産科と婦人科 Vol.88 No.6(2021年6月号)「書評」より

評者:藤井知行(医療法人財団順和会山王病院病院長/国際医療福祉大学大学院教授)

子宮内膜症や子宮腺筋症は,厄介な病気である.毎月の激しい月経痛,腹腔内の癒着による慢性疼痛,妊孕性の低下などを引き起こし,女性の生活の質を著しく低下させ,社会全体でも経済的に大きなダメージを与えている.悪性化することもあり,また妊娠しても産科合併症が多いことがわかっている.この病気は,近年増加しており,その原因として,女性の出産年齢の上昇や出産数の減少による月経回数の増加が挙げられているが,現代社会において,女性のキャリア形成を考えると,容易に解決できる問題ではない.治療も,根治的な治療は子宮,卵巣の全摘術しかなく,卵巣機能や妊孕性を温存する薬物療法や手術療法が存在するが,再発も多く,長期の管理を必要とすることが多い.一方,この病気の病因・病態については,病理学,内分泌学,免疫学など多くの視点から多数の研究がなされ,少しずつだが知見が集積し,新たな治療の道筋が見えてきた.
本書は,わが国の子宮内膜症・子宮腺筋症研究と治療とのトップリーダーである,大須賀穣東京大学教授と甲賀かをり東京大学准教授が監修,編集を担当し,第一線の臨床家,研究者が執筆したものである.内容は,実際の臨床に即して項目が並んでおり,基礎から臨床まで系統的に記載され,本書を通読することにより,最適な診療を行うための深い知識が,自然に身につくようになっている.読者の日々の診療の向上に確実に貢献する一冊である.