理学療法士を目指す学生には授業要覧となり,教員には指導要領となる

理学療法 Vol.31 No.5(2014年5月号) 本の紹介

書評者:杉元雅晴(神戸学院大学総合リハビリテーション学部)

物理療法の治療目的は,「疼痛の管理」「創傷の管理」「神経・筋協調性運動の誘発」などに限定されています.とはいえ,必須専門科目である物理療法学を教えるには,多岐にわたる物理療法手段や物理学を根底にした生体作用メカニズムを理解しておく必要があります.また,理学療法が運動療法に偏重しているため,教育現場では物理療法学を教える教員が不足しています.すべての物理療法手段を教授する教員も少なく,物理療法手段別にオムニバス形式での授業も多くなっています.そのときには,重複と漏れがないように講義計画を構成しなければなりません.このテキストは,専門分野以外の物理療法手段を教える場合にも,漏れなく一定水準の知識を教授できるように構成されています.
一般的に,講義「物理療法学」は,2単位(1単位;15時間)で授業が組まれていることが多いようです.このテキストは教授内容を15回に配分していますので,講義計画を立てやすいと思います.冒頭にはシラバスとして,学習主題,学習目標(講義・実習),学習項目に分けて記載されており,教授計画を立てる時に重宝するでしょう.さらに,各レクチャーの冒頭に,「到達目標」「講義を理解するための復習事項」「講義を終えての確認事項」が設定されており,1つの講義内で確実に理解させる工夫がされています.ただ,項目ごとに簡潔に表現されていますので,教員による資料や物理療法分野の専門書で補充する必要があります.
最近では,文系の学生が理学療法を志望してきています.このテキストは,文系の学生にも物理療法に興味をもってもらい,理解してもらえるように,親しみやすい言葉で簡潔にまとめられています.さらに,各物理療法手段の巻末には,治療手段の理解を深められるように「物理療法学実習」が組み込まれています.学生に課題を考えさせ,実習を遂行するときには教員が必須事項を補う必要はありますが,物理療法機器の使用手順だけではなく,刺激条件を考えて実習課題をまとめる工程が含まれ,授業のヒントに活用できそうです.
このテキストは,物理療法学の講義の教育方針や各回の学習内容をまとめ,授業計画を立てる時のナビゲーターとなる書籍であります.理学療法士を目指す学生には授業要覧となり,教員には指導要領となるでしょう.