の手術 published on

通読すべき価値のある手術書─術式はどこかで繋がっている

Orthopaedics Vol.31 No.8(2018年8月号) BookReviewより

評者:米延策雄(大阪行岡医療大学)

どのような手術書を読んだのか? それを聞くことで,その外科医の技量が分かる,と考えていた.しかし昨今,大部の手術書は持っていないと答える若い脊椎外科医がいる.どのような方法で知識を得ているのか? 月刊誌の特集や単独術式についてのMookが多いという.日本の医学書出版業界のパワーに感心するとともに一抹の寂しさ,不安を感じる.より抜きの知識で手術ができるのか? 危機に対応できるのか? 技量の発展性はあるのか?
外科医に社会が求めているのは,「神の手」だろうか? 否,患者の状態に応じた手術が,標準的にできる外科医だろう.そのような外科医たるには教科書的な手術書を何度も通読して欲しい.いろいろな術式はどこかで繋がっている.
その意味で本書は通読すべき要素を備えている.まず,注目すべきは各項目の体裁である.ほとんどの項目で,(1)術前準備に始まり,(2)体位,(3)皮切,(4)展開などと術式の各ステップが明示的であり,分かりやすい.本書の特長は,シリーズ名に冠せられている“イラストレイテッド”が表しているとおり,イラストが多用されていることである.実用的である.外科解剖や手術操作が上手くイラストで表現されている.さらに,頻用される手術については動画がDVDで付き,イラストを補っている.助手として外科解剖や手術操作を体験し,本書のイラストと説明で体験した手術を振り返る.恐らく一段と深いレベルでの理解となり,自信をもって次の手術に臨むことができるのではないか? また,深い理解や潜む危機への,より良い対応のために,留意すべきポイント,上手に進めるためのコツ,そして知って避けるべきピットフォールのメモが手術のステップごとにある.経験豊富な著者の知恵を得る仕組みである.
目次を見る.4つの章として,「I 進入法」,「II 頭蓋頚椎移行部・上位頚椎除圧再建手術」,「III 中下位頚椎除圧再建手術」,「IV 胸椎除圧再建手術」がある.「I 進入法」では,頚椎の2つの基本的アプローチ,頚椎前方法,後頭骨頚椎後方法に加えて,行うことは稀だが,知識として知っておきたい胸骨縦割法とcostotransversectomyの項目がある.「II 頭蓋頚椎移行部・上位頚椎除圧再建手術」では,古典的な環軸椎固定術であるBrooks法からインストゥルメンテーション手術まで網羅されている.高齢者の転倒による上位頚椎骨折が増えている現在,前方スクリュー固定による歯突起骨折骨接合術は知っておきたい術式である.「III 中下位頚椎除圧再建手術」は除圧と頚椎再建とに分けられ,脊髄除圧では椎弓形成術の定型である片開き式と棘突起縦割式,さらには選択的椎弓切除術と椎間孔拡大術がある.頚椎再建では前方,後方それぞれ各種のインストゥルメンテーション手術の項目があり,現行の術式が網羅されている.「IV 胸椎除圧再建手術」でも,現在一般的に行われている術式が幅広く項目立てされている.除圧や病巣切除としては従来の開胸,さらに内視鏡による胸椎前方法,後方進入前方除圧法,そして脊椎全切除術,一方では脊柱変形に対する術式もhybrid法と椎弓根スクリュー法の2つの術式がある.
繰り返す.日本語の網羅的脊椎手術書は少ない.本書は通読すべき価値のある手術書である.

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期危機管理と合併症への対応

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期危機管理と合併症への対応 published on
麻酔 67巻1号(2018年1月号)「書評」より

評者:外 須美夫(九州大学)

周術期のさまざまな危険や危機や合併症から患者さんを守り,安全を確保するのがわたしたち麻酔科医の使命である。麻酔科医の仕事は,周術期の安全確保であり,安全確保のための危機管理であるといっても過言ではない。本書「麻酔科医のための周術期危機管理と合併症への対応」は,そのような麻酔科医に必須の危機管理に特化して作られたテキストブックである。
周術期の医療安全を死亡率という物差しで計ると,この数十年間に医療安全は格段に進んだといえるであろう。例えば,外科手術を受ける患者さんが周術期に死亡する確率は,1954年は75人に1人であったが, 2002年には500人に1人に減少している。同様に,麻酔に関連して死亡する確率も1,560人に1人から13,000人に1人へと大幅に減少している(ASA Newsletter,2007.10)。しかし同時に,安全に対する意識もこの間に大きく変化した。医療が進歩するとともに,医療への過度の期待と安全神話,そしてときに過剰ともいえる責任追及の社会的風潮が形成されていった。テクノロジーやエンジニアリングの進歩とともに安全対策にもさまざまな発展が見られるものの,先端医療,高回転医療,効率化医療が推進される現場では,潜在的リスクも広がっていく。特に周術期医療では,次々と新たな予期しないリスクが生まれている。周術期ほど危機管理が継続的かつ徹底的に求められる医療現場はほかにないであろう。
麻酔科医は外科的なリスクから患者さんを防御しようとして麻酔をする。しかし,麻酔自体もまたリスクを持っている。麻酔は意識を奪い,呼吸を止め,循環を乱れさせる。神経軸に針を刺し,麻痺させる。麻酔科医は侵襲から身体を守るために麻酔というリスクを新たに加えなければならない。麻酔単独で見れば,麻酔行為のリスク-ベネフィットは常にリスクに傾いている。麻酔のベネフィットは外科医療のリスクから患者さんを守るというベネフィットの形をとっているので,患者さんは麻酔に対しては絶対的安全を期待しがちである。ベネフィットが生まれないのなら,リスクを生んではならないというように。だから麻酔のリスクとしての麻酔合併症,偶発症を極力抑えなければならない。
本書は,周術期の安全対策と危機管理,そして麻酔の合併症を多面的にとらえ,詳細かつ網羅的に解説している。本書の前半では,安全を確保するための基本的な考え方,安全へのアプローチ,インフォームド・コンセント,消毒・滅菌に加えて,医薬品や医療機器の安全管理や医療事故対応について解説されており,後半では,術中・術後および麻酔の合併症や偶発症に焦点を当てて概要と対策が述べられている。
周術期の危険予知・危機管理に特化した本書は,麻酔科医にとって基本的で本質的な危機管理について集中的に教えてくれる本である。本書を読み込むことにより,周術期の医療安全の担い手としての麻酔科医に求められるレジリエンスを養うことができるであろう。

見て 考えて 麻酔を学ぶ 改訂第2版

見て 考えて 麻酔を学ぶ 改訂第2版 published on

若手医師にぜひ勧めたい教科書

LiSA VOL.22 NO.05 Medical Books 自薦・他薦より

評者:鈴木孝浩(日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野主任教授)

自分が専門とする研究分野の大先輩である天木嘉清先生が編者を務めている本書について,私のような不勉強な若輩者が書評を書いてよいものか…悩んだが,初版時からの愛読者の一人として,素直な感想を述べることにした。
改訂第2版は,クールなブルーを基調にした表紙で,書店に並べば真っ先に目に入り,手に取りたくなる装丁となっている。洒脱でセンスのよい近藤一郎先生のセレクトと拝察する。ページをめくると,やはり青空色がアクセントとなり,端的な視覚効果を生み出し,自然に内容に傾注できる。
初版は,学生や研修医教育だけでなく,自身の知識整理のためにも実によく読んだ。当時,タイトルの「見て」に非常にインパクトを受けたものだ。麻酔の教科書であるから,私のような凡庸な者であれば「読んで学ぶ」と想定しがちであるが,本書は対象を研修医,学生そして看護師に絞り,目を引く図表を駆使して麻酔の基礎的および臨床的重要点を「見て意識づけ,そして考える」仕組みを特徴としている点で,他書とは一線を画している。
もちろん内容構成も秀逸で,麻酔を実践するに当たって知っておくべき基本事項はすべて網羅されており,麻酔の実際の手順から,薬物,モニタリング,偶発症,各科別の麻酔,特殊疾患を合併している患者の麻酔などについて,的確に解説されている。最近,新たに麻酔科医に求められている手技である,超音波ガイド下神経ブロック手技も第2版には収録されており,本書のコンセプトどおり「見て」わかりやすい写真や図によって,寸時のうちに腹に落ちる。
麻酔のみならず,集中治療,心肺蘇生法,ペインクリニックに至るまで,各分野に長けた執筆陣がそれぞれの力を発揮した本書は,編集された両先生の麻酔科医教育に対する情熱,気概が込められた一冊である。若手医師には是非「見て考えて学ぶ」ように勧めたい一冊である。

整形外科手術イラストレイテッド 基本手術手技

整形外科手術イラストレイテッド 基本手術手技 published on

手術手技を考え方から学ぶ指南書
整形外科専門研修で経験するほとんどの手術手技がl冊に凝縮

Orthopaedics Vol.30 No.9(2017年9月号)Book Reviewより

書評者:大川淳(東京医科歯科大学大学院整形外科学教授)

日本整形外科学会ホームページには専門研修にかかわるマニュアルが掲載されている.専門医としての研修の仕方が書かれているが,外科手技に関する記載は意外と少ない.医師患者関係やカルテの書き方,診断などについて細かくinstructionがあるものの,整形「外科医」は手術治療への参加は当然なので,細かな記載が少ないのかもしれない.治療基本手技としては,「ブラッシングやデブリドマンなど基本的創傷処置を正しく実施できる」と書かれているのみである.あとは,「運動器の基本的な手術手技(鏡視下手術を含む)に習熟し,実施できる」とある.基本的な創傷処置や手術手技を正しく実施するためには,まずその考え方を理解し,手技を学ぶ必要がある.現在では昔と違って,学部や初期臨床研修のあいだにシミュレーションセンターで外科手技のトレーニングを行い,メスの持ち方やハサミの使い方はとりあえず訓練されている.しかし,現実世界でひとたび手術台に向かえば,鉗子をどう使って皮膚を持ち上げ,どこから切開を始めればよいのか,頭の中が真っ白になってしまうこともあるかもしれない.
シミュレーションでは,正しいデブリドマンは当然教わるはずもない.一例ずつ違う開放創に対して,どこまでどのようにキレイにすればよいのか,はたと困るのが初心者である.しかし,本書をみれば,軟部組織の取り扱い方や開放骨折でのデブリドマンまできれいに図示されている.それ以外にも,本書では整形外科専門研修のほぼ4年間に経験するであろう,ほとんどの手術における手技が網羅されている.骨折に対するプレート固定や髄内釘から始まり,腱縫合,切断,骨軟骨移植などのどの部位にも共通する手技から,人工関節にまで及ぶ.部位別の手術書であれば導入部分に書かれている内容かもしれないが,1冊に凝縮されていることがすばらしい. 本書ほど,整形外科専門研修を始めるときの手術書として便利なものはないように思う.サブスペシャルティを決めていない若手にとっては,当然ながら経済的でもある.また,すでに進むべき道が決まった専門医であっても,当面のあいだは利用できるほどの内容を誇る.編集者の戸山芳昭先生が序文に書かれているように,本書とともに解剖書を座右に置けば,まさに鬼に金棒であろう.
整形外科に限らず,手術のトレーニングは将来VR(virtual reality)が一般的になるだろう. しかし,そうなってもなお,VRに向かって手を動かす前に覚えるべき,原理原則がある.イラストを中心に,きわめて豊富な診断画像,術中写真,動画を組み合わせた手術指南書である本書は,それを学ぶに必須といってよい.

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科 標準治療のためのガイドライン活用術

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科 標準治療のためのガイドライン活用術 published on
ENTONI No.210(2017年9月号)Book Reviewより

書評者:加我君孝(東京大学名誉教授/独立行政法人国立病院機構東京医療センター・名誉臨床研究センター長/国際医療福祉大学言語聴覚センター長)

耳鼻咽喉科領域の各疾患のガイドラインは現在のところ合計何点あるのであろうか.本書の目次を開いて疾患の項目数の多さに驚かされる.知らない間にガイドラインの数は増えたというより爆発的に増加していることに驚かされると同時に,このうち個人が平均何点を所有して使っているのかが気になった.ガイドラインは数年おきに改訂されるので自分の持っているものが最新なのかも気になるところである.第1章の「耳・めまい」は23項目,第2章の「アレルギー・鼻」は10項目,第3章の「頭顕部・咽頭」は11項目,以上で44項目となる.これに加えて,本書を特徴づけている第4章の関連領域が16項目あり,トータルで60項目もある.欲しいガイドラインをどのようにして手に入れたらよいかと思ったら,付録に「ガイドライン等の入手先一覧」という便利な案内もあり,本書はガイドラインのカタログのようでもある.
本書の各疾患項目の「概要」をみるとその疾患の病態の特徴,診断や治療の指針が準備され,ガイドラインとして学会でオーソライズされて出版されている場合と,現在もガイドライン化に向けて途上にあるもの,ガイドライン化には道が険しいものまでさまざまであることがわかる.読者にとっての大きなメリットは各疾患がどのような扱いになっているか把握できる点がいい.このー冊で各疾患の現在の動向がわかる.恐らく既によく知って理解していることも少なくないと思われるが,気がつかなかったことに気づかされる点も長所である.他領域でもガイドラインが次々と出版されると同時に数年で改訂されることも新聞や雑誌の広告でよく知ることができる.第4章の関連領域としてSjogren 症候群,顎関節症,インフルエンザなどの疾患の他に高齢者の薬物療法,妊産婦・授乳婦への投薬についてのガイドラインが解説されており,身近な問題であるがどの程度注意してよいか知ることができるのはありがたい.
もしガイドラインを片っ端から買い求めたりすると大いに散財することになろう.しかし本書の付録の「ガイドライン等の入手先一覧」をみると大半がウェブ上に公開され,URLを通してみてダウンロードして手に入れられることがわかる.多くのガイドラインは冊子として出版されていると同時にウェブサイトで公開されているので必ずしも冊子を購入する必要はないと思われる.
小生もいくつかの疾患のガイドライン作りに参加したことがあり,その準備の大変さはよくわかっている.例えばSystematic Reviewはその1例である.恐らく今後ガイドラインは年々増加することになるであろう.一方厚生労働省の班会議では少数例しかなかった難治性疾患ガイドラインが公表されている.そのような現状を考えると本書は数年おきに改訂して超短時間にガイドラインを把握するカタログ的テキストとして毎年のように刊行されることが期待されるであろう.

離島発 とって隠岐の外来超音波診療

離島発 とって隠岐の外来超音波診療 published on

だから,この本は売れる!

Orthopaedics Vol.30 No.7(2017年7月号) Book Reviewより

書評者:皆川洋至(城東整形外科)

著者は整形外科医ではない.運動器を含む全ての臓器を扱う「総合医」である.日本海でクルーザー“White Stone”を乗り回す漁師であり,アワビ養殖や養鶏を自ら営む.最近,猟銃免許も取得した.そればかりではない.信号機のない島で,世界最速の電気自動車テスラを乗り回す暴走族でもある.破天荒医師はへき地診療の神髄をABCDEに集約させる(A:antenna,B:balance,C:communication,D:daily work,E:enjoy).しかし,著者には誰もが踏みとどまる常識の壁がない.東日本大震災直後,妻の裕子医師に「1カ月は帰ってこない」と言い残し,頭を刈り上げ島を飛び出した.まさにF:foolish,ジョブズ顔負けの行動力がある.
隠岐・西ノ島(島根県)の島前病院院長として20年,島民約6千人の命と生活を支えてきた.本土までフェリーで約3時間.隔離された小さな島では,専門医の常套句「うちじゃありません」が通用しない.ガラパゴス環境が生み出した本書は,徹底した解剖の知識と経験に裏付けられた「現場志向」の実用書である.運動器を専門とする整形外科医であれば,パラパラめくっただけで本書の価値を瞬時に理解できるはず,これは使える.「はい,湿布・痛み止め」でお茶を濁す外来診療に無力感を抱く医師には必読書である.手術対象にならない,しかし日常診療でありがちな愁訴を劇的に取り去る最先端手技【エコーガイド下Hydrorelease】のノウハウが満載されているからである.また,エコー時代を担う若手医師には「現場思考」の入門書にもなる.患者の訴えを解決するステップが詳細に読み取れるからである.
いまや頸・腰・肩・膝などパーツの専門家集団になりつつある整形外科.パーツの手術を数多くこなせば,簡単に「自称専門家」になれる.パーツの専門学会では,毎年新たな手術手技がトピックとなり,手術適応がないcommon diseaseには興味・関心が注がれない.医師ファーストが作り出す「専門」の世界は,裾野の狭い尖った山と光が射さない深い谷間を生み出した.専門の壁を取り除き,患者ファーストで経験を積み重ねた非整形外科医が運動器診療の谷間に火を灯したのが本書である.非常に読みやすく分かりやすい,しかも実践すれば患者さんが笑顔になる.スタッフも笑顔,そして何より本人が笑顔.まさに良い実用書とはこういうものである.買って読む価値がある.だから,この本は売れる!

ENT臨床フロンティア 風邪症候群と関連疾患

ENT臨床フロンティア 風邪症候群と関連疾患 published on

忙しい臨床の場において通読する必要なく即座に利用できる構成もありがたい

耳鼻咽喉科・頭頸部外科 Vol.86 No.3(2014年3月号) 書評

書評者:内藤健晴(藤田保健衛生大学耳鼻咽喉科)

今般,川内秀之先生(島根大学)の専門編集による《ENT臨床フロンティア》シリーズの『風邪症候群と関連疾患―そのすべてを知ろう』の書評を依頼され,当初は気軽に引き受けたものの実際,本書を目の当りにして,これはただならぬ本であることに気づき,最後にはこの本があれば日本の風邪症候群(感冒)の現状についてすべてがわかる,臨床家にとって「座右の書」であることを確信した。
新患として医療機関を受診する動機としておそらく最も高頻度な疾患が風邪症候群であろうと思われるが,これについてこれほど完成度の高い成書を見たことは過去になかった。川内先生も序のなかで「耳鼻咽喉科の医師のみならず,他科の医師,研修医,学生の皆さんにも重宝していただける内容と思う」と書かれているが,まさに本書は風邪症候群のencyclopediaといえる。しかもタイトルに関連疾患と記載されているように感冒患者を診て,類似する関連疾患あるいは重大な帰結を引き起こしかねない合併症についても含まれており,実地臨床に本当に役立つものである。また,治療法もそれぞれの状態によるものが実際的に示されており,その上,遷延した状況の対応まで内容が及んでいる。
全巻を通して適所に「Advice」,「ポイント」が示されており,忙しい臨床の場において通読する必要なく即座に利用できる構成もありがたい。またコラム「Salon de Festina lente」が随所にちりばめられており,風邪症候群に関する大切な雑学を多く学べるのも楽しい。さらに,本書の中にはカラーの図や表が多いのも理解を容易にするのに極めて役に立っている。これも川内先生の企画力の高さの賜物であろうと思われる。
このように記載してきたように,本書は多くの臨床家,医学部学生に本当に役立つ数少ない成書の1つであることは間違いのないことであるので,自信を持って推奨するものである。