JOHNS Vol.34 No.11(2018年11月号)「書評」より

評者:飯野ゆき子(東京北医療センター耳鼻咽喉科/難聴・中耳手術センター)

2016年9月に発行されたJOHNS特集「私はこうしている─耳科手術編─」“顕微鏡と内視鏡の使い分け”で,“主に顕微鏡の立場から”私は以下のようなことを書いている。これまで顕微鏡下手術を行ってきた耳科手術医が簡単に内視鏡下手術にシフトできない原因を以下と考える(以下原文を簡略化)。
1)内視鏡下手術のトレーニングを受ける機会が少ない。
2)高額な光学機器,周辺機器を揃えることが必須である。
3)顕微鏡下手術以上に経験と熟練した技術が必要である。
4)立体視ではないため深さの感覚がわかりにくい。
5)両手操作ができないため,時間がかかる。また片手操作では不利な処理が必要な部位がある。
6)出血が多い場合は時間がかかる。
7)見えても病巣に到達できない場合があるため,特別な器具の購入が必要である。
8)手ブレで内視鏡によって中耳構造物にダメージを与えることがある。
一方“主に内視鏡の立場から”を執筆なさったのが,日本における内視鏡耳科手術のパイオニアである欠畑誠治先生であった。この度欠畑誠治先生の編集による『TEES手技アトラス』が刊行された。執筆者は欠畑教授以下10名の山形大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の医局員であり,二井一則先生がイラストを担当している。手に取って感動したのは内視鏡画像写真が鮮明なこと,そしてイラストが綺麗でわかりやすいことである。
さらに本書に掲載されている画像写真の元となる実際のTEESの動画をweb siteで見ることができる。この動画も拝見した。23の動画からなり,1本が2~3分とコンパク卜に非常によくまとめられ編集されている。自分が知りたい項目や,目的とする疾患の動画をまず見て,それからアトラスの該当する項を読み込むと非常に理解が深まると思われた。すなわち,動画で全体の流れをつかんだ後,アトラスを読むことにより何気なく行っている手技がもつ意味,どのような手術器具を用いているのか,あるいは効率の良い手術の進め方がわかってくる。さらに執筆者らがこれまで経験し,行って来たさまざまな工夫が随所に散りばめられている。特に“Tips and Tricks”のコラムはとても面白く,顕微鏡下耳科手術を行う際にも大変参考になるコメントが多数記載されている。
私も耳科手術に内視鏡を用いる機会が増えてきた。顕微鏡下手術での病変残存の確認に用いるいわゆるassistのみならず,TEESも症例を選んで行っている。中鼓室内に限局した先天性真珠腫,真珠腫に対する2nd look,外リンパ瘻に対する内耳窓閉鎖術などである。TEESは慣れないこともあり,とてももどかしさを感じることが多い。しかしこの動画とアトラスは,TEESをもっとやってみようという気持ちにさせてくれる。冒頭にあげた8つの問題点のいくつは努力と金銭が解決してくれる。TEESの技術面での問題点に対しても,執筆者らがいろいろな工夫をすることによって克服している姿がこのアトラスから読みとれる。耳科手術を学んでいる若い耳鼻咽喉科医のみならず,顕微鏡下耳科手術に携わっているベテランの耳科手術医にとっても,是非手元に置きたい1冊と考える。


耳鼻咽喉科・頭頸部外科 Vol.90 No.11(2018年10月号)「書評」より

評者:小川 郁(慶應義塾大学耳鼻咽喉科)

素晴らしい耳科手術書『TEES(経外耳道的内視鏡下耳科手術)手技アトラス:導入・基本手技からアドバンスまで』が中山書店から発刊された。まさにTEESの先駆者である欠畑誠治教授の卓越した見識と情熱とがこもった渾身のテキストである。欠畑教授は山形大学教授に就任して以来,一貫して新しい耳科手術手技であるTEESに取り組み,手術手技の改良や周辺機器の開発などTEESを大きくブラッシュアップするとともに,TEESに関わる耳科医の輪を広げてきた。
また,2008年に開催されたCholesteatoma & Ear Surgery学会で国際学会として初めてのTEESのパネルにTEESの中興の祖であるTarabichi教授らとともに参加するなど,国内だけではなく国際的にもTEESを牽引し,今や世界的に最も有名な日本の耳科医のー人になっている。
本テキス卜では副題にもあるようにTEESのための中耳解剖や画像診断,手術のための手術器材のセッティングなどの導入から,手術器具の使い方を含めた基本手技,実際の様々な症例における手術手技をTips & Tricksを含めて紹介するなど,まさにビギナーからエキスパートまでが活用できる素晴らしいテキストになっている。また,本テキストにはWebビデオが付属しており,実際の手術動画によって手術手技が学べる新しい時代の画期的な手術テキストでもある。
本テキス卜を素晴らしい手術テキストにしたもう一つの特筆すべき特徴は,二井一則先生によるプロ並のイラストである。実際に手術に参加している耳科医によるイラストであり,美しいだけではなく,大変説得力がある。手術所見の写真とイラストを眺めているだけでも,実際の手術に参加しているような気持ちになり,時がたつのを忘れてしまう。
このように本テキストは欠畑教授の指揮のもとで山形大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室のメンバーがオーケストラのように創りあげた手術テキス卜であり,TEESといえば山形といわれるように後世まで受け継がれるテキストになると確信する。
欠畑教授は本テキストの「序」で「私たち医師の究極の願いが『世界中に一人でも多く笑顔の人を』ということであるならば,それは師から弟子へと受け継がれる継承の輪によってのみ達成できると考えている」と述べている。欠畑教授の師としての思いの結集の一つが内視鏡下耳科手術ハンズオンセミナーin山形であり,今回,本テキストが発刊されたことによって,欠畑教授の思いを進める両輪が揃ったことになる。
私が所属する慶應義塾には「半学半教」という草創期からの教育の理念があるが,欠畑教授の「継承の輪」はこの「半学半教」にも通じるものがある。学びながら教え,教えながら学ぶTEESの「継承の輪」がどこまで広がるか,これからが大変楽しみである。「TEESは,すべての医療技術がそうであるように発展途上の医療技術である」と冒頭で述べているように,これからの光学機器をはじめとする医療機器のさらなる進歩により,TEESもさらに大きく進歩し,安全かつ確実な医療技術としてさらに普及するものと期待される。
実際にこれからTEESを始めようとする若い耳科医だけではなく,広く耳科診療に関わる全ての耳科医に読んでいただきたい好著である。
最後に,是非,本テキストを熟読していただき,一人でも多くの耳科医が「継承の輪」に加わることを期待して,私の書評としたい。