medicina Vol.55 No.13(2018年12月号)「書評」より

評者:菅野健太郎(自治医科大学)

佐々木裕教授の総編集による『最新ガイドライン準拠 消化器疾患診断・治療指針』は,症候論からはじまり,検査法,画像診断など,エビデンスやガイドラインが必ずしも十分でない領域にもゆきとどいた紙数が割かれており,本書が単にガイドラインの解説書ではなく,簡便な教科書としても通用する体裁となっている.これは,佐々木教授が序文に述べておられるように,本書が,すでに上梓されている全4巻の「プリンシプル消化器疾患の臨床」シリーズを一冊に纏められていることによる.このシリーズは肝臓をご専門とする佐々木裕教授のほか,木下芳一教授,渡辺守教授,下瀬川徹教授という,当代の日本を代表する上部・下部消化管ならびに胆膵疾患のリーダーがそれぞれのシリーズの一巻を担当され,高い評価を受けている消化器病専門書である.ただ,消化器病学を専門としない一般医家が座右において参考にするには全4冊を揃えるとなるといささか抵抗があるかもしれない.本書はその点で一般医家むけとしてきわめて利便性が高くなっているといえよう.実際,最新のガイドラインが取り入れられているだけでなく,プリンシプルシリーズの特徴でもある美しい画像・イラストを受け継いでいるほか,多くの項目ではシリーズの該当部分を参照できるような配慮がなされている.
エビデンスに基づく医療(EBM)は,単に臨床研究によって得られたエビデンスだけではなく,医師の技量,患者の価値観,患者を取り巻く状況という4本柱に基づく医療を指すのであるが,その実践にあたってガイドラインの果たす役割は大きい.それゆえ,これらの最新のガイドラインを要領よくまとめてある本書の有用性は高い.しかし,たとえば,新規薬の参入が相次いでいる炎症性腸疾患や,悪性腫瘍の治療については,現行のガイドラインでは必ずしも十分に対応できているとはいえず,アップデートが必要となるであろう.また,新薬も相次いで発売され,一般医家が遭遇する機会の多い便秘については,単に症候論だけでなく,その診断,治療に関する項目を設けていただきたいと思う.
すでに述べたように,ガイドラインは常に更新,改定されていく宿命を持っている.本書もまた,それらの新たなガイドラインを包摂し,常に更新・改訂され続けられていくことを願ってやまない.