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リハビリテーション・ポケットナビ 今日からなれる! 評価の達人

リハビリテーション・ポケットナビ 今日からなれる! 評価の達人 published on

「まったく同感!」と,つい言葉に出したほど

理学療法ジャーナル Vol.49 No.8(2015年8月号) 書評より

書評者:松永篤彦(北里大学大学院医療系研究科教授)

チーム医療がうまく稼働している現場では,チーム内で構成されている専門家同士が互いに信頼関係にあるのと同時に,ある職種によって実施された診断および評価結果が,他職種にとっても必要かつ有益な情報となり,しかもその内容(意図)が的確に伝わっている.例えば,整形外科領域のチーム内に理学療法士がいれば,関節可動域検査は,理学療法士が測定した結果を信頼し,活用するはずである.つまり,理学療法士が評価した関節可動域は,罹患した関節の構造とその動きを的確に捉えたうえで疼痛等の制限因子を十分に考慮し,日々の理学療法(治療)後の変化(効果)を加味した最新の結果(角度)であり,その後の治療計画や患者の日常生活を推し量るうえでも貴重な情報となるに違いない.他職種からすれば,言わば「達人」による検査報告であろう.
もともと検査法や評価法は,その性質から,誰が実施しても正しく実施でき,同じ結果と解釈が得られることが求められる技法である.むしろ,上述のような「達人」技は敬遠されることが多い.しかし,理学療法士が臨床現場で実施する評価は,一般に,相手(対象)が「人」そのものであるだけに一様には行えず,患者の病期,病態および個人の特性に応じて実施方法を工夫し,しかも出てきた結果を解釈するにしても多くの情報を統合しなければならない.つまり,「達人」技が要求され,それには熟練を要する.ただし,「達人」技というと,達人たちによって技が異なり,千差万別の技があるように思われがちだが,そうではない.長い臨床経験をもつ理学療法士には賛同いただけると思うが,10年以上ともなると,どの理学療法士も,関節の持ち方,角度計の当て方,測定中の留意点など,ほぼ同じ方法で実施していることに気づく.実施者の手法を見れば,概ねどのくらいの臨床経験をもつ理学療法士であるかがわかるほどである.つまり理学療法士が実施する評価の技は,経験ある達人から的確に学べば,短期間にしかも汎用できる技として身につけることができる可能性があるわけである.
このたび,上記のような評価の達人となるための指針書が,中山書店から出版された.著者は,玉木彰先生(兵庫医療大学)と高橋仁美先生(市立秋田総合病院)であり,30年以上のキャリアをもつ達人たちである.この書には,臨床現場で活用する評価項目とその手法が図表入りで解説されている.しかも,現場で活用する手法に限定され,評価結果を解釈するための知識が端的に示されている.さらに,達人(著者)による,達人となるための視点,考え,解釈の方法などが惜しげもなく随所に明示されている.私も30年以上の経験をもつ理学療法士の一人だが,この達人たちの解説をすべて読ませていただいて,「まったく同感!」と,つい言葉に出したほどである.
理学療法士になって間もない方から10年未満の方,ぜひ,この書をポケットに入れて,日々の臨床で評価の技を会得してはいかがだろうか.また10年以上の経験をもつ方も,逮人の評価の技をあらためて確かめてはいかがだろうか.そして,この違人の技を活用し,現場の医療チーム内で頼れる専門家となってはいかがだろうか.30年以上の経験をもつ達人たちの「魂」のこもった,この指針書を強くお薦めする.

動画でわかる呼吸リハビリテーション 第3版

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最近の呼吸リハビリテーションの知識と技術を網羅した,多くの読者のニーズに応える名著

理学療法ジャーナル Vol.47 No.3(2013年3月号) 書評より
評者:千住秀明(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)

本書は2006年8月に初版が出版されて以来,2012年11月までに3回の改訂と10回の増刷を行うなど,最近の呼吸リハビリテーションの知識と技術を網羅した,多くの読者のニーズに応える名著である.
内容は「第1章 呼吸リハビリテーションとは」「第2章 呼吸リハビリテーションに必要な呼吸器の知識」「第3章 呼吸リハビリテーションの進め方」「第4章 呼吸リハビリテーションに必要な評価」「第5章 呼吸リハビリテーションのプログラム」「第6章 呼吸リハビリテーションの実際」で章立てされ,執筆者は秋田大学を中心としているが,重要な章では臨床現場の第一線で活躍している諸先生方を配置するなど,情報の偏在を少なくする工夫がなされている.
本書の特徴は,①呼吸リハビリテーションを多角的・包括的に記載し,最近の知見によって呼吸リハビリテーションの科学的根拠を示すなど豊富な情報が満載されている,②各章が独立した内容で構成されているので,基本的事項から最新の知識まで,読者のニーズに応じて得ることができる,③DVDの動画が付いているので,呼吸リハビリテーションのサイエンス(科学的根拠)とアート(技術)をともに修得することができる,④臨床でよくみられる代表的な症例提示があるため,学生の臨床実習などで参考書としても活用しやすいことが挙げられる.
特に,第1章に記載されている「呼吸リハビリテーションの定義」では,米国呼吸器学会,欧州呼吸器学会が共同提案しAm J Respir Crit Care Med などで公開予定の新たな定義である「徹底した患者評価に基づいた包括的な医療介入である.続いて,運動療法,教育,行動変容だけでなく,患者個人個人に対してオーダーメイド治療を行い,慢性呼吸器疾患患者の心身状況を改善し,長期のアドヒアランスを増強する行動を促進しようとするものである」を採用していることなどは,著者らの呼吸リハビリテーションのより新しい情報を提示したいとの熱意が読み収れる特記すべき事項である.また,本書の内容には,秋田大学グループの長年の臨床研究によって培われた知識と技術が随所に活用され,本テキストが単なる情報の提供だけでなく,臨床的な知識と技術に裏付けされた確かな情報であること示している.
2012年11月の同時期に,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸器学会,日本リハビリテーション医学会,日本理学療法士協会の共同により『呼吸リハビリテーションマニュアル―運動療法』(照林社)の第2版が出版されたが,本書とともに呼吸リハビリテーション分野で学ぶ理学療法士に愛読され,呼吸リハビリテーションの普及・発展に寄与し呼吸器障害の患者さんの福音となることを願っている.

ゴロから覚える筋肉&神経

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経験を積んだ人も長年の自己知識の確認を「今すぐに」行う際にも有益

理学療法ジャーナル Vol.47 No.6(2013年6月号) 書評より

評者:福井勉(文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科)

理学療法士や作業療法士になろうとする学生や新人の臨床家にとって,運動器の機能解剖は当然クリアしなければならない問題である.人参や玉葱を知らないままカレーライスを作ることが難しいのと同様,筋や神経の名称,機能についての知識なしに病態は語れないし,何より臨床的考察の発展性への大きな壁となる.つまり,運動器の知的基盤とも言うべき筋や神経の名称,機能,神経支配については,反射的に想起されたうえに人の運動への3次元的イメージが要求されている.これらの基礎体力をつけるためには,反復を伴う学習が余儀なくされ,多少の味気なさを伴うものである.本書にはそこに味付けを盛り込もうとした優しさが感じられる.
例えば,指の外転に関しては「じゃんけん,パーはハイ(8, 1)リスク」として,髄節レベルを覚えるゴロが盛り込んである.その他,いくつか紹介すると,「ハムストは,四股(4, 5)合図(1, 2)」「膝を,胃に指す(1, 2, 3, 4)腸腰筋」「三頭筋,軟派(7, 8)な腕立て伏せ」など,がある.ゴロにはすべてイラストが付き,各筋がページ単位で構成され,さらに「MEMO」として解説が加わり,イメージをしやすく,わかりやすくなっている.
理学療法士や作業療法士が学ばなくてはならない機能解剖学の学習経過においては,詳細な解剖学や運動学の成書を紐解き,あるときは模型などを用い,自分の身体を用いた体感性や,該当する筋のイメージを立体化する作業が欠かせないと思う.その総まとめや復習を行う際に本書があれば,確認作業にはうってつけである.特に髄節レベルの確認には優れていると考えられる.
本書は“くだけた”機能解剖学の書籍であり,多くの暗記に拒絶反応を示す学生や新人にできるだけ而白く覚えられるようにまとめたこと,自力でマスターするための入門書であることが,序文に記されている.しかしポケットサイズであるため,新人だけではなく経験を積んだ人も長年の自己知識の確認を「今すぐに」行う際にも有益である.
著者の高橋仁美先生は言わずと知れたわが国を代表する呼吸理学療法の先達である.残念ながら私自身は高橋先生の講義を拝聴した経験がないが,あえて予想すれば聞き手を飽きさせない真心をお持ちになる楽しい講義をしてくださるのであろう.著者が本書を上梓する背景には,知識を確実なものにすることを念頭に置かれているが,その先には,「さらに基礎知識を応用し,臨床に還元するところに力を注ぎなさい」と言われているように感じられた.

15レクチャーシリーズ リハビリテーションテキスト  リハビリテーション統計学

15レクチャーシリーズ リハビリテーションテキスト  リハビリテーション統計学 published on

複雑な統計手法を,数字を使わずに驚くほど簡単に,そして鮮やかに説明

理学療法 Vol.32 No.4(2015年4月号) 本の紹介より

書評者:大渕修一(東京都健康長寿医療センター研究所)

統計を自在に操ることは専門職にとって大変なあこがれです.しかし,そこに立ちはだかるのが数学の壁です.半ば,諦めがちな人も多いと思います.この本があれば諦める必要はありません.
数学が苦手な人が理解できるように,数字をできるだけ使わずに書かれているところが本書の特徴です.たとえば,標準偏差と標準誤差の違いは多くの初学者の落とし穴ですが,本書では,標準偏差は“データのばらつき”,標準誤差は“平均のばらつき”と一刀両断です.説明には全く数式が出てきません.しかし統計を使い分ける観点では,これさえわかれば十分です.もし一つ一つのデータのばらつきをみたいのであれば標準偏差を使えばいいのですし,グループ同士の比較をしたいのであれば標準誤差を使えばいいことがたちどころに理解できます.一事が万事,この本は複雑な統計手法を,数字を使わずに驚くほど簡単に,そして鮮やかに説明しています.
とはいえ変数の尺度の問題をはしょってしまってはとても皆さんにお勧めできません.たとえば,リンゴが好きを1として,普通を2,嫌いを3として,グループの平均をとっても何も意味をなさないことは理解できると思います.しかし,表計算ソフトを使ってコード化して集計をするとわかっていても平均をとったり,百分率で示したりする間違いを犯してしまいます.このような誤用を防ぐために尺度の問題についてはしっかりと理解しなければなりません.
それというのも変数がどのような尺度なのかは臨床家しかわかり得ないからなのです.たとえばブルンストロームステージがどのようなものかわからなければどんなに凄腕の統計学者であってもどんな統計手法を使ったらいいのか皆目見当がつきません.統計学者がポイントにしているのは,内科学の本に書いてあるブルンストロームステージの性質ではなくて,名前のようなものなのか,順番がついているようなものなのか,足し算して意味をなすようなものなのか,割り算して意味をなすようなものなのかなのです.この点を本書は臨床家の視点に立って十分な紙幅を割いて説明しています.
このように本書は臨床家が統計手法を使い分けるために必要な事柄が,過不足なく収められています.この本で統計学者になることはできませんが,よい統計の利用者になることはできるでしょう.

15レクチャーシリーズ 理学療法・作業療法テキスト 運動学

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教員にとっても学生にとっても大変使いやすいテキスト

理学療法 Vol.30 No.4(2013年4月号) 本の紹介より

評者:高柳清美(埼玉県立大学)

改めて述べるまでもなく,運動学は,生理学や解剖学と並び,理学療法・作業療法の根幹となる学問の一つであり,さらに言えば,これこそが理学療法・作業療法のアイデンティティとも言える重要な学問である.本邦では,中村隆一先生らが記された「基礎運動学」は古くから名著として教科書に重用されている.しかし,すべての内容を限られた15回の講義で網羅し,解りやすく教授することは困難である.

小島悟氏は運動学の学問領域すべてを15回で網羅するには難しいところを,「15レクチャーシリーズ 理学療法・作業療法テキスト運動学」において,とりわけ重要と思われる15のテーマに紋り,それぞれを1回の講義の内容として展開している.学生が効率良く学べるよう配慮して構成されているところは見事である.各章の冒頭には,到達目標に加えて事前学習,事後学習のための情報が記されており,学生の予習・復習を促しやすい.また,各ページの欄外に「MEMO」や「試してみよう」といった小見出しが付けられ,重ねて強調すべき重要な点や,単なる知識としてだけでなく自らの体験として学べるような実験・実技が紹介されており,学びにメリハリが付くように工夫されている.これらは,学生の主体的な学びの助けとなるだろう.
全体を見渡してみると,解剖学に基づいた身体構造に関する記載の割合が高く,多少偏っている感はあるが,大多教の理学療法・作業療法の学生がそうであるように.臨床に従事するにあたって必要とされる知識として構成されていると思われる.本書はあくまでも理学療法・作業療法教育に主眼が置かれ,理解しやすい構成の内容となっている.理学療法・作業療法の発展に寄与するような,将来,運動学領域での研究活動を志すものにとっては,別途,参考書が必要であろう.なお,実習に即した内容は,後日発刊される『運動学実習』『臨床運動学』で扱われると聞く.どちらにしても,本書を用いて講義を行う教員が,ここに記された範囲外にも大きく広がる運動学の学問領域について正しく理解し,適切に用いることができれば,教員にとっても学生にとっても大変使いやすいテキストであると思われる.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 物理療法学・実習

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理学療法士を目指す学生には授業要覧となり,教員には指導要領となる

理学療法 Vol.31 No.5(2014年5月号) 本の紹介

書評者:杉元雅晴(神戸学院大学総合リハビリテーション学部)

物理療法の治療目的は,「疼痛の管理」「創傷の管理」「神経・筋協調性運動の誘発」などに限定されています.とはいえ,必須専門科目である物理療法学を教えるには,多岐にわたる物理療法手段や物理学を根底にした生体作用メカニズムを理解しておく必要があります.また,理学療法が運動療法に偏重しているため,教育現場では物理療法学を教える教員が不足しています.すべての物理療法手段を教授する教員も少なく,物理療法手段別にオムニバス形式での授業も多くなっています.そのときには,重複と漏れがないように講義計画を構成しなければなりません.このテキストは,専門分野以外の物理療法手段を教える場合にも,漏れなく一定水準の知識を教授できるように構成されています.
一般的に,講義「物理療法学」は,2単位(1単位;15時間)で授業が組まれていることが多いようです.このテキストは教授内容を15回に配分していますので,講義計画を立てやすいと思います.冒頭にはシラバスとして,学習主題,学習目標(講義・実習),学習項目に分けて記載されており,教授計画を立てる時に重宝するでしょう.さらに,各レクチャーの冒頭に,「到達目標」「講義を理解するための復習事項」「講義を終えての確認事項」が設定されており,1つの講義内で確実に理解させる工夫がされています.ただ,項目ごとに簡潔に表現されていますので,教員による資料や物理療法分野の専門書で補充する必要があります.
最近では,文系の学生が理学療法を志望してきています.このテキストは,文系の学生にも物理療法に興味をもってもらい,理解してもらえるように,親しみやすい言葉で簡潔にまとめられています.さらに,各物理療法手段の巻末には,治療手段の理解を深められるように「物理療法学実習」が組み込まれています.学生に課題を考えさせ,実習を遂行するときには教員が必須事項を補う必要はありますが,物理療法機器の使用手順だけではなく,刺激条件を考えて実習課題をまとめる工程が含まれ,授業のヒントに活用できそうです.
このテキストは,物理療法学の講義の教育方針や各回の学習内容をまとめ,授業計画を立てる時のナビゲーターとなる書籍であります.理学療法士を目指す学生には授業要覧となり,教員には指導要領となるでしょう.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 神経障害理学療法学 II

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神経障害理学療法に力を入れたい,という編者および著者のメッセージが伝わってくるテキスト

理学療法 Vol.29 No.6(2012年6月号) 本の紹介より

評者:吉尾雅春(千里リハビリテーション病院 副院長・理学療法士)

大畑光司・玉木彰両氏責任編集による理学療法テキスト「神経障害理学療法学IおよびII」を拝読した.脳を中心とした中枢神経系の構造と機能および脳損傷による病態と回復のシステムを解説し,脳血管障害の評価と理学療法をはじめ,パーキンソン病,運動失調,頭部外傷,脳腫瘍,多発性硬化症,筋萎縮性側索硬化症の病態と理学療法のあり方について解説されている.
まず15回あるいは30回開講される講義をイメージしたシラバスを冒頭に配し,それぞれの単元で学習の主題や目標,項目を明らかにすることによって,難解な神経障害の領域に連続性を持たせて学習者の理解を助けている.それぞれのレクチャーにおいてもそれらを学ぶ意義や復習しておくべきことを示し,最後に試験を通して学習を導いている.
できるだけ根拠に基づいた解説を心がけたテキストであるという印象を受けた.特に脳卒中治療ガイドライン2009における判定を真摯に受け止めた内容になっている.また,世界的動向であるICFに基づく評価を模索しているのも特徴のひとつで,未完成ながらも今後の中枢神経障害領域の評価のあり方について方向性を示している.これらの取り組みは教科書としては当然のことであるが,理学療法の歴史がそれを許してくれない現実があった.いい意味で世代が交代してきている証しなのかもしれない.
それぞれの講義の内容・深度に温度差があるのが少々気になるが,理学療法士としての専門性をしっかり示すために,神経障害理学療法に力を入れたい,という編者および著者のメッセージが伝わってくるテキストである.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 神経障害理学療法学 I

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神経障害理学療法に力を入れたい,という編者および著者のメッセージが伝わってくるテキスト

理学療法 Vol.29 No.6(2012年6月号) 本の紹介より

評者:吉尾雅春(千里リハビリテーション病院 副院長・理学療法士)

大畑光司・玉木彰両氏責任編集による理学療法テキスト「神経障害理学療法学IおよびII」を拝読した.脳を中心とした中枢神経系の構造と機能および脳損傷による病態と回復のシステムを解説し,脳血管障害の評価と理学療法をはじめ,パーキンソン病,運動失調,頭部外傷,脳腫瘍,多発性硬化症,筋萎縮性側索硬化症の病態と理学療法のあり方について解説されている.
まず15回あるいは30回開講される講義をイメージしたシラバスを冒頭に配し,それぞれの単元で学習の主題や目標,項目を明らかにすることによって,難解な神経障害の領域に連続性を持たせて学習者の理解を助けている.それぞれのレクチャーにおいてもそれらを学ぶ意義や復習しておくべきことを示し,最後に試験を通して学習を導いている.
できるだけ根拠に基づいた解説を心がけたテキストであるという印象を受けた.特に脳卒中治療ガイドライン2009における判定を真摯に受け止めた内容になっている.また,世界的動向であるICFに基づく評価を模索しているのも特徴のひとつで,未完成ながらも今後の中枢神経障害領域の評価のあり方について方向性を示している.これらの取り組みは教科書としては当然のことであるが,理学療法の歴史がそれを許してくれない現実があった.いい意味で世代が交代してきている証しなのかもしれない.
それぞれの講義の内容・深度に温度差があるのが少々気になるが,理学療法士としての専門性をしっかり示すために,神経障害理学療法に力を入れたい,という編者および著者のメッセージが伝わってくるテキストである.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 運動療法学

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実に飽きさせないつくりになっている

理学療法ジャーナル Vol.49 No.2(2015年2月号) 書評より

書評者:高橋仁美(市立秋田総合病院リハビリテーション科)

好評教科書である中山書店の「15レクチャーシリーズ」から「運動療法学」が発刊された.運動療法は,疾病に侵されたものや障害を受けたものに対して,運動という手段を科学的に適用させる治療法であり,理学療法の中核として位置づけられる.理学療法士にとってはまさに治療の要となるわけだが,そのような意味からも本シリーズ待望の書と言える.
本書の最大の特徴は,運動療法を行ううえで必要な知識と技術を15回の講義で基礎から臨床まで深く理解できるようにまとめられている点である.学生はもちろんだが,教員にとっても非常に有用な教科書である.内容をみると,運動療法の基礎・リスク管理,そしてコンディショニング(全身調整)のための手段を最初に取り上げてから,関節可動域制限,筋機能障害,協調運動障害(運動失調とバランス機能障害)のそれぞれに対する運動療法,さらに基本動作能力・歩行能力再獲得と全身持久力改善のための運動療法が解説されており,背景となる基本的な理論と実際の介入方法をわかりやすく学ぶことできる.
意外であったのは,各論部分にあたるいわゆる疾患別の項である.感覚機能障害,がん,腎機能障害,熱傷,産科領域,高齢者,健康増進分野を対象としており,診療報酬体系の疾患別リハビリテーション料にある心大血管疾患,脳血管疾患等,運動器疾患,呼吸器疾患といった代表疾患については触れられていないことであった.しかし,この疑問は15レクチャーシリーズの他のテキストを参照することで理解できた.これらの代表疾患を含め理学療法の対象となる疾患の運動療法については,このシリーズの別のテキストで十分に記されているのである.15レクチャーシリーズは,限られた時間のなかで理学療法を効率的に教育できるよう工夫され,非常によくバランスがとれており,総編集の石川先生や責任編集の解良先生,そして玉木先生によるこのような着想力は流石であると感じた.
学生になった気分であらためて本書をじっくり拝読すると,実に飽きさせないつくりになっていると感じた.「図・写真・表」のほか,「MEMO」,「ここがポイント」,「覚えよう」,「気をつけよう」,「調べてみよう」などを欄外に入れることで,理解度を深めながら集中力が持続するように配慮されている.また,最初に到達目標,講義を理解するために必要なこと,講義後に確認することが明記されており,学生にとってはレクチャーごとに何を学ぶべきかが明確になっている.さらに,少し雑学的な要素も入った「Step up」や国家試験の備えにもなる「TEST試験」もうれしい.
本書によって,理学療法学の中心である運動療法学の講義を効率的に進めることができるものと確信する.このテキストは,学生の心をつかむことができる良書である.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 運動器障害理学療法学 II

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教育の本質をよく理解した執筆・編集陣によって完成度の高い内容にまとまっている

理学療法ジャーナル Vol.46 No.3(2012年3月号) 書評より

評者:内山靖(名古屋大学医学部保健学科)

わが国の理学療法士免許登録者は9万人を超え,理学療法士養成課程の一学年総定員数は18歳人口のおよそ1%を占めるに至っている.理学療法士の増加に伴い医学書に占める理学療法関連の書籍はここ10年で急増し,最近ではさまざまな特色を打ち出したシリーズ書も続々と発刊されている.

このような時流において,伝統ある医学書籍の出版社である中山書店から「15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト」が発刊されたことは誠に喜ばしい.本シリーズは,タイトルからも明らかなように,15コマで構成される講義形式に則った学生を読者対象に特化したものである.そのコンセプトに基づき,冒頭にはシラバスとともに流れがつかみやすい丁寧な目次が掲載され,本文には豊富な図表が取り入れられている.

今回紹介する運動器障害理学療法学は,IとIIの2冊に分けて30章で構成されている.特筆すべきは,講義と実技を連続した章として扱い,学生は病態を予め学んだうえで科学的背景に基づいた理学療法の評価と治療を一連の過程で学べるように工夫されている点である.実技の章では,実際の対象者や忠実なモデルによる写真が満載で,効率的かつ効果的な学習が展開されるように配慮されている.しかも,総分量を抑えた短文で表記されていながら,内容は基本に忠実で精選されている.ともすると,このくらいは分かっていてほしいという教員の願望から,内容が多岐にわたりかえって学習到達度を下げてしまうことがあるが,本書は教育の本質をよく理解した執筆・編集陣によって完成度の高い内容にまとまっている.まさに,学生主体のテキストであり,若手の教員への力強い教本ともいえるだろう.また,執筆は責任編集者と意思疎通がとれ認識を共有できる関係にある数人に限定されているため,全体の整合性が高く,細部にわたる統一感は学習者にとって理解を促す要素となる.

評者の役割としてあえて課題を提示するとしたら,運動器や運動器障害理学療法の枠組みや特徴について,明確に解説する総論部が見当たらないことである.15章の後にある試験のcomment欄で,運動器疾患について学んだ内容はすべての対象者に接するうえで生かすことができること,運動器疾患の理学療法は比較的理解しやすくほかの基本となる内容が数多く含まれていることが記載されているので,その具体的な内容を冒頭で記してあれば学生の学習意欲と理解が一層高まるものだろう.また,全項目を理学療法士のみで執筆することが最善かどうかは意見が分かれるところである.

いずれにしても本書は,これまでわが国で出版された学生を対象としたテキストのよい部分を存分に取り入れ,後発ゆえの利点を最大限に生かした所作である.教科書としてだけでなく,専門学校の学生はもとより大学生の自己学習書として,また,臨床学習でも大いに活用できる書籍として自信をもってお奨めしたい.