神経障害理学療法に力を入れたい,という編者および著者のメッセージが伝わってくるテキスト

理学療法 Vol.29 No.6(2012年6月号) 本の紹介より

評者:吉尾雅春(千里リハビリテーション病院 副院長・理学療法士)

大畑光司・玉木彰両氏責任編集による理学療法テキスト「神経障害理学療法学IおよびII」を拝読した.脳を中心とした中枢神経系の構造と機能および脳損傷による病態と回復のシステムを解説し,脳血管障害の評価と理学療法をはじめ,パーキンソン病,運動失調,頭部外傷,脳腫瘍,多発性硬化症,筋萎縮性側索硬化症の病態と理学療法のあり方について解説されている.
まず15回あるいは30回開講される講義をイメージしたシラバスを冒頭に配し,それぞれの単元で学習の主題や目標,項目を明らかにすることによって,難解な神経障害の領域に連続性を持たせて学習者の理解を助けている.それぞれのレクチャーにおいてもそれらを学ぶ意義や復習しておくべきことを示し,最後に試験を通して学習を導いている.
できるだけ根拠に基づいた解説を心がけたテキストであるという印象を受けた.特に脳卒中治療ガイドライン2009における判定を真摯に受け止めた内容になっている.また,世界的動向であるICFに基づく評価を模索しているのも特徴のひとつで,未完成ながらも今後の中枢神経障害領域の評価のあり方について方向性を示している.これらの取り組みは教科書としては当然のことであるが,理学療法の歴史がそれを許してくれない現実があった.いい意味で世代が交代してきている証しなのかもしれない.
それぞれの講義の内容・深度に温度差があるのが少々気になるが,理学療法士としての専門性をしっかり示すために,神経障害理学療法に力を入れたい,という編者および著者のメッセージが伝わってくるテキストである.