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小児科ベストプラクティス 小児白血病・リンパ腫-Strategy & Practice

小児科ベストプラクティス 小児白血病・リンパ腫-Strategy & Practice published on

小児科診療 Vol.84 No.8(2021年8月号)「書評」より

評者:五十嵐 隆(国立成育医療研究センター理事長)

ヒトの遺伝子は24,000以上が同定され,いわゆる難治性疾患の約6割は遺伝子の異常に起因する.小児のがんも同様で,体細胞のみならず生殖細胞の遺伝子の変異が単一あるいは複数組み合わさることが原因となることが明らかとなった.小児白血病・リンパ腫を正しく理解し,原因に応じた個別化治療を実施することが求められており,そのためには病気の原因となる遺伝子の異常を知ることが第一歩である.近年の遺伝子解析技術の劇的な進歩により,小児白血病・リンパ腫の原因遺伝子の異常が多数解明されている.
小児がんの研究で画期的貢献を果たした滝田順子教授がこのたび編集された本書には,こうした小児白血病・リンパ腫の原因に関する最新かつ難解な知見が疾患ごとにわかりやすく記載されているだけでなく,CAR-T療法などの最新の治療法の紹介や移行期医療を含めた長期フォローアップ体制など,白血病・リンパ腫に罹患した子どもやAYA世代の人たちにbiopsychosocialな観点から総合的に最善の治療を提供するために必要な貴重な情報も紹介されている.小児白血病・リンパ腫の生存率は確かに改善したが,現時点でも救命できない患者さんも少なくない.さらに,救命されても治療に起因する様々な障害に悩み,将来への不安を抱えて生活されているのが実情である.小児白血病・リンパ腫の治療にあたる小児科医・内科医等に本書が大いに利用されることを願う.

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 3 分娩・産褥期の正常と異常/周産期感染症

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 3 分娩・産褥期の正常と異常/周産期感染症 published on

産科と婦人科 Vol.88 No.9(2021年9月号)「書評」より

評者:金山尚裕(浜松医科大学名誉教授/静岡医療科学専門大学校学校長)

陣痛の発来機構など分娩の生理,分娩3要素の異常などの研究発表が日本で減少していることに危惧している.エストロゲンは分娩期に極めて高い値を示し,産褥期には激減することから分娩・産褥期ほど女性の体に大きな変化を来す時期はない.したがって,この時期は正常と異常の境が狭いため,恒常性の破綻が起きやすく重篤な疾患が多いのも特徴である.本書は分娩・産褥の生理とその異常が明快に解説されている.また妊娠は母体にとって半移植片であることから免疫学的寛容状態であり,感染症においても重症化しやすいともいわれているが,周産期分野の重要な感染症が網羅されているのも特徴である.
なにより信頼できるのは,全6章からなる本書が最新の情報を元にエビデンスレベルの高い内容になっていることであり,美しいイラストを多く用いて,読者に分娩,産褥,周産期感染症についての基礎的理解と臨床的理解が一目瞭然で得られるようになっている.
一読して感じたことは,臨床医には日々の臨床を深化させ,研究者には新たな研究テーマを見出す契機になり,研修医・助産師・学生にはこの分野の魅力を伝える一冊となっていることである.読者にとって本書は分娩・産褥期の知識を深め,診療技術の向上に繋がるものになるであろう.充実した内容からこの分野の研究発展にも寄与するものと確信している.

皮膚科ベストセレクション 皮膚科 膠原病

皮膚科ベストセレクション 皮膚科 膠原病 published on
Visual Dermatology Vol.20 No.7(2021年7月号)「Book Review」より

評者:椛島健治(京都大学大学院医学研究科皮膚科学)

われわれ皮膚科医が教科書を購入してまで勉強すべき領域として,まず膠原病があげられよう(あくまで個人的な意見ではあるが).われわれが目にする多くの皮膚疾患は,皮膚科医のみで対応することが可能であるのに比し,膠原病は他科との連携が不可欠であり,また,皮膚科とは離れたところで疾患概念や診断・治療法が発展することも多い.それゆえ,皮膚科が主催する学会に参加しても,膠原病に対する他科のアプローチや動向を探ることは難しいのが現実である.
そのような状況のなか,膠原病に関する新知見が次々と見出されている.例えば,皮膚筋炎における自己抗体のプロファイルに基づく臨床型・合併症・予後に関する新知見は,臨床の現場において非常に有益である.また,治療の選択肢も格段に増え,それらを適切に用いることができるかどうかで患者の予後は大いに変わってくる.それゆえ,医師たるもの,診療に関わる限り,勉強し続けなければならない.
これまでの皮膚科医向けの膠原病関連の教科書は,皮膚科医が執筆陣を占めることがほとんどであった.しかし本書は日本の第一線で活躍する免疫・膠原病内科,肝臓内科, 呼吸器内科医,さらには基礎医学研究者といったオールジャパン体制での陣容となっている.そしてなんと,間質性肺炎・腎クリーゼなどの診断と治療法や,線維化の基礎的な病態の詳細にまで触れられている.これだけ幅広い項目と執筆陣を取りそろえることができたのは,本書の編者である藤本学先生の見識の広さと人徳の成せる技であろう.
本書を通読すれば,膠原病に関しては怖いものなしである.あるいは通読するほどまでの時間や意欲がなくても,レファレンス本として用いるだけでも十二分の価値がある.それゆえ,本書があれば,膠原病に関する他科依頼を受けたときにもしっかりと対応できる(他科依頼に対して,皮膚科医が期待に応えられないようでは,皮膚科医の存在価値は下がってしまいますよね).それほどに完成度の高いー冊と言える.
しかしその一方で,膠原病には解明されなければならない課題がまだ残っていることにも気付く.本書を手にした次世代の人材が膠原病に興味を持ち,そしてその問題を解決していってくれることにも大いに期待したい.

産科婦人科ベストセレクション 子宮内膜症・子宮腺筋症

産科婦人科ベストセレクション 子宮内膜症・子宮腺筋症 published on
産科と婦人科 Vol.88 No.6(2021年6月号)「書評」より

評者:藤井知行(医療法人財団順和会山王病院病院長/国際医療福祉大学大学院教授)

子宮内膜症や子宮腺筋症は,厄介な病気である.毎月の激しい月経痛,腹腔内の癒着による慢性疼痛,妊孕性の低下などを引き起こし,女性の生活の質を著しく低下させ,社会全体でも経済的に大きなダメージを与えている.悪性化することもあり,また妊娠しても産科合併症が多いことがわかっている.この病気は,近年増加しており,その原因として,女性の出産年齢の上昇や出産数の減少による月経回数の増加が挙げられているが,現代社会において,女性のキャリア形成を考えると,容易に解決できる問題ではない.治療も,根治的な治療は子宮,卵巣の全摘術しかなく,卵巣機能や妊孕性を温存する薬物療法や手術療法が存在するが,再発も多く,長期の管理を必要とすることが多い.一方,この病気の病因・病態については,病理学,内分泌学,免疫学など多くの視点から多数の研究がなされ,少しずつだが知見が集積し,新たな治療の道筋が見えてきた.
本書は,わが国の子宮内膜症・子宮腺筋症研究と治療とのトップリーダーである,大須賀穣東京大学教授と甲賀かをり東京大学准教授が監修,編集を担当し,第一線の臨床家,研究者が執筆したものである.内容は,実際の臨床に即して項目が並んでおり,基礎から臨床まで系統的に記載され,本書を通読することにより,最適な診療を行うための深い知識が,自然に身につくようになっている.読者の日々の診療の向上に確実に貢献する一冊である.

皮膚科ベストセレクション 乾癬・掌蹠膿疱症ー病態の理解と治療最前線

皮膚科ベストセレクション 乾癬・掌蹠膿疱症ー病態の理解と治療最前線 published on
Visual Dermatology Vol.19 No.12(2020年12月号)「Book Review」より

評者:飯塚 一(医療法人社団 廣仁会 札幌乾癬研究所,旭川医科大学名誉教授)

評者は,長年,乾癬を専門にしてきた経緯があるが,乾癬と掌蹠膿疱症をテーマにした本書を手にして,この2つの疾患についての,特に近年の進歩を幅広く網羅した充実ぶりに驚きを感じざるを得なかった.この本には,この2つの難治性皮膚疾患についての,現時点で想定されるあらゆる問題点とその回答,さらに具体的な治療指針が満載されている.
基本的に情報は箇条書きに整理されており読みやすい.教育的な典型例の写真が冒頭に収められているのも親切であるし,何よりも編集者を含め,各執筆者の最新の情報を入れ込もうとする熱意が素晴らしい.おそらく本書を読んだ後では,個々の医師は,日常診療における対処に相当の変容がおこると予想される.
通常,皮膚科医にとって乾癬や掌蹠膿疱症は,決して診断に難渋するような疾患ではない.ところが,一歩病態に入ると,たとえば生物製剤の劇的な有効性に現れてくる病態理解は複雑になる一方である.これらを適切に整理した具体的な根拠と対応の記載は貴重であり,一読して,進歩を網羅した理解の深さと幅広さに感銘を受けるところが多かった.
今はやりのAIの世界ではディープラーニングという一種のブラックボックス化が進行中である.医師にとって本当に必要なのは,病態に基づく無理のない自然な説明と理解であり,クラスタリングと称して答えだけを提示されても納得感が得られないのは自明のことである.患者一人一人は千差万別であり,この教本に,詳しく述べられている病態理解を前提とした具体的なアプローチこそが重要と思われる.
われわれ皮膚科医は,乾癬にせよ掌蹠膿疱症にせよシンプルな病像を想定することが多いのだが,そのバックにある巨大な,それも最新の情報を,治療まで含めて深いレベルで提示しているという意味で本書は貴重であり,広く読まれることが期待される.本書は確かに「病態の理解と治療最前線」の名前に値する情報量に富む立派な教本である.

各科スペシャリストが伝授 内科医が知っておくべき疾患102

各科スペシャリストが伝授 内科医が知っておくべき疾患102 published on
内科 Vol.126 No.5(2020年11月号)「Book Review」より

評者:伊藤 裕(慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科教授)

内科医が患者さんに「親身」になれる極意の書

もともと,医学は患者さんの痛み,苦しみを取り除く術として生まれた.そのために,患者さんが何をどう感じているか,その症状を虚心坦懐に聞くことが,医学の基本である内科の原点であることは言うまでもない.カナダの内科医,世界の医学教育に大きな影響を与え,私の母校の大先輩,聖路加国際病院名誉院長,日野原重明先生が敬愛してやまなかった,ウィリアム・オスラー(1849~1919年)も,“Listen to the patient. He is telling you the diagnosis”としている.
しかし果たして,私たちは患者さんの話を聞くだけで診断名を語ってくれていると思えるであろうか.
私は常々,教室員によい医者であるためのたった一つの秘訣として「親身」になることをあげている.私は「親身」に「Sym-Me」という英語をあてて,自己と同一視することとしている.その患者さんが自分の親だったらどうする? 自分だったらどうしてほしい? と考えて初めてなすべき医療がみえてくる.そんなことは当たり前と言われるかもしれない.実際,ほとんどの医者は親身になって診療にあたろうとしているはずである.しかし,現実にはその実現が難しいのは,親身になるためには専門的な知識が必要だからである.曖昧な知識があるだけでは,自信がもてず,他科の先生に紹介することになる.医師としてそれは誠実な対応かもしれないが,患者さんからすれば見放されたような印象になりかねない.いったん心理的な壁ができてしまうと,患者さんは自分が気になること全てをその医者に伝えようとしなくなり,そうなると我々は自分の専門領域の診断も正確に行うことができなくなる.私は,日野原先生が命名された「生活習慣病」を専門としている関係上,患者さんの生活習慣全般を理解し,患者さんが生涯にわたって付き合おうと思ってくれることが大切なので,この点はとくに重要である.
皮膚科がご専門の宮地良樹先生が編まれた『内科医が知っておくべき疾患102』は,内科医が患者さんに「親身」になれるための書である.この書に厳選された症状は,日常の内科外来できわめてよく遭遇するものであり,我々内科医が日ごろ患者さんから訴えられるものである.長年,患者さんを目の前に鋭く観察を続けてこられた皮膚科の宮地先生ならではの,まさに慧眼であると思われる.
内科外来で患者さんがこうした症状を訴えれば,「私の専門外ですし,専門の先生に診てもらってください」と言いがちである.「知っておくべき疾患」ではないと言い切るような内科医の先生もおられるのではなかろうか.しかし,そうした内科医は結局,「親身」な医療を実践できないのではと危惧する.本書に書かれた「ジェネラリストにとっての知識」をもっていれば,患者さんの訴えを怖がらず,門前払いせずに聞くことができる.そして,専門家への適時的なコンサルトも可能になる.
さらに,この本には各科のスペシャリストから内科医への適切なアドバイスが惜しみなく,それこそ「親身」になされている.それは,内科の専門化,細分化が批判される昨今,“本来ジェネラリストとしてあるべき内科医が,患者さんの状態を理解し,正しくできる医療を臆せずにやってください”という応援歌だと思う.間口の広い,患者さんから信頼される内科医,そして,他科との垣根を低くして,うまく連携できる内科医のための極意書として本書はあると考える.
人工知能(AI)の進歩で医師の職域は徐々に駆逐されていくのではないかという畏怖がある.しかし,患者さんの一断面の情報をつなぎ合わせるAIにはできない,患者さんに起こる様々な出来事をつぶさに知り,そのうえで日々変わっていく患者さんの人生の「物語」を語れる医師には,なかなかAIは追いつけないと思われる.そのような医師になるために,私はこの本を大切にしたいと思う.

エビデンスに基づく Q&Aでわかる皮膚感染症治

エビデンスに基づく Q&Aでわかる皮膚感染症治 published on
Visual Dermatology Vol.19 No.10(2020年10月号)「Book Review」より

評者:門野岳史(聖マリアンナ医科大学医学部皮膚科)

皮膚感染症は日々遭遇する重要な疾患でありながら,確固たるエビデンスなしに,どちらかというと経験則でなんとなく診療しがちである.学生の頃の細菌学の思い出は,菌名を覚えるのにうんざりし,試験前に詰め込んで,あっという間に消え去ってしまったことであり,非常にとっつきにくい学問というイメージを持っていた.しかしながら,この“エビデンスに基づくQ&Aでわかる皮膚感染症治療”は,非常に読みやすく,分かりやすい.お馴染みの豪華メンバーによる編集で,皮膚感染症の診療にあたってわれわれが知っておくべき,知識,エビデンス,治療の仕方が非常にまとまって記されている良著である.
この本では,おのおのの単元がコンパクトにまとまっており,またQ&A方式であるので,要点を捉えやすい.色使いや下線の使用,ポイントの明確化,適切なガイドラインの引用を通じて,われわれがどこまで日常診療において皮膚感染症のことを知っておくべきかが分かる.エビデンスについても,何が分かっていて何が分かっていないかが明確に示されており,今まで先輩の受け売りや惰性で行っていたことを排除して新しい知識に置き換えることができて,少しだけ良い皮膚科医になったような気にさせてくれる.
皮膚感染症は,何となく旧態依然であまり大きな変化がないイメージがあったが,そのようなことはない.細菌感染症については,消毒の意義や抗菌薬の使い方が大きく変化してきた.真菌感染症については,分子生物学的に菌名が変更され,新しい内服薬が登場した.ウイルス感染症については帯状疱疹のワクチンなど新しい知識を身につける必要がある.抗酸菌感染症は,見逃してはいけない疾患でありながら,診断が容易ではない.性感染症,とくに梅毒は近年増加傾向であり,その対応法を改めて確認する必要がある.節足動物,輸入感染症は十分な情報を得難い疾患であり,エキスパートによる執筆内容は目から鱗である.ついでに,化膿性汗腺炎というおまけもついている.
本書は通読して,新たな知見を得るのにも良いし,それに加えて日常診療の傍において,対象となる患者さんと出くわした際に,情報を再確認するために用いるのにも適している.必要十分な写真とイラストがあり,また項目立てが見やすく,使いやすい.COVID-19がパンデミックになってしまった本年,本書は皮膚感染症に対して認識を改めさせてくれる良い契機となる書物だと言えよう.

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 5 悪性腫瘍

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 5 悪性腫瘍 published on
産科と婦人科 Vol. 87 No.10(2020年10月号)「書評」より

評者:小西郁生(京都大学名誉教授/国立病院機構京都医療センター名誉院長)

婦人科がん患者の治療方針決定に必読の書が登場!

このほど中山書店から,Science and Practice産科婦人科臨床シリーズ5巻『悪性腫瘍』が発刊された.この度,本書を最初から最後まで通読させていただき,今,深い感動を覚えているところである.
このシリーズにはScience and Practiceというサブタイトルどおり,現時点でのScienceの到達点が明快に記載され,自らの知識を最新化することができる.そしてPractice,この治療法がなぜ推奨されるに至ったか,あるいは実際の手術法も詳細に書かれていて,理解しやすい.そして,基礎的・臨床的研究が実際の診療に反映されていく様子がわかり,研究のモチベーションも高めてくれるのである.そして何よりも,個々の婦人科がん患者さんの治療方針を検討する上で非常に役に立つ.主治医を担当する若手医師には患者さんの予後とQOL向上のため,また良好な医師-患者関係を築くために,カンファレンス前に本書の当該項を必ず読んでおいて欲しい.
それだけではない! 本書は教科書ではなく,読み物として大変面白い.それぞれの項にストーリイがあって,読者がどんどん乗ってくるのである.各々の著者が,患者さんのことや研究のことを思い,気合いを入れて物語っている姿が目に浮かぶ.通読していて,1970~1976年に中山書店からシリーズで発刊された『現代産科婦人科学大系』が眼前に現れた.今でもこの古い書物を読み返すことは多く,とりわけ,わが国において広汎子宮全摘術が開発された経緯が詳細に記載されている大系8E『子宮頸癌』は素晴らしい.今回の5巻『悪性腫瘍』は中山書店の伝統が受け継がれているのではないかと思う.

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 2 妊娠期の正常と異常

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 2 妊娠期の正常と異常 published on
産科と婦人科 Vol.87 No.8(2020年8月号)「書評」より

評者:増﨑英明(長崎大学名誉教授/長崎大学附属図書館長)

産婦人科臨床全般を網羅する書籍が,中山書店からシリーズとして刊行されている.今回その第2巻『妊娠期の正常と異常』が,東京大学産婦人科学講座藤井知行教授の編集で出版された.最近の医学部学生が授業を受けるに際して参考とするのは,従前のような厚い教科書ではなく,学会などが刊行する「ガイドライン」本であることが多いと聞いている.ガイドラインの目的は,専門領域における医療の均てん化であり,それはそれで医療の質の担保やインフォームド・コンセントの普及に大いに寄与したところである.しかし日常的な診療に当てはまらない疾患や患者に遭遇した場合の対応については,十全な記述とはいえないとの指摘がー方ではなされている.「ガイドライン」本とは本来,医療者の知識習得のためというより,患者への説明に際して,最低限必要minimum requirements とされる医療水準の相互理解に資することを目的としている.そういう意味で,将来に向けた医学・医療を学ぶべき医学生や若手医師にとっては,「ガイドライン」本以外に,茫漠として広がる医学・医療の世界を,たとえ一端であっても見せてくれるような教科書がどうしても必要である.今回,産婦人科臨床を網羅するシリーズとして刊行中の本書は,そのような視点に立って,内容と執筆陣が厳選されている.これから成長を期待される医学生や研修医については当然のこと,すでに最先端で医療に関わっておられるベテランの先生方に対しても,御一読いただきたい医学書として推薦したい

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 6 女性ヘルスケア

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 6 女性ヘルスケア published on
産科と婦人科 Vol.86 No.12(2019年12月号)「書評」より

評者:麻生武志[旧・日本更年期医学会(現・日本女性医学学会)初代理事長]

産科婦人科臨床 Science and Practiceシリーズの第2弾として6巻『女性ヘルスケア』が中山書店から刊行された.本シリーズは,『新女性医学大系 Comprehensive Handbook of Women’s Medicine』の後継として,基本精神を引き継ぐ視点で企画されたと述べられている.大系が世に出てからの約20年間の医学・医療は目覚ましい変貌を遂げた.日本産科婦人科学会が現状に則して新たな学問分野として「女性医学・ヘルスケア」分野を加えたことは当を得た対応と言えよう.大系の企画編集時において既にこの概念と必要性が検討されており,その結果として独立した新たな部門「プライマリケア」が設けられた.しかしこの部門の根幹となるべき「性の分化,思春期,子宮内膜症,乳房,更年期・老年期医学」などは大系の「生殖・内分泌」部門に組み入れられ,また確立された知見に乏しかった「遺伝性疾患,性暴力と虐待,頸がんワクチン」などが欠落している.『女性ヘルスケア』では,これらの点をも合めて「女性医学・医療」の本質が幅広くevidenceを基に整理・統合されている.
「女性医学・ヘルスケア」で求められるのは,単一の事象や表面的な症状・障害に留まらず,生涯を通じての心身と社会的な特性を追究し,そこで得られた知見に立脚した医学を展開・実践することであり,本書はそのための羅針盤的な役割を担うものとして期待される.
本書の編集・執筆に当たられた各位に敬意と謝意を表したい.